大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・044『露天風呂のナザニエル卿』

2024-04-30 10:47:23 | カントリーロード
くもやかし物語 2
044『露天風呂のナザニエル卿』 





「罰に、露天風呂の掃除をやっとけ!」


 ソフィー先生に叱られる。

 夕べ、ネルに届いたお祖父さん(ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿)の手紙にビックリして福の湯の湯船の掃除を忘れてしまったからね(-_-;)。

 それで、ジャージの裾をまくって露天風呂に。

「じゃあ、元栓停めるよ」

「まだ、いけるのになあ……」

 露天風呂はかけ流しなんで、お湯を抜いてする掃除は週に一度。おとつい別の班がやったから、そこまでやる必要はないんだけど『ちゃんと湯を抜いてな!』とダメ押しされてるから仕方がない。

 わたしは高圧洗浄機のホースをつなぐ。

 ザッパーーン!!

 いっしゅんネルが浴槽に落ちたのかと思った。元栓は湯船の岩の縁を周らなきゃいけないから足場が悪い。

 でも、そうじゃなかった。

「お、お祖父ちゃん!?」

 なんと、お湯の中に潜っていたんだろう、ナザニエル卿がスッポンポンで岩風呂の真ん中に立ってる。

「待っていたぞ、お前たちも入れ」

「あ、あたしたちは掃除に来たんだよ、お祖父ちゃんこそ(^_^;)」

「四の五の言うな!」

 ヒエエエ(#*´▢`*#)! ザップーーン!

 ナザニエル卿が指を動かすと、いっしゅんで服が消えて、そのままネルと二人、岩風呂に強制入浴させられた。

「セ、セクハラだよ祖父ちゃん!」

「ワハハ、気にするな」

「気にするわヽ(`Д´)ノ」

「…………」

「やくもだったか、君は、少しは分かっているようだな」

「あ、浴槽に投入される時に……」

 ジャージと下着がしゅんかんで消えて、体が持ち上がって風呂に投入される時に、ゾゾっとくるものがあった。

「ああ、すでに入り込まれている。戦闘力は知れているが、諜報能力に優れた妖どもだ。なあに、しばらくはあの者たちが誤魔化してくれる」

「「あ」」

 岩風呂の外では、ネルとわたしのジャージが生きてるみたいに掃除をしてくれている。

「敵には、おまえたち二人に見えている」

「じゃ、ここは?」

「無人に見えている。温泉の性質がいいんでな、魔法の効きがいい」

「で、なんなのよ祖父ちゃん?」

「今も言ったが、すでに入り込まれている。一重目の結界は張り終えたが、もう二重張り足そうと思う。わしは、その作業に専念するから、お前たちに、侵入者の退治をしてもらいたんだ」

「無理だよ、そんな力ないし、うちら、まだ魔法学校の生徒なんだし!」

「コーネリア、お前には力がある。やくも、君にもな。日本ではいろいろ活躍したようだしな」

「いいえ、そんな……」

「いやいや、ここに詳しく出ているぞ」

 ナザニエル卿が指を動かすと、前作『やくもあやかし物語』がゾロゾロ現れた。

「ワシは、すでに女王陛下や森の女王ティターニアにも話をつけた。他にもデラシネが役に立ってくれそうだしな。そうそう、アーデルハイドも捨てたものじゃない。だれと、どう力を合わせるかはお前たち次第だが……」

「ちょ、待ってよお祖父ちゃん」

「グダグダ言うな。必要な情報は、その都度知らせてやる。励め」

「励めたって……」

「これ以上は、お祖父ちゃんではなくて、ツボルフからの命令になるぞ」

「グヌヌ……」

 ツボルフ?

「さあ、では、当面の敵について……」

 ナザニエル卿は、現時点で確認できている七種類の妖について説明してくださる。卿も退治してくださるようだけど、結界を張るのが第一の仕事なので、がんばって欲しいと……見つめられる目は、ちょっと怖いかも(^_^;)

「では、よろしくな」

 そう言うと、卿はクルリンと指を回す。

「「ああああ!」」

 ネルとふたり、岩風呂から放り出されたかと思うと、空中で一回転。あっという間に水気が抜けて、着地した時にはジャージを着ていた。

 振り返ると、卿の姿はすでになかった。


 朝になって、岩風呂の浴槽の掃除をし終わっていないことに気付いたけど、叱られることもやり直しを命じられることも無かったよ。

 でも、卿が言ってたツボルフって何のことだろ?

 


☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
 

 

 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)016・「あ、あのぉ、松井先輩ですか?」

2024-04-30 06:38:50 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
016・「あ、あのぉ、松井先輩ですか?」                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 在籍確認をすればいいのだと分かった。


 一年以上活動実績が無い部員は、生徒会規定で正規の部員とは認められない。

 活動実績とは、日々の部活への出席が基本なのだけれど、今時毎日の出席を確認しているような部活は、ごく一部に過ぎない。
 それで、運動部なら選手登録や試合。文化部ならコンクールや発表会へ名前を連ねていることが有効なのだが、それも出来ない場合は所定の用紙に、本人が署名捺印し、それを生徒会に提出すれば暫定的に在籍確認できることになっている。


「あのー……」


 と声を掛けただけで教室中の注目を浴びてしまった。

 下級生が3年生の教室にやって来たのだから目立つ。それも男子が女子の車いすを押しながらなのだから、何事かと思われる。

「えと……松井先輩はいらっしゃいますか?」

「松井くーん、下級生の面会やでえ!」

 千歳の声に、体育委員という感じの女子が声を張り上げてくれた。

「え、おれに?」

 運動部の部長らしい引き締まった体の男子が顔を向けた。

 最初に声を掛けたのが千歳ということもあって、教室の注目はマッチョの松井と車いすの可愛い下級生に何事かと集中した。

 こういうのは苦手な啓介だが、千歳は手慣れた笑顔で訊ねた。

「あ、いえ松井須磨さんのほうなんです(*´▽`*) 」
 

「「「「「「「「「「え?(;゚Д゚)(゚Д゚;(゚Д゚;) 」」」」」」」」」」


 不用意にヴォルデモート卿の名を口にしたように教室の空気が気まずくなった。

「あ……その松井さんやったら、タコ……あの部屋、なんていうんやったっけ?」

 体育委員風は、病原菌が入った瓶をを放り出すように背後のクラスメートたちに聞いた。

「……生徒指導分室」

「1階の突き当り。『分室』とだけ書いてあるから。ま、行ってみい」

 別人の松井が車いすの傍まで飛んで来て、指差して教えてくれた。

「どうもありがとうござい……」


 ピシャ!……お礼を言う前に教室のドアは閉められてしまった。


「……なんや、イワクありすぎいう感じやなあ、松井さんて」

 車いすを押す啓介の声は緊張してきた。

「なんだか、魔法学校の映画みたいになってきた( ˶˙ᴗ˙˶ ) 」

 千歳はワクワクしてきているようだ。


 生徒指導分室は一階と言っても、今まで踏み込んだことのない校舎の外れだった。


「……失礼しまーす」

 3回目のノックにも反応が無かった。

「入ってみようか……」

「う、うん……」

 分室のドアはロックされておらず、ノブを回すと簡単に開いた。

「失礼し……あれ?」

 教室の1/4ほどの分室はゼミテーブルが4つ引っ付けられて島のようになっていて、その向こうに背を向けたソフアーがあったが人の気配はなかった。

「留守かなあ……」

「ね、あれ……」

 千歳が指し示したソファーの背から、わずかに足の先が出ている。

 車いすを寄せて回り込むと、ソファーに俯せで寝ている女生徒がいた。

「あ、あのぉ、松井先輩ですか?」

「う、う~ん」
 
 寝返りを打った顔は整ってはいたが、目と口が半開きになってヨダレが糸を引いていたのだった。
 


☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜
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