巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
「認知症の進んだお婆ちゃんを夫のお爺ちゃんが、発作的に殺してしまったのよ!」
結婚式場で巫女をやっている時には見せたことが無い悲痛な表情で言う御神楽さん。
同居の家族は、前の晩から旅行に出かけて、家にはお婆ちゃんとお爺ちゃんしか居なかった。
あれは……朝寝なんかじゃなかったんだ(;'∀')。
「いまなら間に合う」
「え?」
「旅先からお孫さんが電話して、誰も出ないもんだから、防犯カメラをチェックして気づいたのよ。これ……」
御神楽さんがワイプすると目の前に3Dの画像が出てきた。
早乙女家は、万一のことを考えて、家の三か所にカメラが設置されていて、スマホで確認できるようになっているんだ。
でも、死角になっているんだろう、映像にお爺ちゃんもお婆ちゃんも姿は映ってない。雨戸が閉まったままなのは異常。
息子さんが車で戻って確認することになったようだ、奥さんとお孫さんが心配顔で見送っている。
「息子さんが発見したら万事休す、でも、今なら間に合うかも!」
「どうするんです(;'∀')?」
「実はね……」
「え…………ええ!?」
というわけで、わたしは有楽町を歩いている。
御神楽さん(須世理姫)が乏しい神さまの力でテレポさせてくれたんだ。
電車で行っていたら間に合わないからね。
……緊急事態なんでスマホで調べながら歩いてる。
わたしのスマホは魔法少女仕様なので、昭和46年でも使える。
むろん昭和の時代にスマホがあるわけないので、できるだけ使わないようにしてるし、使う時はこっそり手鏡を見ているふりをする。
でも、今は緊急事態。道を歩きながら、ある場所を探している。
目標は二つ。
Tテレと略して呼ばれる帝国テレビ。それと、Tテレにたどり着けないで道に迷っている若き日のお婆ちゃん。
昭和46年ではまだ二十歳の池田すみ子さんだ。
Tテレで行われる新人俳優のオーディションを受けに行くんだ。お婆ちゃん、いや、すみ子さんは、初めての有楽町で迷ってしまって、オーディションに間に合わなくて俳優の道を諦めてしまう。
でも、受けていれば合格して、令和の時代では大御所女優として君臨。
むろん認知症にもなっていなくて、お爺ちゃんに殺されることもない。
そうなのよ!
池田すみ子さんを見つけて、無事に……と、思ったらスマホの地図にドットが現れた!
すみ子さんを表す赤のドット!
「あの……ひょっとしてTテレを探してます?」
できるだけ冷静に声をかける。
「あ、はい。東京は初めてなんで……あなたも!?」
あ、これは想定外。
「いいなあ、学生さんは制服で来られるからぁ。わたし、着ていくものに悩んでしまって地図の確認がおろそかでえ(^_^;)」
「あ、わたしは家の用事で……」
適当なことを言ってごまかして、地図に出ているもう一つの青のドットを目指す。
すみ子さんはオーディションを受けるだけあって、明るくてよくしゃべる。
もし道案内がもうちょっと長くかかったら、適当に合わせてるだけの時司巡の話は種切れで破綻してしまってただろう。
「ああ、ここだここだ! どうもありがとう、時司さん!」
令和のTテレビからは拍子抜けするようなビルだったけど、五分ちょっとで着くことができた。
「じゃ、がんばってくださいね!」
手を振ってTテレに入っていくすみ子さんを見送ると、急いで横っちょの道に入って、一日に一回の魔法で学校に戻った。
「いけないわねえ、時司さん、連休前で気が緩んでるんじゃないのぉ」
一時間目の授業には遅刻してしまい、ちょうど授業だった花園先生に叱られてしまった(;'∀')。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
- 辻本 たみ子 2年3組 副委員長
- 高峰 秀夫 2年3組 委員長
- 吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 2年学年主任
- 先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 教頭先生 倉田(生徒会顧問)
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫
- 早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人