大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 57『女たちを送る・2』

2022-02-04 13:41:23 | ノベル2

ら 信長転生記

57『女たちを送る・2』信長  

 

 


 お待ちを

 そこを曲がったら指南街というところで、落ち着きを取り戻した女の一人が立ち止まった。

「どうした」

「はい、お二人が痛めつけられましたので大事は無いと思うのですが、追手が来たりしませんでしょうか?」

「胸糞の悪い奴らだったが、雑兵ばかりだ。そもそも軍規に違反している。追い打ちなど、企んだだけで奴らの首は飛ぶ」

「そ、そうですか、安心しました」

「あんたたち、三人とも同じ家の娘なのか?」

「あ、わたしと、この子は姉妹ですが……」

「わたしは、二人の友だちです。わたしたち……」

「わけは聞かん、送り届けるだけだ。夜も更けてくるから、お前たちの家で泊めてもらうと助かる」

「あ、それはもう……あ、あそこが家です」

「あれか」

 百坪そこそこの家だが、くたびれている。

 周囲の家も似たり寄ったりで、どうも、酉盃の街では学者は優遇されてはいないようだ。

 ……ッワン! ワンワンワン!

 怯えたような犬の鳴き声、妹の方が崩れた土塀に回り込んで「おう、よしよしよしよし」となだめる。

「お母さん、帰りました」

 戸口から姉が声を掛けると、ガタガタ音をさせて、怯えた表情の女がでてきた。

「お、お前たち、どうして……?」

「はい、こちらのお坊様方がお助け下さって、ようやく戻ってきました」

「え……え……」

 反応がおかしい、娘が無事に帰ってきて喜ぶ母親の姿ではない。

「あんた……娘を売ったんじゃないのか?」

 市が押さえながらも、険しい声で質す。

「差しさわりがあるんだ、聞いてやるな」

「お母さんは、売ったわけじゃないんです。あの男たちが『いい勤め先がある』からって」

「はい、兵隊になる前は口入屋をやっていたという伍長さんが『駐留中、隊長の身の回りの世話をする者が欲しい』とおっしゃって」

「ふうん、身の回りの世話をねえ……」

「落ちぶれたとはいえ、学者の家の娘ですので、礼儀作法や家事一般のことには長けておりますので。そう申し上げると『それは都合がいい、では時間給を上げて特別手当も出そう』とおっしゃって、過分に前払い金を……」

「それを鵜呑みにしたのか!?」

「シイ(市の偽名)、止せ」

「止さない! あんな薄汚い兵隊の言葉をそのまま信じるなんて、こっちが信じられない! 娘たちが、どんな目に遭うかぐらい、想像がついただろ!」

「あ、いえ、わたしどもは……」

「お母さんを責めないでください。わたしたちも承知の上だったんですから」

「承知の上だって? 男どもに追いかけまわされ、乱暴されたあげくに殺されることが承知の上だって言うのか!?」

「こ、殺される?」

「そうよ、この子たち、半ば裸に剥かれて、必死で逃げて『助けて!』って叫んでた。それをほっとけなくて、あたしたち、助けたんだから! あいつら、あんたの娘たちを追いかけまわして、いたぶった挙句に犯して殺すつもりだったんだ、まるで、鷹狩の得物の兎のようにな!」

「止せ、シイ!」

「あんたたちも、これでいいわけ!?」

「「それは……」」

「明花、静花、殺されかけたのかい?」

「あ、いえ、お母さん……」

「ごめんよ、まさか、そこまでされるとは思ってなかった、お母さん……」

「あ、いえ……じゃなくて、お母さん」

 考じ果てたんだろう、母を抱きしめる姉妹は、涙を浮かべて、俺たちと母親を交互に見ている。

 もう一人の娘は俯いたまま口を一文字に結んだままだ。


「あんたたち、余計なことを!」

 別口が現れた。


「かあちゃん!」

 もう一人の母親だ。

「何ごとかと聞いて出てきたら、せっかく売った娘をなんてことしてくれるんだ!」

「お前の娘は殺されるところだったんだぞ!」

「売った娘だ、煮て食おうが焼いて食おうが買主の勝手だ! 真花さん、あんただって知ってただろう! それを、そんなしおらし気に、今知ったみたいに、いい母ぶるんじゃないよ!」

「陳鈴さん……」

「ここいらは、三国志の武断政治のお蔭でスッカンピンの学者と、その書生や下僕の街なんだ! なまじ、先帝の文治政治のころにマシな生活してたもんだから、子どもだけはいっぱいいて、だから、子ども売って生きてくしか手がないんだよ。子どもに運と才覚がありゃ、売られても、浮かぶすべも万に一つぐらいはある。それを、相手をぶちのめして、どういう了見だ! 指南の子どもは危なくて手が出せない、そう思われたら、もうあたしらに明日はないよ! いいや、仕返しでもされたら、明日にでも、この町は滅ぼされてしまうかもしれないじゃないか!」

「それはあるまい、これは軍の恥だ。報復などあり得ない」

「あんた、どこの国の人間だ? たとえ、兵隊に非があっても兵隊をぶちのめされて、黙ってるような将軍なんてありえないよ」

「クソババア、自分の非道は棚に上げておいて……許さないぞ!」

 いかん、市の顔が蒼白だ。並の切れようじゃないぞ!

「止せ!」

 市の肩を掴むが、一瞬遅れて、錫杖がクソババアの頬を掠める。

 シュッ

 糸のような鮮血が飛ぶ。

「ヒイ、人殺しぃ!」

「市!」

 ドゴ!

 ウ!

 錫杖で市の鳩尾をぶちのめす。

 瞬間で気絶した市を担いで、指南街の闇を駆けだした。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明神男坂のぼりたい・62〔美枝が休み……!?〕

2022-02-04 07:03:17 | 小説6

62〔美枝が休み……!?〕 

       


「……よしなよ……明日からテストだし」

 ゆかりは言った。


 だけど、やっぱり行くことにした。どこへ……美枝の家へ。

 今日は、めずらしいことに美枝が学校休んでいた。普通の子だったら気にしない。だけど、美枝は違う。
 美枝は、高校に入ってから休んだことがない。中学も忌引きが一回あっただけだって、ゆかりも言ってた。

 それに、美枝にはラブホで聞いた秘密がある……。

 美枝の家は神保町にある。

―― 今からいくぞ ――

―― うん、どうぞ ――

 なんとも、そっけないメールのやりとりして神保町に向かった。ゆかりに声かけたら「やめときなよ」の返事が返ってきた。

 ゆかりは、あたしよりも、ずっと美枝とは付き合いが長い。そのゆかりが「やめときなよ」というのは重みがある「……テストだし」いうのは付け足しの言い訳に聞こえた。それに、付き合いが長いから、短い人間より親身になれるとも限らない。

 学校からは、駅一つ分距離があるけど、あたしは歩いていくことにした。

 明神だんごをお土産にしたかったけど、ちょっと遠回りなんで、途中のコンビニでプレミアムチーズロールケーキをお土産ともお見舞いともつかない気持ちで買う。

 くそ。

 レジに持っていったらタッチの差で、大学生くらいのニイチャンに先を越された。割り込むって感じじゃなかったんだけど、レジに置かれたのがコンドーさんだったんで、たじろいでしまった。ニイチャンはさっさと精算すると、柑橘系の……多分オーデコロンの残り香を残していってしまった。柑橘系は好きだけど、今のニイチャンは、醸し出す雰囲気が好きくなかった。

 美枝のうちは、八階建てのマンションの八階。

 オートロックのインタホン押して呼びかけると、美枝の明るい声で「入っといで」の応え。

 エレベーターで八階に上がり、ドアのピンポンを押すと同時に美枝がヒマワリみたいなに顔を出したんで、ちょっと拍子抜け。

 リビングに通されるまでの廊下を歩いて、4LDK以上の、ちょっとセレブなマンションだということが分かった。ファブリーズかなんかが効いてるんだろ、無機質なくらいニオイがしなかった。

「どうしたのよ、今日は?」
「今日はテストの前日やから、どうせ自習ばっかでしょ。それに昼までだし」
「え、じゃあ、勉強ばっかりしてたの?」

 お土産のプレミアムチーズロールケーキを広げながら聞いた。美枝は要領よく紅茶を用意してくれてて、すぐにティーポットにお湯を注ぎにいった。

「あたしね、二年で評定4以上にしときたいんだ。4あったら特別推薦選びほうだでしょ。明日は、成績に差のつきやすい数学あるじゃんか、あたし、これで点数稼ぐんだ」
「いいなあ。あたしは数学苦手だから、欠点でなきゃいい」
「ココロザシ低いなあ」

 美枝は小気味よくプレミアムチーズロールケーキをフォークで両断すると、トトロみたいな口を開けてパクついた。瓜実顔のベッピンが、そういう下卑た食べ方すると、なんとも愛嬌に見える。こんなことが自然にできる美枝が、ちょっと羨ましいかも。

「そんなんだったら、三年でキリギリスになってしまうよ」
「バカが一夜漬けしてもたかが知れてるしなあ」
「そだ、明日の予想問題見せたげよか!」
「え、そんなん作ってるのん!?」
「ちょっと待ってて!」

 美枝は自分の部屋にいくと、ゴソゴソしだした。

 で……ガラガラガッチャーンと美枝の悲鳴!

 痛ってえ……!

「ちょっと大丈夫!?」

 思わず美枝の部屋に駆け込んだ。美枝の部屋は美枝の雰囲気からは想像がつかないくらい散らかっていた。

「見かけによらん散らかりようだねえ」

 あたしも遠慮がなくなってきた。

「アハハ、こんなもんよ。あたしは外面女だからね。はい、これ」

 渡してくれたプリントもらって気がついた。

「柑橘系の匂い……」
「え……?」

 美枝の顔が、ちょっと歪んだ。

 コンビニで会ったニイチャンの話をした。まあ、偶然の一致と笑いたかったんだ。

 ええ! いまどきオーデコロン!? とか言って『妖怪コロン男!』とかね。

「そう、コンドー買ってたの……」

 美枝の表情がみるみる嵐の気配になってきた。

 で、びっくりした!

 ひっくり返ったゴミ箱から、未使用のまま鋏で切り刻まれたコンドーさんが一握り分ほど出てた。

「好きなんだったら、こんなもの使わないでって、ケンカになって……」

 そう言うと、目から涙がこぼれたかと思うと、机の上のものを全部払い落として、美枝は突っ伏して号泣しだした。

 

 もう、秘密にできないね。

 

 あのときラブホで聞いた美枝の秘密は、お兄ちゃんとの関係。

 美枝はお兄ちゃんとは血のつながりはない。再婚同士の連れ子同士。戸籍上だけの兄妹。

 親は共稼ぎで、家に居ることが少ない。で、いつのまにか、そういう関係になってしまった。

 ゆかりの「よしなよ」が蘇ってきた。ゆかりが正しかったんかもしれない。

 だけど、あたしは、ここまで見てしまった。

 放ってはおけない……けど、どうしよう。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校

 美枝           二年生からのクラスメート

 ゆかり          二年生からのクラスメート

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・092『島粋主義ではないけれど』

2022-02-03 13:14:30 | 小説4

・092

『島粋主義ではないけれど』 加藤 恵    

 

 

 誰言うともなくパチパチ銀行と呼ばれるようになった。

 

 むろん正式な名称は西ノ島銀行だけどね。

 なんせ、窓口の日常業務をパチパチたちがやっている。

 見かけは十四歳の少女だけども、喋らせると、元の作業機械であった頃のパチパチのまんま。

 

「お客さま、新規の口座開設ですね」

 文字にすると普通なんだけど、ニッパチは中年サラリーマン風。

「客人、一年定期がお得でござるよ」

 サンパチは、サムライ。

「同志、利率はフートンが一番アルよ」

 イッパチは、古典的中華風。

 

 このギャップが面白く、また島民には安心感と親しみが持たれ、予想以上の繁盛ぶりになった。

「これは、早晩、規模を拡大しないと追いつかなくなるね」

 お昼ご飯のトレーをテーブルに置きながら社長が切り出す。

 食堂の窓から銀行の窓口が見えている。配給用の倉庫を改造した銀行なので、ほとんど素通しで、カウンターから奥の金庫室まで見えてしまっている。

 急速な発展が見込まれるのに、なんとも牧歌的。

「要員を増やさなければいけませんね」

「なにかアイデアはないかい?」

「そうですねえ……一般の島民から募集すれば?」

「ほう?」

「なにか?」

「メグミなら、パチパチと同じSK(作業機械)かロボットから選ぶと思ったんだけど」

「SKはパチパチたちだけでいいでしょ、理想を言えば、西ノ島の人口構成と同じになればと思いますよ」

「それも考え方だね」

「この食堂のメニューが、どれも美味しいのは、お岩さんが島の食材にこだわってるからだと思います」

 ヘクチ

 意外に可愛いクシャミが厨房から聞こえた。

「だけど、島粋主義というわけでもありません。これから、島は発展します。気を付けながらも島外からの投資や移民も考えなければと思います」

「そうだね……」

「あ、ひょっとして、社長から言い出すのは抵抗があります?」

「ハハ、見抜かれてるんだね」

「やっぱり」

「うん、この食堂のメニューは、どれも美味しいけど、そのままナバホ村やフートンに持ち込むようなことは、お岩さんしないだろ……お、今日のトンカツ、味も食感もいいね」

「分かったかい、社長?」

 エプロンで手を拭きながらお岩さんが近づいてきた。

「なにか変えた?」

「パン粉はナバホ、香辛料をフートンの使ってみたんだ。うちの野菜とバーターで」

「ほう」

「みんな、いろいろやってるんですよ」

「そうか、そうだね、美味しくなることはいいことだよねね」

 バン

 乱暴にスィングドアが開いたかと思うと、ナバホの村長がサブを連れて入ってきた。

「なんだ、村の食堂は休みなのかい?」

「昼は食べてきた、社長に用事……」

 最後まで言い切らず、村長は社長の向かいにドッカと腰かけた。

「ちょうど食べ終わったところだ、メグミ、お茶をくれませんか」

「はい、ただいま」

 お茶にことよせて、村長と二人で話したいんだ。このへんの呼吸は、だいぶつかめた。

 しかし、なにやら一大事のようなのに、完全な人払いをしないのは、社長らしい。

「早急に北の開発に乗り出したいんだが、社長の意見を聞きたい」

「島の北部を?」

「そうだ、北部だ……」

 

 それ以上の話は遠慮した。

 

 島の北部は、前世紀からの名残で日本国の主権下にある。

 西ノ島は、21世紀の噴火で拡大したが、不毛な火山島なので、請負開発されて、紆余曲折があって現在の氷室カンパニー、ナバホ村、フートンの持ち物同然になっている。

 パルスガ鉱石の発掘によって、飛躍的に価値が上がった島を日本国政府も放ってはおかなくなったというところだろう。

 そのために、北部の権利を広げておこうという、そういう話なんだと思う。

 

 ワハハハ

 

 なんか、笑い声が上がって、社長と村長が盛り上がっている。

 これは、フートンの主席もやってきて宴会になりそうな空気だ。

「宴会はいいけど、フートンも来るなら、お酒たりないよ」

 お岩さんが言うと、社長も村長も顔色が変わって、食堂に居合わせた者たちに酒の調達を命じる。

「みんな、酒の調達。これは業務命令だ!」

 いつも穏やかな社長の命令口調がおかしかった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明神男坂のぼりたい・61〔うろ〕

2022-02-03 08:38:31 | 小説6

61〔うろ〕 

 

 

 いつものように男坂上って、明神さまの拝殿の前でペコリと一礼。

 すると、背後で気配というか視線を感じる。

 巫女さんの慣れた視線じゃなくて、邪な狎れた視線。

 振り返ると、随神門の外にだんご屋のお仕着せ姿のさつきがオイデオイデしてる。

「この時間からバイトなの?」

「いやな、今朝は週に一度の奉仕で、参道の清掃やってるんだ」

「バイトが?」

「ああ、女将さん、体調悪くって、それで買ってでたわけさ。関心だろ?」

「ああ、それで起きたら気配が無かったんだ」

 正直感心してるんだけど、素直には褒めてやらない。

「明日香にな、こんなものが憑りつこうとしていたから捕まえてやったぞ」

「え、なに?」

 差し出されたゴミ袋には、ゴミに混じって、手を縛られ猿ぐつわされた縫いぐるみみたいなのが入っている。

「ああ、百均のマスコット?」

「狼狽だ」

「うろ?」

「狼狽えるのうろ。人が慌てるネタを探して、タイミングよく思い出させては喜んでる下級の妖だ」

「え、あ、それはどーも……うん? なんで、あたしが狼狽えるわけ?」

「知りたいか?」

「あ、まあいいけど」

「たいしたことじゃない、一年で落とした追試が迫ってるだけだ」

「なんだ、そうか」

「じゃ、早く行け。遅刻するぞ」

「うん」

 

 通学路を半分くらいきたところでジワリと胸に刺さってきた。

 そうだよ、中間テストが迫って来てるのに、それにプラスしての追試だよ。

 狼狽というやつは、悪い奴じゃないんだ『これは大事だぞ!』って気づかせてくれる妖なんだ。

 さつきが捕まえてしまったものだから、自覚するのが遅れてしまったんだ(;'∀')。        

 

 狼狽えないから、追試やら学校の勉強やらの要らないことが、ボーっと動画を見てるみたいに浮かんでくる。

 

 英数が欠点。国語が、かつかつの40点。むろん欠点の英数は追認考査で挽回……受けるのはうっとうしい。

 放課後に残されて『二年生前学年度追認考査会場(以下教科名)』の張り紙された教室で試験を受ける。

 教室は、昔と違って廊下側に窓があるから外から丸見え。めっちゃウットウシイ。

 ときどき友だちやら、学年のオチャラケたやつが笑いながら通っていく。

 学校は、試験よりも晒し者にして、反省を促してる? いや、これはサドだね、SだよSMの世界。

 テストそのものは知れてる、だれにでもできる。なんせ、落ちたときのテストと答の両方が事前に配られ、その通りの問題が出る。これで落ちるやつは、よっぽどのアホか、学校にのっぴきなない反発心のある見上げたやつ。で、そんな見上げたようなやつはいないので追認は受けたら、みんな通る。

 ようは「恐れ入りました、お代官様!」という恭順の意が示せるかどうか。

 あたしは、お父さんの時代みたいに「造反有理」なんちゅうことは言いません。学校いうところに、そんな帰属意識もなければ、反骨の気持ちもない。だからチャンスくれるんだったら、惜しげもなく恭順の意を示して追試受けて、帳尻を合わせる。晒し者にならなきゃね。

 それに、追試の結果出るまで赤点のまんまだというのはケタクソワルイ。「今年こそは、欠点とらないぞ!」学期始めは一応決心。だけど毎日タラタラつまらん授業受けてるうちに、そんな気持ちは、春の日差しの中で蒸発してしまう。

 とにかく、学校の授業はつまらない。学校の先生いうのはしゃべりが下手っぴ。

 国語の教材に『富岳百景』があった。あたしは、とうに文庫で読んでいたから中味知ってたけど、先生が読むと、太宰治が生きていたら怒るだろってくらい下手。もう文学の冒涜だと言ってもてもいいくらい(*`へ´*)。

 説明も下手というよりは、そもそも伝えようという気が無い。

『富岳百景』の時代は昭和十三年の秋。舞台は甲州(山梨県)の御坂峠。これについて先生は何も語らない。

 こちらで山と言ったら飛鳥山か愛宕山。地べたのニキビみたいなもの。そこへいくと甲州の山は、それぞれ高々としてて人格を感じる。富士山なんかは、もう神さま。太宰の故郷には津軽富士とも言われる岩木山なんてのがあって、太宰の中には山に人格やら神格を感じる血が流れてる。やっぱりそういう描写をしながら授業しないと『富岳百景』の世界には入っていけない。
 
 せめて高さ。
 
 3776メートルいうても東京の子はピンとこない。「飛鳥山の145倍! ピンとこない? じゃあ、スカイツリーの6倍だ!」とか言って、窓の外見て、今の東京は、その富士山さえめったに拝めない。とかかましたら、ちょっとは関心持つだろう。

 それに、あの話には人間の美しいとこしか出てこない。太宰が連泊してた天下茶屋は女将さんと娘さんしか出てこないんだけど、店の主人は戦争にとられて中国に行っていた。毎日中国では日本兵が三桁の単位で戦死してた時代。残された家族が心配ないわけない。だけど、太宰は、あえて書いてない。ラストの女郎さんらの遠足も、どこか牧歌的。そういう事情を知っていたら、あの作品から見えてくるものは、もっと奥が深い。太宰の「単一表現」の苦しさと面白さの両方が分かる。

 以上は、テストの解答用紙の裏に書いた内容……おかげで40点。

 英語は、国語以上にどしようもない。なんで文法なんかやるかなあ。アメリカの子は文法なんか考えんと英語喋ってるのは当たり前だのに。それに先生たちの英語の発音の悪いこと。

 あたしは映画好きだから、よく観るよ。メルリ・リープやらアン・ハサウェイなんか、スンゴクいけてる。『プラダを着た悪魔』なんか最高にオシャレな映画だし、オシャレな英語が飛び交ってる。

 チャーチルが二日酔いで、議会に出たときオバチャンの議員さんに怒られた。そのとき返した言葉がふるってる。

 I am drunk today madam, and tomorrow I shall be sober but you will still be ugly

 訳すと、こうなる。

「いかにも、マダム、私は酔っ払ってる。しかし朝には私は酔いは覚めてシラフになるけど、あんたは朝になっても不細工なままだ」

 ジェンダーとかの観点からは張り倒されるんだろうけど、面白いから英語のまま覚えてる。

 チャーチルは見てくれの御面相では無くて、オバチャン議員の心映えのことを言ってるんだ。

 で、こんなことばっかり言って、追試もナメて、中間テストの勉強もちっとも進みません。はい。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  伯母さん
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  将門さま         神田明神
  •  さつき          将門さまの娘 別名滝夜叉姫

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔法少女マヂカ・257『悪魔城の黒マント』

2022-02-02 14:48:00 | 小説

魔法少女マヂカ・257

『悪魔城の黒マント語り手:マヂカ  

 

 

 ドドド! ゴゴゴゴ! ゴオオオオオオ!

 …………ゴトン

 唸りを上げ、地響きをさせて聳え立ったトキワ荘は、東京都庁ほどの大きさと高さになって、ようやく拡大をやめた。

 ウォンウォン ウォンウォン ウォンウォン

 しかし、巨大な機械獣が佇立しアイドリングのように身震いしている様は油断がならない。

「悪魔の城か、こいつは……」

 ステッキを太刀のように構える高坂侯爵は、一見滑稽に見えるが、さすがは高坂五万石、高坂光孝十七代目子孫の当主。サーベルを抜き放った箕作巡査よりも圧がある。

 しかし、淀橋署請願巡査であり、虎沢クマの婚約者である箕作巡査は、ズサっと地を踏みしめながら侯爵の前に進み、まるで聖剣エクスカリバーを擬して魔王に立ち向かうアーサー王のように身構えた。

「高坂侯爵家のメイド、虎沢クマ嬢を誘拐せし犯人! さっさと虎沢嬢を開放し、捕縛の縄につきなさい! 今なら、誘拐監禁の罪だけだ。この上、虎沢嬢に危害を加えたり、抵抗を試みるなら、傷害、公務執行妨害の罪を被ることになるぞ!」

「不埒者! わたしのメイドを返しなさい!」

 ブン

 霧子も負けじと拳を振り上げる。

 

 ワハ ワハハハハハハハハハハハ!

 

 悪魔城と化したトキワ荘、そのめくるめく最上階ベランダのあたりから不敵な哄笑が沸き起こった!

「なにやつ!?」

 侯爵が誰何すると、悪魔城前面の中空に黒ずくめのマント男が、虎沢クマを後ろ手に戒めて現れた。

「クマさん!」

「箕作さん!」

「くそ、ただちにクマ……虎沢嬢を開放しなさい!」

 ジリ

 背後で踏みしめる音がしたかと、思うと、小柄が投げられた。

 シュッ

 霧子が隠し持っていた小柄を投げたのだ。

「これも、くらえ!」

 侯爵も負けじと、ステッキを投げる。

 小柄もステッキも、過たずマント男の眉間と胸に当ったように見えたが、音が怪しい。

 チャリン  カラン

 頼りない音をさせて、二つとも落ちてきた。

「手ごたえはあったのに!?」

「妖術か!?」

 あれは、3Dホログラムだ。大正時代の技術ではないし理解もできないだろう。

「要求があるなら言え!」

「ある者たちが、大連武闘会で優勝し、戦艦長門が最速で帰投するのを助けた」

 こいつ、何を言い出すつもりだ?

 大連武闘会の事は高坂家の親類筋の者がやったことにしてある。まして、長門が史実よりも早く横須賀に着いたことは、史実を知っている我々しか知らないことだ。

「そのために、数十人の者の命が救われた」

「それが、なんや言うのんや……」

 ノンコが呟く。当たり前だろう、本来助からない命が助かったのだから、悪かろうはずもない。

「そうだろうか?」

 くそ、こいつ、心を読むのか!?

「助かった命の中には邪な者も……とは思わないかい」

 なんだと?

「蒔いた種は蒔いた者に刈ってもらおう……刈り方については後日伝えよう。どうか、その者たちに伝えてくれたまえ。くれぐれも、わたしを失望させることのないようにとね」

「貴様、何者だ! 名を名乗れ!」

「これは、侯爵、失礼をした。我が名はファントム、ファントムであるゆえ、君たちが目にしている者も幻だがね。実体は……ここだ!」

 最後の「ここだ!」は、はるか最上階のバルコニーに戻った。

「そして、我が意に背けば……こうなる」

 

 キャーーーーーーーー!

 

 悲鳴が聞こえたかと思うと、はるか最上階からクマさんが突き落とされた!

「クマさーーん!」

 箕作巡査がサーベルを投げ出し、クマさんを抱きとめようと前に進む。

「よせ、君まで死んでしまう!」

「箕作さん!」

「箕作巡査!」

 男たちが、箕作巡査を羽交いに停める!

「は、放してくれええええ!」

 

 ビシャ!

 

 すごい音がして、クマさんは地面に叩きつけられる……ハズはない、あれはホログラムだ。

 分かっていても目を背けてしまう。

 一瞬あって目を開けると、案の定クマさんの姿は無い。

 やつは、ご丁寧に、地面への激突音を付け加えたのだ。

 魔法少女ともあろう者が、見事に引っかけられた。

 

 そして、魔法城も消え果てて、豊島郡長崎村、甲州街道との合流点で、呆然と立ち尽くしていたのだった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明神男坂のぼりたい・60〔連休明けのアンニュイ〕

2022-02-02 06:46:33 | 小説6

60〔連休明けのアンニュイ〕 

    


 
 一年で、いちばんつまらないのは、五月の連休明け。高校生でなくっても分かってもらえると思う。

 で、高校生で、いちばんつまらないないのは二年生。一年の時の緊張感も夢もないし、三年の進路決定が迫って来る緊張感もない。アンニュイって言えばカッコいいけど、要はダレて来る。

 去年の今頃って、なにしてただろ……?

 演劇部入って、本格的な入部が決まって、先輩の鈴木美咲も偉い先輩だと思えた。三年の先輩たちは神さま。芝居が上手いということもあるけど、なんだか言うことが、いちいちかっこよかった。

「安直に創作劇に走るのは、高校演劇の、いちばん悪いとこ!」
「なんでですか?」
「明日香、戯曲は吹奏楽で言うと、演奏会でやる曲みたいなものなのよ。そんなもん自分たちで作るような学校どこもないでしょ?」

「はあ……」

「ん? 納得のいかない顔してるなあ」
「いえ、そんな……」

 とは言うものの、本当は納得してなかった。中学校の文化祭でも、クラスの出し物の芝居は自分たちで書いていた。そして、そこそこにおもしろかった。なんで創作がだめなのか、あたしにはよく分からなかった。

「ちょっと、付いといで」

 そう言って、吹奏楽と軽音に連れていかれた。

「オリジナル、そんなの考えられないわ」

 吹部の部長は、あっさり言う。

 そして、ちょうどパート練習が終わったとこなので、演奏を聞かせてもらった。『海兵隊』と『ボギー大佐』という、あたしでも知ってる曲をやってくれた。なんでも、吹部ではスタンダードで、一年が入った時は、いつもこれからやるらしい。

 で、三曲目の曲がダサダサ。だけど、どこかで聞いたことがある。

「今のは校歌。一応は吹けなくっちゃね」

 ちょっと分かった。同じ技量でも、やる曲によって、全然上手さが違って聞こえる。

 次に軽音。

 先輩が頼んだら、B'zといきものがかりの曲をやってくれた。めっちゃかっこいい!
 軽音に鞍替えしよかと思ったぐらい。

「なんか、オリジナルっぽいのあったら、聞かせてくれる?」

 先輩が言うと、軽音のメンバーは変な笑い方をした。

「アハハ、じゃあ『夢は永遠』いこっか」

 え、そんな曲あったかな?

 それから、やった曲はダサダサだった。正直、オチョクってんのかという演奏。

「これ、ベースのパッチが作った曲。パッチは将来はシンガーソングライター志望。で、ときどき付き合いでやってるんだ」

 ベースの三年生が頭を掻いた。

 分かった。

 戯曲は吹部でいうとスコア(総譜)みたいなもの。だから、どこの馬の骨か分からんような人がつくった校歌はおもしろくない。軽音のパッチさんが書いた曲はガタガタ。

「な、だから、戯曲は既成脚本の百本も読んで、やっと本を見る目ができる。書くってのは、その先の先」

 あたしは、その三年生の言葉を信じた。

 そして、コンクールでは『その火を飛び越えて』という既成の本を演った。

 結果は、まえにも言ったけど、予選で二等賞。自分で言うのもなんだけど、実質はうちの学校が一番だった。あたしが演劇部辞めたのは美咲先輩のこともあるけど、高校演劇の八方ふさがりなところもある。

 一昨年、鶴上高校が『ブロック、ユー!』いう芝居で全国大会で優勝してテレビのBSでもやってたし、毎朝新聞の文化欄でも取り上げられ平野アゲザいう偉い劇作家も激賞してた。

 だけど、去年、この作品を、よその学校が演ったいう話はついに聞いたことがない。今年の春の芸文祭で鶴上高校とはいっしょだったけど、キャパ400の観客席は、やっと150人。

 ああ……演劇部のグチはやんぺ。

 週があけたら中間テストが射程距離に入ってくる。あたしは英数が欠点のまんま。夏の追認考査では、絶対とりかえしておかなくっちゃならない。

 

 あ、そうそう。

 

 ひとりイキイキしてるやつがいる。

「いやあ、明日香ちゃんの従姉妹なんだってね。明るくって、働き者で、ほんと大助かりよ(^▽^)/」

 だんご屋のおばちゃんは大喜び。

 えと……うちの居候のさつきですよ。

 ちなみに、履歴書に書いた住所は明神さまの御旅所。

 そこから通うふりして、実際は、姿を消してからうちの家に戻って来る。

「そんな長時間、よく実体化していられるわねえ」

 わたしに憑りついたころは、ほんの二三分の実体化が限界だったのに。

「ああ、明日香から、ずいぶんエネルギーもらったからなあ」

「勝手に、エネルギー持ってかないでよね」

「いいじゃないか、有り余ってるんだし」

「余ってなんかないよ!」

「いやいや、余ってるぞ。ほっとくと零れてしまうから、使ってやってるんだ。感謝しろよ」

「するか!」

「ほらほら、その元気さ」

「ムー、どうやってエネルギー抜いてんのよ!?」

「ああ、これでな」

「え、USBケーブル?」

「うん、明日香のおへそに端子があったからな」

「うそ?」

 ジャージをめくってみるけど、そんなものはない。

「ほんとうは、お尻にある」

「ええ(;'∀')!?」

 慌ててお尻を押える。

「アハハ、明日香のそういうとこさ。ほら、チャージが始まったから、パイロットランプがついただろ」

「え、どこ?」

「わたしの瞳だよ」

「うん……」

 グイッと突き出した顔。たしかに、瞳の真ん中が青く光ってる。

 で、急速に眠気が湧いて来て……あ、またやられた?

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  伯母さん
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  将門さま         神田明神
  •  さつき          将門さまの娘 別名滝夜叉姫

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語・122『裏アキバからアキバの空へ』

2022-02-01 14:04:08 | ライトノベルセレクト

やく物語・122

『裏アキバからアキバの空へ』 

 

 

 しゅんかん夢をみた。

 

 ピンポン玉くらいのハートが何千個も集まって、その上に乗ったわたしは、ホワホワとアキバの上空に浮かんでいく。

 眼下にアキバの街が広がっている。

 最初は、日曜日とあって、アキバの街は人で埋め尽くされて、アニソンやらお店のテーマ音楽、メイドさんたちがお客さんを呼び込む声とかが潮騒のように聞こえる。

「あれえ、やっぱり普通にアキバだよ」

 ポケットから頭を出した御息所が「ちがう」と言う。

「どうちがうの?」

「ようく見てみ」

 言われて目を凝らすと、いわゆるアキバエリアの外周は古代ローマのような石壁に囲まれ、武装したメイドさんたちが手に手に武器を持って石壁の上の配置についていて、東西南北にはティアラを煌めかせたメイド将軍の姿も伺える。

 視線をアキバの街に戻すと、もう日曜のアキバの賑わいは掻き消えてしまって、所どころに予備軍的に控えているメイド部隊が見える。部隊は、兵士の他に白魔導士やら錬金術師の部隊も見えて、なんだか、ゲームの序盤のムービーみたい。

「すごい夢ね」

「いいえ、夢ではありません」

 胸元から声がしたかと思うと、マフラーをかき分けるようにしてアキバ子が現れた。

「あ、そこは特等席、わたしでも遠慮してるのだぞ」

 御息所が苦情を言う。

「慣れないもので、より確実なところから出させてもらいました(^_^;)」

「で、無遠慮なアキバ子が、なんの用だ!?」

「ここからが、御息所さんの出番なんです!」

「「ここから?」」

 御息所と声が揃ってしまう。

「はい、御息所さんは深く夢の中に潜り込む術に長けておられます。自分の夢にも人の夢にも」

「それって、わたしの古傷をえぐってない?」

「その眼で下界のアキバをよく見てください。わたしたちには見えない、アキバに隠れた業魔の姿が見えてくるはずです」

「そうなの?」

「はい、やくもさま」

「しかし、漫然と見るには、広すぎるわよ、アキバは」

「はい、そこで役に立つのは、やはり御息所さんの学識なのです」

「そ、そりゃ、東宮妃にまでなったわたしだから……でも、そんなの千年も昔の話で……」

「御息所さん、ここは神田の東にあたります」

「そうね、それが?」

「最初に退治された業魔は神田の南南東、神田川の主でした。南南東は巳の方角」

「あ、それで蛇の姿!?」

「はい、やくもさま」

「では、東だから……寅……虎?」

「いいえ、アキバは南北の広がりもありますから、丑、虎、卯をも包み込んで超えるものです」

「あ、青龍か!?」

「え、セイリュウ?」

「四神よ。東西南北の四方の守り神。北の玄武、南の朱雀、西の白虎……東の青龍……青龍か!」

「青龍、ブルードラゴン!?」

「青龍相手に戦う力は無いわよ」

「いいえ、まだ将門さんの体から出たばかりの業魔。最終形態の龍にはなっていないと思います。龍を意識していては見落としてしまいます」

 そうか、業魔の正体を見破るのに御息所の力が発揮されるんだ!

「青龍……青龍……」

 その時、ちょっと風が吹いて、わたしたちが乗ったハートが南に向いて、間近に東京湾が広がって見えた。

「そうだ、そうよ、江戸前の海の青龍、青龍蝦……シャコ!」

 

 ズワン

 

 アキバの空に鈍い音が響いたかと思うと、巨大なシャコが現れた。

「「「うわあ……」」」

 ちょっとアノマロカリスに似ていると思った。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 メイド将軍 アキバ子

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明神男坂のぼりたい・59〔ラブホ初体験!〕

2022-02-01 06:47:32 | 小説6

59〔ラブホ初体験!〕 

        

 


 連休を持て余していた中尾美枝から電話。

『ねえ、ラブホの探検に行こうよ!』

 なんでも、ゆかりとの約束が流れてヒマなので、うちにお鉢が回ってきたらしい。

 正直びっくり……なんだけど。

 二つのミエで「NO」を言い損ねた。

 ベランダから見える青空のようにアッケラカンとした『美枝』の言い回しと、部屋のどこかで聞いている居候への『見栄』で。

『遠足じゃ外回りしか分からなかったじゃん。やっぱ、こういうのは中身だしね。ググったら、いろいろアミューズメントパークかみたいなのがあって、面白そうでさ。本来の目的以外でも女子会で利用するのもあるんだって。ね、どうよ?』

「オンナ同士でも、変なことしない?」

 そう確認すると「ガハハ」と愉快そうで健康的な笑い声が返ってきた。

『アハハ、ないない。せっかくの連休だし、ちょっと変わったこともしてみたいってノリ。じゃ、一時間後御茶ノ水駅集合ね!』

 プツン

 電話が切れると、油絵の明日香と目が合ってしまう。

 一瞬さつきかと思ったけど、あいつの気配ではない。連休だから、さつきも出かけたかな?

 

 で、一時間ニ十分後、山手線某駅で降りて、東京でも指折りのラブホ街に二人でおもむいた。

 

「なんかネオン点いてないと、普通のビジネスホテルみたいだね」
「こんな時間やだから、入れるんだね。昼過ぎたら、もう空室ないだろねえ」
「あ、フロントがある……」
「あれは、法律対策上。部屋はこっち」

 やっぱ、美枝の方が詳しい。あたしは、こんなとこ来るのん初めてだし。

 パネルにある部屋は、看板通り均一料金だった。で、半分以上が使用中なのには驚いた。

「ウワー、ショッキングピンク!」

 部屋に入るなり、部屋のコンセプトがピンクなのにタマゲタ。

「やっぱり、趣味のいい部屋は使用中やだね。ま、基本的なシステムはいっしょだろから」

 ウォーターサーバーもピンク色だったから、ピーチのジュースでも出てくるのかと思ったら、当たり前の水だった。

「明日香、なにショボイ水飲んでんの。こっち、飲み物は一杯あるよ」

 コーヒー・お茶・紅茶・生姜湯・ココア・コンソメスープetc……。

「へえ、生姜湯だ……」

 石神井のお祖母ちゃんを思い出す。

「なにしみじみしてんのよ。ご休憩だから、時間との勝負だよ。ホレ!」

 美枝は、そう言うとクローゼットの上からお風呂のセットをとりだして、放ってよこした。

「せっかくだから、いっしょに入ろ」

 美枝のノリで、そのままバスに。

「うわあ、同じだ」

「え、なにと?」

 壁の色なんかは違うんだけど、お風呂自体は、去年お祖母ちゃんのお通夜で入った葬儀会館といっしょなので驚いた。

「ふうん、葬儀会館もラブホもアミューズメントパークのノリなんだねえ……」

 二人で、ゆったり入れて、お風呂の中に段差がある。ガラス張りかと思ってたら、拍子抜けするほど普通のお風呂。

「これは、フロントといっしょで、警察うるさいし、女の子には、この方が喜ばれる」
「ふーん……キャ!」

 油断してると、いきなり水鉄砲。

「アハハ、びっくりしただろ。こういう遊び心が嬉しいところさ」
「もう、とりあえずシャワーして、お風呂入ろ」

 美枝のノリで、シャワーして、バスに浸かる。やっぱり女の子同士でも、変な感じ。ちょっとドキドキ。

「じゃあ、洗いっこしょうか」

 前も隠さずに美枝が上がる。ボディーシャンプーやらリンスやら、わりといいのが二種類ずつ置いてあった。二人で違うのを使って感触を確かめる。違いはよく分からないけど、うちで使うてるのよりはヨサゲだった。

「ねえ、体の比べあいっこしよ」
「比べあい?」
「修学旅行とかでも、お互いの体しみじみ観ることってないじゃん。めったにないことだし、やってみよ!」

「え、ああ……え、鏡!?」

 美枝が壁のボタンを押すと、それまで壁一面のガラスだったのが鏡になった!

 なるほど、同じ歳の同じくらいの体格でも、裸になると微妙に違う。肩から胸にかけてのラインは負けてる。

「せやけど、乳は明日香の方がかわいいなあ。あんまり大きくないけど、カタチがいい。ほら片手で程よく収まる」

 そっと、美枝の手で両方の胸を覆われた。鏡に映すと、丸出しよりも色っぽいし、自分が可愛く見える。

 それからは……中略……自分でも見たことのないホクロを見られてしまったりとか、後で考えると恥ずかしいんだけど、平気でやれたのは、美枝のキャラだと思う。

「明日香、ベッドにおいでよ」

 髪の毛乾かし終わると、美枝がベッドに誘う。

「え、あんた裸!?」

 掛け布団めくると、美枝はスッポンポン。

「明日香も……」

 あっという間に、バスローブ脱がされてしまう。

「ちょっとだけ練習……」

 言い終わらないうちに美枝が後ろから抱きついてきた。胸の先触られて、体に電気が走った。

「もう、びっくりするじゃんか!」
「今度は、明日香が」

 そう言うて、美枝は背中を向けた……。

 やっぱ胸は触れなくて、背骨に沿って指でなぞってやる。

「うひゃひゃひゃ~~~(#'∀'#)」

「ちょ、なんて声出すのよ(^_^;)」

「明日香、上手いよ!」

「ちょ、なにがよ!?」

「女同士でも感じるんだねえ」

「もうヤンペ」

「こういう感覚、この感覚を愛情だと誤解せんことなんだよね」

「ったりまえでしょ!」

「だよね、Hの後にIがあるもんやけど、やっぱり愛が先にあらへんとねえ」

 そういう女子高生らしい恋愛論の結論に達して、あたしらはご休憩時間ギリギリまで居て、ホテルを出た。

 

 実は、美枝から、ある話を聞いたんだけど、女の約束で言えません。

 ただ、外に出たとき、五月の風が、とても爽やかやったことは確かでした。

 

 そういう女子高生の、ちょっとした冒険で締めくくろうと思ったら……帰り道、明神さまの大鳥居まで来て発見してしまった。

 なんと、さつきが実体化して、だんご屋でアルバイトをやっているのを。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  伯母さん
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  将門さま         神田明神
  •  さつき          将門さまの娘 別名滝夜叉姫

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする