大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・124『アキバ上空青龍戦・2』

2022-02-12 17:45:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・124

『アキバ上空青龍戦・2』 

 

 

 見渡す限りの闇なんだけど、ところどころボンヤリと薄明るくなっているところがある。

 そのボンヤリは、息づくようにフワフワと大きくなったり小さくなったり、明るくなったり暗くなったり。

 まるで、そのボンヤリに命があるような感じさえする。

「青龍の夢は、まだ形にはなっていないようね」

 わたしもアキバ子も薄気味悪さに息を飲むだけなんだけど、さすがは御息所。

 人の夢に中に潜り込んで、人を呪い殺すだけのことはあって、平然と観察している。

「いま、不届きなこと思ってたでしょ(*`へ´*)」

「ううん、そんなことない。頼もしいって思ったんだから(^_^;)」

「あのボンヤリしてるのは、青龍の願望よ……衝動と言ってもいい。でも、まだハッキリしてないのよ。いずれ、色を持って明るく輝きだして形ある夢になっていく……でもね、青龍って名乗るぐらいだから、自分の姿かたちにはハッキリしたイメージを持っているはずよ。それを見つけて」

「見つけたら、どうなるんですか?」

「見れば、あいつも自信をもって形にするわ。夢は、人に見られて成長するものなのよ」

「なんとなく分かるような気がします。アキバもそうです。人に見てもらって、認め合ってテンション上がっていくもんですから」

「そうよね、コスプレのレイヤーさんたちって、もろ、そうだし。同人誌とかゲームとか、そうだよね」

「そう、承認欲求! それは、妖のなかにもある! しっかり探して!」

「うん!」

「はい!」

「あ、あれだ!」

 探せと言う割に、いちばん最初に見つけたのは御息所だ。

 さすがに夢のエキスパート! 褒めてあげようかと思ったけど、御息所にとっては触れてほしくないところでもあるんだろうと思ったので止める。

 そのボンヤリは薄青く明滅しているんだけど、明滅の真ん中に糸くずみたいなのがあって、それがウネウネしている。

 理科の実験で見たミジンコや青虫のイメージなんだけど、三人で見ているうちに姿がハッキリしてきた。

 先っちょが膨らんで頭になり、手足のようなものも出てきて、頭には角が生えて、小っちゃな龍になった。

 ピカ!

 まぶしい( >д<)!

 アノマロカリスが気が付いて、そのボンヤリを体で隠そうと突進してきて、重なったところでスパークが起こって、周囲が真っ白になってしまう。

「やっぱり龍だったな」

 御息所は平気で目を開けていたので、悠然と腕組みしたままだ。

 アノマロカリスは、元の十倍はあろうかという立派な青龍に変貌を遂げていた。

「思っていた通りでしたね」

「で……あれを、どうやってやっつけろって言うの?」

「コルトガバメントでしょ」

「気楽に言わないでよ、第一形態のアノマロカリスで効かなかったのよ」

「だから、本性である青龍の姿にしたんでしょ」

「あ、ああ」

「御息所……ひょっとして、龍の姿にするところまでしか考えてなかった?」

「いや、そんなことはないわよ。本性に変身させれば、やっつけられるんだから、あとは吸血鬼の胸に十字架の杭を打ち込むようなものよ。さっさとやんなさいよ!」

「で、でも……」

 青龍の姿は、大きくて、キラキラ力強くて、とても、コルトガバメントでやっつけられるようには思えなかった。

 ギラ(⚙♊⚙)

 ヒエエエエエエ!

 いっしゅん青龍の目が光って、三人揃って縮みあがってしまった。

「さっさと、やんなさいよ!」

「ああ、こっち見てますよおおおお!」

「早く!」

「う、うん!」

 ドギューーーーーーーン!

 ビビりながらも思いを込めたせいだろうか、銃口から弾丸が飛び出し、真っ直ぐに青龍の眉間に飛んで行くのが見えた。

 シュルルルル

 銃身に刻まれたライフル(線状)によって旋回運動を加えられ、白い煙のエフェクトを纏いながら銃弾は、青龍の眉間に命中!

 チーーーン

 え?

 銃弾は、釣鐘にパチンコ玉が当たった程度の音を響かせてはじき返されてしまった。

 グオオオオオオオオオオオオ!

 真っ赤な口を開けて、青龍は、あたしたちめがけて飛びかかってきた!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 メイド将軍 アキバ子

 

 

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明神男坂のぼりたい・70〔夏も近づく百十一夜・4〕

2022-02-12 07:04:46 | 小説6

70〔夏も近づく百十一夜・4〕 

        


 夏も近づく百十一夜……いつまで続くんだ?

 と、思ってる人、ごめんなさい。

 ほんとうは、夏も近づく八十八夜でいきたかったんだけど、気がついたのが5月の28日。で、数えたら八十八夜ならぬ百十一夜。語呂がいいので、それで書き始めたら終わらなくなってしまって、もう6月。

 ほんとうは、この「夏も近づく百十一夜」で、手紙書こうと思ってた。で、一日延ばしで他のことやってるうちにタイミング失うてしまって(^_^;)。

 で、今日は百十一夜にトドメを指します。っていうか、ほとんどピーカンのカンカン照りだしい(>△<;)。

 で、なんと今日は体育祭、運動会!

 昔は、秋にやるものと決まってたらしい。

 それが、文化祭と重なることや、三年生の進路決定の時期と重なるというので、あたしたちは、小学校のころから運動会は5月末から6月の頭になっている。

 で、分かってるだろうけど、早い年は、もう梅雨が始まりかけて雨の確率が高い。

 

 で、なんと言っても暑い!

 

 あたしは、運動会は好きじゃない。スポーツはいいよ。だけど、いろんな競技を一日掛けてダラダラやるのは嫌い。

 考えてみてよ。好きで行ったライブとかでも、まあ、三時間じゃね? 人間の集中力には限界があるんだよ。映画も芝居も3時間超えるやつなんか、めったにないぞ。

 オリンピックの花と言われるマラソンもドンベの選手も入れて、まあ、3時間には収まるよ。それが運動会は昼休みを挟むとは言え、7時間以上の長丁場。

 もう、これだけでアウト!

 それに、あたしは嫌いじゃないけど、好きと言うほどスポーツは上手くない。中学二年までは関根先輩と学校いっしょだったから、かっこわるいとこ見せられないから必死。で、一等賞はとったことがない。いっつもゴール寸前で陸上とかやってる子に抜かされるんだもんね。

 ちょっと、話は横道へ。

 あたしの名前の明日香には意味がある「今日できなくてもいい。明日に香るような子でいてほしい」というのが名前の由来。まあ、お父さんらしい名前の付け方。男だったら「介(すけ)」の付く名前なんだってさ。

「介」って言うのは、昔の日本の役人の制度では、次官(二番目の役人)を表すらしい。まあ、過剰な期待や努力をしなくていいという思い。

 それには感謝なんだけどね……あたしには、なにごとも一日延ばしにするという悪いクセがある。「今日出来ることは今日のうちに」と、学校では教えられてきた。だけど、うちの家族、とくにお父さんは「明日出来ることは、今日するな」いう主義。

 これにも理屈はある。

  急いで一日でやったら見落としが必ず出てくる。お父さんは、本書いていてアイデアに詰まると、何日かホッタラカシにしとく。そうするとフッとアイデアが浮かんでサラサラと書けるらしい。

 これを「ウンコ我慢法」と言う。念のため、お父さんの命名。立派なバナナ型のウンコをひり出そ思たら、最初の便意は我慢して、その次も我慢して、そしてギリギリになってトイレに駆け込むとモリモリと立派なウンコが出来るそうで、これも立派な努力の方法だと言ってます。
 お母さんは、ただの無精もんの言い訳だと、一言のもとに切り捨て。なんで、こんな性格の違う二人が結婚したのか、あたしの中では世界七不思議の一つです。

 アハハハハハ(๑˃▽˂๑)!

 さつきがノドチンコむき出しで笑った。

 あたしは、ホームルームで種目決める時に、さっさと手を挙げたよ。

 ぐずぐずしてたらリレーのアンカーとか、借り物競走とかのしんどいか、しんきくさい競技に回されるのが分かってるからね。

 しかし、あたしは、やっぱり抜けてる。

 運動会というと、必ず休む子がいるっていう法則だよ。小学校から10回も経験してながら抜けてる。我ながら経験から学習しないバカだ。

 中学校のとき、障害物競走に出る子が休んで代わりに出た時の話。

 平均台渡って、網潜って、麻袋穿いて両足でピョンピョン。ここで、となりの子に抜かされそうになった。ラストは片栗粉の中のアメを探して(手は使えない)ゴール。あたしは、ここで時間かかると思って必死で麻袋脱いだら、ハーパンと、その下まで脱ぎかけて会場大爆笑。その時の半ケツの写真が出回ったとか。

 ああ、これが人生の判決かと(なにシャレとんねん)諦めたけど、関根先輩に見られたのは一生の不覚(-_-;)。

 あ、で、今度のバカは、休んだ子がリレーのアンカーだったこと。リレーの前が女子の棒倒しで、みんなヘゲヘゲになってるんで、パン食い競争で早々と出番の終わったあたしにお鉢が回ってきた。

「明日香、お前が走れ!」

 ガンダムの有無を言わせない命令は、やっぱ元生指部長の迫力。

 バトンを受け取ったときは二番目だった。

 あたしは一番にはなろうとは思っていない。受け取ったバトンを二番目のまんまでゴールしたら、ピンチヒッターの面目は立つ。

 ところが、リレーのアンカーと言うのは陸上の専門みたいなやつが配置されてる。それも三番目のクラスに。

 あたしはコース半分のとこで越されそうになって、必死のパッチ!

 で、あたしとしてはがんばった。50センチくらいの距離でピタっとくっついて、ゴールの寸前!

 で……ころんでしまった。

 運の悪いことに、ゴールは本部テント前。

 校長先生やらPTAの役員に混じって招待客やら一般の人らも混じっている。ころんだ瞬間、本部テントの中からいくつもの視線が刺さる。その中には、明日から正式に登校する新垣麻衣の姿。一瞬笑ってるように見えた。案外この子は見かけとはちがう子かも……と思った。

 むろん順位は大きく落としてブービー賞。

 退場門のとこで、ゆかりと美枝が待っててくれて慰めてくれた。

 で、次に心臓がフリーズドライになりそうになった。

 なんと本部テントの中で、関根先輩が見ていた……!

 

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明神男坂のぼりたい・69〔夏も近づく百十一夜・3〕

2022-02-11 08:06:07 | 小説6

69〔夏も近づく百十一夜・3〕 

 

 

 通り雨 過ぎたあとに残る香りは夏 このごろ……

 お父さんの好きな『夏この頃』の歌い出しみたいな昼休みだった。

 バラが盛りになって、紫陽花が小さな蕾を付け始めた。

 ピーカンの夏空の下、となりのオバチャンにホースで水を撒いてもらうと、水のアーチの中にけっこう大きな虹がたつ。その虹の下を水浸しになりながらキャ-キャー言いいながら、友だちとくぐった。オーバーザレインボウじゃなくってビヨンドザレインボウ。その時に舞上げられる焼けた土と、跳ねる水の香り。それが、この時期の通り雨の香りといっしょ……というのはお父さんの子どもの頃の話。

 お母さんも水撒いてもらうのは好きだけど、お父さんみたいにビチャビチャになりながらビヨンドザレインボウはやらなかったそう。で、砂埃と水の混じった匂いは、お母さんには臭い。同世代でも、感性がちがうもんだと思う。

 この明神男坂下はコンクリートとアスファルトなので、この夏の香りはしない。

 

「いや、東京オリンピック以前は、そんな感じだったぞ」

「ええ? ここは明日香が子どものころからアスファルトだよ」

「東京オリンピックと言えば昭和三十九年だろうが」

 どうだ、最近のことも知ってるんだぞという感じで上から目線なのはさつき。

「親父ほどじゃないけど、実体は滝夜叉姫って呼ばれるくらいのもんだからな。厄除け、病魔退散には霊験あらたかなんだぞ。いやいや、いまさら感謝とかはしなくてもいいけど、知っておいて損はないぞ」

「なんか、居候の居直りっぽい」

「まあ、そう言うな。学校では友だちもできたみたいだけど、一人っ子というのはつまらないだろ。まあ、お姉ちゃんだと思って……」

「いやだ」

「じゃあ、転校生だ。転校生というのはラノベでは幼なじみと並んで鉄板キャラだろ」

「ええ? ラノベまで読んでるの!?」

「ああ、お父さんの本棚にいっぱい並んでるからな。ずいぶん、勉強になったぞ」

「もおー」

「安心しろ、転校生も幼なじみも、サブキャラの立ち位置だ。主役は明日香。そこは、ちゃんと分かっているからな」

 むう、ぜったいウソだ。

 

 だけど、夏を予感させる五月の下旬は好きだ。

 そんなこと思って、雨上がりのグラウンド見ながら食堂のアイス食べていたら急に校内放送。

――2年3組の佐藤明日香、職員室岩田のところまで来なさい。くりかえします……――

 繰りかえさなくても分かってる。これは、前の校長(パワハラで首になった民間校長)の人事で生指部長から我が担任に天下ってきた(本人曰くけ落とされた)ガンダムの声。

「明日香、なんかやった?」
「ガンダム、ストレス溜まりまくりだから、このごろ、ちょっとしたことでも怒るからね」
「明日香のことだ、ちょっとしたことではないんだろなあ……」
「あ、おとつい南風先生凹ましたの、バレたんじゃない?」

 このデリカシーのない励ましの言葉は美枝とゆかりです。

「失礼します、2年3組の佐藤明日香です……」

 そこまで言って、びっくりした。よその制服着たメッチャかいらしい子がガンダムの前に座っている。

 美女と野獣……そんな言葉が頭をよぎった。

「おお、明日香、こっちこっち!」

 ガンダムのデカイ声に職員室中の目がいっせいにあたしに向く、そんで職員室中の先生たちが、あたしと、その可愛い子の比較をやって、全員が同じ答を出したのに気がついた。

「この子、新垣麻衣さん。来週の月曜からうちのクラスだ」
「転校生の人ですか?」
「はい、ブラジルから来ました。どうぞよろしく」

 アイドルみたいな笑顔の挨拶に早くも気後れ。

「席はおまえの横だ。ブラジルからの転校生だから、慣れるまで明日香が世話係」
「は、はい」
「喋るのには不自由ないけど、漢字が苦手だそうだ。とりあえず、ざっと校内案内してやってくれるか」
「は、はい」
「どうぞよろしく鈴木さん」
「は、はい(^_^;)」

 出した手が一瞬遅れたせいか、新垣さんに包み込まれるような握手になってしまう。

 ダメだ、完ぺきに気持ち的に負けてる。

「それじゃ、終わったら、また戻ってきてくれ」
「は、はい」
「おまえとちがう。新垣に言ったんだ」

「アハハハ(;^_^」

 新垣さんは、タブレットを持って付いてきた。チラ見すると学校の見取り図が入ってる。やっぱり緊張してるせいか、職員室出るときに挨拶し忘れた。

「コラ、失礼しましたやろ、アスカタン!」
「は、はい」
「失礼しました」

 新垣さんがきれいに挨拶。遅れて続くけど「っつれいしました」になる。

 アハハハハ クスクスクス ウフフフフ

 職員室が、また笑いに満ちる。

 ちなみに「アスカタン」いうのは、ガンダムがあたしを呼ぶときの符丁。本人は可愛く言ってると言うけど、あたしには「スカタン」に不定冠詞の「A」がついたものにしか感じられない。

 校内を案内していても注目の的。

 本人が可愛いとこへもってきて、胸が、どう見ても、あたしより2カップは大きい。で、他のパーツも、それに釣り合っていてイケテる。ブラジルの制服もラテン系らしい華やぎがある。もう、どこをどうまわったのか分からんうちに終了。新垣さんは部屋の名前を言うたんびに、タブレットの名称をスペイン語に直してた。その手際の良さだけが記憶に残った。

「どうもありがとう。とても分かり易かった。わたしのことは麻衣って呼んで。佐藤さんのことは明日香でいい?」
「え、あ、はい!」
「ハハハ、明日香って、とてもファニー(^▽^)!」
「え、あ、ども(^_^;)」

 そして麻衣は職員室に戻っていった。

 五時間目の休み時間には、麻衣とあたしの写真が校内に出回った。美枝とゆかりも撮ってたんだ。

「うちには、居なかったタイプだね……」
「明日香と比較すると、よく分かるなあ」

 まるで電化製品の新製品と型オチを比較されてるみたいで、気分が悪い。

「型オチなんかじゃないよ。生産国のちがい」

 それって、もっと傷つくんですけど。国産品を大事にしましょう……もしもし?

 

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せやさかい・276『さくらと留美のお受験』

2022-02-10 13:56:11 | ノベル

・276

『さくらと留美のお受験』     

 

 

 いやあ、よう落ちてるなあ!

 

 取り入れた洗濯物の作務衣を見てテイ兄ちゃんが感動する。

「これ!」

「あ、しもた!」

 おばちゃんに怒られて、いつになくビビるテイ兄ちゃん。

 おっちゃん、お祖父ちゃん、詩(ことは)ちゃんから、いっせいに怖い顔で睨まれとる。

「アハ、大丈夫ですよ、それは洗濯物だし、あたしたち専願だし」

 韻を踏んだ留美ちゃんのフォロー。

「「「「「「アハハハハハハ」」」」」」

 

 昨日のことを思い出して、足取りも軽く家を出たのが40分前。

 駅に着くと、いっしょに試験を受ける中学生が、粛々と聖真理愛学院の校門を目指す。

 令和4年2月10日の朝。

 ちょっと薄曇りやったけど、昨日までの寒さは緩んで、今朝の天気予報では「午後、多くの私立高校の入試が終わるころには晴れ間が見られるでしょう」と言ってた。

「スカートの後ろ、ヒダ大丈夫?」

「え、あ、うんOK」

 留美ちゃんが心配するのは、前を歩いてる子のヒダが乱れてるから。たぶんアイロンあてるのに失敗したんや。

「大丈夫だよね、あんなに確認したんだから」

 持ち物やら時程やら、電車のダイヤまで、何回もチェックした。

 間違いはないはずやねんけど、やっぱり、いろいろ気になってしまう。

 いまさら、夕べのテイ兄ちゃんのスカタンが蘇る。

 

 うちも留美ちゃんも専願やさかいに、落ちたら後が無い。

「まあ、公立の二次募集、ギリで間に合うところはあるからね」

 もう姉妹同然の留美ちゃんやから、読まれてます。

「けど、公立の二次募集て……」

 定員割れのちょっとしんどい学校しかない。

「ウソウソ、冗談。がんばろうね」

 ウウ、留美ちゃんも言うようになった。

 

 角を曲がって、正門が見えてくる。

 

 先生らしい人が三人立ってて、受験票の確認とかやってる。

 前を歩いてる子らが慌てて(慌てることもないんやけど)書類を出してる。

「あ、うちらも」

 我ながらあがってしもてて、カバンのチャックが……なかなか開けへん。

「大丈夫だよ、ああやって、何度もチェックすることで万全を期してるんだよ。ここで不備が分かったら、まだ余裕で対応できるしね」

「あ、そかそか(^_^;)」

「あ、あの車?」

「え?」

 今まさに、学校の前の道に入ってきて、正門の横に見覚えのある黒のワゴンが停まった。

「頼子さんだ」

 小さく叫ぶと、留美ちゃんは、左右に手を振るかいらしいモーションで車に寄っていく。

「顔だけでも見ておこうと思ってね」

 マスクをしてても明瞭な発音。さすがです。

「頼子さん、ちゃんと制服なんですね!」

 留美ちゃんが感動。

「ソフィーは?」

「どこかでガードしてくれてると思う」

「ありがとうございます、内心ガチガチやさかい、頼子さん見て勇気百倍です!」

「そう、来た甲斐があったわ。なにも困ったことは無いわね?」

「はい、オッケーです!」

「よし、じゃあ、頑張ってね!」

 グータッチをすると、車は、そのまま正門前を通って走り去っていった。

 

 正門で、受験票やらのチェックを受けて、ピロティーへ。

 学校ごとにまとまってる受験生。

 学校によっては中学校の先生も来ていて、顔を見ながら生徒をチェックしてる。

 安泰中学からは、うちら二人だけやから、来てくれてる先生はいてへん。

「おはよ」

「「え?」」

 振り返ると、ビックリした!

 担任のペコちゃん先生が、不二家のトレードマークそのままの顔で立ってるやおまへんか!?

「先生、なんで?」

「うん、うちの近所だしね。もう一校回るし……よしよし、大丈夫みたいね」

「「はい、ありがとうございます!」」

「ふふ、あんたたち、なんだか双子みたいになってきたね」

「「え、あ、アハハ」」

「あ、じゃあ、先生、次の学校行くね。がんばれ、文芸部!」

「「はい!」」

 先生は、マスクからはみ出しそうなペコちゃんスマイルを残して正門を出て行った。

 出しなに腕時計見てたんは、やっぱり時間が押してるんやと思う。

 さあ、いよいよ本番。

 スイヘーリーベーボクノフネ……

 あ、あかん。周期律表のスイヘーリーベーが突然湧いて来て、これはループしそうや。

 みんなの暖かい励ましやら気配りにホッコリして、さくらと留美のお受験が始まった!

 スイヘーリーベーボクノフネ……スイヘーリーベーボクノフネ……あかん、止まらへん(;'∀')

 

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明神男坂のぼりたい・68〔夏も近づく百十一夜・2〕

2022-02-10 09:05:04 | 小説6

68〔夏も近づく百十一夜・2〕 

 



 東風先生のプロットをクソミソに言ってしまって、凹みながら家に帰った。帰り道は美枝とゆかりといっしょ。

「どうしたの、なんか食べたいもの食べ損なった?」
「ひょっとして、東風先生と、なにかあった?……さっき職員室行ったら、先生怖い顔してパソコン叩いてた。前の校長のパワハラのときは敵愾心満々の怖さだったけど、今日の怖さは、なにか人に凹まされたときの顔だよ。あの先生が凹むって言ったら、クラブのことぐらいでしょ。で、クラブのことで、凹ませられるのは鈴木明日香ぐらいのもんだからね」

 最初の牧歌的な推論は、ゆかり。あとの鋭いのが美枝。自分のことは見えないのに、人の観察は鋭い。ああ、シャクに障る!

 で、うちに帰っても、自己嫌悪と美枝へのいらつきはおさまらない。馬場さんに描いてもらった肖像画も、なんだかあたしを非難がましく見てる双子の片割れみたい。いらんこと言いのさつきも、こんなときは姿を現さず、あたしの中で寝ている!

 だけども、こんなときでも食欲が落ちない。晩ご飯はしっかり食べた。だけど、なにを食べたかは五分後には忘れていた。

 うちのお風呂の順番は、お母さん→あたし→お父さんの順番(オヤジが最後いうのは、よそもだろうね)で、お母さんは台所の後始末してから入る。その間、あたしは洗濯物とり入れるのが仕事なんだけど、今日はピーカンだった天気が、夕方にはぐずつきだした(うちの気分といっしょ)そんでお母さんが早々と取り込んでいいたので、することがない。自然にパソコンを開く。

 O高校演劇部のブログが目に止まる。O高校は最近更新が頻繁……だと思ったら毎日更新してる。

 エライと思った。毎日コツコツというのは、人間一番できないこと。そう思うと読み込んでしまう。で、感動は、そこまでで、東風先生と同じようにひっかかってしまう。

「知っていたら、情報があったら観に行ったのに」と思う公演もたくさんあるのです。これって本当にもったいないことだと思いませんか? やはりどれだけ観劇が好きな人でも、情報なしに公演を観に行くことは出来ません。

 一見正論風に見える三行が、まるで東風先生の言葉みたいで、ひっかかった。

 高校演劇の芝居が観られるのは、主にコンクール。

 本選にあたる中央大会は、けっこう人が集まるけど、地区大会は、あまり人が来ない。学校ごとの校内発表会や、自治体の文化行事で上演されることもあるけど、まあ、人は集まらない。

 たしかに派手な情報発信は少ないよ。校内発表なんて、外に向かって予告されることってほとんどない。

 でも、やったからって……人は来ないよ。

 だってさ、学校には、いろんな劇団とか大学の演劇部、部活グループ、自治体の文化イベントとかの案内は、結構来てるんだよ。中には招待券とか割引券とか同封してあって、そういうの貰って、一年の時、四五回は観に行った。

 でもね、費用対効果っていうんだろうか……たとえ、招待券でも、交通費だけで1000円超えちゃうのってザラじゃん。高校生の1000円て、どうかしたら三日分のお昼代だよ。

 ああ、時間とお金使ったわりには……というのがほとんどなんだよ。

 

 それってさ、天国とか極楽はいいとこだ! とか、思っていて「死ぬのは嫌だ」と言ってるのに似てる。

 こういう演劇部員って、言ってるように情報発信されても、きっと見に行ったりしないよ。

 

「明日香、暗いぞぉ」

「あ、さつき」

 気が付くと、机の横にさつきが立ってる。早々とだんご屋の制服着てるし。

「だんご屋、好きだからな」

「あ、ちょっと、いつもと違う」

「気が付いたか(^▽^)/」

 そう言うと、さつきはクルンと一回転して見せる。

 団子屋の制服はウグイス色の作務衣風なんだけど、襟のところに茜の縁取りが入ってる。

「おかみさんがな、さつきちゃんみたいな若い子が入ったんだ、少しは華やかにしようってな」

「うん、ちょっとしたことで華やか!」

「だろ、今までのに茜のパイピングしただけなんだけどな。ま、世の中、ちょっとしたことで楽しくなるってことさ」

「あ、これを機に値上げとか?」

「あ……ここんとこ原材料費上がってるからなあ」

「やっぱ!?」

「おかみさんは、さつきちゃんの時給も上げてあげたいしねえ……とか言うんだけど、わたしは趣味でやってるようなもんだからな。このままでいいですって。本当は、新規にお仕着せ作るはずだったんだけどな。100均でパイピング買ってきて、ガーーってミシン踏んで、しめて500円でイメチェンだ」

「なんか、すごく、令和の時代に馴染んじゃってんのね」

「明日香も、友だち連れて食べに来い。ほれ、三名様で来たら一人分タダって優待券くれてやるから」

「おお、サンキュ」

「パソコンというのも面白そうだなア……なんか、いっぱい四角いのが出てるけど、なんだ?」

「アイコンだよ。まあ、高機能の目次みたいなもんで、カーソル持ってきてクリックすると、そのページが出てくるわけ」

「ん、この『ASUKA』って言うのはなんだ?」

 さつきは、もう何カ月も開いたことが無いフォルダを指さす。

「ああ、あたしの写真とか動画とか保存してあるの」

「見せろ」

「やだよ、ハズイのもあるから」

「よいではないか、えい!」

「あ、ええ!?」

 なんと、マウスも持たないで、アイコンをクリックした!

「おお、わたしの念力でも操作ができるんだ!」

 あ、ちょっとヤバイ(;'∀')

「お、このねじり鉢巻きの可愛いのが明日香か?」

「え、あ、まあね」

 それは、子どものころに石神井で盆踊りを教えてもらったときのだ。

 神田明神のお祭りは見てるだけだけど、石神井の盆踊りは誰でも参加できる。

「こういうのは、さつきの時代にもあったぞ……うん、秋の稲刈りが終わったころに、お祭りがあってな。この日ばかりは、身分とか関係なしに酒飲んで、夜通し踊ったもんだ」

「動画の、見てみる?」

「お、おう、見せろ見せろ!」

 何年かぶりで『石神井盆踊り』をクリックする。

 アイコンの写真だったのが、命を吹き込まれたように動き出す。

 まだ四つくらいだった明日香が浴衣を着せてもらって、シャクジイといっしょに踊ってる。

 

 ハア~ 踊り踊るなアら、東京音頭ぉ~♪

 

 櫓の向こうには、同じように浴衣を着たシャクバアとお母さんが踊って、こっちに気が付いて手を振ってくれてる。お父さんは? 振り返ると、お父さんがギャラリーでビデオを撮ってくれている……そうだ、この動画はお父さんが撮ってくれたんだ。

 見よう見まねで踊りの輪の中に入って、二三周回ると、なんとか踊れるようになって、とても嬉しかった。

「ほんとだ、明日香、これはなかなか楽しいぞ(^▽^)」

 気が付くと、あたしの横にはさつきが踊っている。

「え、なんで?」

「細かいことは気にするな、今夜は、よっぴき踊りまくるぞぉ!」

 

 花の都の 花の都の真ん中で ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ♪

 

 最初は見上げていたさつきの顔が、いつのまにか目の高さになって、いっぱいいっぱい踊りまくって、時々休んで、お酒なんか飲んだりして……家族みんなで、石神井やら神田やら学校のみんなも混じって、いっぱいいっぱい踊りまくった。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

 

  

 

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 58『女たちを送る・3』

2022-02-09 14:32:05 | ノベル2

ら 信長転生記

58『女たちを送る・3』信長  

 

 

 指南街の外れまで走って、薮を抜けたところに破道館(やれどうかん=朽ちた道教廟)が見えた。

「そこに入るぞ」

 いったん草むらに隠れ、周囲に気配が無いことを確認してから中に入る。

「今夜は、ここで様子を見るしかないな」

「ごめん、ちょっと騒ぎになってしまった」

「反省はあとだ、今夜は、もう寝るぞ」

「うん……」

 さすがに言葉も無い様子だ。

 

 ホタホタ

 

 小さく扉を叩く音。

 俺は市を抱きかかえるようにして息を潜めた。

「あたし、陳麗……さっきは母ちゃんが迷惑かけてすみません、その姿では、すぐに正体が知れてしまいます。お開けください、着替えを持ってきましたから」

 隙間から周囲の様子を探ってから中に入れてやる。

「つけて来たのか?」

「はい、お二人は酉盃にも街にも不慣れみたいだし。なんとか、お二人には逃げてもらいたいから」

「そうか、それはありがたい」

「これに着替えてください」

「ありがとう、陳麗……これは?」

「粗末なものでごめんなさい、でも、お坊様たち、華奢な体つきだから、この方がいいと思って……」

 それは、粗末ではあるが女ものの普段着だ。

 陳麗は、あれだけの大立ち回りをやった俺たちを男だと思っている。

「ありがとう。でも、陳麗、あんなにまでされて、まだ母親と暮らすのか?」

「……陳麗、バカだから、他の生き方分からないし」

「陳麗!」

「止せ、シイ(市の偽名)。陳麗、ありがたく使わせてもらうぞ。早くお帰り、遅くなっては怪しまれるからな」

「うん、じゃあ、お坊さんたちも無事でね」

「ああ」

 しばらくあたりの気配を窺ってから、陳麗は外に出て、出てからは振り返ることも無く去って行った。

 俺と市の事を、ただただ心配で、恩義を感じてやってきたことには違いはないだろう。

「いい娘だね……さ、ありがたく着替えて寝ようか」

「いや、着替えずに出るぞ」

「え、なんで?」

「陳麗に嘘はないがな、あの正直さだ。バレる恐れが高い。それに、この場所に気付いたのが陳麗だけとも限らんしな」

「……分かった」

「錫杖と饅頭傘は置いていけ……それと……この幔幕を……」

「どうするの、そんなもの?」

「いっしょに置いておけば、闇夜だ。間近に見なければ脱ぎ捨てた僧衣に見えるだろ」

「そ、そうか」

 呑み込むと反応は早い。俺より先に扉に手を掛ける

「待て、出るのはこっちからだ」

「え?」

 小柄を抜いて、床板を剥がして床下に下り、破道館の後ろから薮の中に身を移した。

「こっちだ」

「うん……初めての場所なのに、どうして、スラスラ進めるの?」

「フフ、ガキの頃から尾張の町や村で戦ごっこばかりやっていたからな、こういうことには慣れている」

「そうなんだ」

「よし、あそこがいい」

 

 街の外れの川に崩れかかった橋が見えたので、その橋の下に身を隠すことにした。

 

「眠れたら眠れ」

「うん……眠れそうにない」

「なら、起きてろ」

「うん……」

「市」

「シイだよ」

「今はいい」

「なに?」

「おまえ、なんで、あんな切れ方したんだ」

「……女を道具に使う奴は嫌いだ」

「そうか」

「娘を売る奴は許せない」

「市、それって、俺のことか?」

「…………」

「俺は、この身のために、市を浅井に嫁がせ、浅井を滅ぼした後は権六(柴田勝家)にくれてやった」

「……それはいい」

「いいのか?」

「長政(浅井長政)さんも権六も良くしてくれた。兄ちゃん、自分のためなら、わたしをどこにでも嫁がせたわけではないだろ?」

「そうか?」

「例えば、将軍義昭にわたしを嫁がせることもできたわけでしょ」

「アハハハ、義昭にくれてやるなんてありないぞ」

「でしょ……兄ちゃんは政略結婚させるのにしても相手を選んでくれていた。だから、二十歳になるまで嫁に出してもらえなかった」

「ハハハ、高く売りつけようと思っていたからな」

「今度生まれかわっても、きっと長政さんとは結婚するよ」

「そうなのか……では、やっぱり、恨んでいるのは、その長政をぶち殺した俺だろう」

「違う。違うって言ったじゃん」

「訳が分からん」

「浅井が、あんな裏切り方をしたんだ。許せるわけがない」

「ああ、浅井と朝倉の挟み撃ち、死ぬかと思ったぞ」

「長政さんは、袋のネズミだって、お兄ちゃんに知らせるのも黙って見逃してくれた」

「ああ、小豆袋の上と下を縛っておくなんて、見え透いたメッセージだ。見たとたんに、長政が承知の上だということは分かった」

「だよね……」

「だったら、なんで、俺が転生してから、あんなに意地が悪い?」

「本能寺で、間抜けな死に方するからよ!」

「あ、ああ、そういうこと……であるか」

「お兄ちゃんが、あんたが、あんな風に死ななかったらサルが天下とることも無かったし、茶々も、あんな死に方しなくてもよかったんだ」

「おまえ……」

「茶々がかわいそう! あの子は、三回も落城の憂き目に遭って、最後は火薬で自分の息子と爆死して……あの子は、茶々は、ずっと怯えて生きてきて、あんな惨い死に方をして……」

 転生学院の生徒は、こちらに来た時に、自分の死後の事も分かってしまう。

 分かってしまうのは、そこから何か学び取れということなんだろうが、市のように深刻に受け止めたことはない。

 それは、信玄や謙信たちも同じだ。

 取りあえずは、日々の学園生活を面白くするための初期設定みたいなものだと思っている。

 そうか……市は転生学園で、生前の性別のままで、そうか、あそこは生徒会長の坂本乙女も女のままだ。

 どうも、前世の反省と、来世への想いの違いがあるようだな。

「市はね、生まれかわっても市。長政さんと結婚して、茶々たち三人の娘を産むの」

「それでは、同じことの繰り返しになるのではないか?」

「わたしは、女戦国大名になって、茶々を、今度こそは幸せにしてやるんだ」

「ほう、大きく出たな」

「マジだよ……必要とあれば、天下だって取ってやる!」

「え?」

「おやすみ、お兄ちゃん」

 おもしろい……そう思おうとしたが、不憫さが先に立ってしまう。

 無理につぶった市の目には光るものがあったしな。

 

 明け方目が覚めると、破道館の方から火の手が上がっているのが分かった。

「やはりな……」

 俺は、市を起こすと、指南街を大周りして関門を目指した。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 
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明神男坂のぼりたい・67〔夏も近づく百十一夜・1〕

2022-02-09 08:27:06 | 小説6

67〔夏も近づく百十一夜・1〕 

 



 食堂でAランチ食べようと思ったら、わたしの前の子で自販機の食券が切れてしまい。やむなく玉子丼で我慢して教室に戻る途中。

 ああ Aランチ……

 未練たらしくAランチを思い、口の中に残る玉子丼の味わいを物足りなく思っていると、久々で廊下で出くわした東風爽子先生が声をかけてきた。

「明日香、ちょっと放課後あたしのとこ来てくれる」
 
 あたしは、この2月3日で演劇部を辞めた。理由は、バックナンバー読んでください。

「……はい」

 ちょっと抵抗はあったけど、もう3カ月も前のことだし、あたしも17歳。あんまり子どもっぽい意地をはることもないと思って返事した。

 ほんとは、ちょっとムッとした。

「来てくれる」に「?」が付いてない。「絶対来いよ」いう顧問と部員だったころの感覚で言ってる。生徒とは言え退部した人間なんだから、基本は「来てくれる?」にならなくっちゃいけない。

「今の教師はマニュアル以上には丁寧にはなれない」

 元高校教師のお父さんは言う。東風先生は、まさに、その典型。コンビニのアルバイトと大差はない。

 これが、校長から受けたパワハラなんかには敏感。前の民間校長辞めさせた中心人物の一人が東風のオネエチャンらしい。らしい言うのは、実際に校長が辞めるまでは噂にも出てこなかったのが、辞めてからは、自分であちこちで言ってる。校長を辞職に追い込んだ先生は別にいるけど、この先生は、一切そういうことは言わない。授業はおもしろくないけど、人間的にはできた人だと思う。

 で、東風先生。

「失礼します」

 教官室には恨みないので、礼を尽くして入る。

「まあ、そこに座って」

 隣の講師の先生の席をアゴでしゃくった。そんで、A4のプリント二枚を付きだした。

「なんですか、これ?」
「今年のコンクールは、これでいこうと思ってんの」

 

 A4のプリントは、戯曲のプロットだった。


「今年は、とっかかり早いだろ」

 あたしは演劇部辞めた生徒です……は飲み込んで、二枚のプロットに目を通した。タイトルは「あたしをディズニーリゾートに連れてって」だった。

「先生、これって四番煎じ」

 さすがにムッとした顔になった。

「元ネタは『わたしを野球に連れてって』いう、古いアメリカ映画。二番煎じが『わたしをスキーに連れてって』原田知世が出てたホイチョイ三部作の第1作。似たようなものに『あたしを花火に連れてって』があります。まあ、有名なのは『わたスキ』松任谷由実の『恋人はサンタクロース』の挿入歌入り。で、先生が書いたら、四番煎じになります。まあ、中味があったらインパクトあるでしょうけど、プロット読んだ限りでは、ただ、ディズニーリゾートでキャピキャピやって、最後のショー見てたら大きな花火があがって、それが某国のミサイルだった……ちょっとパターンですね」

「鋭いね明日香は」

「ダテに演劇部辞めたわけじゃないですから」
「どういう意味?」
「演劇のこと知らなかったら、残ってたかもしれません。分かるから辞めたんです」
「それは、置いといて、作品をね。とにかく、この時期から創作かかろいうのはエライだろ」

 あたしは、この野放図な自意識を、どうなだめようかと考えた。

「確かに、今から創作にかかろうというのはいいと思います。大概の学校はコンクール一カ月前の泥縄だし」
「だろ、だから、まだ玉子のこの作品を……」
「ニワトリの玉子は、いくら暖めてもAラン……白鳥のヒナにはなりません」
「そんな、実もフタもないこと……」
「それに、このプロットでは、人物が二人。まさか、あたしと美咲先輩あてにしてるんじゃないですよね?」

 やってしまった。先生の顔丸つぶれ。それも教官室の中で……。

「ま、まだプロットなんですね。いっそ一人芝居にしたら道がひらけるかも。それにタイトルもリスペクトすんのはいいですけど、短かくした方が『あたしを浦安に連れてって』とか」

 ああ、ますます逆効果。

「……勝手なことばっかり言って、すみませんでした。じゃ、失礼します」

 ダメだ、南風先生ボコボコにしてしまった。もっとサラリと受け流さなきゃ。あたしは、やっぱしバカの明日香だ。

 だけど、これは、さらなるバカの入り口でしかなかった……。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

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銀河太平記・093『国交省資源開発局局長 及川軍平』

2022-02-08 13:46:13 | 小説4

・093

『国交省資源開発局局長 及川軍平』 加藤 恵    

 

 

 西ノ島は東京の南海上1000キロの位置にある火山島だ。

 200年前の令和の時代に噴火を繰り返して成長し、いまの面積は16キロ平方メートルで、渋谷区とほぼ同じ大きさ。

 形は、ほぼ円形で、ドーナツに例えると、真ん中の穴が西ノ島火山。

 手に持ったところが南の氷室カンパニー、略してカンパニーとか会社とか呼ばれる。

 右側の東にあるのがナバホ村、通称村。ナバホインディアンの村長が代表で、雰囲気はインディアンと戦国時代の村を合わせたような感じ。

 左側の西にあるのがフートン、フートンとは漢字で胡同と書く。中国の古い街区のことで、血族や一族が集団で生活する中国都市の基本単位の意味がある。代表者は主席と呼ばれて、ちょっと昔の共産中国みたいだけど、フートンでは単に一番偉い人を表す名称に過ぎない。

 三つとも、それぞれ個性的なんだけど、お互いを尊重し合っていて仲がいい。

 パルス鉱の採掘を生業にしているので、事故も絶えないが、その都度、三つの集団が協力し合って乗り切っている。

 数か月前には、カンパニーで大規模な落盤事故が起こって犠牲者も出したが、結束はさらに強くなって、ついこないだ、島で初の銀行が開設されたりもした。

 

 そして、ドーナツの上。手に持ったら、まず齧りつこうというところが北部。

 

 ここは、浅層に鉱床が確認されなかったこともあって、開発から取り残されて、荒れ地のまま国有地になっていた。

 この北の地に、ようやく日本国政府の手が入ろうとしている。

 

 ズゥイーーーーーーーーーン

 

 一昔前の重力エンジンの音を響かせながらB130輸送機が降りてくる。

「なんで、今の時代に重力エンジン機なんだ」

 シゲさんがボヤクのも無理はない。

 騒音が大きいうえに、法的基準値をわずかに下回るだけの高周波を撒き散らしながら降りてくるのだ。

 日ごろ穏やかなパルスエンジンに慣れた島の者には、ちょっと耐えがたい。

「いいかい、みんな笑顔ですよ、笑顔」

 社長が最後の注意をする。

 先週、突貫工事で整備した飛行場には、会社、村、フートンの代表と幹部、それに物見高い非番の島民たちが集まっている。

 掘っ立て小屋のような管制塔には『歓迎 国交省調査団御一行様』の懸垂幕も風になぶられて、ワクワク時めいている。

 誘導員のサインで、B130が大型機の駐機位置に停まると、社長、村長、主席の三代表がB130後部のハッチ前に寄っていく。

 歓迎式典実行委員長のサブが手を挙げると、堵列していた西ノ島合同音楽隊が歓迎の敷島行進曲を演奏し始める。

 ウィーーーン

 後部ハッチが開いてまろび出てきたのは、手に手に旧式なハンベのようなモノを掲げた一個分隊ほどのガスマスクたちだ。

『西ノ島のみなさん、ただいまより法定パルスガス検査を行います、静粛に願います』

 B130から大音量で警告が発せられ、ガスマスクたちは歓迎する島民たちはおろか、B130の前に進み出た社長たちも無視して、飛行場全体に散った。

 握手しようと出した手を真上に上げると『演奏止め』のサインを示す社長。

 村長は、崖の上から第七騎兵隊を睨み据えるシャイアン族のように憮然と腕を組むし、主席は笑顔のまま時間が停まったように静止した。

 やがて班長の腕章を付けたガスマスクが、両手で大きな〇のサインを作った。

 そして、B130の日の丸が描かれた左舷ハッチを開けて、浅葱色の政府指定事業服を着た眼鏡男が出てきた。

「どうも失礼いたしました。環境省の規定でパルスガス発生地では、政府機関の者が直接検査をしなければならない決まりになっていまして。いや、今回は先遣隊を送る時間的余裕も無かったので、失礼いたしました。あ、申し遅れました。わたくし、国交省資源開発局長の及川軍平と申します」

 及川は慣れた仕草で名刺を出すと、三人の代表に過不足なく頭を下げながら渡していく。

「これはご丁寧に、わたし、氷室カンパニー代表役社長の氷室以仁(ひむろもちひと)であります」

「よろしくお願いいたします」

「ナバホ村村長、ナムエリト。インディアン名刺持たない」

「痛み入ります」

「フートン主席、周温雷です、同志及川熱烈歓迎!」

「恐れ入ります」

 

 無礼なのか慇懃なのか……いずれにしろ、型にはまりきった、日本公務員の権化のような及川軍平との折衝が始まった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室 以仁             西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長 マヌエリト          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・66〔変態オヤジの妄想アイテム〕

2022-02-08 06:35:50 | 小説6

66〔変態オヤジの妄想アイテム〕 

       


 キャー、可憐な女子高生が裸にされてる!

 そう言うと「アホか」という声が返ってきた。声の主は、お父さん。
 朝、洗面所に行くと、お父さんがガルパン二人の制服を脱がせている。

 分からない人に説明。

 お父さんは売れない作家で、ほとんど一日部屋に籠もってパソコンを叩いている。で、作家にはありがちなんけど、身の回りには「なんで、こんなものが置いてあるんだ!?」というもんがゴロゴロしていて、まるでハウルの部屋みたい。

 そのガラクタの中で、ひときは目立ってるのが、作りかけの1/6の戦車。で、戦車だけだったら子供じみてるけど、納得はいく。

 どうにもキモイのは、その作りかけの戦車に1/6の制服着た女子高生二人が乗ってること。こないだ来た美枝とゆかりは「かわいい!」って喜んでたけど、あれは社交辞令のお愛想……。

 すると、お父さんはビシっと指を立てた。

「お愛想だと思ってるだろ。伊東さんと中尾さんはちゃんと分かってるんだ。お母さんが部屋片づけてワヤにしたとき、お父さんがポーズと表情直したの見て感動してただろ。お愛想であの感動は出てこないぞ!」
「あの、一つ聞いていい?」

 あたしは歯ブラシに歯磨き付けながら聞いた。

「だけど、なんでガルパン?」
「発想だ。戦車と萌キャラという、まったく別ジャンルのものをくっつけて肩身の狭い戦車オタクと、萌オタクに市民権を与えた。そればっかりじゃない。大震災で落ち込んだ茨城県の街を活性化させたんだぞ。『アマちゃん』と並ぶ震災関係の作品としてはピカイチだと思う」
「けどガルパンには震災の『し』の字も出てこないけど」
「そこが、押しつけがましくなくて、いいとこなんじゃないか。舞台を大洗にしただけで、年間何十万人いう観光客を増やした『いばらきイメージアップ大賞』も受賞したぞ。物書きとしては、大いに刺激を受けるところだ!」
「だけど、そんなの作る側の戦略じゃないの、ほら、ナンチャラ制作委員会とかメディアミックスとかの」

 お父さんは、正面を向いて改まった。

「……世の中に100%の善意なんか存在しない。企業の思惑と計算があって、それで地方の街が活性化する。それでいいんじゃないか? 明日香だって、来年は大学受けるんだろ。それって純粋に勉強しようと思ってのことか? あん?」
「それは……」

 どうも、元高校教師と作家という理屈こね回しのW属性のせいか、丸め込まれそうになる。

「だけど、お父さん」
「なんだ?」
「その前はだけただけのお人形さん、なんとかしてくれない。人形でもセクハラだよ」
「明日香が歯を磨いてるから、しぶきが飛んだらかなわないからな。はやく、顔洗え」
「ムウ……」

 あたしは、ガシガシと歯を磨いて顔を洗った。するとお父さんは、待ってたとばかりに人形を裸にする。
 制服を脱いだ人形は、下着代わりに白い水着を着ている。

「シリコン素材は色写りがしやすいんでな、保護のため……」

 人形に軽いショックを受けた。

 脚の長さは人形のデフォルメなんだろけど、ボディーは成熟した女そのもの。お父さんは、その水着も脱がしてスッポンポンにすると、お湯で、さっと洗って、ドライヤーで乾かすと、ベビーパウダーみたいなのを、小さなザルに入れて振りかけた。

「こうすると、元の元気な姿に戻る」
「お父さん、やっぱ変態だ」
「ハハ、物書きは、みんな変態。誉め言葉だなあ……」

 こたえんオッサンだ。

 部屋に戻って考えた。

 制服いうのは女を隠すようにできてる。なんでもないような子が、水泳の授業なんかで水着になると、同性でもドキってすることがある。友だち同士でも、あんまり、そういう話はしない……ただ美枝みたいな子もいる。で、ゆかりといっしょになって心配なんかしてる。

 だけど、心配してること自体が、自分自身の問題から逃げる口実……ああ、あめだ、落ち込む。

 こういうときは母親譲りのお片づけを発作的にやる。

 中学のときのガラクタを整理。あらかた捨てようと決心すると、中三のときにあげたバレンタインのお返しの袋が出てきた。きれいなポストカードと小さなパンツが入っていた。

「あ、人形にぴったりかも」

 そう思って、一階へ。

「お父さん、よかったら、これ……(;'∀')」

 こんどは生首の模型バラして脳みそをシゲシゲと眺めている。

 やっぱりただの変態オヤジ……。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

 

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魔法少女マヂカ・258『深夜の呼び出し』

2022-02-07 14:26:03 | 小説

魔法少女マヂカ・258

『深夜の呼び出し語り手:マヂカ  

 

 

 トントン  トントン

 

 深夜、ドアを叩く音で目が覚めた。

 クマさんがファントムにかどわかされて二日がたった。

 夕べまでは、クマさん救出のため、侯爵を中心にいろいろ手立てを考えたり打合せをしたり、深夜になっても屋敷の中では、だれかれとなく起きていた。

「打つべき手は打った。どうやら長期戦になりそうでもある。わたしは、取りあえずクマの両親に説明とお詫びに行って来る。三四日のうちには戻って来るつもりだが、その間は、みなも少し休んでおくれ」

「いえ、まだまだ頑張れます」

 春日メイド長は胸を張るのだが、その春日メイド長も、事実上の対策本部になっているリビングで舟をこいでいる。

 門衛室の明かりは点いているが、詰めているのは臨時に派遣された巡査で、箕作巡査は署長から強制的に休暇を言い渡されている。クマさんを誘拐された今、まともに勤務に耐えられないからだ。

 ノンコは入浴後は霧子の部屋で話し込んでいたが、何十回目か分からないため息が絶えて三十分は経つ。

 さすがのわたしも微睡んでしまって、いまのノックで目が覚めたわけだ。

 

 ん……子ども?

 

 物憂く、緩い透視をかけると、ドアの向こうは身長130センチほどの輪郭が浮かび上がる。

 返事するのも大儀なので、指をクルリと回してドアを開けてやる。

「この時代に自動ドアは無いと思うわよ」

 開口一番、ミスを指摘するのは……黄帽を被った小学生。

「黄帽の小学生と言うのも大正時代には居ないと思うよ」

「いっしょに来て」

 それは、この時代にやってきた日以来見ていないJS西郷だ。

「久しぶりだね。お誘いはありがたいけど、まだ、元の令和に戻れる状況じゃないわよ」

「ちょっとテレポートするだけ。時間は止められないから、すぐに」

「分かった。ちょっと、着替え……」

 部屋着のボタンに手を掛けようとすると、わたしは、瞬間で制服姿になった。

 女子学習院のそれではなく、百年前の大正時代に着ていた帝国特務師団の制服だ。

「これは……」

「特務師団本部は服務規定がうるさいのよ、思い出した?」

「あ、ああ」

 この時代にはこの時代のマヂカが存在している。それを差し置いて、令和のわたしを呼びつけるのは反則だ。

 どうも、想像しているよりも何倍も重大な事態になっているようだ。

「では、行きます」

 JS西郷が示したドアの外は闇になっていて、その闇の向こうから懐かしいレンガ造りの特務師団司令部の衛門が見えてきた。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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明神男坂のぼりたい・65〔バラが咲いた〕

2022-02-07 06:34:15 | 小説6

65〔バラが咲いた〕 

      


 

―― 明日香とこにも届いた? ――

 朝起きたら、こんなメールがゆかりから届いてた。

 それだけで分かった。

 一つ前のメールを見る。夕べ来た美枝からのメール。


―― バラが咲いたよ! ――


 その一言に、真っ赤なバラがベランダの手すりと青い空を背景に咲いている写真。

 美枝のマンションは南向きのベランダ。何を植えても育ちがいい。

 だけど、このアッケラカンと赤く大きなバラは、丹念に手入れした様子が窺える。

 バラは、ほうっておくと一杯芽を付けて、小さな花を、時期的にも大きさ的にも、バラバラに咲かせる(期せずしてシャレになった(^_^;))。だけど、美枝のバラは、プランターに一茎のバラ。そこに大きく真っ赤なバラが三人姉妹みたいに並んで写ってる。きちんと手入れして剪定(間引き)してきた証拠。

「きれいに咲かせたね」

 思わず独り言。

「あらあ、ほんと、きれいに咲かせたのねえ」

 お母さんが覗き込む。ちょっと羨ましそう。

 うちは三階建ての戸建てだけど、北向きだから、何を育てても満足には育たない。

 小さい頃は別だったけど、あんまり花には興味ない。お父さんもそうで、三年前に亡くなったお祖父ちゃんから引き継いだ仏壇のお花も、今は造花。お母さんはため息だったけど、あたしは、それでいいと思ってる。

 そんな花無精なあたしでも、美枝のバラの意味は分かる。
 赤いバラは愛情、情熱、それから……あなたを愛します。

 スクロールすると、写真の下に、もう一言。

―― LET IT GO ――

 同じ言葉をゆかりに送った……あたしのは美枝とちがう意味だけど。

 スクランブルエッグを生の食パンに乗せて、コーヒー牛乳(あたしは牛乳はダメ)500CCを一気飲み。

「そんなに早く飲んだら、お腹こわすよ」
「分かってる」

 この言葉には切実な事情がある。

 テスト期間中は、学校9時からだったから、ゆっくり起きていく。ダメなの分かってて、この癖はなおらない。なおらないとどうなるか。

 こんな、ささいな時間のズレが、生活のリズムを崩す。

 正直言って、テスト終わってから便秘気味。

 顔洗って、歯を磨いてるうちに体が反応してくる。

 生みの苦しみってこんなんだろうなあ……一分ほどお母さんの苦労に共感したあとはスッキリ爽やか(^_^;)。

「テスト中も普通に起きてたら間に合うことだろ」

 すっかりバイト生き甲斐のさつきはあきれ顔。言い返そうと思ったら、もう姿が無い。

 

「いってきまーす!」に続いて「お早うございます!」

 

 玄関の階段降りたら、向かいのオバチャンと目が合った。

「おや、あんたとこもバラが咲いたんだ!」

 かろうじ午前中だけ日の当たる階段の下の方。ベージュの植木鉢に貧相なバラが咲いている。

「おかげさまで!」

 オバチャンは喜んでいるので、その喜びのお返しに明るく返事をする。

 だけど、貧相は貧相。

 お母さんも剪定はやってるから、大きさはそこそこ。だけど色が悪い。赤黒くくすんだ感じ。美枝の真っ赤にはほど遠い。

 向かいのオバチャンは、ほんの半年前に旦那さんを亡くしたばかり。

「明日香ちゃんちに電気点いただけでホッとするのよ、おばちゃん」

 気のしっかりしたオバチャンだったけど、やっぱり一人暮らしは堪えるんだろうなあ……だから、うちの貧相なバラでも、あんなに喜んでくれる。あたしは、それに相応しいだけの反応ができただろか……美枝のことには無力だったから、ちょっとナーバスになる。

 おばちゃんの視線を感じながら男坂を二割り増し元気に上がる。

 こんなあたしでも、人を元気にできることに感謝して、いつもより数秒長く拝殿の前で頭を下げる。

 歩きながらスマホで検索。

 赤黒いバラの花言葉は……永遠の愛だった!

 うちの家も、向かいのオバチャンにも、いいことが起きたらいいのになあ……。

 鳥居の所で横目を向けると、さつきが、もうだんご屋の仕事に励んでいた。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

 

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やくもあやかし物語・123『アキバ上空青龍戦・1』

2022-02-06 14:06:27 | ライトノベルセレクト

やく物語・123

『アキバ上空青龍戦・1』 

 

 

 ヒダヒダのあるオムレツみたいな胴体の両側に13対のヒレがあって、それをウネウネそよがせて推進力にしているアノマロカリス。

 そこだけ見ていると、大人数で漕いでいるボートみたいでのんびりして、尻尾は海老に似ていて美味しそうだったりする。

 わたしは、エビ天とかエビフライの尻尾はガリガリ噛んで『エビセンみたい(^▽^)』と喜んでる子なので、どうってことないんだけど、頭が気持ち悪い。

 突き出た目玉は真っ黒で海老と同じで可愛かったりするんだけど、突き出た触覚みたいな腕みたいなのがカマキリの鎌みたいで、その鎌をシャキシャキ動かして得物を獲る姿は、ほとんど悪魔。

 ソヨソヨ~

 大きさの割には鯉のぼりが風にそよぐような音をさせて頭上を通過する。

「あ、あれも目玉?」

 アキバ子が呆然とする。

「あれは、あいつの口よ……」

 御息所は、ぬいぐるみのアノマロカリスで慣れてるんだけど、アキバ子は不思議みたい。

 アノマロカリスの口はまん丸で、一見目玉のよう。

 近づいてみると、瞳の瞳孔のとこが口で、カメラのシャッターみたく大きくなったり萎んだり。

 こいつがクワーって開いたのが見えたら、もう食べられる寸前!

「ね、だから、口が……開いて、こっち来るー!」

 ヤバイ!

 そう思ったら、わたしを載せたハートがクルンと翻って身を躱す。

「これ、慣れるとスケボーみたいね!」

 ちょっとだけ嬉しい。スケボーなんて乗ったことないけどね。

 ソヨソヨ~

 クルン

 ソヨソヨ~

 クルン

 なんだか楽しくなってきたかも。

「楽しんでいてはダメです。あいつは青龍の幼体なんですから、放っておくと変態して龍になります!」

「そうだね、ごめんごめん(^_^;)」

 わたしは、おもむろにコルトガバメントを取り出して、アノマロカリスに狙いをつける。

 ドギューン ドギューン ドギューン

 立て続けに三発撃ったけど、ヒラリと身を躱されてしまう。

「む、むつかしいわね……」

 ドギューン ドギューン ドギューン

 さらに三発撃ったけど当らない。

「茨木童子は一発で仕留められたのに!」

 ちょっと焦ってきた。

「あ、あいつのお腹が!」

 ウニュン ウニュン

 御息所が指差したお腹がアコーディオンの蛇腹みたいにうねり出した。

 あそこは、ポケットになっていて、うちの縫いぐるみだと妹ニクのフィギュアが入っているところだ。

 しかし、こいつの本性は青龍、そんな可愛げなものが入っているはずはない。

 シュボ シュボ シュボボボ

「あ、鬼だ!」

 お腹のヒダヒダからは、小さな鬼がいっぱい出てきた。

「ちょっとヤバイですねぇ……」

 アキバ子が身を縮める。

「あんなもの!」

 わたしは、ハートの上にスックと立って、両手でコルトガバメントを構えて、波動砲を撃つ時の古代進のように鬼たちが占める空間の真ん中を狙った。

「エネルーギー充填120パーセント、対ショック対閃光防御!」

 アキバ子が調子を合わせてくれる。

「コルトガバメント発射!」

「テーー!」

 ズゴーーーン!

 すごい閃光が解き放たれて、鬼たちが広がろうとしていた空間を白いスパークで満たした。

 わずかに残った鬼たちが拡散して、多方面から攻撃を仕掛けてくる。

 ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン

 動きが速いにも関わらず、わたしは二秒で六匹の鬼を打ち倒す。

「すごい、魔法少女みたいです!」

 シャラーン……☆

 可愛いエフェクトがしたかと思うと、わたしは魔法少女になっている。

「すごい、ほんとうに魔法少女になりましたよ!」

 わたしも、その気になってきた。

「月に代わって押し入れよ!」

「ちょっと違うような(^_^;)」

 ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン

 残った鬼たちも大半やっつけて、それでも残った鬼は、恐れをなして逃げて行った。

「本体は残ってる……」

 御息所が指差した空には、一回り大きくなったアノマロカリスが悠然と飛んでいる。

「わたしは思います」

「なにを?」

「アノマロカリスと思って対応していては、やっつけられないのではないでしょうか」

「そうか、やつの本性である青龍として攻撃しないと……ってことね?」

 御息所の目が座ってきた。

「やつの夢の中に潜り込もう……」

 御息所が印を結ぶと、急速にあたりが暗くなってきた……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 メイド将軍 アキバ子

 

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明神男坂のぼりたい・64〔今日はうちで、お勉強会〕

2022-02-06 09:04:14 | 小説6

64〔今日はうちで、お勉強会〕 

       

 


 テストも、あと二日。

 で、今日は、うちの家でお勉強会することになった。

 

 美枝と別れて家に帰った昨日のこと。

 

 お風呂入って三階の自分の部屋に戻ったら、さつきが人形焼き食べている。

 ちなみに、だんご屋に届けてある住所は御旅所の所番地なので、さつきは、相変わらずあたしの部屋に住んでいる。

「あ、なんで人形焼き?」

「勉強だよ、東京名物って言や、人形焼きと東京ばな奈。だんご屋としては勉強しとかないとな……そうだ、明日香も勉強会やれ!」

「え?」

「賑やかなのはいいことだ、今日は、美枝とだけだっただろ。ゆかりも混ぜてやれよ」

 なんか、こじつけの三段論法なんだけど、ゆかりを交えて集まるというのは必要なのかもしれない。

 美枝とはホッコリできたけど、ゆかりと美枝は微妙になりかけてるしね。

「そうそう、東京名物と言えば、人形焼きと東京ばな奈と明神だんごだからな。おまえらも三人でワンセットだ」

 ちょっと強引だけど、言ってることは正しい。

 

「バカな明日香のために、頼むよ!」

 電話したら、二人とも、あっさりOK。

 安心して、さつきの人形焼きに手を伸ばした。

「あれ?」

 まるで手応えが無くって、空気を掴んでしまった。

「神さまの食べ物だぞ。人間が掴めるわけがないだろ」

「エアー人形焼き?」

「怒るな、空気を掴むというのは大事なことだという教えでもある」

「真顔で人をおちょくるなあヽ(`Д´)ノ!」

 

「うわー、いい部屋じゃんか!?」

 ゆかりが声をあげた。

「こんなオモチャ箱みたいな部屋好き!」

 美枝も賛同。

 今日は一階のお父さんの部屋を借りた。

 三階の部屋は両親の寝室と襖一枚で隣り合わせ。当然襖締めなくちゃならないんだけど、この季節、三階は冷房が必要。それに、なにより部屋の片づけもしなくちゃならない。で、お父さんに頼んだら二つ返事でOK。お父さんは久々に渋谷まで出て映画でも観るらしい。

 とりあえず、二人が持ってきたお土産の今川焼きを食べた。

「ここ、お父さんの部屋?」
「うん。それぞれの部屋で住み分けてんの」
「ふうん……まあ、勉強には適してるね。窓ないし、玄関ホール挟んでるから外の音も聞こえてこないし」
「ここは、元ガレージ。あたしが赤ちゃんのころにジジババ引き取ること考えて二世帯住宅にしたんだ。お父さんは、ずっと二階のリビングで仕事してたけど、ジジババ亡くなってからは、お父さんの仕事場」

 今日は、真ん中の座卓の上のもの、みんな部屋の隅に片してくれてる。

「わあ、いいもの置いたあるじゃんか!」

 ゆかりが置き床に置いてある『こち亀』の亀有公園前派出所のプラモに気がついた。

「これ、お父さんが作ったの?」
「あ、あたし、子どもの頃『こち亀』好きだったから、だけど、中学いくころには興味なくなったから、未完成のままになってんの」
「うわ、入り口動く。パトチャリまで置いてある。きれいに色塗ってるねえ……」
「あ、これヘンロンのラジコン戦車! お兄ちゃんも一個もってる」

 あたしは、当たり前すぎて気がつかなかった。おとうさんのガラクタ収集癖は昔から、隣の部屋はお父さんの物置。その部屋を通らないと二階へは上がれないから、二人は、まだ見ていない。それを言うと美枝が目を輝かせて「見せて!」と言う。

「うわー、まるでハウルの部屋みたい!」
「ハウル?」
「ジブリの『ハウルの動く城』じゃんか。あのハウルの部屋みたい」

 あたしもお母さんも、いつも、この部屋はスルーしてるから、改めて見るとゴミの中にもいろいろあるのが分かる。

 百ほどあるプラモの中には、実物大の標本の人間の首。それもスケルトン。これが何でか南北戦争の南軍の帽子被ってる。
 美枝が発見した棚の上には、1/16の戦車がずらり、あと航空母艦やら戦艦大和やらニッサンの自動車、飛行機、その他エトセトラ。で、周りの本箱には1000冊ほどの本がズラリ。あたしが小学校のとき借りて読んでた『ブラックジャック』と『サザエさん』は全巻並んでる。

「すごい、これ、リアル鉄砲!?」
「うん、本物らしいよ。無可動実銃いうらしいんだけど、キショクワルイから、隅のほうに置いてあるの……それは宮本武蔵の刀のレプリカ……その黒い箱はヨロイが入ってる。あ、足許気ぃつけてね。工具とかホッタラカシだから怪我するよ」

「「スゴイスゴイ!」」

 二人で、同じ言葉を連発する。

「まあ、ちょっとは勉強しよっか(^_^;)」

 きりがないんで、切り上げを宣告。元の部屋に戻ると、また発見された。

「いやあ、なに、このリアルに可愛らしいのは?」

 それは仏壇の横で小さく体育座りしていて気がつかなかった。

「あたし、知ってる。1/6のコレクタードール。これ、ボディがシームレスで、33カ所も関節あって人間みたいにポーズとれるんだよ」

 物知りのゆかりが、目を輝かせる。

 その子は制服らしき物を着て、知的で、心なし寂しげだけど。見ようによっては和ませてくれる……だけど、あたしは恥ずかしかった。仮にも妻子持ちのいい年したオッサンがこんなもんを!?

「アハハ、ガールズ&パンツアーだ!」

 美枝が玄関ホールで声をあげた。

「この段ボール、1/6の戦車模型のキットだよ。お父さん、これに、その子乗せるつもりなんじゃない?」

 ああ、もう顔から火が出そう……。

「いや、うちのお父さんは本書きで、その……ラノベとか書いてるから、その資料いうか、雰囲気作りに……」

「明日香……お父さんの作品て読んだことあるの?」

「え?」


 美枝の指摘は、スナイパーの狙撃にあった間抜けな女性情報諜報員のようだった。

 あたしは、生まれてこの方、お父さんの本を読んだことがない。極たまに、作品を書くために、あたしら世代の生活のことなんか聞いてくる。分かってる範囲で答えるけど、たいがい「分からないよ」「そんなの人によってちがう」とか顔も見ずに邪魔くさそうに返事するだけ。

「ここは、ほんとにハウルの部屋だよ……」
「隣の部屋は、もっと……」

 もう、たいがい死んでるのに、まだ撃ってこられるのはまいった。

「よかったら、これ読んでやってくれる。お父さんの本」

 あたしは、クローゼットから、お父さんの本を取り出した。

「うわー、こんなにあるん!」
「あ、印税代わりに出版社から送ってきた本。お父さん印税とれるほど売れてないし。まあオッサンの生き甲斐。あんたたちみたいな現役の高校生に読んでもらったら、お父さんも喜ぶ」

「ありがとう」と、ゆかり。

「だけど、まずは娘のあんたが読んだげなくっちゃ……」美枝が止めを刺す。

 で、午前中は、お父さんの本の読書会になった。

「お父さんて、三つ下の妹さんがいたんだね……」

 短編集を読んでいたゆかりが顔を上げる。

「この子三カ月で堕ろされたんだ……」

 美枝がシンミリする。

 初耳だった……いや、言ってたのかもしれないけど、あたしはいいかげんに聞いてただけかもしれない。

 痛かったけど、別方向に有意義な勉強会だった……。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

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せやさかい・275『は〇がたつ』

2022-02-05 12:38:37 | ノベル

・275

『は〇がたつ』さくら     

 

 

 A:は〇がたつ   B:は〇がたつ

 同じように見えて〇の中に居れる一文字で意味が全然違う。

 

 Aの〇には『る』を入れる。

 すると『春が立つ』となって立春を表すんです

 で、その立春は昨日の事やった。

 うかつにも、わたしは今朝になって気が付いた。

「うふふふ」と留美ちゃんに笑われた。

「アハハハ」と詩(ことは)ちゃんにも笑われた。

「うふふふ」は、ちょっとした遠慮と親しみが籠ってる。

「アハハハ」は、遠慮が無い。それに、アハハハと笑っても詩ちゃんは美人やし。余計に腹が立つ。

「アホか、おまえは~」

 これは、日ごろから、お互いに容赦のないテイ兄ちゃん。

 

「そんな悔しがらんでも、来年も立春はやってくるやろが」

 新聞見ながら声だけ聞こえてるのはお祖父ちゃん。

「明日あると思う心のあだ桜 夜半に嵐の吹かぬものかわ……お祖父ちゃん、影薄いよ……」

 さすがに、新聞から目を離して嫌そうな顔をする。

 

 はあ~

 

 ため息をついて境内に出てみる。

 うちの境内は、街中(まちなか)のお寺にしては広い。

 広い境内のあちこちに四季の花が植えてあって、婦人会のお婆ちゃんらが手入れしてくれて、ご近所の社交の場にもなってる。

 梅の花がだいぶ膨らんで、椿、福寿草、水仙、シクラメン、それに、元気いっぱいの菜の花たちが盛りを誇っております。

 正月にね、密かに誓ったんですよ。

 立春の朝に『みんな、この春は頑張ろうね!』ってガッツポーズで写真を撮りたかった。

 ところが、しっかり忘れてしまって、今朝のテレビでお天気お姉さんが「昨日は、暦の上では立春でしたが……」という話をしていて――あ、しまった!――になって、自分に腹が立ったわけでです。

 ウニャーー

 本堂の縁側でダミアが「あほかあ」とネコ語でバカにする。

 

 あたしにとって、二年前から立春は特別(トラウマ)や。

 ここに来る前は、大阪市の北東の街に住んでた。

 3DKの集合住宅やねんけど、エントランスの左右には共同の庭があって、いろんな草花が季節ごと、それなりに咲いてた。

 立春が過ぎて、梅の花が咲いて、さくらの蕾が膨らむころに、引っ越しが決まった。

「四月からは酒井になるからね」

「え、お祖父ちゃんの苗字?」

「そうや、四月からは酒井さくらや」

 めっちゃ不安で泣きそうになったけど、お母さんに不安な顔見せられへん。そう思って、がんばって笑顔を作った。

「そうや、さくらには笑顔が似合うんやで」

 そない言うて、人差し指の背中で涙を拭いてくれた。

 引っ越しの前の日、桜の木が一本切り倒された。

「がんばったんだけど、この桜は、もう花をつけないんだ。放っとくと虫がついたり、他の桜にもうつるからね」

 管理人さんが、そう言って、切り株の真ん中にチェ-ンソーでX(ペケ)を刻んだ。

 桜の成長点を壊して、芽を出させない処置だって、関東弁の管理人さんは言ってた。

 

 酒井のお寺に来ると、境内には前の集合住宅よりもたくさんの草花が元気にきれいに咲いてた。

 きれいやねんけど、なんかよそよそしくて馴染まれへんかった。

 それから、お寺の草花は檀家の婦人部の手入れできれいになってると知って、明くる年には、お婆ちゃんらといっしょに馴染みになった。

 で、今年、うちは高校生。

 立春の日には、思いを新たにの記念に写真を撮っておこうと思った次第。

 

 まあ、いいか。

 

 気を取り直してスマホを出すと、頼子さんからメールが入ってる。

―― 卒業式で送辞を読むことになったよ! それから……おっと、これは内緒(^_^;) ――

 いつもながら、眩しい先輩。

 よし、写真撮って、頼子さんにも送ってあげよう!

 そう決心したら、庫裏の方から、ゾロゾロと出てきた。

「さくら、どうせ撮るんやったら、みんなで獲ろかあ」

 テイ兄ちゃんが宣言して、マスク有と無しの二つのバージョンの写真をいろいろと撮りました。

  

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明神男坂のぼりたい・63〔明神女坂〕

2022-02-05 08:42:57 | 小説6

63〔明神女坂〕 

 

 

 遠くから見たら女子の他愛ない会話に見えただろうと思う。

 明日は日曜という中間テストの中休み、わたしと美枝は誘いあって、外堀通りをお茶の水に向かって歩いている。

 季節はとっくに終わって、沿道は葉桜の満開。誰かが植えたのか自生してるものなのか、あちこちムレるようにいろんな花も咲いている。ムレるは群れると蒸れるのかけ言葉。って、説明したら意味ないか。

 五月の花って生き物の匂い。ちょっと生々しすぎると感じる。

 

 あたしの話は他愛なかった。総合理科のテストがガタガタだったとかの自業自得的な話。

 それに合わせて、美枝もネトフリで見たおバカな映画の話とかしてたんだけど、ちょっとした間があって、シビアな話になったのは、精力の強すぎる花たちの匂いのせいかもしれない。

 

 学校を辞めるかもしれないという話。これだけでもすごいのに、本題は、もっとすごい。

 義理のお兄ちゃんと結婚したいという、とんでもない話。

 

 美枝のお父さんとお母さんは再婚同士。で、互いの連れ子がお兄ちゃんと美枝。美枝が小学校の六年生、お兄ちゃんが中学の三年生。お互い異性を意識する年頃。それが親同士の再婚で兄妹いうことになってしまった。家族仲良くなれるために、両親はお誕生会やったり家族旅行を企画したりしてくれた。

 で、二人ともいい子だから、仲のいい兄妹を演じてきた。

 それが、いつの間にか男と女として意識するようになってしまった。

「わたしが、16に成ったときにね、お兄ちゃんが言ったんだ。お誕生会やったあと『美枝にプレゼント買ってやるから、ちょっと遅れて帰る』お父さんとお母さんは、安心してあたしらを二人にしてくれた。お店二三件見て、大学生としては、ほどほどのアクセ買ってくれた……」

「美枝、ちょっとお茶でも飲んでかえろうぜ」
「うん(^▽^)」

 あたしは気軽に返事した。

「渋谷の雰囲気のいい紅茶の専門店。そこの半分個室になったような席。あたしら座ったら、店員さんがリザーブの札どけてくれた。お兄ちゃんは、最初から、その店を予約してたんだ。あたし嬉しかった……けど、あんな話が出てくるとは思わなかった」

「16って言ったら、親の承諾があったら結婚できる歳だな」
「ほんと? あたしは、せいぜいゲンチャの免許取ることぐらいしか考えてなかった」

 それから、しばらくは、お互い大学と高校の他愛ない話して。そしたら、急に二人とも黙ってしまって、お兄ちゃんは、アイスティーの残りの氷かみ砕いて、その顔がおもしろくって、目を見て笑ってしまった。あたしは妹の顔に戻って話しよう思ったら、お兄ちゃんが言うの『美枝。オレは美枝のことが好きだ』」


 言葉の響きで分かった。妹としてじゃないことが。


「……それは、ちょっとまずいんじゃない。兄妹だし」

 なまじ良すぎる勘が、あたしの言葉を飛躍させた。お兄ちゃんはその飛躍をバネにして、一気に本音を言ってしまった。

「義理の兄妹は結婚できる」

「え……」

 頭がカッとして、なんにも言えなかった。

 それからお兄ちゃんとの関係は、あっという間に進んでしまった。

「連休の終わりに、明日香とラブホの探訪に行ったじゃんか。あれ、下見。明くる日、お兄ちゃんと、もういっぺん行った。ズルズルしてたら、ぜったい反対される。あたしは、お兄ちゃんとの関係を動かしようのないものにしたかった」

「そんなことして、高校はどうするつもりだったの?」
「どうにでもなる。出産前の三カ月は学校休む」

「え……ええええ!?」

 バナナの皮を踏んだわけでもないのに、ひっくり返りそうになった。

「よその学校の例を調べたの。在学中の妊娠出産はけっこうあるんだ。私学は退学させることが多いけど、公立は、当事者が了解してたら、どうにでもなる。そのことを理由に退学はできないんだ」
「そんなに、うまいこといく?」
「ダメだったら、学校辞めて大検うける。そこまで、あたしは腹くくってる」
「ゆ、ゆかりは、知ってんの?」

 美枝の固い決心に、言葉が無くって、あたしはゆかりのことを持ち出した。

「ゆかりは、反対。でも自信がないから、明日香に相談……ごめん、ちょっと整理つかなくって」
「整理つかないだろうね」

 あとの言葉が続かなくって、気が付いたら昌平橋まで出てしまった。

「ねえ、神田明神にお参りしていこ、整理つかないままでいいから、いろいろお願いしてみるのがいいと思う」

「うん、そうね」

 ここからだと、男坂上って行くことになるんだけど、家の前通りたくなかったので、手前の、普段はめったに通らない坂道を上る。

「へえ、明神女坂てのもあるんだね!」

 美枝は面白がってくれたので、そのまま勢いつけていけた。

「えと、正式なお作法ってあるんだよね」

 町内のお年寄りが慇懃に参拝してるのを見て、ちょっとたじろぐ美枝。

「任せなよ、あたしの真似すればいいから」

「うん!」

 二礼二拍手一礼のお作法と、柏手の打ち方をきれいに決めてやる。

「おお!」

 感動の声をあげる美枝。

 視界の端に、ニコニコ微笑む巫女さんの姿が見えて、授与所でお守りを買う。

「わ、こんなに種類があるんだね!」

 美枝は、ちょっと迷って『勝守(かちまもり)』を買った。

「渋いね、これ、ここにしかないんだよ」

「え、そうなんだ!」

「うん、幸先いいかもよ」

 そう言うと、美枝はポッと頬を染めた。

 なんか、むちゃくちゃいじらしく思えて、なんかグッとせき上げてきて、泣きそうになった。

「ねえ、勝守記念にお団子食べよ!」

 

 そのまま随神門で一礼してからお団子屋へ。

 

「いらっしゃいませえ~(^▽^)/」

 元気よく迎えてくれたバイトのさつきは、全部分かってるよって感じで必要以上に元気がいい。

 でも、よかった。

 美枝の顔色は、いっそう良くなってきたしね。

 今夜は、さつきに、あれこれ聞かれそうだ。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

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