大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・126『上様のたくらみ』

2022-09-22 15:27:34 | 小説4

・126

『上様のたくらみ』ミク  

 

 

 いや、驚かせてすまない(〃▽〃)。

 

 隠れん坊で見つかってしまったみたいに照れる上様は、無礼を承知で言うとかわいい。

 生まれながら将軍になることを運命づけられていらっしゃるので、将軍としてのお振舞は御幼少のころからの躾けと自己教育で、とても凛々しく、天晴れニ十三世紀の征夷大将軍。

 でも、将軍という立場を離れてのお振舞、特に、微妙にルールを離れたところでは、少年のようにおなりになる……というのは、老中で退官したお祖父ちゃんの弁。まあ、やっと公務に就かれたばかりの青年将軍のころの話だと思っていたけど、いまもお変わりにならないんだと、正直感動したわ。

「君たちが、そろってお花見に来ていると聞いてね、城から馬を走らせてきた」

 上様は、暇さえあれば、お城の植物園で品種改良の研究をされているか、馬をとばして府内を駆けまわっておられるか。

 火星は、まだまだ未開拓地が多く、馬を利用することが多いので、地球で考えるほど目立つことではない。

 本当のご乗馬は本物の馬なんだけど、城外に出られるときはOH(オートホース)をお使いになる。

「去年採れたもち米で桜餅を作ってみたんだ、まあ、つまんでおくれ」

 そう言うとリュックから竹の皮の包みを取り出された。

「うわあ~~~」

 真っ先にテルがヨダレを垂らす。

「うわあ、すごい桜の香りですね!」

 ヒコも感動、むろんわたしもダッシュも。

「葉っぱは、去年のもやし桜だよ。花はもう一つだったけど、そのぶん葉っぱに養分が凝縮されてる上に地球のよりも葉が薄い、桜餅にはピッタリなんだ」

「これはいけますね!」

「ダッシュ、頬張り過ぎ」

「だって、うめえ(⌒∇⌒)」

「うん、作った甲斐がある。まあ、桜餅にした程度では使いこなせないから、化粧品や添加物などに使えないか研究中なんだけどね」

「メイドインキャッスルが、また増えそうですね」

「ハハハ、わたしの道楽だからね、そんなに増えやしないさ」

 上様は、個人でも30程の、幕府全体では100余りの特許を持っている。上様は、安全性が確認され、商業ベースに載ったり、国民の役に立つことが確認されたものについては、率先して特許を開放されている。平均して二三年で特許権を手放されるので、実数はもっと多い。

「しかし、早いもんだね、ついこないだ修学旅行から戻ってきたという感じなのに。ええと、大石君以外はみんな府大なんだね」

「はい、僕が国際政治学科。ミクが医学部。テルが工学部。そしてダッシュ、あ、いちは来月部隊配置になって現場に立ちます」

「まだまだ未熟なんですが、現場で経験が積めるので、ありがたいことだと思っています」

 ダッシュにしてはいい答え。まあ、なにごとも体で覚えるって方だから、単なる謙遜では無いと思う。

「すまないね、下士官の充実は軍にとっては急務だからね。作戦指導は将校の役割だけど、現場で兵たちを指揮し面倒をみるのは下士官だ。国家としての期待は大きい、頑張ってくれたまえ」

「はい、承知しています」

 ダッシュへの労いを最初にして、それから一人一人に声を掛けてくださる。

 とてもお忙しい方なのに、きちんと承知してくださって、いつものことだけど頭が下がる。

「それで、ひとつ君たちにお願いがあるんだ」

 穏やかに切り出されたけど、そのお顔から、すこし大事なお話だと感じて居住まいを正してしまう。

「卒業まで、わたしのところで暮らしてはくれないだろうか?」

「「「「え?」」」」

「城内の研究施設拡充のために、小姓宿舎を建て替えたんだけど、古い宿舎の一部が残ったんだ。老朽化による移設ではないので、残った宿舎は、まだまだ使用に耐えられる。府大は西の丸の外だし、それぞれの自宅から通うよりも近くなる」

 近いどころか、西の丸を横断していいのなら通学時間は1/4に縮まる。

「大石君は部隊配置になるだろうけど、休日には城に戻ってくればいい。むろん、わたしからのお願いだから、寄宿費などは取らない。実験農場の作物の試食もやってもらうから食費もかからない……」

「上しゃま!」

「あ、なんだろう、テルくん?」

「そうゆう遠まわしな言い方は上しゃまっぽくないのよ。ほんとうのところを言ってほしいのよさ」

「アハハ、これは一本やられた。テルくんの言う通りだ。単刀直入に言いなおそう。君たちに、ある人の友だちになって、いっしょに暮してもらいたいんだ」

 ある人?

「そうだ、まず、ご本人に会ってもらおうか……」

 上様はテルの頭越しに目配せされた、つられて目をやると、上様の片腕として知られている小姓頭の胡蝶さんが植え込みの向こうの誰かをいざなっている。

 え? ええ

 そして、現れた人を目にしてビックリするわたしたちだった!

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    国立大学二回生、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    幕府大学国際政治学科二回生、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     幕府大学医学部二回生、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     幕府大学工学部二回生、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首 パイレーツクィーン:メアリ・アン・アルルカン(手下=ツナカン、サケカン、アルミカン)
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・72『退院』

2022-09-22 07:11:13 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

72『退院』小松 





 もなかさんにしか言わなかった。

 本当はもなかさんにも伝えたくなかった。

 もなかさんは、自分のせいで刺されたんだと思って自分を責めている。だから毎日見舞いに来てくれるんだけど、@ホームの仕事や学校のこと、かなり無理しているのは確かだ。だから言っておかないと無駄足をさせてしまう。

「じゃ、手伝いに来るわ」

「いいわよ、下宿先から人が来てくれるし、もなかさん、水曜日ってシフトに入ってるでしょ」

「え、あ……」

 先週も水曜は休んでくれている。ま、刺された翌日だから仕方ないんだろうけど、二週連続はまずい。

 それに、もなかさんはメイドという仕事が、とても気に入っている。お店でのもなかさんは本当に二次元の世界から転送されてきたんじゃないかと思うくらいホワホワして、お店でもトップの人気。彼女の為にもお店の為にも、これ以上休ませるわけにはいかない。

 でも、下宿先から人が来るというのもウソ。

 叔父さんは仕事だし、叔母さんはパート。お祖父ちゃんはヒマってばヒマでけど、こんなに早く退院したらきっと心配する。

 妻鹿家は昔から女の子を大切にする。それについては文庫本一冊くらいの話があるんだけど、それは置いとく。

 場合によっては病院までやってきて、お医者さんと一悶着とかしかねない。

 今の医学は進んでいるんだ、先生の「退院してください」に嘘はないだろうけど、人に刺されて十日足らずで退院しては、お祖父ちゃんは納得しない。

 ちょっと、柊木さん!

 台車に荷物を載せてエレベーターまで押していると、ナースセンターから物部さん(わたし担当の看護師さん)が飛んできた。

「ひょっとして退院する気!?」

「はい、もう大丈夫そうなんで」

「先生の許可は出てるの?」

「えと、先生が『退院していいわよ』とおっしゃって」

 ちょっと脚色している、先生は「退院してください」と命令形だった。

 でも、こういう場合は柔らかく表現するのが当を得ている。

「ちょっと、確認してくる……」

 ナースセンターの前で待つハメになった。傷口がシクシクする。

 しっかりしろ! 声には出さないで自分を叱る。

 十分ほどあって物部さんが戻ってきて「やっぱ、退院だった」とため息。

 十分あれば、わたしの台車を押して退院者用の出口までサポートしてもらえたんだけど、物部さんは仲間の看護師さんに呼ばれて行ってしまった。
 
 エレベーターに乗る前と下りてからと二回休んでからタクシー会社に電話。

―― 混みあっていますので、ちょっと時間が掛かります ――

 ベンチに座ると疲労感。運転手さんに助けてもらわなきゃ乗れないかも。

 少しの間と思って、ベンチに横になる……やばい、起き上がれないかもしれない。
 
 すると目の前に人の気配。

「……だよね、松ネエ?」

 薄く目を開けると、神楽坂高校の制服……その上にはゆう君の首が載っている。

「えと……学校は?」

「休んだ、連休中は、ちっとも見舞いに来れなかったから」

「ダメじゃん、休んじゃ……」

「んなことより、退院したってナースセンターで、ビックリした」

「うん、大丈夫そうよ。主治医の先生の太鼓判なんだから」

「でも、ほんと大丈夫か?」

 返事をしようと思ったら、ちょうどタクシーがやって来た。

 持つべきものは従弟で、わたしをしっかりエスコートしてくれた。

 で、夜になって三十八度の熱が出てしまった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート



 

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魔法少女マヂカ・290『墜ちる!』

2022-09-21 15:28:22 | 小説

魔法少女マヂカ・290

『墜ちる!語り手:マヂカ 

 

 

 飛行機の中でクマさんを見つけ、主翼の端っこまで追いかけたのが夢の中。

 そして、いま、クマさんに続いて空中を落下しているのは現実。

 ファントムは夢と現実を巧妙に入れ替える魔法の力があるんだ。

 飛行石を持たないわたしは、このまま落下して、地面か海面に激突して壁に叩きつけられたトマトのように破裂粉砕されてしまう。数千メートル、ひょっとしたら一万メートルを超える高度は、魔法少女の回避能力を絶望的に超えている。

 いっそ体を丸めて落下速度を速め流星のように燃え尽きてしまおうか。それとも大の字に体を開いて速度を落とし、ギリギリまで運命に逆らって、万に一つの奇跡に掛けてみようか……。

 刹那の逡巡のあと、わたしは、制服のボタンを外し左右の裾を掴んで空気を含ませた。

 ボワ

 空気を孕んで、目に見えて落下速度が落ちてくる。

 しかし、とてもパラシュートほどの揚力はない。せいぜい十秒ほど命を長らえるだけだろう。

 せめて、クマさんをロストした方角を見据えて、そこを目がけて旋回しながら墜ちて行こう。

 

―― その根性だけは褒めてやろう ――

 

 頭の中で声がした……と思いきや、旋回の中心にポチョムキンが浮かび出た。

 女帝を偲ばせる甲冑姿だ。悔しいが姿がいい……そうか、ロシア王室や貴族は事あるごとにドイツやオーストリアの血が入っていたな、それを煎じ詰めればこういう成りにもなるんだろう。

「ここは舞鶴の沖合、お前がアリヨールを沈めた怨みの海だ。海に激突して、アリヨール終焉の地を護る魚どもの餌になるがいい!」

「言ってろ、姿を現したのが運のつき。道連れに、その首叩き落としてやる!」

 シャラン!

 風切丸を実体化させ、正眼に構えると、ポチョムキンを目がけ大上段に振りかぶる。

 ズワ

 一瞬で、ポチョムキンの姿が手の届かない高さに上昇する。

「バカめが、太刀を抜いて滑空姿勢を止めてしまえば落下速度が増すだけであろうが!」

 くそ、飛行石さえあれば……やむなく、風切丸を収めて滑空姿勢に戻るが、落ちた落差は取り戻せず、ポチョムキンは上空から降りてきて、数メートルの高さから睥睨する。

 たかが数メートル。

 しかし、飛行石を持たない今は、この数メートルを超えられない。いや、同じ高さに居たとしても、風切丸を抜かないとしても、戦闘姿勢をとった瞬間に、わたしは数十メートルを降下してしまう。

 千年を超えようかという魔法少女マヂカの活躍も、これでおしまいか……せめて、せめて、消滅のその瞬間まで敵を睨み据えてやろう……!

「おお、怖い怖い、目力だけはな……しかし目力だけでは、このポチョムキンは殺せぬぞぉ」

「くそ……」

 ビュビュン!!

 その時、目の前を二つの影が過って、その風圧で舞い上げられたわたしは十メートルほどのアドバンテージを取り戻した。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・71『最低の連休』

2022-09-21 06:53:35 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

71『最低の連休』小松 





 最低の連休だよ。

 二日の日にわき腹を刺されて、そのまま救急車で入院。

 数えて六日目になる。

 幸い内蔵には達していなかったので、手術の後はひたすら寝ているだけなんだけど。

 笑っても寝返りを打っても痛い(;'∀')。

 内臓に達していないとはいえ、左前のわき腹から背中側に駆けて八センチもナイフが刺さったもんで、いまだ、わき腹に異物が刺さったままのような感じがする。

「先生、どうしたんですか!?」

 朝の点滴をしにきたドクターを見て驚いた。白衣の前が金魚の柄のように赤く染まっているんだもんね。

「今朝の点滴は失敗してばかりなんだ」

 聞くんじゃなかったよ(;'∀')。

 この病院では日によっては当番のお医者さんが点滴をしにくる。医師でも看護師さんの不足を補うことは良いことだと思うんだけど、相対的にお医者さんはヘタクソなんだよね。目の前で点滴パックをぶらさげているお医者さんは、その中でもスコブル付のヘタッピーの様子。

「じゃ、いきます……」

 点滴の針を構えると、目に見えて先生の緊張が高まる。

 なんだかピンチに立った時ののび太に似ているぞーー、こういう時ののび太って、必ず失敗してドラえもんの世話になるんだ。

 でも、この病院にドラえもんはいない。

 ウグッ!!

 腕とお腹じゃ比較にならないかもしれないけど、刺された時よりも数段上の痛みが走る。

「あ……れ? れ? れ? ここに静脈が……」

 あるはずの静脈が見つからないのか、針を指したままグリグリやっている。

「ああ、ここだここだ(#'∀'#)」

 右手で二度失敗したあげく、左手でやっと成功。するほうもされるほうも額に汗が噴き出している。

「週末に、もう一回来るけど、その時は、もっと上手くなってるからね」

 ゲ、もっかいくるのかよ!

 針が刺さって五分もすると、左腕全体が痛くなってくる。

 先生がヘタクソなせいじゃない。

 わたしは血管痛になるのだ。

 人より血管が細いのかデリケートなのか、針を刺したところから始まって、しだいに腕全体、放っておくと、肩や首筋まで痛くなってくる。最初はナースコールを押していたけど、三日目からは自分で点滴の速度を落としている。

 お昼にはもなかさんがやってくる。

 入院した日は泊まり込んでくれたし、あくる日からは昼前にはやってきて食事の世話などをやってくれる。もなかさんは、自分の身代わりに刺されたと思って、まるで自分の責任のように感じている。

 無理もないんだけど、かえって気の毒になるよ。

「杉谷さん、先生が呼んでる」

 点滴のパックが残り1/3ほどになったときに看護師さんの声が掛かった。

 この先生は緊張のび太ではなく、私の主治医。

 珍しい女性の外科医。優しい笑顔とは裏腹に、テキパキとしていて「大丈夫、痛いのは治りつつある証拠だから」と、患者を甘やかさない。男性患者には人気があるようなんだけど、わたし的には、まだ一週間なので判断がつかない。

 点滴のポールを押しながら診察室へ。

「えーーーと」

 レントゲンを見ながら、先生は言葉を繋いだ。

「経過も良好なんで、明日退院してください」

「え、明日ですか!?」

 わたしは、点滴のポールをゴロゴロひきながら病棟のフロアを歩くのが精いっぱい。まだ階段を上り下りする勇気も無かった。

「あ、もう点滴も必要ないのよ。連絡いってないのかなあ」

 朝の苦行はいったいなんだったんだ!?

「でも、神楽町まで帰る自信ありません。階段とか坂道はちょっと……」

「タクシーで帰ればいいじゃない。荷物はナースに持たせるといいわ」

「でも、帰るのは下宿ですし、せめて静岡の両親が来れるまで」

「病院はホテルじゃないの、治った人には退院してもらわなきゃ、後がつかえてるのよ」

 そう言うと、先生はカルテのファイルをパタリと閉じた。問答無用のようだ。

 点滴の苦しみから解放されるのと、もなかさんに一安心してもらえるのは嬉しいけども……。

 わたしの週明けは、ちょっと割り切れないところから始まった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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くノ一その一今のうち・20『ホッソリまあやとフックラそのちゃん』

2022-09-20 17:14:12 | 小説3

くノ一その一今のうち

20『ホッソリまあやとフックラそのちゃん』 

 

 

 おはようございます!

 

 むこうから挨拶されてびっくり!

 専用スタントになったとは言え、泡沫芸能プロのアルバイト、挨拶するのはこちらの方だ。

「今日からね、楽屋はソノちゃんといっしょにしなさいって、事務所の指示なの!」

 子犬みたいにピョンピョン近づいて来て手を取るまあや。

「ま、そういうことだから、よろしくお願いしますね。風間そのさん」

 ほとんど口もきいたことのないマネージャーが、まあやに対するのと同じくらいの笑顔で頭を下げて行ってしまった。

 その変わりように、ちょっと呆然としていると、チャランと目の前でカギが振られる。

「さ、行くわよ。これで、いままでの十倍はお喋りできるわ!」

「あ、待ってくださーい!」

 

 和室の楽屋に入ると、座布団に座ってニコニコ笑顔のまあや。

 

「引っ越したんだって?」

 その一言で分かる。まやは、徳川物産にいったことを言ってるんだ。

「はい、徳川物産の総務二課ってところに出向で……」

「それ、事務所ぐるみの引っ越しだったんでしょ?」

「あ、もう知ってるんですね(^_^;)」

 そうなんだ、出向二日目、会社のビルに百地芸能のトラックが停まってるので不思議に思ったら、なんと百地芸能ぐるみ総務二課に引っ越してきた。

 経営の詳しいところまでは分からないけど、百地芸能は、会社ぐるみ徳川物産の傘下に入ってしまったらしい。

 資材やなんやかやは、まだしばらくは神田にオキッパで、社長は、とうぶん神田の方にいるらしい。

『しばらくはお金の心配しなくていいんだよ!』

 経理担当の金持ちさんは手放しで喜んでいる。

『さすがに一流企業は美人が多いねえ』

 日に三度は社員食堂に通う嫁もちさんは目尻を下げている。

『肩が凝る!』

 力持ちさんは、Tシャツに雪駄履きを禁止されて、ちょっと窮屈そう。

 

「アハハ、そうなんだ。百地事務所の人たちって、みんな愉快な人ばかりだもんね」

 まあやは、面白そうに聞いてくれるので、こっちまで嬉しくなってくる。

「まあやさんが、笑ってると、こっちまで幸せな気になってきます」

「嬉しいこと言ってくれる。ねえ、二人きりの時は友だち言葉でやっていこうよ」

「え、いいんですか?」

「うん、プライベートな時間までアイドル扱いは、ね……そのちゃんとは、もう他人じゃないような気がしてるし」

「はい! あ、うん!」

「じゃあ、これからは、ただのまあやね」

「え、でも、わたしのことは『そのちゃん』だし」

「まあやちゃん……微妙に長いでしょ。それに、身内の中じゃまあやだし」

 じゃあ、わたしのことは『そのっち』……と思ったけど、まあやなりの親しみの表現だと、言葉を呑み込む。

「ねえ、まあや」

「なに?」

「その……ちょっと、ほっそりしてきた?」

「え?」

 あ、女優さんに容貌上の変化を指摘してはいけなかったかな?

「あ、やっぱ、わかっちゃうんだ」

「あ、いや、その……」

「うん、このごろ間食減ってきて。これまでは、本番の日は緊張して、お八つとか食べつくしてたんだけど、ちょっと減ってきて」

 あ、そう言えば、テーブルの上のお菓子箱、今日は手つかずだ。

「うん、緊張すると食べちゃうほうだったから、たぶん、いいことだと思う」

「そうなんだ、よかった!」

「あ、そうだ、会社から言われてるんだけど……代役やる時は、これ付けてもらえないかなって……」

「なに……コンタクト?」

「あ、うん……そのちゃんは、体格的にはわたしによく似てるから、このコンタクト付けたら、ロングでなら顔出しもできるんじゃないかって(^_^;)」

 コンタクトとは言え、身体的なものを強制するのは、ちょっと落ち着かないんだ。まやはいい子だ。

「やってもらえるかなあ?」

「うん、さっそくやってみるね……」

 

 おおお!

 

「そのちゃん、いけるかもよ!」

「う、うん……」

 ほっそりしたのはまあやの方だけど、わたしの方はふっくらして、頬の厚みも遜色がない。

 わたしのは、バイトも順調で、生活が安定してきたからだ。

 そして、鏡に中のわたしは、瞳の大きさも一緒になって、姉妹ぐらいの近さになってきた。

「うん、よし! 眉を書き足そう!」

 まあやの心に火が付いた。

 ペンシルを取り出して、少し書き足すと……

 おおおおおお!

 そっくりになってきた!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・70『御籠りの五日間・4・ヒヤシンス』

2022-09-20 07:33:28 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

70『御籠りの五日間・4・ヒヤシンス』オメガ 





 夜中に目が覚めた。

 御神渡りとかのために、豊楽殿の座敷は半分しか使えない。

 その半分も、この二日で狭くなり、几帳を隔てて眠っているシグマと増田さんは手を伸ばせば届きそうなところで寝ている。

 几帳というのは、ただ布がぶら下がっているだけなので、風が吹けば簡単に翻って、向こうが見えてしまう。

 フワリ

 寝返りを打つタイミングで座敷の空気がそよいで几帳が翻る。そこにシグマの寝顔がある。

 こいつのΣ口は、本人が気にしているようなマイナスイメージじゃないと思っている、眠って薄く開いた口はΣなんかじゃないし。

 小さく開いたO口だ。

 あのΣ口は、起きている時のいろんな緊張感からくるものなんだと思う。
 
 …………………………。

 なんだか眠れそうにないので、そっと起きる。

 作務衣の上だけを羽織って座敷を出る。

 廊下に出ると、硝子戸の外がほんのりと明るい……夜明けが近いんだ。

 草履をひっかけて外に出てみる。

 夜明け前の空気に化かされたのか、このまま戻っては、みんなを起こしてしまうかもしれないと思ったのか、その両方か。

 臆病だからよ

 ハッと振り返ると、豊楽殿の北、たぶん樟、その下に卑弥呼さんが立っている。いや、立っていた。さっきからずっと立っていて、寝起きのあれこれ見られたような気がする。

 耳元で聞こえる声と距離が合わないんだけど、卑弥呼さん以外に人は居ない。
 
 そうよ

 口の形で意味が知れると、卑弥呼さんは樟の向こうの薮に吸い込まれるように消えた。

「あ、あの」

 追いかけると、薮の向こうは下りの坂になっていて、卑弥呼さんは、その坂を下って行ったのだ。

 ためらわれたけど、誘われたような気がして、探りながら薮の向こうに足をすすめる。

 あ………………。

 そこは豊楽殿の座敷程の窪地で、窪地は一面薄紫色の百合を小さくしたような花で埋め尽くされていた。

 初めて見る景色、だのに、なぜか懐かしい。

「ミサイルは落ちてこないようね」

 花畑の向こうから卑弥呼さん。

「あの……ここは」

「夜明け前に、ひっそりと話をするにはいい場所でしょ」

「えと……話ですか」

「なにか起こるような気がして、あなたたちに来てもらったの」

「なにか起こる?」

「東京が壊滅するほどのなにかとかね、ひょっとしたら、あのミサイルかとも思ったんだけど、違ったみたい」

「ああ、大騒ぎしましたからね……でも、なんで僕たちなんですか?」

「風信子が声を掛けやすくて、一番条件が合っていたからよ」

「条件ですか」

「あなたたちは美斗能麻具波比(みとのまぐわい)にこだわりがない」

「みとの……」

「ああいうゲームがこだわりを持たずにできるのだから……たとえ東京が滅んでも、あなたたち二組から新しく始められると考えた……でも、心の垣根はまだまだ高かったようね」

「あ、僕たち、そういうのは……」

「いつでもいいというわけでもないの、この数か月、数年の内では、この五日間が一番いい。ああいうゲームに打ち込めるのは、けがれなきあかき心を持っているからこそだと思いますよ」

「あ、はあ……」

「古の歌に、こんなものがあります――小林(おばやし)に我を引き入れてせし人の於謀提(オモテ)も知らず家も知らずも――あかあかしているでしょ」

「えと、それって……」

 古典は苦手だが、なんかとんでもないことをうたっているような気がする。

「太古の昔、歌垣(うたがき)というものがありました」

「うたがき?」

「盆踊り……フォークダンスが似てるかしら……秋祭りの時などに男女が集まって輪になって歌を謡いながら踊るのね……そして興がのってくると、一組二組とカップルができて藪や林の中に消えていく……」

「それって(^_^;)」

「そうよ……美斗能麻具波比……そして、夜が開けたら、相手の名前も顔も覚えていなかったわ……そういうあかあかとした心を詠んでいるのよ」

「は、はあ……」

 なんか、すごいことを言ってるようで、まともにリアクションがとれねえ。

「ね、これからも、そのあかき心を育んでくださいな……」

 そう言いながら、卑弥呼さんは手に持っていた球根を足許の清げなせせらぎ近くに活けた。

 俺は、この時まで卑弥呼さんが球根を持っていたことには気づかなかった。

「ここの花は、ぜんぶヒヤシンス。この球根は弱っているので早めに戻してあげるのよ、物事は目に見えて悪くなったり弱ってからでは間に合わないからね……」

「えと、なんだか懐かしい感じのする場所っすね」

「夜明けには、まだ間があるわ、もう少し休んでいくといい……」

 卑弥呼さんは、活けたヒヤシンスの上三十センチくらいのところで、撫でるように手を回す。

 すると、ヒヤシンスと自分が重なってしまって、いつの間にか、オレは卑弥呼さんに膝枕されてしまっている。

 え……あ……ああ……

 そして、急速に眠気が戻ってきて、アッと言う間に意識が無くなっていった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート


 
 

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せやさかい・348『密かに喜ぶ』

2022-09-19 13:28:52 | ノベル

・348

『密かに喜ぶ』さくら    

 

 

 今日から部活!……にはなれへんかった。

 

 ごっつい台風が鹿児島に上陸して、大阪は強風注意報が出てる。

 暴風警報やないさかい、休校にはなれへんねんけど、部活は止めて帰りなさいという学校のお達し。

 それに加えて頼子さんも、王女さまとしてエリザベス女王のご葬儀が終わるまでは、部活は控えならあかんらしい。

「明日からは部活もできるからね」

 そう言って、昇降口で小さな封筒を三人に配ってくれて、ソフィーといっしょに帰って行った。

 いつもの黒塗りの車が見えんくなるまで見送って封筒を開ける。

「うわあ、あれだ!」

 留美ちゃんが歓声をあげた。

 そう、写真は昨日ネットニュースでも見た『二重(ふたえ)の虹』やんか!

「これからは、希望をもってやっていこうということだね!」

 メグリンがこぶしを握る。

「裏にサインしてある!」

 留美ちゃんが写真の裏側を掲げる。

―― Over the rainbow! 頼子 ――

 気の利いたプレゼントに、凹んだ心を戻して家路についた。

 

 瑞兆(ずいちょう)というのは続くもんやろか。

 家の山門をくぐると、正月の掛け軸から抜け出したみたいに、尉と姥(じょうとんば)が熊手と箒を持って境内を掃除してるやおまへんか!

「いやあ、お寺のベッピンさんら!」

 歯ぁの抜けた口を開けて喜んでくれてるんは、婦人部長の田中のおばあちゃん。

 いっしょに掃除してるのは、うちのお祖父ちゃん。

「おかえり、今日はええニュースあるでぇ」

「え、なんやのん、お祖父ちゃん?」

「わたしに言わせて!」

 田中のおばあちゃんが尉(じょう)を押しのける。

「実はね、こんどのこんどこそ落語会ができんねんで!」

「え、ほんま!?」

 喜んでると、米国さん(外人落語家の桂米国さん)が帰り支度で出てきた。

「さいでおます、お嬢さんがた!」

 マスクからはみ出しそうなくらい口を開いて米国さんが寄って来る。

「ちょ……」

 真面目な留美ちゃんがソーシャルディスタンスをとると、米国さんも「かんにんかんにん(^_^;)」言いながら一歩下がる。

「よそのお寺さんでも、ぼちぼちやってはるし、婦人部のおばちゃんらも後押ししてくれはるし、10月10日の大安の日に如来寄席やらせてもらえることになりました!」

「「うわあ!」」

 留美ちゃんと二人でピョンピョンする。

「で、まあ、久々やし三度目の正直やし、今度は出し物はリクエストでやらせてもらおと思てます。なんか希望があったら、米国までメールしておくれやす!」

 いつもより濃い大阪弁で宣言して行ってしもた。

 

 今日はエリザベス女王の、もうちょっとしたら安倍さんの国葬。

 

 ちょっと早いかもしれへんけど、密かに喜んでるうちらでした。そう、密かに、静かにね……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・090『天空橋駅』

2022-09-19 10:48:39 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

090『天空橋駅』   

 

 

 東京に住んでいる者すべてが東京に詳しいわけではない。

 

 まして、世田谷の女子高生、土地勘のあるのは家と学校の周囲。あとは、たまに出かける渋谷と秋葉原くらいのものだ。

 ブァルハラからとばされて来たのだが、そういう設定になっている。親父が設定したのか、親父に縁ある神々の仕業かは分からんけどな。

 保育所以来、遠足などで、あちこちに行ってはいるが、先生に引率されてバスや電車で出かけるので、地理的感覚は、それほど優秀ではない。

 あ、むろん保育所の頃から、こっちに来ているわけではないが、こちらに馴染むにつれ間尺に合うように記憶が生まれてくる。

「カーナビで走ってると道を憶えないからなあ」

 祖父がこぼしていた。

 現役の頃は、仕事の都合でよく車を走らせていたのだが、定年前の十年ほどはカーナビを頼りにしていたので、五十代半ばから行ったところは記憶があいまいなんだそうだ。それと同じだ。

 

 というわけで、芳子と二人で京急に乗って、羽田を目指している。

 

 アメリカへの留学を控えている芳子に付き合って、空港まで行くリハーサルをしている。

「やっぱり、足を運ばなきゃ分かりませんからね」

 要所要所で足を止めて周囲の景色をスマホの地図と重ねて確認。

 ノホホンとしているようで、こういうところに手を抜かないところが芳子の長所だ。

「要領悪いんですよね、小栗先輩とかはグーグルで調べたら、あとはぶっつけ本番で行ってますよ」

「いや、大事なことだぞ。自分の力を知って準備しておくということは。それに、スマホのナビじゃ分からないこともあるからな」

「あはは、ですね」

 そう笑いながら、電車が来るまで今川焼を頬張っている。

 乗り換えの為に階段を下りたら、いい匂いがしてきて、足を止めると新規開店の今川焼の出店が開いていて、オープン特価の今川焼を買って、ベンチでパクつきながら乗り換えを待っているのだ。

「あ、来ますよ!」

「おお」

 急いで残りを頬張る。車両の中でモグモグするわけにはいかないからな。

 一人なら座れる席があったけど、芳子と二人、扉の所に立つ。

「やっぱり景色見えるのは楽しいですね♪」

「そうだな、景色も運賃のうちだな」

 芳子は、元来もの喜びする性質で、缶コーヒーを奢ってやっても、目を盛大にへの字にしてくれる。

 横に立っていても、芳子の瞳はせわしなく左右に動いているのが分かる。

「あ、次の駅は『天空橋駅』って云うんだ!」

 通過する駅の表示板を目ざとく見つけて感動を発する。

「空港にピッタリの駅名だな」

 天空といっても、空中に浮いていてファンタジーが生まれるような駅ではない。川を渡って、空港につく一つ手前の小さな駅だ。

 駅の開設に合わせて駅名を募集して選ばれた駅名であるらしいが、わたしも好きだな。

 天空とくれば、一般にはアニメに出てくる空中都市を連想するんだろう。

 わたしにとっての空中都市は、ブァルハラで、煙たい親父の顔しか浮かんでこないのだが、まあ、それもいい。

 

 うん……?

 

 芳子の姿が二重にボケる。

 あ、例の……。

 芳子を留学に急き立てたのは、自分の名前も忘れた女学生の霊だ。

 いつもなら、名前を付けて昇華させてやるが、こいつは憑いたままにしてある。

 いや、違う。

 女学生の他に、別のが憑いている。巧妙に女学生の陰に隠れているが、車体の振動でブレるので分かってしまう。

 男の霊だ……戦時中に撃墜されたアメリカの戦闘機乗りだ。

―― おい、おまえ ――

『Oh, you can see me?(え、見えているのか?)』

―― ああ、丸見えだ ――

『…………』

―― おまえは、ヘンリー・マクブライドだ ――

『Oh, yeah. ......(そ、そうか……)』

 少しだけ悔しそうな顔をすると、スルスルと芳子から離れ、過行く天空の駅の駅名表示のところから立ち昇って行った。

 駅の名前も、優れたものは、昇天のよすがになるのかもしれない。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・69『御籠りの五日間・3・御神渡り』

2022-09-19 07:12:58 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

69『御籠りの五日間・3・御神渡り』オメガ 





 一口にエロゲと言ってもいろいろだ。

 とにかくエッチをしまくるシミュレーションもの。

 ストーリーもへったくれもなくて、徹頭徹尾エッチ! 主人公以外の男が死に絶えた世界とか、時間が停まってたりとか、試合して勝っても負けてもエッチな展開しかねえとか、自分以外に男が居ないクラブを経営するとか。中には男女のキャラやらアバターやらも一からカスタマイズして声や性格まで決めていたすもの。シグマが「こんなのもあります」とVRになってんの見せてくれたが、うちのサブカル研ではやらない。
 

 その対極にあるのがシナリオゲー。

 ほとんどノベルと同じで、ストーリーが命。たいていフルボイスになっていて、画面に出てくるキャラが喋ってくれる。当然声優さんたちが演じてくれているんだけど、その熱のこもり方、表現の豊かさに、最初はびっくりしたものだ。

 途中に様々な分岐があり、どの分岐を選ぶかによって付き合えるパートナーが変わってくる。

 物によっては分岐が百以上もあって、エンディングが分岐の組み合わせで無数と言っていいほど別れるものもある。

 俺たちサブカル研がやっているのは、主にこのシナリオゲーで、まだ初心者の俺はシグマの勧めで数本やっただけだけど、正直目から鱗の毎日だ。

 モノにもよるけども、最後の方にならなければエッチフラグが立たないものが結構ある。エッチに至らなければ、普通のノベルゲームと変わらない。

「これも、元々はエロゲだったんですよ」

 シグマが開いたフォルダにはプレイステーションなどの、俺だってタイトルぐらいは知っている普通のゲームが並んでいた。いわゆるコンシューマー版てやつだ。

「ここにこういうイベントが入っているんです」

「オ……オーーーー!」

 プレイステーションでは手を握ったり、ハグしたり、せいぜいキスするだけなのが、男女の距離に寄って様々なエッチの展開になる。

「……この方が断然ナチュラルってか、展開として自然に広がっていくよなあ」「もう、ほとんで文学じゃんよ」

「じつはですね……」

 シグマの講釈が始まる。意外な名作アニメやドラマの原作が、こういうゲームだったり、監督がエロゲ畑出身だったりする。

「『冬のコナタ』の元ネタは……というエロゲで、『君のわな』の監督はエロゲで力をつけてきた人で、こういうところの表現が……秀逸で、この○○のダイナミックさは……」

 シグマの解説に聞きいってしまう(^_^;)

 エロゲの感動が無ければ、学食の前で堂本に弄られているのを助けただけで、それ以後のシグマとの付き合いは無かっただろう。

 座卓の上のエロゲは、そう言うのばかりだったから、ノリスケの横で見ているだけの増田さんにも抵抗はない。

「『蒼空に翼広げて』は、もうじきフラグが立つぞ」

 ノリスケがやっているのは、先月コンプリートしたやつだったので湯船の中で忠告を与える。

「いや、つばさルートを先にやったんで、夕方には初エッチになってしまった」

「え、そーなのか!?」

「おまえ『まにてつ』に熱中してたから気づかなかったんだろ」

「増田さんは?」

「ビックリしたようだけど、なんか、コクコク頷いてたぞ」

 もう三日目になるんで、それぞれのゲームも最初の佳境に入っているようだ。あれこれゲームの感想を言い合っていると、のぼせそうになって来た。

「そろそろ出ないと、女子の時間だぞ」

「あ、今日は女子があとだったな」

 御神楽大神神社の豊楽殿はよくできているが、旅館ではないので、風呂は時間を決めて男女交代で入っている。

 風呂そのものはゆったりとしたL字型になっていて、Lの横棒の所がガラスになっていて眺めがいい。横棒と縦棒の角の所は大きな岩がドデンとあって、入り口からは目隠しになっている。

 ジャブジャブと岩の角を曲がるのと湯気に曇ったガラス戸が開くのが同時だった。

 エ……ア…………

 無防備に湯船から立ち上がった俺たちの前には、前も隠さないシグマと増田さんが立っているではないか!

 ゴメン! キャ!

 謝るのと叫ぶのが同時で、ノリスケと二人速攻で風呂を飛び出した。

 今日は神社の都合で時間がズレていたのを女子は気づていなかったんだと思う。

 気まずいんで確認はしなかったけどな。

「御神渡りがありますので、豊楽殿の半分を閉めます」

「おみわたり?」

 巫女さんの言葉にポカンとするばかりだ。

「えとね……」

 風信子が補足してくれる。

「神さまがお通りになる道が今夜から豊楽殿に掛かるの、掛かる部分は使えなくなるから、座敷の半分に結界を張ることになるのよ」

 座敷に戻ると、半分の所に結界を示すしめ縄が張られていた。

 それまで几帳を挟んで座敷の両端に敷いていた男女の寝床が、接するほどに近くなってしまった。

 衣擦れの音だけでもドキドキしたのに、今夜は几帳の向こうからオメガと増田さんの気配が距離の二乗倍で濃厚になる。

 風呂で一瞬見てしまった二人の無防備な姿が、どんどん脳みその中で際立ってくる、ああ、やんぬるかな!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

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せやさかい・347『二重の虹』

2022-09-18 09:55:39 | ノベル

・347

『二重の虹』さくら & 頼子   

 

 

 へえ、二重の虹ってあるんだ!

 

 スクロールする手を停めて留美ちゃんが呟く。

 頼子さんの消息が消えて、なんにもやる気のおこらへんうちら、放課後は図書室で時間を潰す。メグリンはお家のことがあるんで、終礼が終わると「お先に!」いうて帰った。言わんでも分かる、久々にお父さんが返って来るんや。うちも留美ちゃんも、そういうことには鋭い。

 図書室でスマホはNGやけど、備え付けのパソコンはノープロブレム。

 スマホが普及してないころは取り合いやったパソコンもスマホほどの機能がないので、けっこう空いてる。

 それで、ボンヤリとパソコンをググる週末です。

「いや、ほんま!」

 画面には、崖から海を撮った写真があって、見事に上下二段の虹が写ってる。

「うん、これは、きっといいことがあるよ!」

 なんか、秘密めいた顔で宣言する留美ちゃん。

 留美ちゃんは偉い。自分も落ち込んでるのに、パソコンで縁起のええこと探して気を引き立ててくれる。

 投稿した人はお婆さんと言っていいくらいのおばさん。

 小さいころから――二重の虹が見えたら、とってもいいことが起こる――とお祖母ちゃんから聞かされてて、この歳で、やっと発見できたんや。

 かけた願い事は――一刻も早く世界が平和になりますように――やった。

 この女の人は、イギリス人とのハーフで、境遇が頼子さんに似てる。

 ――きっと、頼子さんも大丈夫だよ―― 留美ちゃんの気持ちもありがたい。

「ちょうど二時やし、いこか!」

「うん!」

 下手な洒落にひっかけて、景気つけて校門を出る。

 

「あ、トンボ」

 

 公園の横まで来ると、五六匹のトンボがヘリコプターみたいに飛んでる。

「つい最近まで、蝉がうるさかったのにね……」

「公園の中通っていこか?」

「うん」

 公園を通ると微妙に遠回りになるんやけど、うちらは雰囲気に浸りたかった。

 

 God ~save~ the Queen♪

 

 着メロの『ゴッド セイブズ ザ クイーン』が鳴り出した。

「あ、わたしのも」

 留美ちゃんはマナーモードのバイブみたい。

「「あ、頼子さん!」」

 

―― 月曜日から学校に行きます ――

 

 簡単なメールやけど、意味と気持ちは十分伝わって来る。

 やっぱりヤマセンブルグに帰ってたんや。たぶん、お祖母ちゃんの女王陛下のことやろね。

 ひょっとしたら、二度と帰ってこーへんちゃうかと思ってたから、めっちゃ安心したよおおおお!

 

 

 三人にメールを打ってホッとした。

 取りあえずは日本に帰って来れた。

 場合によっては、このままヤマセンブルグだと思っていた。

―― 国王が執務できないときは、王位継承権第一位の者が摂政になる ――

 王室典範の規定に書いてある。

 正式に王女になったのだから従わないわけにはいかない。

 ソフィーはじめ、周囲の人たちも、そういうモードに入っていたしね。

―― しっかりなさってください ――

 サッチャー……いや、イザベラさんの目は、露骨に物語っていたしね。

 二年前だったら『くそ、このオバハンめ!』とか反発もできたんだけど、女王側近の彼女の信条。心配は十分すぎるくらいに身に染みている。

「ヨリコ、いっしょに見て」

 お祖母ちゃんは、ずっとエリザベス女王との思い出の写真や映像や手紙を見せてくれる。

 お祖母ちゃんの若いころ、ロシアがソ連だったころ、ヤマセンブルグでも革命騒ぎがあったりした。

 お祖母ちゃんは、半ば避難するようにイギリスに留学して、ずいぶんエリザベス女王に助けられたんだ。

 だからね、すごく落ち込んで、ジョン・スミスなんか「このままご譲位されるかもしれません」と出迎えた空港で言うんだもんね。あのジョン・スミスの目が笑ってなかった。

 何日もかけて、お祖母ちゃんと思い出のあれこれを見て、ようやく一段落。

「ヨリコ、明日日本に帰りなさい」

 そう言って、お祖母ちゃんは、わたしを送り出してくれた。

 

「殿下、富士山が見えてきました」

 ソフィーが呟く。

 これは、日本の領空に入ったからメールしてもいいというサイン。

 

―― 月曜日から学校に行きます ――

 言葉は一杯浮かんだけど、余計なことは書けないし、気持ちは伝えたいし。ごく簡単な文面になった。

 

「Wow!」

 

 ソフィーが母国語で歓声をあげた。

 窓から覗くと、富士山に二重の虹がかかっていた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・68『御籠りの五日間・2』

2022-09-18 06:47:03 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

68『御籠りの五日間・2』オメガ 




 崩落殿という字を思い浮かべてしまったぜ。

 巫女さんに案内されて「ほうらくでんをお使いください」と言われたんだけど、ついさっき吊り橋が落ちたので『崩落』という字がとっさに出てきてしまう(^_^;)。実際には『豊楽殿』という札が掛かっていて、風信子んとこの豊楽殿と同じような三十畳余りの部屋だ。

 本殿は式年造替(しきねんぞうたい)っていう建て替えをしたばかりの新品だけど、豊楽殿は百年はたっているんじゃないかと思うくらいに古さびている。LEDと思われる照明器具がなければ、そのまま時代劇の撮影に使えそうだ。

「造りは、風信子とこのに似てるな」

「逆よ、うちがここの造りに習ってるの」

 そう言えば、神楽坂神社の本家みたいなもんだと言っていたな。

 物珍しさに、最初はキョロキョロしていたメンバーたちだが、五分もすると座敷の片隅に腰を下ろした。

 三十畳の広い座敷なんだけど、部屋の真ん中では落ち着かない。

 気づくと風信子の姿が無い。

「お茶とお召し替えをお持ちしました」

 声が掛かって巫女さんが二人入って来た。よく見ると一人は風信子だ。

「ここでは、わたしも巫女だからね」

「作務衣ですが、着方は分かりますか?」

 出されたのは職人さんたちが着ているようなので、男が藍色、女が茜色だ。

 男女一緒に着替えちゃまずいだろうと思ったら、時代劇に出てきそうなT字型のスタンドに四枚の布を垂らしたパーテーションみたいなのが出てきた。

「これって几帳(きちょう)ですよね!」

 シグマが感動した。

 この台詞だけ聞いたら源氏物語とかが好きな文系女子に聞こえるんだけど、やりこんだ時代劇エロゲの中にでも出ていたんだろうな。

「紐の結び方がわかりませーん」

 増田さんが巫女さんの助けを借りている、几帳一枚だけなので衣擦れの音が聞こえるんだよなあ。

「なんだか新鮮ですね!」

 シグマは無邪気に喜んで、増田さんと写真を撮りはじめる。

「写しましょうか?」

「あ、お願いします!」

 巫女さんが笑顔で言ってくれて、正面にある神棚の前で二人が並び、「いっしょに入ってください!」と巫女さんと風信子も入って記念写真。

「巫女服も、すっごくいいですね!」

「憧れますぅ!」

「じゃ、こんどお召しになってみますか?」

 巫女さんの口がωになる。同じωでも、ちょっと神々しく感じるのは雰囲気なのか巫女さんの個性なのか。

「はい!」

「ぜひぜひ!」

 子どもみたいにピョンピョンする一年生。

「あはは」

 微妙に笑う風信子、本家筋なんだ、あんまりはしゃいでもらっても困るんだろう。

 

「で、ここで何をすればいいんだ?」

 お茶を飲んで落ち着くと、ノリスケが素朴な質問をする。

 もっともな話で、俺たちは「アゴアシ付きだから、連休の後半は付いて来て!」と風信子のお願いで、ここに来ている。雰囲気は林間学校みたいだけど、スケジュールが示されていないので、落ち着いてしまうと、そもそもの疑問にぶち当たってしまう。

「まず、ゲームをやってもらいます」

 そう言われて、俺の頭には飯盒炊爨とかやって、そのあとオリエンテーリングとかのイメージにになる。

「「「え、えーーーーー!?」」」

 襖が開いて、増田さんを除く三人が声を上げた。

 襖の向こうには座卓が並んでいて、座卓の上にはパソコンとエロゲのパッケージが人数分載っていたのだ。

 増田さん一人が声をあげない、たぶん意味が分かっていない、パソコンはむろんそうだし、エロゲのパッケージって、ぱっと見には、アニメの豪華版とかに見えるもんなあ(^_^;)。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

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ピボット高校アーカイ部・24『螺子先輩のチグハグ登校』

2022-09-17 14:10:45 | 小説6

高校部     

24『螺子先輩のチグハグ登校』 

 

 

 毎朝の登校風景の中には、ザックリ言って二種類の生徒がいる。

 二人以上で群れて登校する者と、一人で登校する者だ。

 

 二人以上は、まあ問題ない。学校生活を、まずまず円満に過ごせていると言っていい。

 問題は一人で登校する生徒。

 たいていは、学校に友だちが居なくて人間関係が希薄な奴だ。

 むろん、たまにだとか一時的なら問題ないんだけど、入学以来ずっと一人という奴は要注意、不登校になって引きこもりを発症してしまう奴もいるからね。

 僕も、入学してしばらくは一人だったけど、そのうち出会ったクラスメートに「おはよう」と声を掛けられたり声を掛けたりしているうちに、一言二言喋れる相手が出てきた。週に一度か二度は正門で中井さんと「おはよう」の挨拶を交わして、昇降口までいっしょに歩いたりするようになったしね。

 

 一人登校で、ちょっと目につくようになったのが螺子先輩。

 

 先輩は学校に住んでいる……ような気がしていた。

 先輩は、首が一つでボディーが二つ。部活体と日常体の二つで、部活に入る時にボディーを替えていた。

 どうも、部活体と日常体ではスペックと個性が違う。

 その日常体をろってに貸してやったもんだから、先輩は四六時中部活体。

 部活体はアグレッシブというか積極的というか元気がいい(^_^;)

「おい、道一杯に広がったら通行の邪魔だろ!」「こら、赤信号だぞ!」「スマホ見ながら歩くんじゃない!」

 登下校は、こんな調子だし、学校に着いてからでも、小姑のようにあちこちで文句を言っている。

「先輩、もうちょっと穏やかに」

「そうか、わたしは、いつもの調子だぞ」

「先輩、日常体のときは、もっとおしとやかでしたから……(^o^;)」

「あ……ああ、そうだったなあ。いかんいかん」

「分かってもらえればいいんです」

「しかし、同輩どもの日常と云うのは、ちょっとだらしがないぞ」

「こんなもんですよ、いまの高校生は」

「そうなのか」

「それに、日常体の時は、もっと女の子らしい喋り方してましたから。そんな感じで喋ってちゃいけませんよ」

「そ、そうか、あ、いや、そうなのね。螺子、気を付けるわ……こんな感じでいいのかしら?」

「ちょっと気持ちわる……」

「なんだと!?」

「あ、いえ、なんでもありません!」

「まあ、たしかに話しかけてくるやつは居なくなった感じがしないでもない……」

「自覚あるんじゃないですか!?」

「いや、日常体の行動は記録としてはメモリーに残っているんだがネットニュースのように簡略でな、どう振舞ったか、どう喋ったとかの情報は乏しいんだ」

「まあ、先輩が気にならないんだったらいいんですけど……ちょ、なんで手を繋ぐんですか?」

「いや、わたしが踏み外しそうになったら、強く握ってくれ。そうそれば、言う前、やる前に気が付く」

「だめですよ、手を繋いで登下校してる奴なんか、女の子同士でもありませんからぁ」

「つれないやつだなあ」

「ほ、ほら、小学生が変な目で見てます!」

「お前たちだって、幼稚園の頃はおてて繋いで、お散歩してただろーが!」

「子どもにからんでどうするんですか!」

「すまん、自戒する」

「いいですか、学校に入るまでは口をきいちゃいけません」

「分かった」

 ジジジジ

 変な音に先輩の顔を見ると、口がチャックになって閉まっている。

「そいうギミックはしないでください」

「じゃ、持っていてくれ」

「え……わ!?」

 先輩は、チャックを止めたかと思うと、口を拭って、唇を外して寄こした。

「もう、シュールなことはしないでください!」

『おもしろくないか?』

 手の中で、唇が喋る。初対面だったら卒倒している。

 なんとか大人しくさせて、校門が見え始めた時、先輩は一人の生徒に目を停めた。

「あいつ……男なんじゃないか?」

「あ……」

 先輩が目を停めたのは、最近女の制服を着て登校し始めた一年の男子だ。

 先生たちはいい顔をしないんだけども、ジェンダーとかにうるさいご時世なので、正面から言われることがないんだ。

「いじっちゃダメですからね!」

「ああ、分かってる」

 なだめながら、そいつを追い越そうとしたら、別の女生徒がそいつの前に立ちふさがった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・67『御籠りの五日間・1』

2022-09-17 07:07:05 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

67『御籠りの五日間・1』オメガ 




 松ネエが刺された!

 メイド仲間のもなかさんとの買い物帰り、アキバ駅の改札近くで刺された!

 もなかさんの常連客がストーカーになって、女装してもなかさんにナイフを突きつけた。

 松ネエは、とっさに飛びかかって、結果的にはストーカーをやっつけたんだけど、もみ合っているうちにナイフが松ネエの腹に刺さってしまったんだ。

「あ、もう大丈夫だから」

 病室のベッドに寝てこそはいたけど、酸素マスクもせずに、いたって元気そうだったので拍子抜けがした。

「腹膜の手前でナイフが止まったから、傷の縫合しただけなのよ」

「「「「「よかったーーー」」」」」

 妻鹿家五人の声が揃った。

 祖父ちゃんの血圧がレッドゾーンまで上がったり、小菊が泣き崩れたり、いろいろあったけどな。

「いや、小梅(祖父ちゃんの妹、オレの叔母さん)が小松って名前つける時にな『ちょっとブルドーザーみたいじゃねえか』って言ったんだけどな。いやいや、頑丈に育ったんだ。いやいや小松でよかったよかった(^_^;)」

「あ~~なんか微妙にコンプレックスなんだけど、伯父さ~ん」

 アハハハハ

 俺たちが笑うと松ネエも笑う。

「アヒャヒャヒャ……ちょ、笑わせないでよ、傷に響くぅ(;'∀')」

 一時はどうなることかと思ったけどな、とにかく一安心。

 しかし、世の中、どこに災難が転がっているか分からないもんだ。

 で、連休のど真ん中、俺は奥多摩の山中に居る。

「助けると思って付いて来てぇ(>人<)!」

 風信子に頭を下げられたのが三日前。

 俺とシグマとノリスケ、それにノリスケの彼女の増田さんを道連れに『神楽坂神社』と大書されたワンボックスカーは、この奥多摩の奥つ城にたどり着く。

 ガルパンに出てくるような大吊橋が架かった渓谷を渡ると、その奥つ城が見えた。

 石垣の上は鬱蒼とした森になっており、その森の奥に『御神楽大神神社(みかぐらおおがみじんじゃ)』が見えてきた。

「……うちの御本家にあたる神社なの」

 そう聞かされていたが、これほどだとは思わなかった。

 建物が古いわけじゃない。拝殿も本殿も新築と言っていいほどに若やいでいる。

「式年造替(しきねんぞうたい)したところだから」

「「「シキネンゾータイ?」」」

「ええとね……」

 なんでも二十年に一度建てかえるそうで、神道の「清々しさが命」を地でいっている。

 造りは小ぶりな伊勢神宮を思わせる、なんというか弥生時代の高床式を、とことん完成形にしたようなもの。

 この新しさが古いと認識できるのは「やっぱり神楽坂のネイティブね」ということになるんだろうか。

 一の鳥居の前で車を降り、歩くこと五分ほどで二の鳥居。

 二の鳥居をくぐったところで待っていると、なんだか女王卑弥呼のような女の人が二人の巫女さんを連れて現れた。

「よくぞ参られました、では、この御籠りの五日間を心静かにお過ごしなさい」

 そう言うと卑弥呼さんはバサリバサリとゆかし気に幣(ぬさ)を振る。

 振られる幣の下でかしこまっていると腹に響く音がした。

 ズズズーーーーン

「つり橋が落ちました……五日後には渡れるようになります。お平らかになさい」

 ええ( ゚Д゚)!?

 ……そういうわけで、御籠りの五日間が始まったのだった(;'∀')。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート


 

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やくもあやかし物語・155『徐福公園』

2022-09-16 15:34:10 | ライトノベルセレクト

やく物語・155

『徐福公園

 

 

 ……環境に優しい乗り物です

 

 視界が戻って目についたのが、この標語なので、いっしゅん黒電話のことかと思った。

 受話器が持ち上がってダイヤルが回って、ちょっと呼び出し音がしたかと思ったら、ここに着いている。

 電話線の中を通って来るんだから、炭素も排気ガスも騒音もないわけで、まさに環境に優しい乗り物!

 と思ったら『鉄道は環境に優しい乗り物です』という青い文字が、鉄筋の建物の幅広の入り口の上に書かれていて、JR新宮駅だということが分かる。

 視線を落とすと、目の前に緑の公衆電話。

 そうか、自分の部屋から電話線を伝って、新宮へやってきたんだ。グーグルアースよりも早いので、ちょっと感動。

 なにより、写真じゃなくてリアルだからね。うちの近所よりも日差しが眩しくて、ちょっとしかめっ面になる。

 ちょっぴり潮の香りもして、海が近いことも偲ばれる。

「ねえ……」

 振り返ると、交換手さんのコスが変わっている。

 なんと、女子高生の制服ですよ。

「あ、やくもさんと一緒なら、こういうのがいいかなって思ったもんですから(^_^;)」

「うんうん、とっても似合ってる!」

 交換手の制服の時は、ずいぶん年上のオネエサンという感じだったけど、JKの制服になると、二つぐらいしか離れてない感じで、とってもフレンドリーになる。

「ほんとうは高等女学校にいきたかったんで、ちょっと制服には憧れがあったんです」

 はにかむ顔は、もうほとんど同級生。

「あっちに行きます!」

 溌溂と指さしたのは、駅前通りを100メートルほどお日様の方向。

 

「あ、なんか中国みたい!」

 

 小走りで三十秒ほど、みかん色の瓦が雰囲気の中国式の門。

 門といっても、扉は無くって、真ん中と両脇に入り口があって、とってもイケイケ。

 横浜の中華街にも同じようなのがあるけど、それよりも大きい。

 徐福公園……と立派な扁額がかかっている。

「ヨフクコウエン?」

「ジョフクと読みます、ジョフク公園」

「じょふく……?」

「中に入ってみましょう」

「うん」

 ……そんなに広い公園じゃないんだけど、雰囲気がいい。

 真ん中に大きな木があって、その周囲に池やら記念碑めいたものやら、門と同じコンセプトの売店やら休憩所やらが並んでいる。

「あ、諸葛孔明!」

「いえ、徐福です(^_^;)」

 三国志でお馴染みって石像があったので、つい叫んでしまったら間違った。

 孔明と同じような冠で髭を生やしてるもんだから、アニメとかでお馴染みの諸葛孔明と思ってしまったよ。

「まあ、中国の学者は、みんな同じような服装ですからね」

 そう言われれば、孔明よりは恰幅がいいかも。

 というか、こういうコスの中国の人って孔明と閻魔さんぐらいしか知らない。

「なんで、中国の学者さんの石像が和歌山県に建ってるわけ?」

「徐福さんは、昔々の中国は秦という国の学者さんなんです。ええと、秦て分かります?」

「ええと……聞いたことはあるんだけどね……」

「始皇帝のご家来さんです」

「始皇帝……あ、キングダム! 政(せい)のことだよ!」

 キングダムは、小学校の頃からアニメでやっていて、お祖父ちゃんも観ていて共通の話題が出来て嬉しかった。

 お祖父ちゃんは無駄に知識があるもんで、政が皇帝になってから作った宮殿が、阿呆宮っていって、めちゃくちゃ大きくって、バカを表す阿呆(あほう)の語源になったとか、無駄な運河を作って民衆を困らせたとか意地悪ばかり言ったんだけどね。

「その始皇帝が、東南の海に蓬莱山をいただく島国があって、そこには不老長寿の薬があるそうだから、船団を仕立てて調べてくるように命じたんですよ……」

 そ、そうなのか、あの凛々しい少年王が……いつまでも、少年じゃないのは分かってるんだけどね、イメージはそうなのよ。命惜しさに家臣に無茶ブリしたんだ。

「そして、徐福は、ずんずん船を進めて、海の彼方に見つけたのが、ここ新宮にある蓬莱山だったんです!」

「え、ここにあったの!?」

「はい、この次に見に行きますけどね、徐福が見つけた不老長寿の薬はなんだと思います?」

「え、えと……」

 交換手さんはニヤニヤ笑って、早く降参しなさいって顔してるんだけど、なんせ女子高生の制服なもんで、中学の先輩にいたぶられてるみたいで、ナニクソって気になって「降参、教えて(^_^;)」にはならない。

 すると、さっき入ってきた門の前を、足早に横切っていくスーツ姿のおじさんが目に留まった。

「あ、あの人!?」

「え、知り合いの人?」

「う、うん……」

 それは、学校で、わたし以外であやかしが見える唯一の人。

 教頭先生だった!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・66『JR秋葉原駅昭和通り口』

2022-09-16 06:44:35 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

66『JR秋葉原駅昭和通り口』小松 

 

 


 うちの親がガスマスクを送ってきて、試しに付けてみたら外し方が分からなくって大騒ぎになったのは先週の日曜日。

 偶然、妻鹿家の外塀に車が突っ込んできて、外せないガスマスクのまま外に出たもんだから、ご近所はミサイルが飛んで来たのかと人だかりになってテレビに取り上げられたりした。

 でも、ま、ローカルトピックス、大山鳴動して鼠一匹てな話だった。

 あれからガスマスクは持ち歩いているんですよ。

 なにかと話題になって「見せてよ!」とせがまれ、ここのところ、わたしのコミニケーションツールになっているんだよね(^_^;)。おかげで、何度も着脱を繰り返してるもんだから、ちょっとしたガスマスクマイスター。自分で被るのも人に被せてあげるのも名人級になってきたわよ(^▽^;)。

 
 バイト明けの夕方、@ホームナンバーツーのもなかさんと買い物に出た。


 流れで、いつもとは違う昭和通り口の方にやって来たんだけどね。

 ここはガスマスク事件と同じ日に不審物が見つかって、警察の爆発物処理の車両なんかも出動して大騒ぎになったところなのですよ。むろん、規制線とかもとっくになくなって、自分の責任でもないのに『お騒がせしました』の地下鉄のわび状みたいなのが貼ってある。

 ま、おぞましい記憶を呼び戻しても仕方ない、「よいせ!」と両手の荷物を左手にまとめ、右手にスイカ(食べるスイカじゃないよ)を握る。

 改札に向かおうとしたら、再びもなかさんが立ち止まる。

「ごめん、チャージしなくっちゃ」

 直前に気づくとは、さすがに@ホームナンバーツー。わたしだったら気づかないで改札機に通せんぼされているところだ。

 お店のメイドの中では珍しい和風の美人さん。ハワイ@ホームの指導に行った時も彼女の人気は一番だった。「ごめんなさい」を自然な笑顔に載せて券売機に向かって行った。

 あれ……?

 券売機の前でもなかさんは立ち止まった、手にスイカを握ったまま。

 横にはソバージュにグラサンの女のひと……。

 二秒でおかしいと思った、二人とも券売機に進もうとしないのだ。後の人が先に券売機の前に立つ、二人目の人が追い越して、ただ事じゃないと感じた。

 磁石でくっついたように二人は券売機のコーナーから離れ始めた。

 キラリ

 動いた拍子に、もなかさんの脇腹に光るものが突き付けられているのに気が付いた。

 気づくと同時に駆けだした。

 トリャー!!

 両手いっぱいの荷物を、数歩の間に振りかぶってソバージュの後頭部にぶっつけた!

「ウガーー!」

 ソバージュは、勢いで前につんのめる。

 わたしの買い物は、五メートル四方に飛び散っている、軽いものは遠くに、重いものは足許に。

「ウワー!」「ブギャー!」

 わたしとソバージュの叫びが続く。

 足許に落ちたオリーブオイルの瓶が割れ、二人そろって滑ってしまったのだ。

 偶然だけど、腹這いに倒れたソバージュの上に覆いかぶさるように倒れていた。

 で、その感触で分かった――こいつは男だ!――

 男だと分かると、自分一人では制圧できないと思う。できなければ反撃を食らうのはわたしだ。

 腹這いになったソバージュの手には、もう光るものは無い。同時に、散らばった荷物の中にガスマスクを見つける。

――これだ!――

 ガスマスクを掴むと、ソバージュウィッグの外れた男の頭に被せた。

 マンガみたいだけど――スポッ!――と音がして男の頭にガスマスクがハマってしまった。

 予期しないガスマスクに女装の男はパニックになってのたうち回る。

 そのタイミングで、駅員さんとお巡りさんが駆けつけて男を制圧。

「パインさん……」

 もなかさんが、わたしのメイドネームを呼ぶ。もなかさんは、わたしのお腹を指さしている。

「え……」

 光るものの正体は短いナイフで…………分からないはずね、自分のお腹に刺さっていたんだ……。

 急速に目の前が暗くなっていった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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