大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部) 001・ただ今四時間目

2024-04-15 07:19:57 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)

001・ただ今四時間目                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 世の中で一番だるいものは四時間目の授業だ。


 三時間目まででなけなしの集中力は弛み切っているし、空っぽの胃袋は昼食を欲して何を見ても食べ物をイメージしてしまう。

 小山内啓介は窓側の一番後ろに座っているので、並み居るクラスメートがコンビニの棚に整然と並ぶお握りの列に見えてきてしまう。

 姫ちゃんこと姫田先生が板書の左端に付けたしの注釈を書いたので、啓介の二つ前のミリーが身を乗り出した。

――ああ、冷やし中華食いたいなあ…………――

 啓介は交換留学生のブロンドの髪もコンビニの冷やし中華の黄色い麺に見えてくる。

「4時間目て、お腹空いて眠たくなって、板書のトレースだけになってしまうよねぇ」

 姫ちゃんがチョークを置いて語り始めた。語ると言っても姫ちゃん先生はお説教などはしない。程よく脱線してみんなの脳みそを覚醒させようとするのだ。

「わたしも高校生のころは眠たかったあ……」

 そこから始まって、姫ちゃん先生は自分の高校時代を語り始める。高校の先生というのは妙なプライドがあって出身校の話は、あまりしない。
 しないからこそ効果的だろうと姫ちゃん先生は語る。教師としてツボを心得ているというよりは、いまだに学生気分、いや、高校生の気分が抜けないからだろう。

「北浜高校は校舎を建て替えたばっかりでね……」

――ほう、北浜高校やったんかぁ――

 北浜高校と云えば府立高校でも五本の指に入ろうかという名門校。初めて聞く姫ちゃんの履歴でもあり、姫ちゃんの評価は5ポイントほど上がった。

「食堂がメッチャきれいやねんやんか。きれいになると味もようなるようで、唐マヨ丼がワンランクほどグレードが上がってね」

「唐マヨ丼て、どんなんですか?」

 丼もの大好きなトラやんが聞く。

「丼ご飯の上に唐揚げが載っててね、出汁とマヨネーズがかかってんのん」

「美味そう!」と「キモイ!」の声が等量で起こった。

「ヌハハ、それで、それをテイクアウトのパックにしてもろて中庭とかで食べるのん! キモそうやけど、あたしら三年生には一押しのメニュ-やったなあ! 数量限定やったけど、あたしらの教室は食堂に一番近かったから食いぱぐれはなかった!」

 昼ご飯前に美味しいものの話をするのは反則だ。これは姫ちゃん先生の憎めない人柄だ。お腹の虫の鳴き声に閉口しながらも啓介は思い至った。

 そう言えば、世界史の隅田先生も似たような話をしていた。

「丼ものはパックに入れて食堂の外でも食べられた。府立高校ではうちだけで、ゴミの始末が問題になって一年で廃止になってしもたけどな。ぼくら3年生は嬉しかった」

 ……隅田先生は学校名は言わなかったが、同じ北浜高校だと考えられた。

「ひょっとして、姫田先生……」

「なに、小山内くん?」

 そのとき廊下を歩く隅田先生が目に入った。廊下側のセーヤンも同じことを考えていたようで、開けっ放しの後ろの出入り口から隅田先生に声をかけた。

「……ということは、姫田先生と隅田先生は北浜高校のクラスメートとちゃいますのん!?」

「「え……ええ!!」」

 二人の若い先生は教室と廊下で同時に驚いた。

 姫田先生は現代社会、隅田先生は世界史、共に社会科だから同じ部屋に居る。それも二人そろって去年の春に新任でやってきた。それが今の今まで同級生であることに気づかなかったのだ。惣堀高校二年三組の教室は暖かい笑いに満ちた。


「そやけどなあ……」


 啓介はコンビニの袋をぶら下げながら思った。

――なんや一幕の喜劇を観るようやったけど、同級生やったいうことにも気づかへんいうのは、ちょっとコミニケーション不足なんとちゃうのかなあ――

 惣堀高校は府立高校の中でも老舗で、レベルもそこそこだ。春の海のように波風がたたない。生徒も教師も温泉に浸かった猿のように平和だ。
 イジメや校内暴力とも無縁で穏やか。生徒の自主性を重んじるという伝統の下に、実質は放任されて、少々の無茶やはみ出しは見過ごされる。

――大丈夫なんかい?――

 チラとは思ったが、昼食のため演劇部の部室に入ったとたんに忘れてしまう啓介だった……。


 
 

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鳴かぬなら 信長転生記 176『三合河原超説法会・1』

2024-04-14 16:16:24 | ノベル2
ら 信長転生記
176『三合河原超説法会・1』信長 




 きらきら星が流れている。


 と言っても夜空に星が流れているわけではない。

 モーツアルトのきらきら星だ。それも冒頭の『きらきら星よ~よぞらの星よ~♪』のところをリフレインさせている。
 実際、観衆たちの中には子どもといっしょに『一閃一閃亮晶晶 滿天都是小星星 ~♪』と口ずさんでいる者もいる。
 聞法が待ちきれずに一杯ひっかけていた者たちはコックリコックリと舟を漕いでいるものも居て、御説法二日目を迎え、三合河原は静かに高揚している。

 昨日はビバルディ―の『四季』、それも春のところをリフレインしていた。

 どちらも頭にアルファ波が湧きまくり、聞く者を心穏やかにする名曲だ。

 ん?

 そこに、そよ風が吹いてきたかと思うと、諸葛茶孔明が例のハエタタキを戦がせながら近づいてくる。

「ニイ少佐……いや、悟空殿」

「おう、孔明殿も寛いでおられるのか、ウキ」

「昨日は大成功でしたね。三合の河原は、魏、呉、蜀、いずれからも等距離であるだけでなく、舟が使えることで、上流下流方向からも大勢の善男善女が集まり、初回であるにもかかわらず、聞法の聴衆は万余を数えました」

「二回目の今日は二万を超えるかもな、ウキ」

「『きらきら星』、よく思いつかれました。三蔵法師さまの御説法はボレロのリズムで始まりますからねえ、あれを最初から流してしまっては観衆たちは興奮しすぎて不測の事態も起こりかねないところでした」

「あれは……」

「ビバルディ―の『四季』の二番煎じです、諸葛茶孔明さま」

「おお、これはこれは大橋様、豊盃ではろくにご挨拶もできずに失礼いたしました」

「いえ、丞相さまもご健勝でなによりです。豊盃でのプログラムしか持ち合わせておりませんでしたので、とっさに『これをお掛けなさいませ』とカセットテープをお出しになった機転には頭が下がるばかりです」

「いや、お恥ずかしい。蜀の田舎者ですので、未だにウォークマンで聞いておりますので」

「いえいえ、お年寄りの中にはカセットテープの味わいが懐かしいと喜んでいる人たちも居ましたよ」

「いやはや、汗顔の至りです。しかし……この河原の整備も見事なものです」

「たしかに……すり鉢状に造成された聴衆席、説教壇、照明音響設備、突貫工事のようではありますが、みな適切。将来を見込んで隣り合う河原も造成のための縄張りが済んでいます」

 俺も気づいていた。

 この河原の造成は、少し行き届きすぎている。

 むろん三国志最大最高の規模と実力を兼ね備えた大国魏。その気になればこの程度の作事やプロディーユースは何でもないのだろうが、曹操は長江の上流で堤防を築くことにも忙しいと聞く。

 俺も前世ではいつもどこかで大規模な作事をやっていた。むろん作事の指揮を執るのは将官クラスの家来共。

 家来共にはそれぞれ癖があった。柴田勝家は頑丈なものを作るが、面白みが無い。サルは何を作らせても見事で明るく。光秀も綺麗で見事なものを作るが、なんとも辛気くさくて肩が凝った。滝川一益は何にでも忍者の仕掛けを忍ばせて、ちょっと危なかった。家来ではないが、家康は地味、正直趣味的には使えなかった。

 それと同様の癖が、この河原の作事にも現れているはずなのだが、今のところは――行き届いていいる――という匂いだ。

 ひょっとして裏があるのかもしれないが、曹操のことは茶姫を通しての知識しかない。

 予断を持ってしまうと目が曇る。

 かつては信玄を恐れるあまり、三年も死んだことに気付かず時間を無駄にした。荒木村重を説得に行かせた黒田官兵衛が戻ってこない時は裏切りと思い込み人質の息子を殺した。サルの機転でじっさいには殺さずに済んだが、救助された官兵衛を見た時「あ、有馬の湯が効くぞ!」と声を上ずらせてしまった(-_-;)。

 言葉には言霊がある。

 だから、大橋も孔明も、それ以上には口にしない。

 見る限り聞く限りの情報では曹操という男、権力を持ったサイコパスかと思っていたが、違う尺度で見なければならないのかもしれない。

 ん?

 きらきら星がボレロのリズムになってきた。

 三蔵法師の三合河原超説法会は二日目を迎えようとしている。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第139話《9個目の招き猫……たぶん》

2024-04-14 08:28:19 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第139話《9個目の招き猫……たぶん》さくら 





 前々から言ってるけど勉強は好きじゃない。


 だから、中間テストも後半だっちゅうのに身が入らない。

 日本史のテストなんか、暗記したこと全部書いたら、見直しもしないでい眠ってしまう。そんで蟻さんとお話しする夢なんか見てしまう。一昨日は、試験の後、家の近所まで帰っていながら公園に寄って、ガキンチョのころから乗り慣れたブランコに腰かけて二時間。アンニュイに身を任せながら、結論も出ないあれこれをもてあそんでいた。

 残っている教科は昨日すませた。ノートやプリント見て、出そうなところをゆっくり読んで、一回ずつ紙に書いておしまい。もう一回やったらプラス5点くらいは取れそうなんだけどやらない。

 ボンヤリ紙に書いていて、引っかかったのは国語。
 
 小説の単元で習った太宰治の『富岳百景』。

 太宰は中学で10個ほど読んだ。読んだ中に『富岳百景』もある。いまさら違う解釈とか読み方されたら、最近ハマってる魔法使いアニメの弟子のようにムスっとしてしまって気分悪いからノートとってもらったプリント残してるだけ。

 漢字の読み、代名詞の「それ」とか「あれ」が何を指すかを斜め読み。
 読書力というか本を読む馬力はあるから、抜粋しか載っていない教科書を5分で読んで、文庫の省略無しのを一回読み直す。

 それからノートの中身を少しだけ力を入れて紙に書く。線を引いたところは、もう一度線を引く。

「富士には月見草がよく似合う」「棒状の素朴さ」「富士はなんの象徴か」「単一表現」とはなにか。プリントの答えを丸のまま頭に入れる。こういうことの答えを全部集めても、『富岳百景』は分からない。

 例えば「富士」というのは「軍国主義・封建主義・当時の文学などの権威」などと書けば正解。だけど、あたしは、これでは収まらない。権威の否定だけで納得できるほど人生は甘くない。太宰だって、そう思っている。それでも掴みきれない自分のいらだちが見えてこない。でも、そんなことを書いたって減点されるだけ。だから考えない。

 軍国主義への反対? 笑わせちゃいけない。太宰は、そこまで考えて書いていない。御坂峠の茶屋の母子に癒される……とんでもない。
 あの茶屋の主人は戦争に行って中国大陸で戦っている。もし、戦争というものの権威に反対するなら、太宰ほどの文才があれば、別の形で書いている。失礼だけど、教えてくれた国語の先生は、こんな事実も見落としたまま授業をしたんだ。あの先生の授業からは太宰の苦悩も、そこから出てくる命がけのユーモアも分からない。

 今日は録画したまま見てなかったロボットアニメを見た。わたしが生まれるずっと前からやってる国民的アニメ。

 なんで中学生が、ここまで苦しんでロボットに乗り込んで、正体不明の敵と戦わなければならないのか? 観ても読み込んでも答えは出てこない。主人公が痛々しい。

 あたしの勝手な思い込みかもしれないけど、作者も「敵」の意味よく分かってないんじゃないだろうか。分かっていないからこそ、面白いと思っちゃうんだろうな。太宰の「不安」と共通する曖昧さ、漠然さ。それが「青春なんだよ」と言われても、あたしは納得しない。

 納得しなくても最終話まで観てしまう、観させてしまうんだからすごいよね。やっぱりすごいアニメなんだ。


「あ、しまった!」


 お母さんが台所で叫んだ。どうやら生協に注文しておいた食材に、注文のし忘れがあったみたい。

「あたし、行ってくるよ」

 アニメも最後まで観て「思わせぶり」を納得。当然消化不良。で買い物に行く。

 買い物は良い。メモしてもらったものを駅前のスーパーまで買いに行って、帰ってくる。お母さんが感謝してくれる。そして晩ご飯は滞りなく食卓に並ぶ。

 あたしは、こういう単純な問題と、問題解決が好き。

 一度はアイドルとか俳優になる夢を見た。確かに夢なんだろうけど、実際に、そんな人生を途中まで生きていたような気がするけど、あれは長い白昼夢。でなかったらパラレルワールドのわたし。なんかの拍子で、あっちへ行って戻ってきたんだろう。
 もしくは、向こうに戻っていないか。言えることは、どっちも生まれ育った世田谷は豪徳寺で起こったということ。どんな生き方をしようと、生まれ育った豪徳寺から道が伸びていくんだ。やっぱり不器用なんだろうね。

 長い話に付き合ってくださってありがとう、中間テストが終わったら豪徳寺名物の招き猫を買いに行きます。

 めったに行かない豪徳寺駅の向こう側、新しいファンシーショップが出来ているのを発見。そのウィンドウに可愛い招き猫があるのを発見したから。むろんレトロに作られた新製品。ひょっとしたら焼き物でさえなくてプラスチックかもしれない、高校生が、ふと買ってみようかと思うくらいの値段だしね。

 これで、うちの招き猫は8個……9個目、たぶん。

 9個目は机の上に置いて、新しい温故知新が湧いてきたらね、またお目にかかります。


 佐倉 さくら


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銀河太平記・215『納骨の旅・2・甲府』

2024-04-13 11:42:50 | 小説4
・215

『納骨の旅・2・甲府』ミク 





「甲府盆地はハート形なんですよ」


 お墓に行く途中の坂道で振り返ると、和尚さんは景色を撫でるようにして言った。

「うわぁ…………」

 つられて振り返ると、笛吹川、釜無川、富士川と、それに沿って走っているリニア路線がハートの骨のように見える。

「勘十郎は血管だと言うとりました」

「血管ですか?」

「血管じゃったら、一本余計じゃろと言うてやると『一本は気脈じゃ』と笑うておりました。奴は、甲府盆地を日本の心臓のように思うて子どもの頃から喜んでおりました」

「気宇壮大な子供だったんですね」

「はい、実は甲府の下には三つのプレートがせめぎ合っておりましてな。ユーラシアプレート、北米プレート、フィリピン海プレート。その境目が三つの川です」

「そうなんですねえ……」

 先生の実家を探すのはダッシュの力もあって、そう難しいことじゃなかった。

 山梨県の甲府にある旧家が先生の家で、家系をたどれば武田信玄の参謀だった山本勘助に繋がる。そう、本姓は姉崎でもなく山野でもなく山本。

 山本の家は令和の時代からエコ発電の関連部品の製造で力をつけ、この二十三世紀でもパルス燃料の端子製造では結構なシェアを持っている。
 
 三つのプレートがせめぎ合うように、山本の家は跡継ぎを巡って争い、それに嫌気がさした先生は、苗字を山野に変え、いろいろあった末に静かの海戦争で傭兵をやっていたわけなんだ。

 甲府のお墓に納めるには少し迷った。先生自身嫌気がさして飛び出した家だからね。

 そして、山本の家は衰退というか、甲府では消滅していた。

 外国の会社と提携したのが20年前で、そのあと、いろいろあって会社は社名だけ残して外国企業になってしまった。

 そして、先生の最後の姿を見て、ダッシュと二人、山本のお墓に納めるべきだと思った。

「いやあ、けっこうあるんですねえ」

「バテましたか?」

「いえ、大丈夫です」

「うちのお墓は寺よりも古いんですよ」

「え、そうなんですか?」

「おそらくは弥生時代からの墓地です」

「や、弥生時代!?」

「ええ、山の斜面に南面して墓を作ったのが最初です。600年前にうちの寺ができた時に引き受けたんです。墓というのは、常日頃から管理が必要ですからねぇ……さ、着きましたよ」

「うわぁ……」

 山の斜面が三段、ところによっては五段になって、ざっと千基ぐらいのお墓が並んでいる。

「ところどころ抜けてますねえ」

「はい、墓じまいをされた家もありますし、月や火星に移住する時に移されたお墓もあります」

 そうか……そう言えば、姉崎すみれさんのお墓も地球からご先祖ともども移してこられたお墓だった。

「山本のお墓はこちらです」

 墓地全体に合掌した後、三段上の区画に上る。

「立派なお墓ぁ」

 上様に招かれてお城の奥に上がった時、チラリと見えた将軍家のお墓を一回り小さくしたような立派なお墓だ。

「いえいえ、なかなか行き届きません……これは、少し掃除してからだなぁ。お手伝い願えますか?」

「はい、喜んで」

 よく見ると、墓石もくすんで、墓域の端っこの方は草が生えたり枯れ葉が溜まったりしている。

「道具がいりますねえ……少々お待ちを」

 和尚さんがハンベをクリックすると、麓の方からガシャガシャと音がして、四足歩行の作業機械が上がってきた。

「檀家さんから農作業用の型落ちを譲ってもらいましてね」

「すごいですねぇ、三世代前のピックアップですよ!」

 ガッシャン プシュー

『ソウジガスンダラ ジブンデ ドウグハモドシテクダサイ』

 すごい、自己収納機能すらも無いんだ(^_^;)

「さ、やりましょうか」

「はい!」

 なんだか、学校時代に奉仕活動をやってるみたいで楽しくなってくる。

「でも、少しは手入れされてるんですねえ、他のお墓はもっと荒れてるのがありますよ。やっぱりお身内の方が?」

「いえ、この十年余りはどなたも……」

「でも……」

「たまに家内と二人で……」

「ああ、そうだったんですか!」

「あ、今のは内緒です。他のお墓は行き届いてませんから」

『シンガタ カエバ ヤッテクレマス カタログダウンロードシマショウカ?』

「今はいいよ。どうもCM機能はしっかりしているようで(^_^;)」

「あはは、あ、ごめんなさい」

「いえいえ、勘十郎は家内の先輩なんです」

「え……」

「わたしは高校の同期で、ま、そんな縁もありましてね……」

 和尚さんの横顔にほんのりと朱がさす。

 ひょっとしたら、なにかドラマめいたことがあったのかもしれない。

 一通り手入れも終わって納骨。

 こんど扶桑に戻ったら、作業機械のいいのを見繕って送ろうと思った。

 だって、わたしとダッシュの出せる供養料ってたかが知れてるしね。


 いい汗をかいて、甲府からリニアに乗って東京を目指す。

 たった一日だけど、9年前の修学旅行を偲んでみようと思う。

 ピーヒョロロ……

 発車までの僅かな時間、お弁当を買って空を見上げると、トンビがきれいに輪を描いた。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第138話《おとついの蟻さん?》

2024-04-13 06:57:13 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第138話《おとついの蟻さん?》さくら 




 コップに半分の水をどう表現するか?


 もう半分しかない派と、まだ半分有る派に分かれる。

 わたしは「まだ半分有る」派のお気楽人間。

 だから、デフォルトのわたしは夏休みが半分過ぎても、小遣いが半分になっても「まだ半分有る」と、ポジティブに生きている。

 でも、今度の中間テストでは逆だった「もう半分終わった!」と思って、マクサと恵里奈とついカラオケでハジケテしまった。まあ、女子高生の自称『ナントカ派』なんてあてにならないんだろうけど。

 一応は、マクサの家でお勉強という名目だったけど、10分もたつとガールズトークになってしまった。

 昨日の日本史のテストで居眠りして『蟻さんの夢』の話をしたのがよくなかった。マクサも恵里奈もケラケラ笑って勉強にならない。

「ちょっと休憩にカラオケでもいこっか!」

 お気楽が伝染した恵里奈が言いだした。言いだしべえは恵里奈だけど、三人とも同じように気が弛んでいたことは確かだ。けっきょくマクサんち近くのカラオケで5時まで遊んでしまった。夢の中の蟻さんが言ってたシンパシーなんだろうけど、気持ちの発信者はわたしだ。それくらいの自覚はある。


 三人それぞれ家に帰ってから、今日のテスト勉強はしてるので、ノープロブレムっちゃ、それまでなんだ。だけど、めっちゃきつかったし、朝は久々にお母さんに起こされた。

「また、髪の毛乾かさずに寝たでしょ」

 怒られた。

 お母さんはフェルンじゃないから櫛なんかかけてくれないし、久々にヘアピンをXの形につけて学校に行く。電車の窓に映った顔はショボショボでエルフの魔法使いそっくり。でも、魔法なんて使えないし奇跡も起こらなくてみっともないだけ。

 ダスゲマイネ

 久々に呪いの言葉まで浮かんで気持ちは完全にブルーだ。

 高校二年にもなろうかと言うのに、わたしは一年先の自分も見えていない。で、マクサや恵里奈のようにクラブとかにどっぷり浸かって高校生活をエンジョイしきっているわけでもない。その時その時の面白いことに引きずられ騒いでいるだけだ。

 お姉ちゃんは大学に行きながら出版社でバイト。近頃ではバイト以上の能力を発揮して記事のネタを拾っている。こないだの兵隊さんの髑髏ものがたりが大ヒット。むろん編集責任は本業の編集者になっているけど、中身はお姉ちゃんが集めてきたものだ。

 お姉ちゃんは、確実に自分の道を探り当てつつある。

 そうニイは、海上自衛隊の幹部で、全身生き甲斐のカタマリ。たまに帰ってくると、妹としてはとても眩しい。そうニイには、相変わらず無邪気でわがままな妹一般で通している。兄貴は「相変わらずのガキンチョ」だと思ってるだろう。

『ゴンドラの唄』が少しブレイクしかけた。SNSのアクセスも沢山あって、スカウトなんかも少し来た。

 でも、あれはひい祖母ちゃんが歌っているのといっしょ。けしてわたしの力なんかじゃない。それはわたしとひい祖母ちゃんだけの秘密なんだけど、お姉ちゃんは知ってか知らでか、わたしが、流れのままにそっちにいく道を閉ざしてくれている。

 本当は、今日の午後はラジオ出演が決まっていたんだけど、お姉ちゃんがNGにしてくれた。

 テストは赤点じゃないだろうけど散々だった。親友二人もさすがに直帰。

 帰りの電車に乗ろうとパスを出すと、カバンに着けた招き猫の金具が指に当って血が出てくるし。

 家の近所まで帰りながら、わたしは近所の公園のブランコに揺られている。子供のころから乗り付けたブランコ。わたしは、いつまでこうしているんだろう……。

 足許を蟻さんが歩いている。じっと見つめていると、ふいに蟻さんが顔挙げてわたしを見たような気がした。

 おとついの蟻さん? まさかね(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・092『新学年は2年3組』

2024-04-12 10:04:42 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
092『新学年は2年3組』   




 関西で新学年の二日目でクラス替えをやった中学があった。

 三年生だけなんだけど、臨時休校にしてクラス替えをやり直したというから一大事なわけで、全国ニュースになっていた。


 それと同じくらいの一大事がうちの学校でもあった!


 なんと、新しい二年のクラス、お仲間のほとんどがいっしょの2年3組!

 ロコ、たみ子、真知子、佳奈子、それにメグリ(わたし)の五人はもちろんのこと、委員長の高峰君や10円男の加藤高明なんかもいっしょなんだ!

 そして、担任はコワモテの藤田先生じゃなくて、4組の担任だった花園先生だよ(^▽^)!


「これはね……」


 真知子が腕組みしながら前かがみになる。つられてわたしたちも顔を寄せる放課後の食堂。

「去年の4組って、ちょっと大変だったみたいなのよ……」

「「「「ああ……」」」」

 4組は文化祭前に栗原さんが亡くなって、急きょ担任の花園先生が栗原さんがやるはずだったジュリエットの役をやった。

 本番は大成功で、ご両親も感謝されていたという話だけど、どこかギスギスしているという噂はあった。
 他にも生徒同士のトラブルや、授業の先生との行き違いとか、結果的には丸く収まったということだったけどね。

「担任にしたら、すごいプレッシャーだったと思うのよ」

「「「「うんうん」」」」

「初めての担任だったし、これ以上こじれたら、ね……」

「分かります! 花園先生辞めちゃうかもですね!」

「声大きい」

「すみません(;'∀')」

 たみ子に言われて首をすくめるロコ。みんなは、さらに首を寄せる。

「それで……自分で言うのもなんだけど、学年でいちばんまとまりのある5組の主要メンバーを花園先生のクラスにいれたんだと思う」

「「「「そうなんだ!」」」」

「これは責任重大です!」

「……生意気な言い方かもしれないけど、ちょっと甘いんじゃないかな」

 佳奈子が少し身を起こす。

「なんでですか?」

「もし、花園先生が教師を天職だと思うんなら、少々むつかしいクラスでも担任すべきだと思うよ。若い時に楽しちゃったら、あとが大変だと思う」

 佳奈子は二年になったばかりだというのにバレー部の部長をやらされている。三年はさっさと引退しちゃうし、新入部員はまだ思うほどには入ってないらしいし、そういう身の上と引き比べると、微妙に批判的になる。

「ごめん、やっぱクラブ気になるから行って来る」

 佳奈子はカバンを抱えて食堂を出て行く。でも、少し行ったところで明るく手を振って、けなげに体育館に駆けていった。


 そして、わが身のラッキーさを感謝し、新クラス2年3組の無事を祈るために近場の宮之森神社にみんなで行った。


 ジャララ~ン  パンパン

 お作法通り鈴を鳴らし二礼二拍手一礼して神頼み。

「えと、ここの御祭神てなんだたっけ?」

 お願いしてから、たみ子が不敬なことを言う。

「八幡様ですよ、誉田別命(ほんだわけのみこと)、応神天皇ですね」

「あ、そうだったんだ」

「知らずにお願いしてしまったぁ」

「じゃ、もう一回お詫びも兼ねて」

 真知子の音頭で10円のお賽銭を入れて、もう一回頭を下げる。

 帰りにお守りを二つ買う。

 一つは花園先生に、もう一つは佳奈子に。

 
 お金を払って顔を上げると、なんと巫女さんは御神楽さん( ゚Д゚)!

 ビックリしていると、口の形だけで――アルバイト――と言ってウィンクした。

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第137話《さくらの中間テスト》

2024-04-12 06:51:53 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第137話《さくらの中間テスト》さくら 




 朝からやってもちゅうかん(昼間)テスト……なんて親父ギャグが出てくる。

 フゥワ~~( ´⚰︎` ) 

 あくびを噛み殺す……要は退屈なんだ。

 今は二限目の日本史。日本史って暗記科目。だから暗記したことをみんな書いたら、あとは退屈なだけ。

 終わりのベルがなるまで、あと15分……ちょっと長い。

 あ……気が付いたら答案用紙の端っこに招き猫の落書きをしている。

 〇と△を組み合わせた保育所の頃からの定番。

 日本史の先生は、こういうの嫌がるから消しておく。

 消したあと、息を吹きかけて消しゴムのカスを飛ばす。

 おやぁ……?

 気づくと机の上に蟻が歩いている……消しゴムのカスに出会って、触角で何ものなのか確かめている。

「バカね、それは消しゴムのカス。食べ物じゃないわよ」

 教えてやると、まるで、それが聞こえたみたいに蟻が触角を停めてこちらを向いた。

「そんなこと分かってるわよ」

 蟻が口をきいた。

「え?」とは思ったけど、さほどには驚かない。あたしはひい祖母ちゃんの霊とだって話ができる。

「んじゃ、どうして、そんなカスに興味があるわけ?」

「考えてるのよ、なんの役に立つか」

「蟻さんが考える?」

「バカにしちゃいけない、蟻だって考えるわ。人間とは考え方が違うけど」

「どう違うの?」

 蟻さんは、直射日光が苦手なようで、机の日陰になっている方に移動した。

「蟻はね、情報を共有して、何万匹って蟻が一斉に考えてるの。それぞれ何万分の一かの脳みそ使ってね」

「なんだか、あなたって話し方が女っぽいけど、女の子?」

「そんなことも知らないの? 蟻はみんな女の子よ」

「へえ、女の子ばっかでたいへんなんだ。そうだ、昔から不思議だったんだけど『アリとキリギリス』の結論て二つあるじゃん。どっちが正しいの?」

「ああ、最後に蟻がキリギリスを助けるか見捨てるかね?」

「そうそう。保育所のころは、助けるって聞いたんだけど、お父さんの図書館で調べたら、蟻はキリギリスを見捨てるの。どっち?」

「両方とも不正解よ」

「両方とも!?」


 あやうく大きな声になるところだった。


「蟻とキリギリスはコミニケーションなんかとらないの。死んだキリギリスは解体して食糧にするだけ」

「へえ、そうなんだ……」

「ちなみに、元のイソップ童話は見捨てることになってるけど、あれは寓話だからね。それと人間だって蟻が持ってる能力が少し残ってるのよ」

「ほんと?」

「サッカーとか野球とかバレーボールとかの団体競技、なんか全員で一つみたいになることあるじゃない。あれって、蟻同士のシンパシーといっしょね」

「ああ……なるほどね」

「さくら、あなた答え間違ってるわよ」

「え、どこ?」

「硫黄島の読みは『いおうとう』太平洋戦争は『大東亜戦争』が正しいの」

「え、だって、こう習ったよ」

「教えてる方が間違えてるの。注釈付けて書き直す。ほらほら!」

「でも、だって……」

 意志が弱いので書き直すけど、口ごたえしてしまう。

「その読み方と、呼び方は戦後アメリカが日本に強制した呼び方。日本人なら正しい表現をしましょう」

「蟻さんが、どうして、そんな昔のことまで知ってるの?」

「言ったじゃない、蟻は情報を共有してるって。共有って横だけじゃなくて縦にもね……」

「縦って……むかしむかしのこととか?」

「そう、さくらだってひい祖母ちゃんとお話しできるじゃん。それの、もっとすごいの。さあ、もう時間ないわよ急いで急いで!」

 あたしは急いで書き直した。最後の(。)を打ったところで鐘が鳴った。

 鐘が鳴ったら目が覚めた。答案は……ちゃんと書き直してある。消しゴムのカスもきれいに無くなっていた。

 カスにも使い道はあるらしい。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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やくもあやかし物語2・041『ネルの手紙と手袋の穴』

2024-04-11 11:20:58 | カントリーロード
くもやかし物語 2
041『ネルの手紙と手袋の穴』 





 昔の樺太を見せてあげられなかった……と、交換手さんは、少し申し訳なさそう。

「ううん、そんなことないよ」

 ひとことだけ受話器に言って、こんどの樺太へのプチトラベルはおしまい。

 チャンチャン焼き食べたし、間宮林蔵の記念碑見たし、デラシネもいつも通り教室とかに来るようになったし。


 ドッヒャアアアアア!!


 ネルがあぐらかいたまんまベッドの上で飛び上がった。

 手に手紙を開いたまま、胸と耳がプルンと揺れて、ベッドがすごい悲鳴を上げた。

「ヒヤ!」

 あやうく針で指をつくところだった!

 ほら、樺太に行くとき、御息所用にデラシネから手袋を借りたじゃない。こっちに帰って見ると親指の先が破れていて、それを繕っているところだった。

「もお、ビックリするじゃない、どうしたのよ(>△<)!?」

「ごめん、ちょっとショックなことが……」

「その手紙ぃ?」

「うん、お祖父ちゃんが、学校に来るって……」

「え、ネルのお祖父さん!?」

 いっしゅん自分のお祖父ちゃんの顔が浮かんで、思わず嬉しい声になってしまった。

「やくもが思ってるようなジジイじゃないから……」

 ネルは、ガックリと肩を落とした。

 エルフは耳にも気持ちが現れるんで、耳も雨に打たれたリボンのようにしおたれてしまっている。

『ちょっとぉ、目が覚めてしまったわよぉ……え、どうかした?』

 机の引き出しが半分開いて御息所が顔を出す。

「ちょっと、外に出てる……」

 耳を萎れさせたまま、ネルは部屋を出て行ってしまった。

『どうしたのネルのやつ?』

「うん、お祖父さんが学校に来るって……」

『ふうん……あ、手袋に穴空いたのぉ?』

「あ、うん、戻ってきたら穴が開いてて、借り物だからね、ちゃんと繕って返さなきゃね」

『元から破れてたんじゃないの、親指って、お土産用に開けてたし……あ、血がついてるし』

「え、あ……!」

 さっきビックリして、指を刺してしまったんだ。

 トントン トントン

 ティッシュで叩いて、なんとか血をふき取る。

『けっきょくお土産は無かったけどね……』

 そう言いながらも机の中からサビオを出してくれる。

「ありがとう、優しいところもあるんだ」

『当たり前でしょ、これでも元々は東宮妃よ、御息所の呼び名は伊達じゃないのよ。じゃあね、もうひと眠りするから』

「ええ、まだ寝るのぉ?」

『春眠暁を覚えずよ、文句ある?』

「あはは、まあ、いいけど」

 チン

 引き出しが閉まると、窓に小石がぶつかる音。

 窓を開けると、下でハイジが手をメガホンにして「メシ、いくぞお!」と叫ぶ。

 そうか、今日はハイジが楽しみにしていたクジラの大和煮のカツが出るんだ。

 サビオを巻きながら部屋を出る。

 ネルを探さなきゃね。

 トン トン トン……

 階段を一段飛ばしで降りていくと、踊り場にデラシネ。

 手のひらに何かを載せてシミジミしてる。

「どうかした、デラシネ?」

「あ、お土産落ちてたから」

「え?」

「ほら、御息所の手袋」

「え、やっぱりお土産入ってた?」

「うん、これ」

 突き出した手のひらにはフィギュアの付属品みたいな小さな槍が載っている。

「え、槍ぃ?」

「うん、やくもにあげる」

 そう言うと、二段飛ばしで階段を下りて食堂へ走って行った。

 リアルに食べられるわけじゃないけど、やっぱりみんなで食べるのが好きみたいだ。

 窓からの光にかざして見ると、槍の柄には『おもいやり』と小さな小さな字で彫ってあったよ。


☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第136話《髑髏ものがたり・8》

2024-04-11 07:09:24 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第136話《髑髏ものがたり・8》さつき 





「困ったなあ……」


 自薦他薦合わせて五組も阿部中尉の遺族が名乗り出たのだ。

 遺骨の管理権は一応トムから託されたあたしにある。そんでもって、トムに預けたアメリカ人のアレクのひい祖父ちゃんも「日本の遺族に返してほしい」という希望だった。
 DNA鑑定までやってるんだから、それをもとに一番血のつながりの濃い遺族に渡せばいいんだけど……ためらいがある。

 話が大きくなりすぎているのだ。

 下手をすれば、遺族の手によって見世物にされる恐れがある。現にあたし個人にもマスコミからの取材の申し込みがあった。ただバイト先の雑誌社が正面に立ってくれて、遺骨の髑髏そのものを見せることはひかえてきた。

 遺族によっては、髑髏を見世物にして取材費用や拝観料をとって一儲けすることも考えられた。現にいくつかの番組制作会社からは、かなりの額の取材費の申し込みもあった。それは雑誌社を通して断ってもらっている。今のところ厳密なDNA鑑定を遺骨と「遺族」のみなさんにやってもらって時間を稼いでいる。

「あまり気にやまなくってもいいよ」

 阿部中尉が現れて、直接あたしに言った。思わず叫び声をあげるところだった。

 だって、お風呂の中なんだもん(>o<)!

「この家で二人きりで話せるって、お風呂かトイレしかないからね」

 トイレは問題外だ。こっちを向かないことで妥協した。

「この七十年で見世物になるのは慣れっこだよ」

「だからこそ、もう阿部さんを見世物にしたくないのよ」

「それより、こんなことで君を悩ませている方が気詰まりだよ」

「でもね……」

 気づくと阿部さんが背中を流してくれていた。恥ずかしい気持ちはどこかへ行ってしまった。

 あたし、少しずつ阿部さんのことを好きになり始めていた。


『そんなことだろうと思った』


 そう電話してきたのは、さくらの『ゴンドラの唄』でお世話になった恵庭さんだった。

『明日、わたしの家にいらっしゃい。阿部中尉もいっしょに』

 ホンダZに阿部さん乗っけて、二輪さんちにいった。

「さつき君の車が玩具に見えるね」

 阿部さんが無邪気に言う。ごっつい外車が4台も並んでいては、ホンダN360Zはたしかにオモチャだ。

「阿部中尉さん、こっちに移ってもらうわ」

 恵庭さんが出したのは30センチほどの日本兵のブロンズ像だった。

「これはね、高村早雲さんて彫刻家さんが戦友の慰霊のために作ったブロンズ。昨日すこし手を入れていただいて、階級章を中尉にして……ほら、台座の下に『陸軍中尉 阿部忠』って、入れてもらったの。阿部さん、こっちなら移り甲斐もあるでしょ?」

「よく出来ていますねぇ。いいですよ、こっちに移ります」

 阿部さんは、あっさりとブロンズに移ってしまった。

「はい。これで遺骨はただの髑髏。だれに渡しても平気よ。ブロンズはさつきさんがお持ちなさい、気の済むまで。いつか好きな人が出来たら、あたしのところか、近くのお寺にお納めすればいいから」

 結果的には、お兄さんのひ孫にあたる遺族のところに遺骨は引き渡された。案の定、ひ孫は取材やSNSやらで一財産稼いだ。

「でも、あれでいいんだよ。取材のためだけど、仏壇買って亡くなった兄貴の供養までやってくれたからね……え、ちょっと、どこへ連れていくんだね?」

「ブロンズの阿部さんは、もう我が家の一員ですからねぇ」

「え、あ、それは光栄なんだが……」

 阿部さんをリビングの棚、招き猫たちの真ん中に安置する。

 お母さんが面白がって、フェルトで兵隊の帽子を作って猫たちの頭にかぶせる。

 猫たちの手が敬礼みたく見えて、我が家の守護神部隊のようになった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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鳴かぬなら 信長転生記 175『検品長の判断』

2024-04-10 17:59:29 | ノベル2
ら 信長転生記
175『検品長の判断』検品長 




「やっぱり辞めるのかぁ?」

 最後の帳面を閉じながら、残念そうに頭を掻く親方。

「ああ、どうせなら家族そろって快気祝いをやってやりたくてな」

「そうか、一家の主としてはそうだよな。まあ、最初から嫁さんの治療費を稼ぐためだって言ってたもんなあ」

「すまない、帳簿も検品のやり方も信栄に教えておいたから、あいつなら間違いはない」

「帳面と物の管理は品長、お前の右に出る出る奴はいないんだがなあ……」

「いやぁ、無事に仕事ができたのは親方の引き立てがあったればのことだし、なによりも曹操様が信賞必罰の労務管理をされてきたからさ」

「ちげえねえ、俺も去年まで追いはぎの頭目だった自分が信じられねえくらいだ」

「親方は先を見る目が確かなんだよ、先の見えなかった奴らは大方消えるか晒し首になってる」

「だな……じゃあ、ま、これ少ないけど餞別だ」

「いや、わたしの我がままで抜けるのに、もらえないよ」

「いやいや、ほんの気持ちだけだから。まあ、俺の善人修業だと思って受け取ってくれ」

「そうかい……そうか、じゃあ遠慮なく」

「ああ、じゃあ、縁があったら、またどこかでなあ」

「こっちこそ、ほんとうに世話になった」

 頭を下げると、飯場に戻り荷物を纏める。少し不安顔の信栄の肩をたたき、午後の仕事に出かける馴染みに声をかけながら、作事場の脇を通って工区の門を出る。

 門を出ると、近ごろ赤壁街と名前の付いた仮設店舗というかチョイマシのバラック商店街。

 先月にも増して工事関係者だけでなく、一目この大工事を観ておこうという観光客も増えてきた。

 ほう……舞台ができてる。

 商店街の中央では、いつからか自然発生的に歌ったり踊ったりする者たちが集まり始めた。客寄せにもなり、工事人足たちの慰労にもなるので、魏王も奨励し、先週は魏王賞が設けられ月間賞が出されることになった。

 舞台では、最近街に居ついた扶桑娘が切れのいいダンスパフォーマンスを披露している。

 なかなか巧いもんだ……思わず見とれる。 

 茶姫様の消息が知れないいま、慌ててここを出る必要もない。

 しかし、用心のためだ。

 先週、魏王の巡察があって、現場で納入資材の点検をしている時、巡察中の魏王と目が合ってしまった。

 魏王曹操は我が主・曹茶姫の兄であり、茶姫さまへの敵認定が無ければ主筋にあたる。

 しかし、今は怨敵。

 魏王からすれば、こちらは裏切り者、正体がバレてはただでは済まない。

 だから、かねてから「病気の妻のために働いている」ことを種に、ここを抜けることにした。

 おお!

 舞台を取り巻く観客たちからどよめきが起こる。

 扶桑娘が決めポーズでフィニッシュを決めると同時に目を押えた。

 愛すべき舞姫にトラブル!? 

 そう思って、主に男どもが声を上げたんだ。

 あ、コンタクトレンズが外れたのか。

 目を庇う所作で見当がつく。一瞬、コンタクトの外れた左目が見えた。

 思いのほかの三白眼……ん……この顔?

 訝しんだ時には、すでに扶桑娘はコンタクトを装着し終わり、満面の笑顔で、観衆のオベーションに応えている。

 この娘は、洛陽や豊盃に行っても一流のダンスパフォーマーとして通用するかもしれない。

 いかん、こんなところでグズグズしてはいられない(-_-;)。

 総門を出ると堤上の街道に上下二段の晒し首の台が見える。

 工事の初期に乱暴や不正を働いた者たちの首が晒されている。

 どれもミイラ化したり、古いものは白骨化している。

 この百を超える晒し首こそが、魏王・曹操の正体を示している。

 いまは、温情デベロッパー君主の顔をしているが、いつ、その本性を現すか……確証は無い。ひょっとしたら杞憂に過ぎないかもしれないが。

 ともかくは道を急ごう、北へ二里の町に行けば、前日抜けた備忘録が待っている。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第135話《髑髏ものがたり・7》

2024-04-10 09:40:12 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第135話《髑髏ものがたり・7》さつき 




 イケメン中尉さんが戸惑ったような顔して桜子さんのやや後ろに立った……ところで目が覚めた(^_^;)。


 新聞の反応は直ぐには出なかったけど、翌週、うちの雑誌が出たころから反応があった。

 反応は二種類。

 戦死者の首を切って骨格見本のようにした猟奇性と残虐性への表面的な興味。いわゆる怖いもの見たさ。

 それと戦争犯罪とまで主張するラディカルな反応。戦闘地域や時期がはっきりしているので、当時のオーストラリアの部隊や兵士まで明らかになった。

 オーストラリア政府は、当初は否定していたが、当時部隊にいた兵士が生きていて「本当だった」と証言した。この証言は証拠写真が付いていた。鍋の中で煮られる首と兵士たちの飯盒炊爨のように喜んでいる姿が生々しく写っていた。当然兵士の名前まで分かったが、すでに故人になっていた。

「父がやったこととはいえ、これは死者に対する冒涜です。たいへん残念に思います。父に代わってお詫びします」

 年老いた故人の娘さんが涙ながらに謝っていた。

「写真は、野生のノブタを煮ているところ。言いがかりだ!」

 という人もいた。

 しかし、誰かを糾弾しようとか責任とか謝罪とかは、わたしも出版社にも無かった。阿部さんからも、そういうのは感じなかった。読者やネットの反応も身元の判明を喜ぶとか、早くご供養してあげようとか穏やかなものが大半だった。


 あたしは山下公園入口前に立っている。


 阿部中尉が「山下公園に行きたい」と夢の中で言ったから。

 横断歩道を渡ったら公園なんだけど、あいにく信号は赤。

 阿部さんの部隊は横浜から外地に向かった。当時は桜木町の駅から部隊ぐるみ行進して埠頭の輸送船に乗るだけだった。途中、山下公園や港の見える丘公園も見えて、戦争が終わったらゆっくり来てみたいと思っていたんだって。

「ここはね、関東大震災の瓦礫を埋め立てて造った公園なんだよ。子供の頃から、よくここで遊んだもんだ」

 阿部中尉が言う。もう目が覚めていても姿が見える。あたしは人が見たら独り言を言っているように見えたかもしれない。

「あんまり嬉しそうなお顔には見えないんですけど、ひょっとして、あたしがやっていることって、余計なことだったですか?」

「滅相もない……さつきさんや、惣一君には感謝している」

「なんですか?」

「戦争とは異常で非情なものさ、我々も褒められたことばかりやってきたわけじゃないしね……敵の兵隊を恨む気持ちは、自分にはない。こうやって平和な横浜にやってきて、なんだか……」

「なんだか?」

「うちの中隊にあんまの上手い兵隊がいてね」

「あんま……ああ、マッサージですねぇ」

「そいつに揉んでもらうと、体中がホコホコして、ボーっとしてしまうんだ。それに似ている」

「そ、そうか、心の凝りが解れるんですね」


 信号が青に変わって横断歩道を渡る。


「ビートルズのレコードジャケットみたいだな」

「え、ビートルズ知ってるんですか!?」

「ああ、アレクの親父はビートルズファンでね、棚の上にしまい込まれていてもレコードが聞こえたし、テレビも見えたからね」

「あはは、そうなんだ(^_^;)」

「あ、今の……」

 公園に入って間もなく銅像の横を通って振り返る阿部さん。

 その銅像は、入り口からは背を向けた後姿なので、つい気づかずに通り過ぎてしまう体育座りの女の子。

 たしか……

「赤い靴履いてた女の子だ……」

「ああ……」

 正直忘れてた。

 子どもの頃に遠足で来て、先生が『校外学習のしおり』をめくって説明してくれた。

 赤い靴 穿いてた 女の子ぉ……

 阿部さんが小さな声で口ずさむ。

「妹がよく歌ってたんだ……」

「そうだったんですか」

 調査したんで分かってる、妹さんは空襲で亡くなっている。

 だから、すぐにはかける言葉が浮かんでこない。

「異人さんに連れていかれて青い目になるんだがね、それが物悲しいんだけど、そこがいいらしい」

 赤い靴の女の子にはモデルがあって、少し後日談がある。

 でも、それは、なんだか妹さんのこととも重なるようで深入りはしない。

「向こうに見えるのは氷川丸だね、アメリカ航路の豪華客船だ」

「行ってみますか!」


 あやうく「大人二枚」と言うところだった。


 二人で氷川丸に乗った。陸軍中尉さんは子供のようにデッキを走り、タラップを上り下りした。

「そうだ、タイタニックごっこをしよう!」

「タイタニックごっこ?」

「ほら、二十世紀の終わりごろに映画になったじゃないか。アレクがビデオで観ていた」

「案外ミーハーなんですね」

「ME HER? 英語かい?」

「いや、そうじゃなくて……」

 案外俗語の説明というのは難しい。

「ああ、思い出した。ミーハーのことか!」

「分かるんですか?」

「ああ、昭和の初めにはあったからね。ある事象に対して(それがメディアなどで取り上げられ)世間一般で話題になってから飛びつくことだ。ミーはみつまめのことで、ハーは林長次郎のことだ」

「林長次郎?」

「ああ、僕らの時代の二枚目スターさ。女の子が好きな、その二つをくっつけてミーハーになったんだ」

「そうなんだ」

「さあ、舳先に行こう」

「あそこ立ち入り禁止ですよ。監視カメラもあるし」

「なあに、五分ほど見えないようにすればいいんだ」

 阿部さんの言うことを信じて舳先の方へ。すると、動かないはずの氷川丸が白波を立てて、いっぱいに向かい風を受け大海原を走り始めた。あたしたちは、無邪気にタイタニックごっこをやった。

 不思議なことに、映画と同じアングルでスマホに映像が残された。

 誰にも見せない、あたしだけの宝物になった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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勇者乙の天路歴程 013『三途の川・2・賽の河原』

2024-04-09 12:09:10 | 自己紹介
勇者路歴程

013『三途の川・2・賽の河原』 
 ※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者



 森の中を三途の川に沿って進む。

 もはや糺の森ではない。糺の森は京都盆地の原始の森のように見えているが人の手が入っている。倒木や繁茂しすぎた下草や外来種は刈られて処分され、病んだ木々には治療も施されいる。
 ところが、この『糺の森』は生のままの森で、獣道はおろか、地面が見えているところさえ稀だ。
 その稀な地面を拾い、露出した木々の根っこや岩、低い枝に飛び移りしながら進んで行く。時にはオリハルコンの剣で道を啓開し、なんだか、ガダルカナルのジャングルをいく一木支隊のようだ。

「縁起でもないことを思い浮かべるな」

「そうだな、一木支隊は全滅したんだった(;'∀')」

 頭を切り替えて啓開と前進に専念する。

 と、今度は目は慣れてきたはずなのに木々も草も蔦も黒いシルエットになって、森の外の景色が際立って見えてくる。

 これは……黒澤明の『羅生門』だ。

 薮の中で目が覚めた男は、薮の外、夫の目の前で女房が盗賊に犯されるところを目撃してしまう。その衝撃的な光景を際立たせるために、黒沢はカメラのアングルに入る草のことごとくを黒く塗らせた。

 あの感じだ。

 薮の外、枝にに衣服がいっぱいぶら下がった木が目に入った。

 木の根方には老婆がいて、やってくる亡者たちに裸になるように命じている。

「あれは奪衣婆(だつえば)だ」

「ああ、三途の川を渡る前に亡者の衣服をはぎ取る……」

「そうだ、罪の重い者の衣服は、たとえTシャツ一枚でも大きく枝が撓ると言われている」

「あ、あのオバハン……」

 それは、先日亡くなった〇〇党の女性議員だ。薄物のワンピースを着ていたが、奪衣婆が剝ぎ取って枝に掛けると、ギリギリギリと音をさせて折れそうなくらいに枝がしなった。

 ワハハハハ(´∀`*)(* ´艸`)(*`艸´)(〃▭〃)

 後続の亡者たちが笑う。

「え?」

 亡者たちは、なぜか女性ばかりだ、それも後ろに行くほど若くてきれいな者が続く。

「行くぞ、あれは、中村。貴様の願望が作り出した幻影だ(-_-;)」

「そ、そうなのか(#'∀'#)」

「振り返るんじゃない、いくぞ!」

「おお(;'▢')」


 しばらく行くと、今度は小さな石積みがチラホラ見えるようになってきた。


「あれが何か分かるか?」

「……賽の河原か」

 ビクニが立ち止まると、半透明で存在感の薄い子どもたちが石積みの傍に現れ、黙々と小石を拾っては、それぞれの石積みに載せていく。

 上は十二三歳、下はやっとお座りができたかというくらいの幼子までがノロノロと石を積んでいる。

 田舎寺の坊主だった叔父が言っていた。

 幼くして死んだ子供たちは、この賽の河原で永遠に石を積む。「一つ積んでは父のためぇ……二つ積んでは母のためぇ……」と祈りとも怨みともつかない呟きを繰り返しながら。
 やがて、身の丈ほどに積み終わると、どこからともなく鬼が現れて、せっかく積んだ石積みを突き崩していく。
 子どもたちは、ため息一つつくと再び石を積み始め、それが永遠に続くという。

「よく見ろ、実際はちがう」

「え?」

 よく見ると、鬼は一匹も現れない。

「鬼にも都合がある、しょっちゅうは現れない。もっとよく見ろ」

「あ……」

 気が付いた。

 崩れていくものもあったが、多くの石積みは下の方から地面に沈んでいく。

 子どもによって沈み方が違う。積んだ尻から沈んでいくもの、目の高さで沈み始めるもの、いろいろだ。いろいろだが、全て徒労だという点だけは同じ。

 叔父の話では、賽の河原には地蔵が居て、そういう子どもたちを救ってくれるということだった。

 町や村の辻にはお地蔵が立っている。お地蔵に祈ると、その祈りがいつか届いて、幼くして亡くなった子供たちは再びこの世に生まれ変われるという。

 だが、森と河原の際まで進んで左右を見渡しても、地蔵めいたものは見当たらない。

「この子たちが積んでいるのは希望(のぞみ)だ」

「希望?」

「大きくなったら、あれがしたいこれがしたいという希望だ」

「しかし、あの子らは死んでしまった子たちだろ」

「死人が夢を見て悪いというのか?」

「あ、いや……」

「ああやって、叶わなかった夢を積み重ねているんだ」

「オーブのように光っているだけのは何だい? あれの前にも石がつんであるけど」

「生まれる前に命の終わった子たちだ」

「胎児が夢を持つのか?」

「胎児というものはへその緒で母親と繋がっている。母親が見聞きしたもの夢に見たことを全部知っている。母親の腹を通して外の様子も窺っている。そして希望を持つんだ、いくつもいくつも。生まれ落ちたら、その全ては意識の底に秘めてしまうがな」

「そうなのか……」

 そうやって河原を見渡していると、一つのオーブが震えるように光った。

 オーブは震えながらいびつなドーナツのような穴が開いて、穴が言葉を発した。

 
 ……お……おにいちゃん。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第134話《髑髏ものがたり・6》

2024-04-09 06:44:13 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第134話《髑髏ものがたり・6》さつき 






 そうニイは、休暇の大半を髑髏の調査にあててくれた。


 旧陸軍第79連隊の阿部忠中尉であること、当時の住所、複顔したCG画像、DNAの鑑定結果までついていた。

「できたら、オレの手でご遺族を特定して、お返しできたらと思うんだけど。もう明日は出港だ、あとはさつきに頼めるか?」

「うん、ありがとう。あとはあたしの手でやるわ」

 あたしは、その足でバイト先の雑誌社に行った。編集長はじめご一同が喜んでくれて、中井さんという記者が担当して特集記事をくむことになった。

「これは良い記事になるよ。戦時中の悪いことは、みんな日本のせいみたいに言われてきたからね、日本人もこんな目に遭ってきたという証明になる。ちょっとキャンペーンを張ろう」

 あたしも同感だった。従軍慰安婦や南京のことで日本は言われっぱなしだ。日本の汚名を晴らす反証としてもやるべきだと思った。

 中井さんは、当時の住所から遺族を割り出そうと、横浜の〇区の区役所まで電話で訊ねてくれたけど、〇区は戦時中の爆撃で全域が焼失、そこから割り出すのは不可能だった。


 中井さんは、なんと、その日のうちに記者会見を開いた。


「……えーと言うわけで、この旧陸軍第79連隊の阿部中尉のご遺族を探すとともに、阿部中尉を始めとする日本人将兵が受けた仕打ちを世に問い、戦争の残虐さと平和の意味を問いたいと思います」

 そして、阿部中尉に関する資料の写しが新聞社や放送局の記者に渡された。ケイサン新聞を始め、慰安婦問題では味噌をつけた日日新聞まで、こぞってこのニュースに飛びついた。

 その夜、夢に桜子さん(ひい祖母ちゃん)が現れた。

「さつき、この三日間ほど、本当にありがとう。お蔭で、あの兵隊さんが阿部中尉さんだってことも分かったわ、これでご遺族が分かって、先祖代々のお墓に入れれば、全て丸く収まると思うの。さくらといっしょに歌も歌えるし、阿部中尉さんのお役にも立てる。死んで、こんなに望みが叶って、人のお役に立つとは思わなかった。ほんとうにありがとう」

 桜子さんの手が伸びてきて握手した。小さな手だったけど、ほんのりとした温かさが愛おしかった。

「桜子さん、恵庭さんが言ってたけど、もう一つ望みがあるって……?」

「それはまだまだいいの。中尉さんのことが決着して、全てが済んでからでいいわ。あ、中尉さんが……」

 ベランダのサッシのところに、阿部中尉が立っていた。今日は鉄兜もとって空白だった顔も分かった。阿部寛の若いころによく似たイケメン。

 そのイケメン中尉さんが、サッシをすり抜けると、戸惑ったような顔で桜子さんの後ろに立った……。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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銀河太平記・214『納骨の旅・1・空港』

2024-04-08 11:14:02 | 小説4
・214

『納骨の旅・1・空港』ミク 




 扶桑科学研究所の教授で養生所の委託博士研究員である平賀照教授……つまりテルが作ったワクチンのおかげでマッパ病は収束して、ようやく月と地球の往来が復活した。

 ワクチンの発明者であるテルの、そしてわたしらの母星である火星との往来は、まだ認められていない。マス漢と扶桑は休戦はしているけど、火星全体での防疫体制も出来ていなくて、月や地球のように火星全体としては終息宣言がなされていないからだ。

「まだ、意識の底では植民地と思ってるんだ。地球についても火星人て言うんじゃねえぞ」

 そう言いながらお茶のペットボトルを投げてよこすダッシュ。

「あ、600㏄なんて飲み切れないよ。機内には持ち込めないしぃ」

「小さいのは売り切れ、余ったら俺が飲む」

「やだあ、間接キスぅ」

「子どもの頃は平気だったじゃねえか」

「お互い、もう二十六歳なんですけどぉ」

「だったら飲むな」

「うそうそ」

「すまんな、俺も付いていければいいんだけどな」

「仕方ないわよ、今月から曹長でしょ。しっかり軍務に励まなきゃ」

「二十六で曹長なんてありえねえ」

「士官学校断るからよ」

「…………」

 ダッシュにしては珍しく考えてから答えようとすると――Good afternoon passengers……――と、搭乗開始のアナウンス。

「あ、ヤバイ」

「まあ、俺の分もしっかり気持ち籠めといてくれ」

「うん、納骨の時はちゃんと動画にとって送るからあ!」

 お茶を半分飲んで、ペットボトルを投げる、それを左手でキャッチすると、交代に右手を上げて新品曹長はきれいに敬礼を決めた。


 姉崎先生と言おうか姉崎すみれさんの死から一年。すみれさんの脳核は火葬して姉崎家の墓に収めた。

 そして、別に火葬した姉崎先生……山野勘十郎の体の遺灰は、わたしが山野家のお墓に収めに行く。

 もっと早く行くつもりだったんだけど、マッパ病のあれこれや山野家のお墓を探すのに時間がかかってしまった。

 修学旅行から九年ぶりの地球、扶桑の始まりの国である日本。

 どうしよう、思ったよりもドキドキするよぉ。

 


☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第133話《髑髏ものがたり・5》

2024-04-08 06:00:40 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第133話《髑髏ものがたり・5》惣一 





 髑髏の身元判明への道は意外に早く開けた。


 窮したオレは艦長に直接メールを打ち、5分とおかずに艦長本人から電話があった。

『ニューギニア戦線で、戦死された陸軍中尉さんなんだね?』

「はい、戦死後首を切られて……」

 全部を説明する前に艦長は的確な指示をくれた。

 そして、その指示に従って防衛医科大の支倉教授を訪ねることになった。


「まずお骨を拝見しましょう」


 支倉教授は、合掌した後骨箱から頭蓋骨を取り出した。

「……これは酷いねぇ。動物の骨格標本を採る時のように煮沸されている。頭骨の形状からアジア東部。日本人だとしたら、関東から東北南部の特徴が顕著、歯の状態から二十代の男性と思われるね……右上顎の第二臼歯に治療痕。これは日本の歯科医師の治療だと思う」

「分かるんですか?」

「長年遺骨を見てきた。初見判断でもこれくらいは分かる。よし、直ぐにDNA鑑定と複顔をやってみよう」

 技官がやってきて、わずかに骨を削りDNA鑑定にかかった。

「DNAは時間がかかるんでしょうね」

「ダイレクトPCRでやるから、すぐに結果が出るよ。お顔は……」

 教授が、パソコンのキーボードをいくつか押すと、数分でモニターに複顔した顔が現れた。

「阿部寛に似てますね……」

「推定身長……175~8だな」

 複顔は一度骨に戻り、全身の骨格が付けられ、さらに肉付けされていった。日本人離れした偉丈夫に見えた。

「関東から東北には、ときたまいるんですよ。分かりやすく言うと縄文系の特質ですな」

 教授は細々とした数値や特徴を言ってくれたが、専門的すぎて良く分からなかった。

「いろいろ調べさせてるんで時間つぶしに説明したが、余計だったかな……おお、なにか分かったようだな」

 教授は、廊下の足音だけで朗報だと分かったようだ。

「防衛省の戦史資料室からファックスです」

 若い技官がプリントアウトしたものを手渡した。

「ラム河谷の戦闘は第79連隊か。中尉は18人……5人は復員しているから、13人から絞り込めばいいんだな」

 教授は、79連隊関連の資料を検索した。3個大隊の集合写真が出てきた。

「これは、検索が早いよ……」

 集合写真なので、どの将兵も階級章がはっきり見える、その中から中尉を絞り込めば……18人の中尉のバストアップがモニターにHD処理をされた鮮明な画像で出てきた。

「「これだ!」」

 教授と自分の声が重なった。

 偶然なのだろうけど、阿部忠という陸軍中尉だった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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