ことの葉散歩道(10) (2015.9.13)
繊細な心
自分をどれほど追い込んでもよい。しかし、他人を追い込んではならない。 ※ 連載小説 「春に散る」沢木耕太郎著 |
朝日新聞朝刊に連載中の小説(9月8日付)から引用。
ボクシングジムで将来を嘱望された広岡が、チャンピオンを夢見た仲間たちを40年後に訪ね歩く場面。
ジムの会長が練習生たちに言っていた言葉を広岡は思い出す。さらに、記述は次のように続く。
「それが共同生活をしていく上での鉄則だ。深追いはするな。他人を深追いしていいのはリングの上だけだ」
苦しい立場に追い込まれるほど、越えなければならない壁が厚いほど、
それを跳ね返し、再び立ち上がる強靭なバネ持った人がいる。
じっと耐えながら起死回生の立ち上がる時をうかがう。
それはまさに、リングの上で戦い、コーナーに追い詰められ、
ダウンを奪われそれでも立ち上がり対戦者に向かっていく強い意志を持った人だ。
だが、こういう強さを他人に求めてはいけない。
人にはそれぞれ両親から受け継いだDNAがあり、育った環境がある。
挫(くじ)けやすい人がいても「ダメ」な人と評価することはやめたい。
自分の生き方を他人に押し付けてはいけない。
人それぞれに、生きたいように生きればいいのだから。
自分流の生き方を自信を持って貫いて生きればいい。
だから、他人の人生に深く入り込んではいけないのだ。
深追いはやがてお互いの人間関係にひずみを生じさせる原因になる。
「他人の人生にどこまで介入すればいいのか」とても難しい課題なのだが、
当事者同士にはこの介入の度合いが見えなくなってしまうときがある。
私たちの日常生活は、リングの上の戦いとは異なり、
優しさと柔軟性を持っていなければ、豊かな人生を築いていくことはできない。
他者の生き方を認めることが、ひるがえって自分の人生を容認してもらうことになるのだ。
人それぞれの生き方を認める繊細な心があれば、人生はもっと彩り豊かに楽しいものになっていく。
いろいろの人がいて、その数だけいろいろの人生があることを忘れてはいけない。
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