雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

優しさを残して

2015-06-07 22:30:00 | 翔の哀歌

 優しさを残して

 雨が降れば、田植えの終わった田んぼで、成長期を迎えた早苗たちが、水面(みなも)を渡る風に揺らいで、そよそよとささやく。

朝顔のつるも元気よく支柱に絡まり、天を目指して這い上がる。

梅雨を目前にして、早咲きの紫陽花が咲き始めている。

 

 幕末の出島のオランダ商館付の医師シーボルトは愛妾「お滝」の名にちなんで「オタクサ」と命名したと言われています。

当時ご禁制だった日本の地図を持ち出そうとし、幕府に発覚、国外に追放になったシーボルトは紫陽花を、

優しく可憐な花として「お滝」のイメージにダブらせたのでしょう。

 

 紫陽花の花に隠れてかたつむり

 

 14歳で早世した翔太郎の残した句です。

あの日、眠るように横たわる物言わぬ翔太郎の枕辺に飾られた短冊が、今でも鮮やかによみがえってきます。

どこの紫陽花を詠んだのか誰にもわからないが、心だけは伝わってきます。

 思わず頬を摺り寄せるようにして顔を近づける。

ふんわりとした花が、少し冷たく、湿り気を含んで、頬に触れ、かたつむりが花陰に隠れるようにして這っている姿をとらえる。

ひっそりと息づいているかたつむりに想いを馳せる。

 誰にでも優しかった君の感性は、かたつむりの静かな息遣いを見逃さなかった。

将来の夢を問われ「旅人になりたい」と私に答えた、あの眼鏡の奥のはにかむ様な小さな目がかすかに笑っていた。

その目がかたつむりの「命」をとらえたのだ。

 通学路の途中に、北アルプスの影を映す6月の田圃に、君の生まれ育った安曇野には紫陽花がよく似合う。

 

たくさんの友達を作り、14歳の命を精一杯に咲かせて、逝ってしまった翔太郎。思い出をありがとう。

君と魚釣りをした勤行川の紫陽花ロードも、もうすぐ花の盛りを迎えるよ。          (翔太郎哀歌 №10)  2015.6.7

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