『女盗賊』
暗い絵である。ここに人らしきは黒装束のものしかいないが、この人が女盗賊なのだろうか。
女と称するにはあまりに肩幅が広くがっしりしているが、手はどちらとも付かず、腰は女らしい曲線である。長すぎる腕に対し足は短かく、腕には肘があるのに足には膝の暗示がない。
極めて不思議な形態をしているが、その長い両手はしっかり背後の箱を抑えている。《決して開けさせない》という風である。
壁があり床がありレンガも見える。室内の設えは、人(現世)である。
女盗賊の奪おうとしているものは箱の中にある、箱は棺を想起させる。
中には死体があり、この得体の知れない黒装束のものはこの《死/霊魂》を現世ではない異世界(冥府)へ持ち去ろうとしている。暗く不穏な空気の漂う密室。今ここに大きな力が作用しようとしている魔の瞬間である。
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)
いまわたくしは歩測のときのやう
しんかい地ふうのたてものは
みんなうしろに片附けた
そしてこここそ畑になつてゐる
黒馬が二ひき汗でぬれ
犁をひいて往つたりきやりする
ひはいろのやはらかな山のこつちがはだ
山ではふしぎに風がふいてゐる
嫩葉がさまざまにひるがへる
☆補(つくろう)則(きまり)の字は変(移りかわる)
二つを将(あるいは/もしかすると)告げている
場(空間/領域)は普く換(入れ替わり)裏(反対側)がある。
央(真ん中)を賛(たたえる)。太陽は普く和解の要である。
「そうですわ」と、フリーダは叫んだ。言葉が彼女の意に反してとびだしてきたのである。Kは彼女がこんなふうに考えかたを変えたのを見て、よろこんだ。彼女は、自分が口に出そうとおもったのとちがったことを言っているのだった。
☆層です、とフリーダは叫んだ。言葉は彼の意に反して出て来たのです。Kは彼女が話をわきに逸らしたのを見て喜んだ。彼女は自分が言おうとしたことの他を言ったのだ。