脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

札幌での講演

2009年02月21日 | 学会/研究会
先週末のもう一つの講演の紹介です。
脳梗塞の原因として増加している頸動脈狭窄症。
これに対する治療として頸動脈ステント留置術という方法があります。
頸動脈の細い部分を風船とステントで開く「切らない治療」です。

この治療法は昨年4月から認められました。
「切る治療」である「頸動脈内膜はくり術」の難しい患者さんに対して適応がとれたのです。
その後、急速な勢いで普及し始めています。
我々脳外科ではこの2つの治療と薬剤治療の全てが可能でり、それぞれの患者さんの状態に応じて使い分けられています。
しかし最近このステント留置術が循環器内科や放射線科、神経内科のドクターによっても行われ始めました。
「切らない治療」ですから内科系でもできるのです。
もともと神経内科は神経の専門家ですし、放射線科にも脳を専門とするドクターがいます。
ですから、しかるべきトレーニングを受ければこの治療が可能と考えます。
しかし循環器内科だけは心臓の専門家ですので全く状況が違います。
「脳に関連する手術は初めて」という方が多いのです。
カテーテル治療で頸動脈を開くことができても、トラブルがあった場合の対処法が限られることが危惧されます。
しかし循環器内科のドクターにはカテーテル治療に熱心な方が多く、海外でも頸動脈ステントは循環器内科でも多く手がけられているため、「日本でも保険が通ったので頸動脈ステントを集中的に勉強して治療しよう」という動きがあります。
ステント治療前後に心臓のトラブルが起きた時や、将来的に全身動脈硬化の管理をする時に循環器内科は有利ではあります。
私の個人的な見解は、「循環器内科で治療されるのであれば、患者さんたちのためにぜひ安全な治療を行ってほしい」ということです。
こんな状況の中で、私はこれまで循環器内科医向けの講演を何度か依頼されており、今回は札幌に呼んで頂いたのです。

実際には札幌では脳外科医と一緒に治療を行っている循環器内科医がほとんどとのことでちょっと安心しましたが、全国的には循環器内科だけで独自に治療を行っている施設もあります。
循環器の先生方に講演を依頼された場合には、神経系の学会とはちょっと違う側面からお話しさせていただいています。
1)脳血管の解剖とその特異性
2)頸動脈ステント留置術のハイリスク患者
3)術中トラブルの対処法
4)他の治療を選択すべき症例
などです。

動脈硬化は全身病です。ですから循環器内科のドクターが頸動脈狭窄症にも興味を持つのは無理からぬことです。
しかし脳の特異性というものがあり、非常に細い血管が詰まるというちょっとしたトラブルも患者さんの人生を左右します。
頸動脈は開いたが、細かい栓子が飛んで脳の血管が詰まっているのに、脳の血管に不慣れで気づかなかった、
脳血管が詰まったのには気づいたが、十分な対処がとれず後遺症が残った、
といったことがないように注意を喚起し、その対処法を広め、安全な頸動脈ステント留置術の普及に尽力したいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする