脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
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涙のムンテラ

2008年06月22日 | 閑話休題
先日、私の患者Oさんについて内科と麻酔科から電話で問い合わせがありました。
Oさんは頚動脈が細かったので、昨年、私が内膜はくり術(頚部で血管を切り開き、動脈硬化で分厚くなった内膜を取り去る手術)を行い、成功した方です。
ただ、他の血管も何カ所か詰まったり細くなったりしていたため、その後も入退院を繰り返していました。
ところが今度はがんが見つかったというのです。
内科と外科、さらに麻酔科のドクター達は、手術に際して脳が最も危険な状態と判断したとのことで、「治療に関わるリスクを本人と家族に説明してほしい」ということでした。
Oさんは執刀した私に絶大な信頼を寄せてくれており、直接の説明を希望されていました。
私は「分かりました。手術中に脳の血管が詰まって命に関わるかもしれないと説明します」と言って、電話を切りました。

そして、面談をはじめました。
ふと見ると、なんと本人も奥さんも目が真っ赤です。
普段あれほど気丈なOさんがです。
「この人たちはこれから自分が説明しようとしていることなど全部分かっている」と私は直感しました。
もちろん通り一遍の説明はしました。
しかしその後の説明は麻酔科の先生に約束した内容とはずいぶん変わっていました。

「手術してもらえるということは末期がんではない。チャンスがあるんです。だから頑張りましょう。」
「私の見立てではおそらく血管はつまらない。血栓が出来にくくする薬の中止期間はなるべく短くしてもらう。ぜひ乗り切ってまた私の外来に来てください。」
「もしも何か頭におこったら出来ることは何でもします。夜間でも駆けつけます。安心して治療にのぞんでください。そのかわり必ず元気になるんですよ、約束です。」
といって、握手をしました。
「乗り切ったらまた握手をしましょう。」
私も目が潤んでしまいました。

このような状況は比較的まれです。
この患者さんとご家族はこれまで脳血管と心臓の血管に関して何度も厳しい状態に立たれてきたため、幾度となく命の危険について説明を受けてこられました。
そのため今回説明せずともすべてを悟ることが出来たのです。
このような状況でOさんに、「あなたはこの手術で死ぬかもしれない。」と追い討ちをかけるような説明は私にはできませんでした。逆に、「大丈夫です、頑張りましょう。」と応援をしてしまいました。

人の人生は分からない。一寸先は闇といいます。
この仕事をしていると本当にそう思うことが多いのです。
でもできるものなら乗り切ってほしい。
笑顔でまたOさんと握手をしたい。
心からそう願っています。
頑張れ!Oさん!
コメント (1)
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