本日はブラームスのピアノ四重奏曲第1番をご紹介します。と言っても原曲の方ではなくて、アルノルト・シェーンベルクによる管弦楽編曲版の方です。ムソルグスキーが作曲しラヴェルが編曲した「展覧会の絵」を例にとるまでもなく、ピアノ曲や室内楽の名曲を他の作曲家が編曲することは珍しいことではないのですが、本作の場合編曲者がシェーンベルクと言うのがミソ。音楽史的に彼は現代音楽の先駆者として知られ、調性を排除した無調音楽さらには十二音技法なる複雑な理論を駆使した楽曲で知られています。初期の代表作「浄められた夜」あたりはまだ普通に聴けるのですが、中期以降の作品については現代音楽好きでないと受け入れられないでしょう。
そんなシェーンベルクがブラームスをどう料理しているかなんですが、これが驚くほど正統派。本作が発表されたのは1937年で、時期的には完全に無調時代に突入していますが、ここでのシェーンベルクは原曲の旋律を活かしつついかにもブラームスらしい格調高い交響曲風の楽曲に仕上げています。シェーンベルク自身も編曲の出来栄えに満足していたらしく、この曲をブラームスの「交響曲第5番」になぞらえていたとか。第1楽章アレグロはこれぞブラームスと言った旋律で暗めの出だしですが、中間部にはドラマチックな盛り上がりも見せ、聴き応えたっぷりです。第2楽章は間奏曲でこちらも旋律は暗め。同じ旋律が繰り返しで演奏されるので、正直やや単調かな?第3楽章アンダンテは本曲のハイライトで、交響曲第1番を思い起こさせるような優美かつ壮麗な楽章です。もちろんブラームスの書いた旋律の良さが大前提としてあるのですが、ここまで空間的広がりを感じさせてくれるシェーンベルクのオーケストレーションは見事だと思います。最終楽章はハンガリー舞曲風のロンド。ブラームスらしからぬエネルギッシュかつエンターテイメント性溢れる曲調で原曲もかなり盛り上がるのですが、シェーンベルクはさらに打楽器や金管楽器もフル動員してエキサイティングなフィナーレを演出します。ここら辺のオーケストレーションはシェーンベルクの独自色が出ていると言えるでしょう。
CDですが数はあまり多くないです。コンサートではかなりの人気曲なんですが。やはり他人が編曲した作品と言うことでブラームスの本物の交響曲に比べるとイロモノ扱いされているのかもしれません。私が購入したのはロバート・クラフト指揮シカゴ交響楽団のものです。このCDには他にもシェーンベルクによるバッハのコラールの編曲やウェーベルンによるシューベルトのドイツ舞曲の編曲が収録されていますが、個人的にはほぼスルーです。ただ、ピアノ四重奏曲だけでも買う価値はあると思います。1964年の演奏とかなり古いですが、音も悪くないですよ。