前回の交響曲第5番に引き続き本日もドヴォルザークです。あまり注目されることはありませんが、ドヴォルザークは宗教音楽にも力を注いでおり、有名な「スターバト・マーテル」をはじめ、レクイエムやテ・デウム、カンタータ、ミサ曲等も残しており、今日ご紹介するオラトリオ「聖ルドミラ」もその一つです。作曲は1886年。交響曲第7番とほぼ同時期で、円熟期を迎えつつあったドヴォルザークが書き上げた大作です。ただ、宗教音楽と言うこともあってか演奏機会はほとんどなく、CDも数えるほどしかありません。私が購入したのは最近発売されたナクソス盤でレオシュ・スワロフスキー指揮スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団のものです。
作品はチェコのキリスト教会にとって重要な存在である聖ルドミラを題材にしています。ウィキペディア情報によると、ルドミラは9世紀に実在した人物で当時のチェコを支配したボヘミア公ボジヴォイと結婚し、夫とともにキリスト教へ改宗したとのこと。曲の内容も当然その史実を下敷きにしており、第1幕はルドミラが民衆達と異教の神々に祈りを捧げているところに、イヴァンという伝道師が現れ偶像を雷で破壊します。第2部ではルドミラが森の中に住むイヴァンのもとを訪れると、ボジヴォイが狩りの途中で立ち寄り、ルドミラを見初めます。イヴァンに心酔するルドミラだけでなく、イヴァンが獲物の鹿を生き返らせる奇跡を目にしたボジヴォイも改宗を決意。第3部ではボジヴォイとルドミラが洗礼を受け、最後は神を讃えてめでたしめでたしと言う内容。ただ、現実の歴史はそこまでハッピーエンドではなかったようで、ボヘミアではその後もキリスト教徒と異教徒が対立。特にルドミラの息子の嫁であるドラホミーラと言う人物が異教徒で、宗教の対立に権力争いも絡んでルドミラは暗殺されてしまいます。そこら辺の骨肉の争いはドラマチックでオペラなんかにすると面白いかもしれませんが、オラトリオはあくまで神を讃える歌ですので、改宗の場面までしか描かれていません。
肝心の音楽についてですが、全編を通じてドヴォルザークらしい歌心たっぷりの旋律とドラマチックな管弦楽法が融合した聴き応えのある内容となっており、2枚組1時間50分弱のボリュームながら途中でダレることもありません。特に第1部は全てが魅力的と言っても過言ではないでしょう。とりわけ素晴らしいのが第3曲、民衆が春の訪れを異教の神に感謝する場面、第5曲のルドミラ登場シーンの美しいアリア、第8曲イヴァン登場時の重々しくも厳粛さに満ちたアリア、第10曲ルドミラがイヴァンの教えにより真実に目覚める場面のアリアと続く第1部終幕の場面の壮麗なコーラス等です。クライマックスに当たる第3部も圧巻で、2曲目のルドミラとボジヴォイの二重唱からフィナーレの神を讃える大合唱まで名旋律のオンパレードです。宗教音楽&2枚組の長尺と言うことで聴く前は心構えが必要ですが鑑賞後は期待以上の満足感を味わうことができます。ドヴォルザークの知られざる名作としてもっと多くの人に聴いていただきたい作品です。