本日はカウント・ベイシー楽団の名盤「アトミック・ベイシー」をご紹介します。このアルバム、実は原盤には単にBASIEとしか記載がなく、タイトルらしきものは特になかったようですが、原爆のキノコ雲を描いたジャケットから後に「アトミック・ベイシー」と呼ばれるようになったとか。それにしてもこの強烈なジャケット、今なら炎上間違いなしですよね。おそらくベイシー楽団の迫力あるサウンドを原子爆弾の威力に例えたのでしょうが、仮にも原爆を投下した側が無神経極まりない!とあちこちから抗議が殺到しそうです。ただ、発表した時点(1958年1月。録音は1957年10月)は本国では特に問題になっていませんし、日本のジャズファンからもベイシー楽団の名盤として昔から受け入れられていたようです。まあ昔はコンプライアンスなんて概念もなかったですし、良く言えば大らか、悪く言えば無神経な時代だったんでしょうね。私は野球好きですが、プロ野球でも松竹ロビンスの"水爆打線"なんてすごいニックネームもあったようですし、何より広島県の崇徳高校が甲子園で優勝した時の愛称が"原爆打線"だったと言う嘘のような本当の話もあります。
ネーミングの件はさておき、ディスコグラフィーの観点から言うと、これはベイシー楽団のルーレット第1弾にあたります。1950年代半ばにヴァーヴ・レコードにかの有名な「エイプリル・イン・パリ」等多くの名盤を残し、第2の黄金時代を迎えたベイシー楽団ですが、本作を機にルーレット・レコードに移籍し、1962年までの5年間で20枚と言う大量生産体制に入ります。この時期のベイシー楽団は、ニール・ヘフティ、クインシー・ジョーンズ、ベニー・カーターら作品によって様々なアレンジャーを起用していますが、本作で組んだのはニール・ヘフティです。元ウディ・ハーマン楽団のトランぺッターで、ベイシーとはヴァーヴ時代含め様々なアルバムで共演しています。
メンバーは総勢16名。全員列挙はしませんが、サド・ジョーンズ&ジョー・ニューマン(トランペット)、アル・グレイ(トロンボーン)、フランク・フォスター&フランク・ウェス(サックス)らソロプレイヤーとしても活躍するお馴染みの面々が迫力あるホーンアンサンブルを聴かせます。本作ではそれに加えてソウルジャズ系のテナー奏者であるエディ・ロックジョー・デイヴィスが参加し、随所でファンキーなテナーソロを聴かせます。リズムセクションは御大ベイシー、エディ・ジョーンズ(ベース)、ソニー・ペイン(ドラム)、そして"ミスター・リズム"ことフレディ・グリーン(リズムギター)と不動のラインナップです。
全9曲、どれも3~4分前後の曲で全てヘフティの書き下ろしです。オープニングは"The Kid From Red Bank"。レッドバンクとはベイシーの生まれ故郷であるニュージャージー州の街の名前で、そこから来た男=つまりベイシーのことです。この曲では爆発するホーンセクションをバックにベイシーがピアノソロを存分に聴かせます。ベイシーは普段はバンドリーダーの役に徹してソロはあまり弾かないことが多いのですが、この曲では異例の張り切りぶりですね。2曲目"Duet"はジョー・ニューマンとサド・ジョーンズの2人のトランぺッターの掛け合いで曲が進みます。ただ、どちらもカップミュートを付けているので、どことなくとぼけた味わいですね。
3曲目"After Supper"はスローブルースでエディ・ロックジョー・デイヴィスのテナーが大きくフィーチャーされます。ロックジョーは続く"Flight Of The Foo Birds"、6曲目"Whirlybird"でも存分にソロを取り、かなり目立っていますね。ベイシー楽団にはフランク・フォスター、フランク・ウェスと素晴らしいテナー奏者がいるのですが、ベイシーはことのほかロックジョーを気に入っていたようで、この2ヶ月後には「カウント・ベイシー・プレゼンツ・エディ・ロックジョー・デイヴィス」で彼を全面的にバックアップしています。私個人的にはホンカー・スタイルのロックジョーよりフランク・フォスターとかの方が好きなんですけどね。なお、テナーソロは7曲目"Splanky"でも含まれており、解説書ではこれもロックジョーとなっていますが、私は明らかに彼と違う(おそらくフランク・フォスターでしょう)と思います。
その他トロンボーンアンサンブルが主役の5曲目"Teddy The Toad"、8曲目フランク・ウェスのアルトソロが聴ける"Fantail"等を経て、ラストを飾るのが"Li'l Darlin'"。この後、ジャズスタンダード化し多くのジャズマンにカバーされる名バラードで、フレディ・グリーンの優しいリズムギターとたゆたうようなホーンアンサンブルをバックにウェンデル・カリーがミュートトランペットで味わい深いソロを取ります。ベイシーとヘフティは翌年に「ベイシー・プレイズ・ヘフティ」で共演。こちらもなかなかの傑作ですので合わせて聴くことをおススメします。
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