本日はマーティ・ペイチです。彼については当ブログでもたびたび取り上げてきましたが、本職はピアニストでモード・レコードにトリオ盤を残したりもしていますが、どちらかと言うとアレンジャーとしての活躍の方が目立ちますね。特に歌伴には定評があり、メル・トーメの名盤「シューバート・アレイ」やエラ・フィッツジェラルドの「エラ・スウィングス・ライトリー」等で洒落たアレンジを施しています。ペイチの率いるバンドにはウェストコーストで活躍していたジャズマンが多数起用されており、アンサンブルの間に挟まれる各プレイヤーのソロも聴きモノですね。今日ご紹介する「ブロードウェイ・ビット」はそんなペイチが1959年5月にワーナーブラザースに吹き込んだ作品。ジャズマニアの間では昔から”踊り子”の通称で親しまれている1枚です。内容的には上述のヴォーカル作品群から歌を抜いたような演奏、と言えばイメージがしやすいでしょうか?歌がない分、各楽器にもソロパートがより多く割り当てられており、西海岸の名手達のプレイを存分に味わうことができます。
メンバーは総勢12人で、ステュ・ウィリアムソン&フランク・ビーチ(トランペット)、ビル・パーキンス(テナー)、アート・ペッパー(アルト)、ジミー・ジュフリー(バリトン&クラリネット)、ボブ・エネヴォルセン(ヴァルヴトロンボーン)、ジョージ・ロバーツ(バストロンボーン)、ヴィンス・デローザ(フレンチホルン)、ヴィクター・フェルドマン(ヴァイブ)、ペイチ(ピアノ)、スコット・ラファロ(ベース)、メル・ルイス(ドラム)です。注目はやはりアート・ペッパーですね。彼はペイチ作品の常連でタンパには共同リーダー作も残していますし、ペイチの手掛ける歌伴にもかなりの割合で参加しています。ビッグバンドなので一つ一つのソロは短いですが、フレーズの美しさが一頭抜きん出ていますね。
全9曲。タイトルどおり全てブロードウェイのミュージカルナンバーを集めたものですが、ほとんどの曲がスタンダード曲として定着しており、聴きなじみのある曲ばかりです。1曲目はコール・ポーターの"It's All Right With Me"。テーマ部分の重低音トロンボーンはジョージ・ロバーツでしょうか?その後はフェルドマン→エネヴォルセンらが軽快にソロをリレーします。2曲目の"I've Grown Accustomed To Her Face"は有名な「マイ・フェア・レディ」の曲ですね。たゆたうようなホーンアンサンプルをバックに、ジミー・ジュフリーのクラリネット→ペッパーと美しいソロを取ります。3曲目は"I've Never Been In Love Before"で、様々な楽器がソロを取りますが、何と言ってもペッパーのきらめきに満ちたソロが最高です。続く"I Love Paris"は少し変わったアレンジで、ホーン陣の重低音アンサンブルとクラリネット→ミュートトランペットの掛け合いで曲が進行します。
後半(B面)1曲目は"Too Close For Comfort"。この曲はペッパーが何度も演奏した得意曲で、ここでも彼のきらめきに満ちたソロで始まり、ウィリアムソン→フェルドマン→ジュフリーとソロをリレーします。6曲目はメドレーで前半は”Younger Than Spring Time"でジュフリー→ペッパー→ウィリアムソンのミュートとつなぎますが、途中で"The Surrey With The Fringe On Top"に変わり、ラストは2つの曲がミックスされる凝った作りです。7曲目"If I Were A Bell"はマイルス・デイヴィスで有名ですが、ここでは実際に鐘の音が鳴ります。ソロはジュフリー→ウィリアムソン→パーキンス→フェルドマン→エネヴォルセン→ペッパーの順でしょうか?8曲目"Lazy Afternoon"はフレンチホルンが主旋律を奏でる幻想的な曲でペッパーとフェルドマンのソロが挟まれます。ラストトラックの"Just In Time”はパーキンスがテーマメロディーと最初のソロを吹き、ウィリアムソン→エネヴォルセン→ペッパー→ジュフリーとソロをリレーして締めくくり。
なお、ジャケットにはソリストの記載はないので、全て私の推測です。トランペットはステュ・ウィリアムソンではなくフランク・ビーチかもしれませんが、そもそも誰それ?って感じですし、まあ大体合っているでしょう。なお、ワーナーには本作の兄弟盤としてシャワー中の美女がジャケットになった通称”お風呂のペイチ”がありますが、それについても近日中にご紹介します。