ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

デクスター・ゴードン&スライド・ハンプトン/ア・デイ・イン・コペンハーゲン

2025-02-07 21:32:50 | ジャズ(ヨーロッパ)

昨日に引き続き今日もMPSレコードの作品です。同レーベルの主力がアメリカからヨーロッパに渡ってきたジャズマンだったことは前回ご説明した通りです。60年代になると本場アメリカではいわゆるメインストリームのジャズが時代遅れと見なされるようになり、多くの大物ミュージシャン達が仕事を求めてヨーロッパに渡って来ました。特に黒人ジャズマン達にとっては本国での根強い人種差別から逃れられることもヨーロッパ移住の大きな理由だったようです。

今日ご紹介する「ア・デイ・イン・コペンハーゲン」もそう言った移住組を中心に構成されています。タイトル通り1969年3月10日にデンマークのコペンハーゲンで録音されたセッションには、合計6人のジャズマンが参加しています。リーダーはデクスター・ゴードン。モダンジャズ界を代表する名テナー奏者の彼も1962年にヨーロッパに移住、この頃はコペンハーゲンに身を落ち着けていました。彼のヨーロッパ時代の録音はデンマークのスティープルチェイスレーベルに集中していますが(過去ブログ参照)、本作が唯一のMPS録音です。共同リーダーのスライド・ハンプトンもトロンボーン奏者兼ビッグバンド・リーダーとしてアトランティック等にリーダー作を何枚か(「ジャズ・ウィズ・ア・ツイスト」がおススメ)残した後、1968年にヨーロッパに移住しています。

その他もピアノのケニー・ドリュー(1961年にパリ、その後コペンハーゲンに移住)、ドラムのアート・テイラー(1963年にフランスに移住)もそれぞれハードバップの屋台骨を支えた名手でしたが、この頃はヨーロッパに活躍の場を求めていました。その他、トランペットのディジー・リースはジャマイカ出身。ニューヨークに進出してブルーノートに「スター・ブライト」「サウンディン・オフ」等を残しますが、元々はロンドンを中心にヨーロッパでプレイしていました。この時は一時的に帰欧していたのでしょうか?ベースのニールス・ヘニング・ペデルセンだけが地元デンマークの出身です。

(表面)          (裏面)

 

全6曲。歌モノスタンダードが3曲、スライド・ハンプトンのオリジナルが3曲です。ハンプトンは作曲以外にもホーンアレンジも担当しており、このアルバムの音楽的リーダーシップを実質的に担っていたようです。表ジャケットには知名度抜群のデクスター・ゴードンが使われていますが、一応裏面は同じ構図のハンプトンが写っています。

内容はどちらかと言うとオリジナル曲の方が良いです。特におススメがオープニングトラックの"My Blues"。曲名にブルースとありますが実際はドライブ感抜群のハードバップで、ゴードン→ドリュー→リース→ペデルセン→ハンプトンと軽快にソロをリレーします。1曲目にして本作のベストトラックと思います。3曲目”A New Thing”はあまり特徴のない曲ですが、ラストの"A Day In Vienna"もなかなか良いです。コペンハーゲンなのに"ウィーンの一日”とはこれいかに?と言う感じですが、曲自体は60年代後半らしいモード風のジャズです。一方、スタンダードの方は"You Don't Know What Love Is"”What’s New""The Shadow Of Your Smile"と定番曲が揃っています。特に前者2曲は通常はスローバラードで演奏されるところを、ミディアム~アップテンポで料理していますが、ちょっとハンプトンのアレンジが鼻に付くかな。その点"The Shadow Of Your Smile"は直球のバラード演奏でゴードンがワンホーンでダンディズム溢れるテナーソロを聴かせてくれます。ゴードンの演奏はあまりアレンジに凝らない方が持ち味が出ますね。

 

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アニー・ロス&ポニー・ポインデクスター/オール・ブルース

2025-02-06 18:12:49 | ジャズ(ヨーロッパ)

本日は少し趣向を変えてドイツのレコード会社であるMPSレコードの作品をご紹介します。ハンス=ゲオルク・ブルンナー・シュヴェーアと言う人物が設立したレーベルで、地元ドイツのジャズマンの作品もありますが、メインはどちらかと言うとアメリカのジャズマン達の作品です。本ブログでも過去にオスカー・ピーターソンジョー・パスの作品を紹介していますね。60年代も中盤以降になると本場アメリカではジャズシーンの変化によりメインストリームのジャズが下火になりつつありましたが、ヨーロッパでは引き続き伝統的なジャズが愛好されていました。そのため、多くのアメリカ人ジャズマン達が仕事を求めてヨーロッパを訪問し、このMPSに録音を残しています。

今日ご紹介するアニー・ロス&ポニー・ポインデクスターもそのうちの1枚。1966年5月1日にフランクフルトで行われたジャズフェスティヴァルの模様を録音したもので、リーダーの2人を含めて合計9人のジャズマンが参加しています。まず、リーダーのアニー・ロスはイギリス生まれのアメリカ人女性歌手。ワールド・パシフィックに「ア・ギャサー!」等の作品を吹き込んでいます。この人は通常のヴォーカリストと言うより楽器のソロを真似て歌うヴォ―カリーズの名手で、デイヴ・ランバート、ジョン・ヘンドリックスと組んだランバート、ヘンドリックス&ロスの一員としても知られています。楽器のソロの声版と言えばスキャットを思い浮かべますが、あちらは♪ドゥビドゥバ~、と歌詞がないのに対しヴォ―カリーズは歌詞を付けて歌うのが特徴です。コ・リーダーのポニー・ポインデクスターはニューオーリンズ出身のサックス奏者。お世辞にもメジャーとは言えませんが、プレスティッジ系列のニュージャズに「ガンボ!」等のリーダー作を残しています。本作では本職のサックスに加え、ヴォーカルも披露しています。

サイドマンもなかなか通好みのメンバーです。カーメル・ジョーンズ(トランペット)は西海岸で活躍した黒人トランぺッターで、ホレス・シルヴァーの名盤「ソング・フォー・マイ・ファザー」への参加で知られています。レオ・ライトはディジー・ガレスピー楽団で活躍したアルト奏者でアトランティックに何枚かリーダー作も残しています。彼らに加えてクラーク=ボラン・ビッグバンドで活躍したジミー・ウッド(ベース)がアメリカ出身。後はヨーロッパ人で、オーストリア出身のフリッツ・パウアー(ピアノ)、カリブ海のグアドループ島出身のフランス人アンドレ・コンドゥアン(ギター)、そして地元ドイツのジョー・ネイ(ドラム)と言う国際色豊かなラインナップです。

アルバムはルイ・ジョーダンがヒットさせたジャンプ・ブルース"Saturday Night Fish Fry"で始まります。前回ブログで取り上げた「ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート」の"School Days"も同じくジョーダンの曲で、こちらもヒップホップやラップを先取りしたような曲です。アニーとポニーが掛け合いながら歌う楽しい曲ではありますが、あまりジャズって感じはしません。この時点で少し先行き不安を感じますが、続く"All Blues"で良い意味で期待を裏切られます。ご存じマイルス・デイヴィス「カインド・オヴ・ブルー」の名曲にオスカー・ブラウンが歌詞を付けたもので、11分を超す大曲です。冒頭まずポニーがソプラノサックスによるテーマ演奏とヴォーカルを聴かせ、その後は8分間にわたって各プレイヤー達がスリリングなソロを繰り広げます。順番はカーメル・ジョーンズ→ポニーのソプラノ→アンドレ・コンドゥアン→レオ・ライト→フリッツ・パウアーでそれぞれ素晴らしいソロを聴かせてくれます。ずばり名演と言って良いでしょう。なお、アニー・ロスはお休みです。

3曲目はホレス・シルヴァーの名盤「スタイリングス・オヴ・シルヴァー」から”Home Cookin'"。アニーがヴォ―カリーズ、ポニーがスキャットでファンキーに盛り上げ、間にレオ・ライトのソロも挟まれます。4曲目”Jumpin' At The Woodside"はご存じカウント・ベイシー楽団の名曲。ランバート、ヘンドリックス&ロスがベイシー軍団と組んだ「シング・アロング・ウィズ・ベイシー」でも歌われていました。アニーが早口でヴォ―カリーズを披露し、ポニーがスキャットで続きます。カーメル・ジョーンズとレオ・ライトのソロも聴き逃せません。

5曲目”Moody's Mood For Love"はサックス奏者ジェイムズ・ムーディの”I'm In The Mood For Love"の美しいテナーソロにエディ・ジェファーソンが歌詞を付けたもので、多くの歌手にカバーされた名曲です。私が好きなのはずっと後の1995年のクインシー・ジョーンズ「Q’sジューク・ジョイント」でブライアン・マックナイトとテイク6が歌ったバージョンです。この曲はアニー・ロスが歌いますが、彼女は「ア・ギャサー!」のところでも述べましたが、正直そんなに歌が上手くないですよね。6曲目"Goin' To Chicago"もベイシー楽団の持ち曲で、歌手のジミー・ラッシングと歌ったものが有名だそうです。ラストは"Twisted"。バップ期のテナー奏者ワーデル・グレイの曲に1952年にロスがヴォ―カリーズの歌詞を付け、彼女が注目されるきっかけとなった曲です。この曲も”All Blues"同様に各人のソロがたっぷり収録されており、アニーのヴォ―カリーズの後、カーメル・ジョーンズ→レオ・ライトのフルート→ポニーのアルト→パウアーとファンキーなソロを取り、演奏を締めくくります。個人的にアニー・ロスのヴォ―カリーズはそれほど好みではないのですが(あまり声が好きではない)、それを埋めて余りあるぐらい器楽ソロが充実しており、ヴォーカル作品としてよりむしろインストゥルメンタル作品として評価したいアルバムです。

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ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート

2025-02-04 19:21:13 | ジャズ(ビッグバンド)

先日、アニタ・オデイを取り上げた際に映画「真夏の夜のジャズ」とその舞台となったニューポート・ジャズ・フェスティヴァルのことを書きました。ロードアイランド州の海辺のリゾートで開かれるこのフェスは1954年に始まり、現在でも行われている有名な音楽祭です。映画に記録されているのは1958年のフェスの模様ですが、その前年の1957年にはヴァーヴ・レコードが同フェスに密着し、コンサートの模様を合計14枚ものレコードに記録しています。その顔ぶれは錚々たるものでビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、カウント・ベイシー、コールマン・ホーキンス、ソニー・スティット、ジジ・グライス&ドナルド・バード、セシル・テイラーetcとまさにスイングジャズからフリージャズまで様々なライブの模様を記録に残しています。日本人ピアニストの秋吉敏子の演奏も録音されているようです。

本日ご紹介する「ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート」もそのうちの1枚で、ディジー・ガレスピー率いるビッグバンドのライブの模様を記録したものです。1940年代にチャーリー・パーカーとともにビバップの中心人物として活躍したガレスピーですが、わりと初期からビッグバンドでの活動も並行して行っており、50年代中旬以降はむしろスモールコンボよりビッグバンドの方に軸足を置いていました。

本ライブに参加したメンバーは合計15人。全員列挙はしませんが、トランペットにリー・モーガン含め4人、トロンボーンにアル・グレイ含め3人、サックスにベニー・ゴルソン、ビリー・ミッチェル、アーニー・ヘンリーら5人、リズムセクションはウィントン・ケリー(ピアノ)、ポール・ウェスト(ベース)、チャーリー・パーシップ(ドラム)と言う布陣です。なお、このメンバーからモーガン、グレイ、ミッチェル、ケリーらが抜け出したセッションが以前ご紹介した「ディジー・アトモスフェア」です。

曲はオリジナルLPで計6曲、CDにはボーナストラックで3曲が追加されています。ライブ録音と言うことでガレスピーの陽気なおしゃべりも入っているため演奏時間は長めでLPで48分、CDだと72分もあります。

1曲目はアレンジャーのA・K・サリームが書いた”Dizzy's Blues"。オープニングを飾るにふさわしいド派手な曲で、爆発するホーンセクションをバックにボスのガレスピーが火の出るようなトランペットソロを聴かせ、次いでバリトンのピー・ウィー・ムーア→アル・グレイ→ウィントン・ケリーとソロをリレーします。ガレスピーこの時39歳。まだまだ若い連中に負けてられん!と張り切っていますね。つづく"School Days"はブルース歌手のルイ・ジョーダンがヒットさせたジャンプ・ナンバーで、ここではガレスピーがヴォーカルを披露。お世辞にも上手いとは言えないのですが、独特のリズムでちょっとヒップホップとかラップみたいになっています。ウィントン・ケリーとビリー・ミッチェルがソロを取るのですが、こちらもノリノリでもはやジャズを飛び越えてロックンロール的な縦ノリですね。もちろん観衆は大喜びです。3曲目はホレス・シルヴァーの名曲"Doodlin'"。演奏に先だってガレスピーがユーモアたっぷりにピー・ウィー・ムーアを紹介します。彼は他ではあんまり見ない名前ですが、バンドでは人気者だったのでしょうか?ムーアが重低音バリトンで印象的なイントロのメロディを吹きますが、ソロを取るのは彼ではなくガレスピーです。

4曲目は40年代にガレスピーがコンガ奏者のチャノ・ポゾと共作したアフロ・キューバン・ジャズの名曲”Manteca"。いかにもラテンリズムの賑やかな曲ですが途中で現れるロマンチックなメロディが個人的には好きです。ベニー・ゴルソンが少しだけソロを取ります。5曲目はゴルソンが前年に亡くなったクリフォード・ブラウンに捧げて書いた”I Remember Clifford"。ガレスピーはブラウンと共演経験はありませんが、ブラウンが20歳の時に会ったことがあり、彼にプロのミュージシャンを目指すよう助言したと言うエピソードがあります。ここではガレスピーがバラードをじっくり歌い上げます。6曲目”Cool Breeze"はタッド・ダメロンの作曲したガレスピー楽団の持ち曲で、エネルギッシュな伴奏をバックにアル・グレイ→ガレスピー→ビリー・ミッチェルと存分にソロを取ります。

ここから先はボーナストラックで、詳しい解説は端折りますが、7曲目”Zodiac Suite"は女流ピアニストのメアリー・ルー・ウィリアムズが作曲した組曲でケリーの代わりに彼女がピアノを弾きます。続く”Carioca"はラテン調のスタンダード。最後の”A Night In Tunisia"はガレスピーの代表曲ですが、ここでトランペットソロを取るのはこれまで出番のなかったリー・モーガン。メンバー最年少でこの時まだ18歳でしたが堂々としたソロを聴かせ、その天才ぶりを見せつけます。後を受けるゴルソンもなかなかの熱演です。以上、少し長いですがライブならではの熱気に満ち溢れた傑作だと思います。

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ドナルド・バード/オフ・トゥ・ザ・レイシズ

2025-02-03 19:09:24 | ジャズ(ハードバップ)

本日はドナルド・バードの記念すべきブルーノート第1作「オフ・トゥ・ザ・レイシズ」をご紹介します。バードについては先日「バード・イン・パリ」で述べたように、デビューしてから数年は主にサイドマンとしての活動で多忙を極めていました。ブルーノートとも関係は深く、1956年と57年の2年間だけでポール・チェンバース「ウィムズ・オヴ・チェンバース」「ポール・チェンバース・クインテット」、ホレス・シルヴァー「シックス・ピーシズ・オヴ・シルヴァー」、「ソニー・ロリンズVol.1」、ルー・ドナルドソン「ウェイリング・ウィズ・ルー」「ルー・テイクス・オフ」、ハンク・モブレー「ハンク」、ソニー・クラーク「ソニーズ・クリブ」等に参加し、時には主役を食うほどの素晴らしいトランペットを聴かせてくれます。これほど重宝されていたのにリーダー作が1枚もなかったのは不思議ですが、この頃のバードはとにかく多忙で、プレスティッジやサヴォイ、リヴァーサイド等レーベルを問わずあちこちのセッションに顔を出していましたので、一つ所に腰を落ち着けるよりフリーランスで活動することを本人が選んでいたのかもしれません。

ただ、そんなバードも1958年にブルーノートと専属契約を締結。12月21日録音の本作を皮切りに60年代から70年代にかけて合計25枚ものリーダー作を同レーベルから発表します。反面、他レーベルでの録音やサイドマンとしての活動は相対的に減っていきますので、ある意味ブルーノートで"身を固めた"と言う表現がピッタリくるかもしれません。

本作のメンバーはまず白人バリトンサックス奏者のペッパー・アダムス。バードとはデトロイト時代からの盟友で、ブルーノート含め多くの作品で共演しています。一方、他レーベルのアダムス名義の作品にはバードがサイドマンとして参加していますので、実質は2人の双頭コンボだったと言って良いでしょう。本作にはさらにアルトのジャッキー・マクリーンも参加。バードとマクリーンもジョージ・ウォーリントン・クインテット時代からの旧知の仲ですね。リズムセクションはウィントン・ケリー(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、アート・テイラー(ドラム)。バードのブルーノート初リーダー作にふさわしい豪華メンバーが名を連ねています。

全6曲。うち4曲がバードのオリジナル、残りが歌モノとバップスタンダードが1曲ずつです。オープニングは有名スタンダードの"Lover, Come Back To Me"。日本でも"ラバカン"の愛称で親しまれる超定番曲をバードらは高速テンポで料理します。高らかに鳴り響くバードのトランペット、重低音をブリブリ吹き鳴らすアダムスのバリトン、いつもながらの独特のマクリーン節を聴かせるマクリーン、そして彼らを後ろから煽り立てるウィントン・ケリー・トリオ。これぞブルーノート・ハードバップとでも言うべき名演ですね。

続く2曲目ですが、私の持っている日本版CDの解説書にはアイナー・アーロン・スワン作曲のスタンダード”When Your Lover Has Gone"と記載されています。この曲も有名なスタンダード曲なんですが、う~ん、どう考えてもメロディが全然違いますよね?おっかしいなあと思って原文のライナーノーツを読むとLoverではなくてLoveで、バード自身が作曲した"When Your Love Has Gone"と書いてあります。解説書いた人しっかりしろよ!と言いたくなりますね(ちなみにWikipediaも全く同じ間違いをしています)。なお、曲自体は哀愁漂うバラードで、バードがワンホーンで吹いています。3曲目は”Sudwest Funk"で、バード自作のファンキーチューン。sudwestとはフランス語でsouthwestの意味です。バードは翌年にファンキー色の強い「フエゴ」を発表しますので、その前触れかな?

B面1曲目はソニー・ロリンズの名曲"Paul's Pal"。バードは「バード・イン・パリ」でもこの曲を演奏していたのでお気に入りだったんでしょうね。演奏も素晴らしく、特にバードとケリーが最高です。続くタイトルトラックの”Off To The Races"も「バード・イン・パリ」収録曲で、そこでは”At This Time”と言う曲名でした。同じ58年発表のペッパー・アダムス「10・トゥ・4・アット・ザ・ファイヴ・スポット」では”The Long Two/Four"と言う曲名になっていますが、全て同じ曲です。マーチ風のファンキーチューンでアート・テイラーのドラムが重要な役割を果たしています。ラストは再びコテコテのファンキージャズ”Down Tempo"で締めくくり。以上、バードの栄光のブルーノート時代の幕開けを飾るにふさわしい充実の1枚です。

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ジョン・コルトレーン/コルトレーン・タイム

2025-02-02 07:28:22 | ジャズ(ハードバップ)

よくジャズは”一期一会の音楽"だと言われます。MJQ 等の一部の例外を除きロックバンドのような固定メンバーは持たず、セッションごとに色々なジャズマンが集まり、即席で音楽を作り上げて行く。それこそがジャズの大きな魅力ですよね。ただ、それでも何となく音楽的傾向と言うものがあり、スイング、ハードバップ、モード、フリー等々それぞれのスタイルに合わせて似たような傾向を持つミュージシャンが集まってレコーディングを行うことが多いです。

ただ、今日ご紹介する「コルトレーン・タイム」のように全く音楽的傾向がバラバラのメンバーが集まったセッションというのも存在します。まず、コルトレーンは後にモードジャズ、さらにはフリージャズ路線を歩みますが、録音時点の1958年10月ではまだ「ジャイアント・ステップス」発表以前でハードバップの範疇にギリギリとどまっていた頃。フロントラインを組むケニー・ドーハムは40年代から活躍するベテラントランぺッターで正統派のバップ路線。そして異色なのがピアノのセシル・テイラーで、この頃からフリージャズの旗手として前衛的な音を追求していました。そもそも本作は最初テイラーのリーダー作「ハード・ドライヴィング・ジャズ」として発売されたものを60年代になってコルトレーンのリーダー作として再発売されたものだそうです。他もチャック・イスラエルズはビル・エヴァンス「ムーンビームズ」「ハウ・マイ・ハート・シングス」等で知られる白人ベーシスト。ルイス・ヘイズはデトロイト出身のドラマーで数多くのハードバップセッションに参加していますが、中でもリヴァーサイドのキャノンボール・アダレイ・グループでの活動が有名です。メンバーだけ見ても一体どんなジャズが繰り広げられるのか想像がつきません。

実際のセッションはと言うと、一見バラバラなメンバーがセッションを通じてお互いを理解し合い、見事なハーモニーを生み出した、と言いたいところですが現実はそう美しい話ではなかったようです。英語版のWikipedia情報によると、テイラーはコルトレーンこそ歓迎したものの、トランペットにはより若くて前衛ジャズにも対応できるテッド・カーソンを希望していたそうです。一方、34歳で最年長のドーハムはテイラーのフリージャズなど全く理解できず、彼のピアノをただの不協和音と見なしていたとのこと。イスラエルズとヘイズもどちらかと言うとドーハム寄りで、テイラーの前衛ジャズには共感できなかったものの、とりあえず自分の仕事をすることに集中していたとか。コルトレーンの感想は特に載っていませんでしたが、この頃はハードバップを基本にしつつも、新たな音楽性を追求していた頃でしたので、実は1人だけこのセッションを楽しんでいたのかもしれません。

以上、スタイルもバラバラで、さらにお互いをリスペクトする心もなかったメンバー同士で良い音など生まれるはずがない、と言いたいところですが、これが意外と悪くないのがジャズの面白いところ。名盤とまでは言えませんが、これはこれでアリかも、と思えるぐらいの出来です。

1曲目”Shifting Down”はドーハムの曲で、後に「静かなるケニー」で”Blue Spring Shuffle”のタイトルで収録されている曲と同曲です。テイラーの不思議なピアノをバックにまずフロント2人がいかにもドーハムらしいマイナー調のテーマを演奏します。ソロ一番手はコルトレーンですが、テイラーの不協和音をバックに気持ち良さそうにブロウしています。やはり彼だけがこのセッションを楽しんでいたのかも。続くテイラーのソロはセロニアス・モンクのパーカッシヴなピアノをさらに突き詰めた感じですが、意外とすぐ終わります。ここからはドーハムで彼らしい少し陰のある、それでいて黒々としたファンキーなトランペットでたっぷりソロを取りますが、おそらく後ろで鳴るテイラーのピアノを「うるさい」と思っていたことでしょう。続いてイスラエルズが意外と野太いベースソロを聴かせ、再びテーマに戻って終わります。

2曲目”Just Friends”と3曲目”Like Someone In Love"はどちらも有名スタンダード。定番曲をこのメンバーがどう演奏するかが注目ですが、意外とまともです。テイラーは叩きつけるようなピアノでソロを取りますが、大枠のコード進行から逸脱するところまではいかず”激しめのモンク”ぐらいな感じでしょうか?ドーハム、コルトレーンはいつも通り快調にソロを取りますが、テイラーは個性的な音を出しながらもちゃんとバッキングをしています。ラストトラックはチャック・イスラエルズ作曲の”Double Clutching”。4曲の中では一番先鋭的な曲ですが、それでも基本はハードバップの範疇か?ドーハム、次いでコルトレーンと快調にソロを飛ばします。特にコルトレーンはノリノリですね。テイラーは本作中一番ソロの時間を与えられており、メロディなんてクソくらえと言った感じのピアノを弾きますが、それでも全体をぶち壊すところまではいきません。その後イスラエルズのベースソロ→全体のテーマ演奏で終わります。

私はフリージャズは門外漢ですので詳しくは知らないのですが、この後のテイラーはさらに前衛性を増し、60年代のフリージャズ・ムーヴメントの代表格の1人となります。試しにyoutubeで有名なブルーノート盤の「ユニット・ストラクチャーズ」を聴いてみましたが、最初から完全にぶっ飛んでますね。ただ、そうなると共演するミュージシャンも全員フリージャズ寄りの人達で固めていますので、音楽性の面では方向性が同じで調和が取れているとも言えます。その点、本作はバラバラな音楽性を持ったメンバーの共演がアンバランスで、ある意味それがスリリングで面白いと言えます。なお、ご承知のようにコルトレーンも60年代半ば以降はフリージャズの世界にどっぷりハマりますが、テイラーと共演する機会はついに巡って来ませんでした。ちなみにドーハムとテイラーの共演は当然ないですし、コルトレーンとドーハムの録音もありそうで意外となく、まさにジャズならではの”一期一会”を象徴するような1枚です。

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