ホテルニューオータニのトレーダーヴィック。
冬にはハワイアン・バーが丁度いい。
夜の8時、待ち合わせをした絵美が、案内の女性にエスコートされて、薄暗い店内に入ってきた。
「何にする?」
「そうね、軽くビール、バドライト」
外を見ると、淡いカクテル光線が冬のガーデンを照らしていた。
「霞ヶ関の動きはどう?」
少し笑みを浮かべて、「やる気よ」
「小沢は、1994年12月、自身が率いていた新生党を解党し、新進党に合流する際、新生党に残っていた資金9億2千万円を(改革フォーラム21)に移したのよ」
「また、2003年9月、民主党との合併に伴い、自由党に残っていた13億6000万円を(改革国民会議)に移したことも分かった」
「どちらも小沢個人の政治団体よ」
「トータルで22億8千万円が小沢の金庫に入ったということか」
「しかも、その大半が政党助成金。つまり国民の税金よ」
「改革フォーラムというのは何?」
「(改革フォーラム21)というのは、小沢が党首だった新生、新進、自由党が運営した政治資金団体で、企業が小沢に政治献金する為の窓口として利用されていた」
「(改革国民会議)は、現在、小沢が仕切る(小沢一郎政経塾)の運営母体で、小沢の財布とされている」
「へぇ〜、見事な錬金術ね」
「そして2006〜2007年には農林水産省のOBである小沢の義兄に対し、(組織維持費)の名目で495万円を支出した」
「そして調べてみると、改革フォーラム21は、千代田区にある小沢の個人事務所を所在地にしている」
「つまり、小沢が実質的に支配しているということだな」
「それに、改革国民会議も小沢の個人事務所に置いているの」
ちょっと待ってと言いながら、絵美は、iPhoneのメモを読み上げた。
「え〜と、最近5年間は事務所費として毎年1000万〜2500万円、政治塾の運営費に2300万〜2600万円を支出している。その中から、2006〜07年には小沢の義兄に495万円の支出もあった。支出額は毎年6066万〜8308万円、5年間で3億4500万円余りになるわ」
「法的な問題は?」
「政党助成金の趣旨が違っている。脱法的な意味合いが強いわね。つまり5人以上の国会議員が所属する政党に助成金が払われるけど、政党を解散した訳だから、国庫に返納すべきじゃないかしら」
「実は、そういう法改正が、今年の7月に審議され委員会で可決されたが、いずれにしろザル法で抜け道はあるから、事実上、意味はない」
少し声が大きくなったが、店内に余り客はいない。ウエイターが、おいしそうなスペアリブを運んできた。
「小沢親衛隊の石川知裕が事情聴取されたし、小沢の右腕、大久保隆規も正月明けには霞ヶ関に呼ばれるみたいよ」
「小沢の周りは、胡散臭い連中ばかりだな。顔が何か薄汚い」
「小沢を調べると、小沢金脈と言えるほどの魔の山がそびえている」
「魔の山には、素人は入らない。いったん入れば、樹海のように抜け出せない」
「例の、3億4千万円の深沢の土地の金と、その原資問題はどう?」
「銀行から4億円を借りた振りをして、その実、小沢の政治団体同士で、巧妙なキャッシュの出し入れを行っていた」
「それと絡んで、水谷建設の元会長の水谷老は小沢サイドに1億円を払ったと暴露したね」
「今、水谷の元会長は、獄中にいる」
「年明けに石川知裕の強制捜査があるかどうか、霞ヶ関は悪質だと見ている。いずれにしろ国会開会前だな」
「ところで、鳩山さん周辺を取材していると面白いわよ。鳩山由紀夫さんという人は、本当は経理勘定にすごく細かい、重箱の隅をつつくタイプで、(私は何も知らなかった)という弁解に、周りの人は皆、呆れていたわ」
「鳩山さんの専門は統計分析で、もともと数字にはうるさい」
「鳩山の表と裏の顔だな。この前、モデルでオペラ座の怪人をやっていたが、仮面の裏側は別の顔」
「鳩山の使途不明金は7億円とも、それ以上とも言われている。その謎を解いたら大噴火になるんじゃないか」
「名付けて、小鳩愛スキャンダル」
「しかも鳩山さん、別の新しい金銭スキャンダルが、明日にも朝日新聞に載るわよ」
「へぇ〜、何?」
「無届の政治団体を別に持っていたのよ。政治資金規正法違反に引っかかる。今、インドに行っている鳩山夫妻の運命やいかに」
もう年の瀬。今年も波乱の年だった。政権交代は成し遂げたが、鳩山政権は迷走に迷走を続けている。鳩山の故人献金から始まった巨額脱税、天皇問題、普天間に端を発した日米同盟の揺らぎ、マニフェストの変更というより最初から企んだ違背などなど。
神代の昔から、天皇の御所に横槍を入れ国家安寧を侵したるものは、天変地異の憂き目に遭い、高転びに転ぶと語り伝えられる。
いつの間にか絵美は、強い酒のサモアン・フォグカッターを飲み始めている。
ハワイアンの音楽が途切れ、窓の外は冬の木枯らしが時折、吹いているようだ。
マネーが世界を動かしていると、映画「キャバレー」のライザミネリは歌った。
しかし、紫煙とアルコールの匂いが立ち込める、アルトシュタットの劇場の中でも、ヒットラーとハーケンクロイツにナイン(ノー)を突きつけた人々は存在した。
(じゅうめい、低くボレロを口ずさむ)