たけじいの気まぐれブログ

記憶力減退爺さんの日記風備忘雑記録&フォト

葉室麟著 「無双の花」

2024年07月26日 14時43分04秒 | 読書記

図書館から借りていた、葉室麟著 「無双の花」(文藝春秋)を、読み終えた。本書は、九州戦国史を代表する武将の一人、立花宗茂(たちばなむねしげ)の半生と、その妻誾千代(ぎんちよ)を題材にして描いた、長編時代小説だった。


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に、書き留め置くことにしている。


▢目次
(一)~(十七)

▢主な登場人物
立花左近将監宗茂(豊後大友宗麟の家臣筑前宝満城城主高橋紹運の嫡子、立花誾千代の婿養子となり立花城城主、柳川城城主、赤館城城主、再び柳川城城主、立斎
誾千代(豊後大友宗麟の重心立花(戸吹)道雪の娘、立花城女城主、立花宗茂の正室)、かの、由ゑ
八千子(立花宗茂の側室、矢島石見の姉)、菊子(公家葉室家の姫、後に、立花宗茂の妻となる
立花(戸吹)道雪(誾千代の父、筑前立花城城主
由布雪下(ゆふせっか)、矢島石見(やじまいわみ)、十時摂津(とときせっつ
黒田如水、加藤清正、田中忠政
豊臣秀吉、本田平八郎忠勝、
真田左衛門佐信繁(幸村)、利世、大八(後に、伊達忠宗の家臣片倉守信となる)、阿梅(後に、片倉小十郎の妻となる)、阿菖蒲、おかね、
長宗我部盛親、
徳川家康、徳川秀忠、徳川家光、本田正信、本田正純、
伊達政宗、片倉小十郎重綱、

▢あらすじ等

筑前宝満城城主高橋紹運の嫡男として生まれた宗茂だったが、15歳で大友宗麟の重臣、立花城城主戸次(立花)道雪の娘誾千代の婿養子となり、立花山城主となった。城主になってまもなく、九州の雄、島津勢の猛攻を受けるが、これに耐え切り、駆け付けた豊臣秀吉から、「西国無双の武将」と褒め称えられ、戦功により筑後柳川十三万石の大名に抜擢された。
その恩義が有り、関ヶ原の戦いでは、西軍に加担、敗軍の大名となり、徳川家康の時代になり、当然、改易、浪人となる。家臣を引き連れて、京、江戸へ。耐えに耐え、窮乏の日々を送ることになるが、人を裏切らず、生き抜き、「立花の義」を貫き、大名に返り咲く望みを捨てず、家康をも動かし、伊達政宗とも渡り合い、改易から20年後、家康の意を受け継いだ2代将軍秀忠により、ついに、旧領筑後柳川の大名に再封される。関ヶ原の戦いで西軍に加担し改易になり、浪人となった大名で、徳川家からも絶大な信頼を得て、旧領地を再封されたただ一人の武将立花宗茂の半生、生き様を描いた作品である。
  「待たせたな、誾千代。ようやく戻って参ったぞ」
  (中略)
  「関ヶ原の戦で負けた時、かような日が来るとは思いも寄らなんだぞ。二十年前、
  京に出ようと
意を固めた折、必ず無双の花を咲かせて戻って参ると誓うたが、
  いまにして思えば、わしにとって、
無双の花とは、そなたのことであった・・・・」


(参考・参照)
👇️
福岡県観光WEBクロスロードふくおか
「立花宗茂、誾千代 ー 戦乱の世に生きたヒーロー&ヒロイン」


歴史にも疎く、無知無学な爺さん、正直なところ、「立花宗茂」、「誾千代」の名も、その史実も、これまで、ほとんど知らず分からずの類だったが、本書を読み、初めて詳しく知り、「へー!、そうだったのか」、目から鱗・・・・、である。
本書の舞台は、九州豊後、筑前、筑後、肥後、朝鮮半島、京、大阪、江戸、奥州南郷、と広いが、中心にしているのは、柳川。
福岡県筑後地方南西部に位置している「柳川市」は、若い頃から一度は訪ねてみたいと思っていた地のひとつだったが、結局、念願叶わず、一度も訪れたことは無く、今となっては、映像や画像で、その風情等を楽しんでいる風だが、本書により、一層、興味、関心が高まってきたような気がしている。


葉室麟著 「鬼神の如く・黒田叛臣伝」

2024年07月13日 07時59分08秒 | 読書記

図書館から借りていた、葉室麟著「鬼神の如く・黒田叛臣伝」(新潮社)を、読み終えた。本書は、有名な筑前黒田藩の「黒田騒動」を題材にした長編時代小説で、第20回司馬遼太郎賞受賞作品だった。


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に、書き留め置くことにしている。


▢目次
(一)~(三十六)

▢主な登場人物
栗山大膳(筑前黒田藩家老)、赤西源八、梅津龍翁、
黒田忠之(筑前黒田藩藩主)、倉八十太夫、井上周防、
深草卓馬、舞、夢想権之助、
宮本武蔵、宮本伊織、
竹中采女正(豊後府内藩藩主・長崎奉行)
末次平蔵茂貞(長崎代官)、
徳川家光(三代将軍)、柳生但馬守宗矩、柳生十兵衛三厳、土井利勝(老中)、
井伊掃部直孝(彦根藩藩主・夜叉掃部)、松平伊豆守信綱(老中、知恵伊豆)、
大矢野四郎(天草四郎)、フェレイラ(宣教師・ポルトガル人)

▢あらすじ等
「わが主君に謀反の疑いあり」・・・、自藩黒田藩が幕府の大名家取り潰しの標的となったことを悟りながら、黒田藩家老・栗山大膳は、あえて主君である藩主黒田忠之を幕府に訴え出る。その真意は?、
そこには、九州の覇権を求める細川家や竹中家、海外出兵を目指す将軍家光、等々の、様々な思惑が絡み合っており・・・、
藩主に疎まれ、対立しながらも、鬼となって、策謀を巡らす大膳に、次々と刺客が押し寄せるが、
泰然自若として動じない大膳、叛臣なのか、本当の忠義とは何かを、見事に描いている作品である。
命を掛けて幕閣と渡り合う大膳の迫力、果たして、黒田藩は、救われるのか?、
何事にも恐れること無く、堂々と、揺るぎなく、信じる道を突き進み、その果、自らは、陸奥南部藩、盛岡藩お預けの身となり、影山四郎兵衛と名乗り、62歳で没した大膳の生き様、
黒田騒動、キリシタン弾圧、お家取り潰し、等々と史実に対する著者独自の解釈と、
宮本武蔵、天草四郎 等々、実在した人物や架空の人物を絡ませ、
小説としての面白さを堪能出来る作品だと思う。


(参考・参照)
👇️
福岡県朝倉市ホーム・ページ・ふるさと人物伝「栗山大膳」


 


藤原緋沙子著 「冬桜」

2024年06月30日 19時23分37秒 | 読書記

図書館から借りていた、藤原緋沙子著 「冬桜」(廣済堂文庫)を、読み終えた。
本書は、著者の長編時代小説、「隅田川御用帳(すみだがわごようちょう)シリーズ」第6弾
「第一話 桐一葉」「第二話 冬の鶯」「第三話 風凍つる」「第四話 寒梅」の連作短編4篇が、収録されている。
「隅田川御用帳シリーズ」は、縁切り寺「慶光寺」の御用宿「橘屋」の女主人お登勢(おとせ)に雇われた、元築山藩藩士の浪人塙十四郎(はなわじゅうしろう)が、「慶光寺」の寺役人近藤金吾や、橘屋の番頭藤七等と共に、縁切りを求めて「橘屋」に駆け込んでくるいろいろな女達の様々な事情を探り、絡み合う悪事や謎を解明、愛憎乱れる 女と男の深い闇を、人情と剣とで見事に解決していく、悲喜こもごもの物語である。


「第一話 桐一葉」
▢主な登場人物
 小田島右近(元備後国美山藩岩見銀警護方)・織江、幸太郎、
 市岡玄之進(大御番衆、元岩見大森代官所役人)、野呂、大原、
 稲富武一郎・稲富十太夫(美山藩お側衆)、
▢あらすじ等
 十四郎は、5年前の銀の道の騒動の諍いで幼馴染稲富武一郎を斬ってしまい出奔、
 流浪の浪人の身となり、愛深く辛苦の暮らしを続ける小田島右近、織江、幸太郎親子と
 出合い、橘屋に連れてくる。

 その小田島右近が惨殺された。・・・・、「許せぬ・・・」、
 焼き芋か・・・・、十四郎の脳裏に、枯れ葉の散り敷いた街道を踏み締め踏み締め、
 西に向かう織江親子の姿が浮かんできた。


「第二話 冬の鶯」
▢主な登場人物
 半次郎(元女衒)・おきよ(希代)、
 仙次、
 平山九郎(元原田伸吾、原田作左ェ門の三男
▢あらすじ等
 亭主半次郎と別れたいと慶光寺に駆け込んで半月足らずのおきよ、半次郎が何者かに殺され、
 「あんた・・・・、かんにん」、ぽろっと涙?、なにか深い事情が隠されている?、
 十四郎、藤七が、真相究明に・・・、

 思いもよらない真実が明るみに・・・、
 「希代・・・」、平山は、叫びをあげると手を伸ばして何かを掴むようにして開き、
 どたりと倒れ伏した。

 「おきよ、これでなにもかも終わったのだ・・・」


「第三話 風凍つる」
▢主な登場人物
 寺沢庄五郎(触次名主、ふれつぎなぬし)・与吉・お梶、おさよ、
 佐太郎(船頭)、粂吉、
 鬼頭又之助(お鳥見方役人)、菅野(お鳥見方役人
▢あらすじ等
 将軍家の鷹狩の獲物保護場御留場で、鶴が弓矢で殺害され、無実の罪を着せられた与吉、
 与吉の幼馴染佐太郎が大活躍、その裏の真実が明るみになる。
 悪行を繰り返すお鳥見方役人と、触次名主の癒着?、妻お梶の不義密通?

 果たして、その結末は・・・。


「第四話 寒梅」
▢主な登場人物
 留次(桶職人)・お栄、お久、
 岩井野江(岩井市左衛門の娘)、
 江口鉄之助、
 天竺屋総五郎(廻船問屋、物産問屋、諸藩御用達)、和兵衛(天竺屋番頭)、
 才次郎、喜久蔵、おさよ、

▢あらすじ等
 留次の女房お栄が慶光寺に駆け込んできたが、飲み屋のお久に一人狂いした留吉の目を覚まさせ
 1件落着させた十四郎だったが、一方で、「噂の女」、美貌の岩井野江と出合い、
 自殺を思い留まらせ、橘屋に連れてくる。

 野江は、仕官の話に乗って、肥後国熊本藩へ旅立ったまま帰ってこない許嫁の江口鉄之助を
 待ち続けている武家女だったが、父親を亡くし、労咳にかかり、借金のかたに妾奉公を
 強要され、絶望のふちにあった。駆け込み事件外のことだったが、十四郎は探索・・・・、

 その裏には、悪辣な天竺屋の存在が有り・・・、「許せない!」。
 十四郎のかっての許嫁雪乃によく似た野江の出現に、お登勢は、微妙に嫉妬。
 お登勢に、縁談?、

 十四郎は、言いようのない寂しさに襲われ・・・・。どうなる?、どうする?


 

コメント (1)

葉室麟著 「山月庵茶会記」

2024年06月23日 14時05分06秒 | 読書記

図書館から借りていた、葉室麟著「山月庵茶会記(さんげつあんちゃかいき)」(講談社)を、読み終えた。
本書は、伊予来島水軍の勇将黒島興正を藩祖とする、九州豊後鶴ヶ江に六万石を領するという架空の小藩「黒島藩」を舞台にした長編時代小説「黒島藩シリーズ」の第3弾の作品である。

▢目次
(一)~(二十六)

▢主な登場人物
柏木靫負(かしわぎゆきえ、孤雲、52歳)・藤尾(亡妻)、卯之助、
柏木精三郎(黒島藩奥祐筆、34歳)・千佳(33歳)・市太郎(12歳)・春(9歳)、
白根又兵衛(黒島藩屋祐筆頭、千佳の父親)、
浮島(元黒島藩江戸藩邸奥女中頭
土屋左太夫(黒島藩家老)、和久藤内(黒島藩勘定組頭)、佐々小十郎(小普請組)、溝渕半四郎
駒井石見守(黒島藩前家老)・駒井久右衛門・駒井省吾(明慶)
篠沢民部(椿斎)・波津、
丹波承安(黒島藩藩主の一門)・丹波正之進、
松平乗邑(前老中)、

▢あらすじ等
かつて黒島藩勘定奉行として辣腕を奮っていた柏木靫負、16年前、政争に敗れ、千利休の流れを汲む高名な茶人(孤雲)となって江戸から国に帰ってきた。その目的は、派閥抗争の最中に、自害した妻藤尾の真相を探ること。孤狼の心を胸に秘め、山裾の庵山月庵で、客人を招きながら情報を分析していく筋立て。
次第に、藩の大事に関わっていたことが明らかになっていくが、茶室という狭い空間で、刀を用いぬ茶人の戦は、静かではあるが、鋭く、熱い。
著者の、色、匂い、情景、の描写も冴え渡っている。
 「藤尾、結構な点前であったぞ」
 縁側の又兵衛が、靫負のつぶやきを聞いて振り向いた。
 「誰と話しておるのだ」
 靫負は笑いながら・・・、
 「馬鹿者め・・・」
 と愉快そうに言葉を継いだ。
 又兵衛は言われた意味がわからず、目を白黒させたが・・・、
 「すまぬ・・・」
 と、厳かに言った。
 青空を白い雲が流れていく。
で、終わっている。



コメント (2)

藤原緋沙子著 「おぼろ舟」

2024年06月17日 09時09分45秒 | 読書記

図書館から借りていた、藤原緋沙子著 「おぼろ舟」(廣済堂文庫)を、読み終えた。本書は、著者の長編時代小説、「隅田川御用帳(すみだがわごようちょう)シリーズ」の第5弾。
「第一話 鹿鳴の声(はぎのこえ)」「第二話 赤い糸」「第三話 砧(きぬた)」「第四話 月の弓」の連作短編4篇が、収録されている。
「隅田川御用帳シリーズ」は、縁切り寺「慶光寺」の御用宿「橘屋」の女主人お登勢(おとせ)に雇われた、元築山藩藩士の浪人塙十四郎(はなわじゅうしろう)が、「慶光寺」の寺役人近藤金吾や、橘屋の番頭藤七等と共に、縁切りを求めて「橘屋」に駆け込んでくるいろいろな女達の様々な事情を探り、絡み合う悪事や謎を解明、愛憎乱れる 女と男の深い闇を、人情と剣とで見事に解決していく、悲喜こもごもの物語である。


「第一話 鹿鳴の声(はぎのこえ)」

▢主な登場人物
丑松(うしまつ、松太郎
天野屋熊五郎(材木商)・おるい、千蔵(木挽師)。お常、
おむら(材木問屋相模屋隠居)、おくみ、
▢あらすじ等
小伝馬町から囚人達が「切放し」になり、人っ気が消えている町中で、十四郎は、飲み屋の男達に殴る蹴るされていた丑松を救ったが・・・。「切放し」とは、牢内や近隣で火事が有った場合、3日間の期限付きで、因人が牢外に解き放されることをいうが、刻限内に戻らない場合は、どんな軽罪でも死罪になる定め。その丑松が、戻らず、身代金要求、立て籠もり事件?、慶光寺の駆け込んでいる天野屋熊五郎の妻おるいは、実は、丑松の・・・、材木問屋相模屋の隠居おむらと遭遇したことが丑松の運命を変え、死罪覚悟して・・・。
 「おむら・・・」、十四郎は、おむらの太っ腹に度肝を抜かれていた。・・・・・・、
 おむらの顔には、七十近いとは思えない精気が漲っていた。
 「このばばもまだまだ死ねません。松太郎・・・・」


「第二話 赤い糸」

▢主な登場人物
お朝・常次郎(錺(かざり)職人)・お種、
おすみ、おりき、
春永梅之助(人情本作家、元滝沢藩藩士
お紋、いたちの鮫蔵
与助、
▢あらすじ等

凄まじい性格の姑お種との折り合いが悪く、2年前慶光寺に駆け込み、常太郎と離縁したお朝、その後裏店で一人暮らしていたが、行方不明になり?・・・・、お登勢、十四郎、藤七が、探索開始。そこに見えてきたものは、元の鞘には戻れなくても、悪の道へ突き進んでいた別れた夫常太郎を、踏み止まらせたい一念が有った。忘れ得ぬ一筋の赤い糸。
いたちの鮫蔵一味は、北町奉行所によって捕縛され・・・、

  「別れて、はじめて分かったのね。相手のいいところが・・・・、そういうものなんですね。
  夫婦というのは・・・」、お登勢は、しみじみと言い、十四郎に優しい視線を投げてきた。


第三話 砧(きぬた)」

▢主な登場人物、
お増(夜鷹)、おみつ(夜鷹)、秀次(男妓夫)、
半次郎(京の指物師)、
柳庵、
大鳥六三郎(南町奉行所同心)、百蔵(岡っ引き)、
▢あらすじ等
子供の頃、母親に捨てられ恨んで育った京の指物師半次郎が、その母親の消息を知り、商用で来た江戸で、母親を探しているという話に共感した十四郎は、酔った勢いで橘屋に連れてきた。一方で、捨てた我が子を想いながら、夜鷹を束ねながら、気丈に生きる老女お増は重病で柳庵の治療を受け・・・・、
夜鷹おみつを殺し、金品を奪い、その罪を半次郎になすりつけた男・・・、「許せぬ」。

  秋の夜の、きぬたの音や哀しきや
  ほろほろほろと鳴く鳥か、いや枕辺のなみだなり、
  ひかりはひとつ、この稚児の
  幸せ願う多賀さま、届けよ届けや、母ごころ、
  きぬたの音や、ねんころろん、ねんころろん、
目を閉じている半次郎の瞼から、一筋、涙が落ちた。
「十四郎様・・・・」、お登勢は、袖で目元を押さえると、外に出た。
「お登勢殿」

十四郎は肩を並べ、お登勢の視線の先を追った。
そこには、月の光を浴びた川の面が、きらきら光を放ちながら流れていた。
感涙の物語である。


「第四話 月の弓」

▢主な登場人物
清兵衛(米問屋福田屋の主、元山名藩藩士杉江清之助)・お美濃(清兵衛の妻、元山名藩藩主片桐右京亮の三番目側室)、
周助(福田屋の番頭

相沢頼母(山名藩江戸家老)、神谷欣左衛門(山名藩江戸藩邸目付)、竹中弥十郎、中根久蔵、
片桐吉央(山名藩新藩主、幼名吉三郎)、
万寿院、楽翁(元老中松平定信)、柳庵、

近藤金五・波江(金五の母親)、秋月千草
▢あらすじ等
米問屋福田屋清兵衛の女房お美濃が、慶光寺に駆け込んできたが、原因は、夫婦の不仲ではなく、何か切迫した事情が有りそう?、お登勢、十四郎、藤七、金吾達が、調査を開始するが・・・・。山名藩2万石存亡の危機と福田屋の関わりとは?、お美濃駆け込みとの繋がりは?、謎だらけ・・、清兵衛に刺客が向けられ、あわや・・・。清兵衛が全てを打ち明け、真相が明らかになり、金吾、十四郎は、山名藩藩邸へ乗り込み・・・、
お登勢、万寿院、幕政影の実力者楽翁の図らいで、山名藩は救われ、楽翁は、若き新藩主片岡吉央を招き、お美濃を引き合わせる。
 「美濃と申したな・・・」、「はい」・・・・、二人は見詰め合ったまま時が止まる、
感動的な場面である。

そして、金吾千草の婚礼を迎え、それまで、いちゃもんを付け、取り越し苦労していた母親の波江は大はしゃぎ・・。
 「今度はあなたですからね。十四郎殿、わたくしが母上様の変わりになって三国一の嫁御を
 お世話してさしあげます」・・・、「いえ、それは・・・・」・・・、
 お登勢からは、きゅっと睨まれてしまい・・・、
 「お登勢殿も、勘弁してくれ」、

十四郎は、大慌て、波江を見てぞっとするのだった。


 


葉室麟著 「紫匂う」

2024年06月13日 16時38分55秒 | 読書記

図書館から借りていた、葉室麟著「紫匂う(むらさきにおう)」(講談社)を、読み終えた。本書は、伊予来島水軍の勇将黒島興正を藩祖とする、九州豊後鶴ヶ江に六万石を領するという架空の小藩「黒島藩」を舞台にした長編時代小説「黒島藩シリーズ」の第2弾の作品である。さらに、第3弾、「山月庵茶会記」が有り、引き続き読んでみたいと思っているところだ。

▢目次
(一)~(十五)

▢主な登場人物
萩蔵太(黒島藩、郡方、五十石とり)・澪(みお、蔵太の妻、30歳、三浦佳右衛門・仁江の三女)、由喜、小一郎、萩安左衛門・登与、
三浦誠一郎(澪の長兄、勘定方)、
葛西笙平、
桑野清兵衛(大庄屋)・香(葛西笙平の母親)、
黒瀬宮内(くろせくない、黒島藩国家老)・志津(葛西笙平の妻)、
久野七郎兵衛、竹山巴山、
岡田五郎助(黒島藩江戸藩邸側用人)、
駿河屋利助(呉服商)・おくう、
芳光院(藩主の生母)、菱川源三郎(西の丸・芳光院付き近習)、
弥三(山の民

▢あらすじ等
紫のにほへる妹を憎くあらば 人妻ゆゑに吾恋ひめやも、
「紫草(むらさき)が花をつけているようだな」
蔵太に不意に告げられて、澪は庭に目を落とした。庭の隅に小さな白い花が咲いている。
萩家の屋敷の門のそばにも、この白い花を澪に見せたくて、蔵太が紫草の種を蒔いていたが、
澪は知らずに雑草と勘違いして抜いてしまったことが有ったのだ。

紫草(ムラサキ)は古来から知られ、万葉集にも歌われている花。
澪は、蔵太が種を蒔いた紫草の花を、切に見たいと願うようになるのだった。
心極流の達人ながら、郡方として、凡庸な勤めに留まる蔵太は、妻澪(みお)、長女由喜(ゆき)、長男小一郎(こいちろう)と共に穏やかに暮らしていたが・・・。
澪が、17歳の折、一度だけ契りを交わした、隣家の幼馴染葛西笙平が、追われる立場となって、江戸から国許に戻ってきて、澪の前に現れた。助けたい一心、澪の心が乱れに乱れる。義か、情か、武士の妻の選ぶ道は?、二人の仲を、全ての経緯を承知している蔵太は、・・・・。
  「ひとの生き様はせつないものだな」
  という蔵太の淡々とした言葉を聞いて、
  澪は思わず口にする。
  「わたくしにも迷いがあったように思います。
  どうすればひとは迷わずに生きられるのでしょうか」。
  蔵太はぽつりと、
  「さようなことはわたしにもわからぬ。
  ただ、迷ったら、おのれの心に問うてみることだと私は思っている」。
  「おのれの心に問うてみる。。。。。。。」
  小声で繰りかえし、澪は思いをめぐらす。
  「知恵を働かせようとすれば、迷いは深まるばかりだ。
  しかし、おのれにとってもっとも大切だと思うものを
  心は寸分違わず知っている、とわたしは信じておる」。
  蔵太の答えが澪の胸にしみ、
  わからぬこと、迷ったことは、わが心に問えばいい。
  その通りだ、と澪は思った。
主人公は、萩蔵太の妻澪であり、蔵太、笙平との感情の交錯がテーマなのだと思われるが、元凶は、黒島藩藩内抗争、国家老黒瀬宮内の専横不正問題・・・・、
3人は共に追い詰められていき、あわや・・・、
藩主の生母芳光院の存在が、際立って大きく描かれている。


藤原緋沙子著 「宵しぐれ」

2024年06月05日 14時44分26秒 | 読書記

図書館から借りていた、藤原緋沙子著 「宵しぐれ」(廣済堂文庫)を、読み終えた。本書は、著者の長編時代小説、「隅田川御用帳(すみだがわごようちょう)シリーズ」の第4弾
「第一話 闇燃ゆる」「第二話 釣忍」「第三話 ちぎれ雲」「第四話 夏の霧」の連作短編4篇が、収録されている。
「隅田川御用帳シリーズ」は、縁切り寺「慶光寺」の御用宿「橘屋」の女主人お登勢(おとせ)に雇われた、元築山藩藩士の浪人塙十四郎(はなわじゅうしろう)が、「慶光寺」の寺役人近藤金吾や、橘屋の番頭藤七等と共に、縁切りを求めて「橘屋」に駆け込んでくるいろいろな女達の様々な事情を探り、絡み合う悪事や謎を解明、愛憎乱れる 女と男の深い闇を、人情と剣とで見事に解決していく、悲喜こもごもの物語である。

「第一話 闇燃ゆる」
▢主な登場人物
大和屋半兵衛・お兼、おさよ、
寅次、ごん太(
唐物屋大黒屋仁兵衛(徳安)、儀助、
倉田伴内・宗之進、
島岡左一郎(戸田藩目付

万吉(橘屋の小僧、10歳
▢あらすじ等
半年前に駆け込んできた大和屋の女房お兼と主の半兵衛の再吟味の場で、半兵衛は、女中のおさよを養女にすると約束し、お兼は家に戻ることになったのだが・・・・、そのおさよが水死体で発見され・・・、何故?、誰が?、・・・、真相探索・・・・、3年前の中山道深谷宿の旅籠「吉田屋」の火事と関連が浮上、

徳安とは?、戸田藩の藩士倉田伴内とは?、
「父の敵、おさよの敵」・・・・、宗之進は満身の力で斬りさげた。

 「ごん太を大和屋さんで?」、
 お登勢は、玄関に立った大和屋の女房お兼の顔を仰ぎ見た。
 するとそこへ、「ごめん」、倉田宗之進が現われた。
 「ごん太を譲って頂きたい」、
 ・・・・・・、
 「万吉は、孤児なんです。あの子から、ごん太を取り上げることは、私には出来ません」、
 お登勢は、しみじみとして言った。

「第二話 釣忍(つりしのぶ)」
▢主な登場人物
お蓮・兵吉(お蓮の弟)、
又兵衛(薬研堀の縄暖簾「えびす」の主)、巳之助、
越前屋利兵衛・おみわ・お勝、
彦七(元越前屋番頭)、玄次郎、
楽翁(元老中松平定信)、柳庵、
すっぽんの伊蔵(岡っ引き、南町奉行所同心三原作之進から手札)、
▢あらすじ等
楽翁が落とした財布を、そっくりそのまま番屋に届けたお蓮は、「たった一つ願いが叶うなら死んでもいい」と言う。「たった一つの願いとは?」、櫛職人の弟兵吉が、越前屋の一人娘おみわと心中?、不審?、真相は?、柳庵が検死した結果、心中に見せかけた殺人事件?、ただ、下手人が検挙されない限りは、兵吉は死罪?、限られた時間、真相究明、探索開始、彦七が?、玄次郎が?、岡っ引きの伊蔵が、浮上・・・、
  「まあ、釣忍じゃありませんか」、
  お登勢は、釣忍をぶら下げてやってきた又兵衛の手元を見ると嬉しそうな声を上げた。
  又兵衛はもじもじして、「あの、これを、十四郎様に・・・」、
  「あら」、お登勢はがっかりした声を上げた。

  ・・・・・・、
  「お蓮さん・・・」
  お登勢が釣忍に手を合わせた時、ちりん、ちりん、ちりん・・・・、風鈴が鳴った。
  切ない音色だった。


「第三話 ちぎれ雲」
▢主な登場人物
紅屋松之助・お新・おてる・卯兵衛・お石・お滝、与助、
お馬、覚次、
▢あらすじ等
縁切り寺の慶光寺に、白粉屋「紅屋」のおかみ、お新が駆け込んできた。夫松之助の先妻お滝の幽霊が出ることに悩んでの駆け込みだったが、不審?。十四郎、藤七達が、探索開始、松之助は養子であり、あばずれた娘おてる、冷酷な姑お石、完全に崩壊した家族の姿だった。その元凶は?、過去の事件の恨み、仕返し、お馬とは?、おてるが誘拐され、身代金五百両を要求され、お登勢が・・・・?
 「許すも許さないも、親子ではないか、今頃おっかさんは、二階でお前が現れるの待って
  いるぞ」

紅屋の事件が解決したのは、みな、お登勢のお陰だと、十四郎は思った。

「第四話 夏の霧」
▢主な登場人物
秋月千草・秋月甚十郎、大内彦左衛門、
伊沢忠兵衛・未世、
栗田徳之進、松波孫一郎、
成田惣兵衛(天竺屋、成田惣五郎)、ましらの鬼蔵、
近藤金五・浪江、
戸田出羽守
五兵衛、茂助、
▢あらすじ等
飲み屋で醜い狼藉を働いていた旗本の子弟らしき若者達に注意を促した金吾が、顔をつぶされたと因縁をつけられ襲われ、あわやの時、若衆姿の女剣士秋月千草と老武士大内彦左衛門が現れ、命拾いをするところから始まっている。金吾は、たちまち、凛とした千草に一目惚れ?、してしまい・・・、
橘屋ともゆかりのある心源寺が押し込みに襲われ、住職等皆殺し、財宝強奪事件が発生。2年前の寺院連続殺人強奪事件と同じ手口?、下手人は?、探索開始する、十四郎、金吾、藤七達、千草の父親秋月甚十郎は、2年前に、浄蓮寺で殺害されており、千草には、父親の敵を討ちたい悲願があり、金五は、千草のため、必死に奔走し、憎めない男、寺社奉行所徒目付栗田徳之助、十四郎、金五と同志、北町奉行所吟味方与力松波孫一郎等と連合して、ついに、凶暴嗜虐(きょうぼうしぎゃく)、人面獣心(じんめんじゅうしん)の男、惣五郎を突き止める。
 「押し込み一味を一網打尽にするには、次の押し込みを待つしかない」
千草、彦左衛門も、駆けつけ・・・・、
 「彦爺・・・」、「これで殿様も救われます」
千草に試合を申し込まれた十四郎、剣客として後には引けず・・・、
お登勢が、千草に、女の幸せを説き、金五の熱い思いを伝え・・・、
まさか?、
金吾から、母親浪江説得を任せられてしまったお登勢と十四郎、
お登勢は溜息をついたが、お登勢、十四郎は、腹の底から喜びがこみ上げてくるのだった。

 


葉室麟著 「潮騒はるか」

2024年06月02日 13時49分24秒 | 読書記

図書館から借りていた、葉室麟著 「潮騒(しおさい)はるか」(幻冬舎)を、読み終えた。
実は、先日読み終えた、葉室麟著 「黒島藩シリーズ」の「陽炎の門」の続き、第2段「紫匂う」を、借りてこようとしたが、貸出中だったため、予約し、その代わりにと、何気なく手を伸ばして借りてきた書で、読み始めて直ぐ、菜摘?、千沙?、男装?、鍼灸医?、誠之助?・・・、
なんとなく見覚えのある文字が目に付き出し、もしかして、すでに読んだ書をまた借りてきてしまったかな?・・と思ってしまい、確認したところ、今年の4月に読んでいた、葉室麟著 「風かおる」の続編であることが分かり、「へー!、続編があったんだ・・・、」、納得して、一気に読み終えたものだ。

▢目次
(一)~(二十五)

▢主な登場人物
佐久良亮(さくらりょう)・菜摘(なつみ、佐久良亮の妻、渡辺半兵衛の三女
千沙(ちさ、稲葉照庵の次女、男装の美少女
渡辺誠之助(渡辺半兵衛の次男、菜摘の弟
加倉啓・佐奈(さな、稲葉照庵の次女、千沙の姉、国)・ゆめ、

平野次郎国臣
馬淵故山、
田代甚五郎(福岡藩横目付、田代助兵衛の弟)、
岡部駿河守長常(長崎奉行)・香乃・加代、
ポンペ、

いね(シーボルトの娘、其扇、たき)・ただ、
松本良順、
勝麟太郎(海舟)、西郷吉之助(隆盛)、
月照、

▢あらすじ等
確か、前作「風かおる」では、鍼灸医の菜摘が、長崎の西洋医学伝習所で蘭学を学ぶ夫佐久良亮を追って、弟渡辺誠之助と彼を慕う千沙と共に、長崎に移り住むことになるところで終っていたと思うが、その菜摘が、女だてらに、腕を買われて長崎奉行所の御雇医となり、長崎での生活に馴染みだしたところから、物語が始まっている。
そこに突然現れたのが、福岡藩の横目付田代甚五郎。何事?、千沙の姉、加倉佐奈(さな)が不義密通の末、夫を毒殺し逃亡、尊皇攘夷を唱え脱藩した密通相手の男平野次郎国臣を追って、長崎に逃げ込んだと告げる。菜摘は、長崎奉行所女牢に入牢している武家の妻女らしき身なりの女早苗(さなえ)に、佐奈の心あたりを感じ、信じられない思いを抱きながら、亮、菜摘、千沙、誠之助等と共に、その事件の真相を探索し、佐奈を助けるための方策をしていく物語だ。
敵だか味方だか分からなかった福岡藩横目付田代甚五郎は、実は、前作「風かおる」で、横目付にも拘らず、菜摘の相談に乗って探索を続ける中で命を失ってしまった田代助兵衛の弟で、兄同様、次第に変わり者?振りを発揮し、真相究明、謎解きに加わっていくが、その展開は、小説として面白い。
時代背景は、安政の動乱期。尊王派、攘夷派、乱れる中、コレラが蔓延した頃。シーボルト、いね、松本良順、勝麟太郎(海舟)、平野次郎国臣、等、実在した人物まで登場し、長崎を舞台にした、臨場感溢れる作品になっている。
  菜摘はその後も長崎で鍼灸医を行う町医者として働き続けた。
  そして、長崎奉行岡部駿河守長常から、「町医者として看板を上げてはどうだ」と言われ、
  「時雨堂」という看板を門に掲げることにした。
  ・・・・・・・、
  人は苦難の中にあっても、負けずに進み続けるならば、やがて天から慈雨が降り注ぐのだ。
  ・・・・・・・、
  よく晴れた日だった。菜摘は青空を見上げた。風にのって潮鳴りが聞こえてくる。
で、終っている。


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葉室麟著 「陽炎の門」

2024年05月30日 07時06分43秒 | 読書記

図書館から借りていた、葉室麟著「陽炎の門(かげろうのもん)」(講談社)を、読み終えた。本書は、伊予来島水軍の勇将黒島興正を藩祖とする、九州豊後鶴ヶ江に六万石を領するという架空の小藩「黒島藩」を舞台にした長編時代小説「黒島藩シリーズ」の第1段の作品だった。さらに、第2段に「紫匂う」、第3段に、「山月庵茶会記」が有り、引き続き読んでみたいと思っているところだ。

▢目次
(一)~(二十九)

▢主な登場人物
桐谷主水(きりやもんど、37歳、氷柱の主水)・由布(ゆう、20歳)、
芳村綱四郎(よしむらつなしろう)・芳村喬之助、
浅井孤竹・藤、
尾石平兵衛(おいしへいべい、黒島藩筆頭家老)、渡辺清右衛門(黒島藩次席家老)、
樋口次郎左衛門(黒島藩勘定奉行)、大崎伝五(黒島藩町奉行)、笠井武兵衛(黒島藩郡奉行
渡辺一蔵(義仙、渡辺清右衛門の嫡男)、早瀬与十郎(渡辺清右衛門の四男、妾腹の子
榊松庵・吉太郎、
森脇監物(元家老)、熊谷太郎左衛門、
黒島興世(くろしまおきよ、黒島藩藩主、曙山
貫井鉄心、竹井辰蔵、

▢あらすじ等
家禄五十石の下士の家に生まれ、若くして両親を亡くし、天涯孤独の身で苦難を重ねながら精進し、37歳の若さで黒島藩の執政となった桐谷主水(きりやもんど)が、執政として初出仕するところから物語が始まっている。
城内で、「氷柱の主水(つららのもんど)」等と呼ばれ、妥協を許さない切れ者の主水だったが、下士からの異例の出世は、他の執政達には目障りであり、さらに、10年前の出来事で、重い過去を背負っている主水に対し、さらに、追い詰め、陥れようとする空気が、最初から漂っている。
主水には、10年前、藩主黒島興世を中傷する落書をしたとされた親友の芳村綱四郎を庇うこと出来ず、落書きの筆跡が芳村綱四郎のものだ断定してしまい、切腹に追いやり、しかも介錯をした過去が有ったのだった。
己は友を見捨て出世した卑怯者なのか?、
娶った妻は、その親友綱四郎の娘で、17歳年下の由布であり、揺れ乱れる心情、
さらに、綱四郎の息子芳村喬之助(由布の弟)が、親の仇討ちとして現れる。
裏で蠢き、罠を仕掛けているのは誰?、
10年前の忌まわしい事件、後世河原の騒動が鍵?、
不可解な落書の真相?、疑念、謎、
「百足(むかで)」の正体は?、 
窮地に陥る主水、黙って死ぬわけにはいかない・・・、

序盤から終盤まで、畳み掛けるような波乱の展開、
著者の峻烈な筆で、武士の矜持を描き出す渾身の長編時代小説である。

  一連の事件解決後、主水は、次席家老となった。黒島藩では異例の出世である。
  登城する主水は、潮見櫓の門を潜ると立ち止り、「出世桜」に目を向けた。
  一年前、執政として初登城した時を思い出しながら・・・。
  その時、主水はささやくような声を耳にした。
  「・・・・桐谷様」
  振り返ると、門の向こうの石段に若い武士が立っており、早瀬与十郎だとわかった。
  「与十郎、いかがした」
  思わず、主水は声をかけた。
  その若い武士ははにかんで少し笑ったように見えた。
  だが、武士の姿は立ち昇る陽炎にゆらいだ。

  主水がはっと気がつけば、そこには誰もおらず、桜の花びらが風に乗って散るばかりだった。
  主水は、眉尻の傷に触れそうになった手を止め、次席家老の威厳溢れる面持ちで、
  石段を踏みしめるように上がっていった。

で終っている。


藤原緋沙子著 「蛍籠」

2024年05月21日 16時31分24秒 | 読書記

図書館から借りていた、藤原緋沙子著 「蛍籠(ほたるかご)」(廣済堂文庫)を、読み終えた。本書は、著者の長編時代小説、「隅田川御用帳(すみだがわごようちょう)シリーズ」第3弾
「第一話 忍び雨」「第二話 通し鴨」「第三話 狐火」「第四話 月あかり」の連作短編4篇が、収録されている。
「隅田川御用帳シリーズ」は、縁切り寺「慶光寺」の御用宿「橘屋」の女主人お登勢(おとせ)に雇われた、元築山藩藩士の浪人塙十四郎(はなわじゅうしろう)が、「慶光寺」の寺役人近藤金吾や、橘屋の番頭藤七等と共に、縁切りを求めて「橘屋」に駆け込んでくるいろいろな女達の様々な事情を探り、絡み合う悪事や謎を解明、愛憎乱れる 女と男の深い闇を、人情と剣とで見事に解決していく、悲喜こもごもの物語である。

「第一話 忍び雨」
▢主な登場人物
万寿院(駆け込み寺慶光寺の主、前十代将軍家治の側室お万の方)、春月尼、
幸助・お筆・光太郎、
青山兵庫・千春・大五郎、勘助
戸塚豊後守(旗本、御小納戸頭取)、山崎左内、虎蔵、
▢あらすじ等
寺入りしていたお筆が出産、誰の子?、寺入りした原因は?、押して不義?、一方で、十四郎は、行きあった中間勘助から辿っていくと、御小納戸頭取旗本戸塚豊後守の権力を振りかざした悪行が明らかになってゆき・・・・・・、
   「許せぬ」・・・・、
十四郎の胸に、怒りがふつふつと沸くのだった。


「第二話 通し鴨」
▢主な登場人物
八兵衛(裏店の大家)、柳庵
伊勢屋茂兵衛(茂助)・おくら・初太郎、
政蔵、愛川鉄次郎、伊八、おるい、
伊勢屋長吉、
▢あらすじ等
木綿問屋伊勢屋茂兵衛の女房おくらが、橘屋に駆け込んできた。その理由が不明?。一方で、伊勢屋長吉が殺害され、その関連性は?、十四郎、藤吉、金吾等が調査開始。引き籠もる茂兵衛、
何故だ?、黒木屋?、500両?、次第に真相が明らかになってゆき・・・、おくらが拐かされ・・・、

   お登勢は両手を胸に併せて言った。「通し鴨というらしい」、
   「取り残されて、次の冬まで地にとどまったいる鴨のことだ」、
   金吾が物知り顔で言った。

   十四郎の脳裏に、ふと茂兵衛夫婦の姿がよぎった。

「第三話 狐火」
▢主な登場人物
おふく・忠太、おさよ、政五郎(大工の棟梁)
石川将監(火付盗賊改)、松波孫一郎(北町奉行所吟味方与力)
富田屋(材木商)、おふじ、般若面の仙蔵、
▢あらすじ等
江戸に、狐火?による火災が頻発し、その都度、無実の町民が火付け下手人にでっち上げられ処刑されており、橘屋と縁の有る大工忠太も捕縛された。お登勢、十四郎、藤吉が、忠太救出のため、真相解明に動くが、相手は旗本、火付盗賊改石川将監、ライバル意識高い北町奉行所も威信を掛けて動き・・・、商人とグルになった悪巧みが明らかに・・・。
   十四郎は、静かに刀を抜いた。・・・・・・・、
   すすり泣きが聞こえる。そこには、忠太が、藤七と並んで膝をつき、
   絞り出すような声をあげていた。


「第四話 月あかり」
▢主な登場人物
菅井数之進(元築山藩御徒組藩士)、梶川兵庫(元築山藩御火之番)
豊原伊予守、
楽翁(元老中松平越中守定信)、俊明院(前十代将軍徳川家治)、
万寿院(駆け込み寺慶光寺の主、白河藩奉公女中松代、家治の側室お万の方)
早苗(十四郎の母親)
久喜次郎左衛門(元築山藩国家老)、白石頼母(元築山藩江戸家老)・うね、
万吉
▢あらすじ等
「お武家様、お助け下さいませ」、十四郎は立ち止まって辺りを見回した。紫の御高祖頭巾をかぶったどこかの女中風の女が暗闇からすいと出てきた。十四郎は数人の武士の前に立ちはだかり・・・。
女は、旗本豊原伊予守の屋敷から逃げてきた美代といい、籤(くじ)にあたり、生贄(いけにえ)にされる?、言う事を聞かないと殺される・・・という。???。一方、十四郎の前に、元築山藩の藩士菅井数之進が現れ・・・・、不穏が動き?、楽翁に、築山藩取り潰しの経緯、真相を問う十四郎、

   「物事には、表と裏が有ることを知れ」
お美代が殺害され、「お登勢殿、お美代の敵、俺に任せろ」、・・・・。
   「お聞きしました。万寿院様から・・・・」
   「しらばっくれて。でも、わたししか知りません。安心して、大切なお品、
   見せて下さいな」、
・・・・・・・・・・・・・・・、
   「十四郎様」
   お登勢の声が追っかけて来た。
   十四郎は、後ろも見ずに仙臺堀に向かって駆けた。