図書館から借りている 藤沢周平著 藤沢版新剣客伝「決闘の辻」(講談社)には 「二天の窟(宮本武蔵)」、「死闘(神子上典膳)」、「夜明けの月影(柳生但馬守宗矩)」、「師弟剣(諸岡一羽斎と弟子たち)」、「飛ぶ猿(愛洲移香斎)」の 剣豪もの短編時代小説5作品が収録されているが その内の「死闘(神子上典膳)」を読み終えた。
藤沢周平著 藤沢版新剣客伝「決闘の辻」
しとう (みこがみてんぜん)
「死闘(神子上典膳)」
柳生但馬守宗矩等と同様、将軍家の兵法指南役となった小野次郎右衛門忠明が、まだ神子上典膳吉明と名乗っていた時代の、兄弟子善鬼との関わりを描いた作品である。天正末期、老残の師匠の伊藤一刀斎から、「一刀流」を継ぐこと当然とする兄弟子善鬼を 死闘の末に倒し、典膳は 一刀斎から「一刀流」を継ぐことを認められる。典膳と善鬼の闘いの場面は 藤沢周平ならではの、これでもか、これどもかの、とても映像化出来ない位の凄まじさで描かれている。一刀斎から 徳川家康に推挙された典膳は士官し、200石を与えられ、徳川家忠付きの旗本となり、将軍家兵法指南役となった。その時点で、母方の旧姓である小野姓を名乗り、将軍秀忠の一字をもらい 小野次郎右衛門忠明と改名する。
作中、一刀斎が娼家から買い取った小衣(こきぬ)を登場させたりし、物語性を醸し出している。
物語の最後部では 小野次郎右衛門忠明の史実、挿話が紹介されているが 目からウロコが盛沢山だ。
関ヶ原の戦いでは 秀忠に従い上田城攻防戦で活躍し、「上田七本槍」等と称されたが 軍令違反の抜け駆けをしたりし、一時身柄を真田信幸に預けられ蟄居生活をしたり、大阪の役でも トラブルを起こし、秀忠の怒りを買い、閉門処分を受けたりと、常軌を逸した激しさを持った、剛直な人物、アクが強い人物だったようだ。「一刀流」は後に 「小野一刀流」と称されるようになり さらに分派し「中原派一刀流」「北辰一刀流」等となっていったようだ。