中公文庫 1999年
一回は挫折して、寝かせてあったが、この
「婆」を読めて本当に良かった。こういう
ナンセンスというかシュールな感じなのが、
好物の人にはたまらん一篇。傑作のなのは、
穴の中に入って味の分かるようになった主
人公が、茂みに隠れて足音を見ている人に誘わ
れて、過ぎ行く人の腰から下をじっと見る、
っていう。なんかいいよね。その意味の分かん
なさ。これぞ、文学だよ、と思う。穴の中に
入った主人公がある種、覚醒する局面の一節、
「目を開けると月がいくつもいくつも飛び回っ
ていて、挨拶するように、接吻するように、
軽く顔や体に触れる」ってところ。
ナイーブで、感じやすく、それで、目覚める
感じが出ていて、すごくいいよなあ。
うーん、この人は天才だな。
(読了日 2024年1・6(土)22:52)
(鶴岡 卓哉)