古民家ギャラリーうした・ガレッジ古本カフェ便り

古民家ギャラリーうしたと隣のガレッジ古本カフェで催している作品展、日々の発見!、書評、詩などを紹介していきます。

沈黙博物館     小川洋子

2022-08-13 20:10:33 | 小川洋子

筑摩書房    2000年

 

ぼくの元にこの古ぼけた広島市立図書館から

 

ただで配布された本が届いたのは、かれこれ、

 

もう半年も前のことになる。ずっと、ツンドク

 

してトイレの棚に置かれていた。

 

この本を読了したのは、前に読了した本から二週間

 

以上たっている。活字がちょっと煩わしいと感じる

 

ようになってしまっていて、活字はぼくのそんな気持ちを

 

察してか、ずっと読まれるのを黙って待っていてくれた

 

ようだ。

 

遺品を回収する、そして、その展示を目的とする

 

博物館をつくる、という話だ。主人公は風来坊の

 

技師で、博物館づくりのプロらしい。少女と呼ばれ

 

お母さんと慕っているおばあさんの養女と目録を作

 

ったりする。殺人事件が起きたり、爆弾事件が起こったり

 

あまり、穏やかじゃあないことが語られていく。沈黙の

 

伝道師というひとも出てきて、沈黙する少年が描かれたり

 

する。

 

遺品を展示するのが、ここでは重要なテーマだが、ぼくらは

 

現実世界では誰も生きた証を大抵の人は残していかない。

 

ネット上に残存してしまうこともあるらしいが、ものを

 

残すことは一般人ではほとんどないのかもしれない。ふと、

 

なんで人は生きていくのだろうなあ、と思ったりしながら、

 

大抵、つつがない人生を生きていく。それが人生という

 

ものか。

 

死ぬことについて書かれていながら、痛切な生きる喜び

 

というものが描かれていた本書であった。

 

                  (鶴岡 卓哉)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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とにかく散歩いたしましょう   小川洋子

2021-07-26 21:35:03 | 小川洋子

文春文庫  2012

 

4年近く毎日新聞に書いていたというエッセイ集。

 

散歩ばかりされていたらしいが、ぼくも趣味は散歩

 

だ。京橋川沿いを散歩するのはとても気持ちのい

 

いものだ。小川さんもラブを連れて、散歩をして

 

いた。ラブはこのエッセー集を出した後、14歳

 

6か月で死んでしまったという。でも、散歩は続

 

けておられるようだ。

 

特に父方の祖父は涙もろかったらしい。小川さんも

 

涙もろくなったという。とてもよく分かる。40過ぎ

 

くらいまではぼくもそんなに泣かなかったが、半ばす

 

ぎてから、TVを見ていても、すぐ泣くようになった。

 

それも昔だったら、お涙チョーダイだな、とバカにして

 

いたようなことに泣くのだから、じじいになったもんだ

 

と自分で呆れる。小川さんは、褒めるのがとても上手だ

 

し、いい人なんだろうなあ、ぼくもこんないい人にこの

 

本を読んだらなれるかしらん、と思いつつ読んだ。

 

トーベ・ヤンソンの「生きるってことは、平和なものじゃ

 

ないんですよ」と引用している。そうだよな、実感した。 

 

 

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最果てのアーケード   小川洋子

2018-02-09 14:21:42 | 小川洋子
講談社  2011年


兔夫人……アーケード街の眼球の店、しばしば小川作品に登場する


それじゃあやっていけないだろう、という商売。小説のなかでは


繁盛している。


にくるラビトといううさぎをかっている夫人について描かれる。


ラビトがいるはずの乳母車にはラビトはいなかった。


その後、Rちゃんがしんだと同じころにラビトというあだ名の


少年が亡くなったと紳士おじさんから聞く。


人さらいの時計……動くところを見るとさらわれるとウワサのある


大時計。


私は知らない人を尾行する、その人が父の背中のような気がして


、そして、大学の助手のひとはセミナーでコミュニケーション


の講座でトンチンカンなコウモリの話しをし、私に最後にバイオリ


ンで、「愛のあいさつ」エルガーをひいてくれとたのんだ。


また、ある日は、チャリで転んだ野菜売りのおじいさんの後をつける。


小川女史の話はやっぱりどこかヘンである。そこが魅力かな。
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妊娠カレンダー     小川洋子

2018-02-09 11:34:03 | 小川洋子
文春文庫  平成2年


姉が妊娠したことによって揺らぐ日常の中で、


染色体を破壊するというグレープフルーツの


ジャムをつくり、それを姉はむさぼるように


食べる。つくる方もつくる方だが、くう方も


くう方だ。これを意地悪と言って片づけてし


まうわけにはいかないだろう。もっと根深い


病巣的なものがそこにはあるのか?


破戒されてしまうというテーマ、失われてし


まうというテーマの中では、我々は、ここに


肉のつながりのあるものにしかわからない憎


悪みたいなものがあるのかな、と思ったりする。


姉を不幸にしたいという無意識の欲求……ふふふ、


とうすら笑いを浮かべて奇形を望むその恐怖。


誰にでもある病巣をこのひとは熟知しているの


だ。


ほか、ドミトリイ、夕暮れの給食室と雨のプール


所収。
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現行零枚日記    小川洋子

2018-01-31 00:32:39 | 小川洋子
集英社。


苔料理を食べる。運動会荒らしをしたり、生活改善課


のR兄さんと作家のWさんと盆栽フェスティバルにい


ったり、温泉スパでおばさんにつけられ、八歳の娘



にそっくりだ、といわれたり、文学賞パーティーに



行き、荒らしを助けたり、暗唱クラブに思いを馳せ


たり、Tという町に行き、アートの祭典を見に行く


と、6人いたのが最後は二人になっていたりする。


あと、あらすじを書くのが得意なんだってさ。


小川女史自身のことを書いておるようで、そうじゃない。



ファンタジーっぽくもあるし、たぶんに小川女史って


不思議ちゃんなんだろうなあ、と思わせる。赤ちゃん



(新生児)を見に行くのかア、変わってるなあ、まあ、



創作なんだけどさあ。(そういったら、身もふたもな



いけどね。)
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偶然の祝福    小川洋子

2018-01-26 10:43:54 | 小川洋子
角川文庫。


「失踪者たちの王国」では身の回りで疾走してゆく


、失われてゆく人たちを描く。「盗作」では、弟に


ついて描かれ、「エーデルワイス」でも主題は弟で



ある。「キリコさんの失敗」はお手伝いさんのキリ


コさんがツボを手違いで違うひとに渡してしまう話


しだ。川上弘美さんはこの話しが好きだという。


「蘇生」ではアナスタシアと名乗る老女が絡んでくる。


袋にたまる水によって、声を失う女性を描く、「涙腺


水晶結石症」。おれっちはこの雨に日に病気の犬と数カ月に


なる息子ととぼとぼと歩き、犬が動かなくなったところ


に颯爽と現れる獣医、というのがスゴクカッコよく思えた。


なんか感動的な趣さえある。サッと犬の病気を治してしま


うのが実にスマートに描かれているのだ。



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薬指の標本      小川洋子

2018-01-12 09:11:04 | 小川洋子
新潮文庫。


標本室につとめるようになった21歳の女性。以前


つとめていたサイダーの工場で薬指の先を失って


しまった。標本室にはかすかに頬に火傷のある女


がやってきて、技術室の向こうに女性自体消えて


しまい戻ってくるところを女は知らない。浴場で裸


になり弟子丸という男と抱き合う仲の女は嫉妬を


感じるのか……。弟子丸から革靴をもらい、それ


は足にフィットし、足の一部となっていく。くつ


みがきの男にこのままでは足を失うことになる、と


予言めいたことをいわれる。老女が死んだり、なにか


哀しげなしんとした雰囲気がただようが、決して


暗い訳ではない。


そのストーリーを簡明に表現するのは難しく、ふしぎ



な世界の拡がりがあり……ボクもその世界にどっぷりと



浸かってしまった。


「六角形の部屋」……六角形の小部屋で独白するだけの


商売をしている親子と出会い、彼氏を憎むことにな


った女を描く。ぽつんと取り残されたように、六角形



の小部屋は旅だってしまう。女の背中の痛みが、奇妙に



この短編の薬味となっている。
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まぶた    小川洋子

2017-12-27 11:05:42 | 小川洋子
新潮文庫。


表題作「まぶた」は十五歳の少女と中年男との


不思議な関係を描く。


最後はつかまってしまう。飼っているハムスターの



まぶたは切り取られ、それは象徴としての観察の強制。


みてはいけないものさえみせられてしまう恐怖を示唆


している。「飛行機で眠るのは難しい」、「詩人の卵巣」



では眠りがテーマとなっていて、不眠症の女が出会う不



思議な話しである。



この作品集は夢と現実の境がなくなってしまうことでおこる



恐怖を描いているような気がする。そこでは理不尽なこと



も起こりえるし、それを見なくてはならなくなる。



僕らは現代において、目撃者として存在するしか道はない、



とでも言われているような気がしてくる。







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