新潮文庫 昭和四十七年
北海道の戦前から戦後にかけての開拓民の
苦悩を描く。
東京で食うや食わずで、北海道への開拓の
うまい話にのって、広い大地と格闘するものの
敗れ果てて行く話だ。
解説にもあるが、その開拓の話しだけではない、
上野駅での混乱、混沌、混濁、垢に塗れる汗、
腐臭にまみれた体臭が、このその場の空気を
活写した感じは、イキイキとしていて、ルポル
タージュとも言えない、小説の世界を表現し得
ている。
開高氏は果たして、大地に根差した作家なのだろ
うか? と問うと、ぼくはその後の作品を鑑みて
決して、この作品が浮いているとは思えない。
いや、釣りへと興味が湧いて来る発端が現れ出て
いるのではないか、と思うのだ。きっと、開高氏は
自然と云うものの驚異を三十歳のこの頃から如実に
感じ、表現したかったのかもしれない。
(読了日 2024年11月10日(日)22:20)
(鶴岡 卓哉)