古民家ギャラリーうした・ガレッジ古本カフェ便り

古民家ギャラリーうしたと隣のガレッジ古本カフェで催している作品展、日々の発見!、書評、詩などを紹介していきます。

本の話       由起しげ子  

2016-09-27 19:34:35 | 小説の紹介
№178


第二十一回昭和24年上半期。



姉の入院費用を捻出するために死んだ義兄の


海上保険の本を売ることにする。その顛末が描


かれている。そのことが一段落し、童話を書こ


うと思ったら、ペンがなくなっていた、というと


ころの描き方が哀れで涙した。オーバアも盗まれ



るし、この頃は泥棒が多く、日本の貧しさを嘆いて


おられる。まだ、戦争の傷跡が深く、自信ももててい


なかった頃の作品である。
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猿猴川に死す   森下雨村

2016-09-25 14:16:47 | 本の紹介
№177

関西つり社。


つり随筆。森下雨村という人は、「新青年」の編集者で


江戸川乱歩を見出した人である。始めはそうでもないけ


れど、読んでいるうちに夢中になっている作品である。


読み終わりそうになると、終わるのかア、と思ってしま


う。エッセイ集であるが、いごっそうと呼ばれる心優しき


人たちを描いている。そして、力強くたくましい。釣り


自体はリリースをしない、百姓づりであるが、それも人


間らしくていいではないか、釣った魚を逃がしてしまって


地団駄踏んで悔しがるなんて、何て人間臭い人だろうと


思う。そういう釣りを描きながら、人間を描いたエッセ


イ集であった。
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狂人日記    色川武大

2016-09-22 16:36:20 | 小説の紹介
№166

福武書店。


有馬忠士氏の装丁で、この人のことを書いている


らしいが、多分に、自分のことも書いているよう


に思われる。幻覚がひどくて、寝ていて、声を出


すので寺西圭子と暮らすようになってから、半年


で三度も引っ越しをする。気狂い病院で暮らして


いることが半分で、半分は圭子と暮らした日々を


描いている。本当にこの人の文章は巧い。でもち


ょっと理屈っぽいところもある。そこも逆に魅力


である。ストーリーテリングだけではない文学の


持つ本来の面白さがあるのだ。富岡多恵子氏の言


う、”その言葉を読んでゆくことでしか得られぬ悦


楽”というものがこの小説にはあるのだ。
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妻   丹羽文雄

2016-09-20 09:53:04 | 小説の紹介
№165


短編集で、他六編が所収されている。帯には


「本格私小説の驚くべき非情と”妻”へのあふ


るるばかりの愛情”とある。きっと身内のこ


とを赤裸々に書くことを非情と言っているの


だろう。ここまで書かないと文藝としてはダ


メだ、ということだろうが、こんな人は身内


にいてほしくない。身を犠牲にして、身内を犠


牲にして、まったく作家というのは太宰も言っ


ていたがヤクザな商売だ、といえるだろう。膨


大な書き物を残して、百歳まで生きたとはスゴ



イ人だ。まあ、最期の方はあまりよろしくなか


ったようだが……。
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葭(よし)の髄から   阿川弘之

2016-09-17 11:13:49 | 本の紹介
№164

月刊「文藝春秋」の巻頭に連載された、平成9年5月号


から四十篇を所収。


女子高生のルーズソックスのことまで言われると、こ


のくそじじいが、と思い、阿川大尉も死んでしまった今


きっとくそ時いいと言ったら、逆に笑うかな、と思った


りするが、阿川大尉もそんなに気持ちは広くなく、沸騰す


るだろうとも思ったり。思わず、くそじじいのうた、と


いう詩を書いてしまった。死ぬまで戦争に振り回された人


だったんだな、と思った。直ぐにブチ切れる人も今じゃ貴


重だったな、と思った。同郷なので、僕が文士になった


りしたら知り合いになっていたのかな、と妄想してしまっ


た。
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地中海   冨澤有為男

2016-09-16 14:21:37 | 小説の紹介
第四回昭和11年下半期。


同時受賞した「普賢」石川淳氏の作品とは対照的な


作品。地中海のイメージに則って、キレイに描かれ


ている。内容は不倫だが、児島と言う友人のキャラ


もたっているし、とても読みやすい。決闘に到るの


だが、最後はパリに主人公は逃亡することになるら


しい。けして、不潔感はなく、若さに満ち溢れてい


て、理路的な文章だ。歴史的名篇である。
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年の残り     丸谷才一

2016-09-15 10:07:46 | 小説の紹介
第五十九回昭和43年上半期。


43歳の時に書かれた小説で、やっぱり男にとって


セックスは必要って考え方はどうなのかな。


最後の章は必要か必要でないかでいったら、ちょ


っと余計感はあるけど、結婚するはずだった女性


というのがはっきりとわかるのですっきりと内容


的にする。自殺を扱った小説という気がするが、こ


んなに友達に二回もある人生の男も珍しいだろう。


しかし、その自殺が主人公に重くのしかかってい


る、というのは巧く描かれていたように思う。

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鮨 そのほか   阿川弘之

2016-09-14 22:37:43 | 本の紹介
新潮社。


エッセイ集。残った鮨をホームレスにあげた


いけれど、どうしようか、と逡巡し、あげて


みると敬礼して兵士みたいだった。もう一度


会いたいと探したが見つからなかったという



表題作。「暗夜行路」について詳しく書いて


あり、よく調べてあって、時代検証について


作品にのっとって考えると合わないところが


ある、という。座談会も載っていて、遠藤周作


先生、庄野潤三先生などが参加している。


阿川弘之氏は、厳しく、誠実な人柄であったよ


うである。
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映画小説集     村上龍

2016-09-10 19:08:54 | 小説の紹介
講談社文庫。


村上龍氏の小説は十代の頃から二十代にかけて、


十数年前まで読みふけっていた。大抵読んだが、


95年ころ発売されたこの作品集だけ読んでなく


て、本棚の片隅にずっと置いてあった。十八歳


のときのことを書いてある、私小説風で、セッ


クスとドラッグに耽った、と村上作品誕生の契


機を感じさせ、力強い心理描写で描き切ってい


る。

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虫けら艦隊   アイカワタケシ

2016-09-09 15:08:51 | 小説の紹介
河出書房。


ブロン中毒だったことを告白する。亡くなった中島


らもさんも一時ブロン中毒だった。


骨太な文章で荒唐無稽なことを描く。混迷は極めて


いるが、ドラッグでもやっていれば心地よくそれは


響いてくるだろう。本人は嫌がるかもしれないけれ


ど、パンクな人である。アイカワ氏はタテューは痛く


てイヤだと書いておられるが。多分注射もイヤなんだ


ろうなア、だからブロンなんだろうなア。読んでい


るうちに怪しい独特の世界観に引き込まれる自分を



発見するだろう……。
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