映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日

2013年01月29日 | 映画(ら行)
1000の言葉より映像が物語る



            * * * * * * * * *

少年が一艘のボートでトラと漂流。
なんて、スリリングな設定でしょう。
ワクワクして見に行ったのですが、想像以上に深く胸の奥に響く作品でした。



少年パイは、インドのポンディシェリに住んでいました。
父親は動物園を経営しており、
パイはそこで様々な動物たちと触れ合いながら育ったのです。
パイが16歳の時に、父親がカナダへの移住を決意。
動物たちをも乗せた貨物船がインドを発ちましたが、
途中で大きな嵐に遭遇し、沈没してしまいます。
辛くもパイは救命ボートに乗り込みましたが、
そこで獰猛なベンガルトラと乗りあわせてしまった・・・!
少年とトラのスリリングな漂流が始まります。



少年ははじめのうち、ひたすら逃げ回ることだけを考えていましたが、
次第に、トラと生活する緊張感こそが自分を生かしていると気づきます。
奇妙な共存関係が生まれていくのです。



この物語は単なるサバイバルストーリーでもファンタジーでもありません。
純然とした命の物語。
例えば嵐に荒れ狂う海。
またある時はまるで鏡のように凪いだ海。
海面いっぱいに浮かぶクラゲの群れ、
巨大なクジラの跳躍。
人がどうあろうと、この営みは続いているのですね。
果てしなくつづく海原で、
まるで地球上にたった一人と一匹が取り残されたようにも思えます。
こんな中では、人の命などほんの一捻り。
ここに生きている奇跡。
だからこそ、なんだか神に生かされているような気がしてきます。
夜の海に果てしなく広がる星空。
宇宙の真理を見るかのようです。
パイの見た宇宙の深淵と命の尊厳・・・
見事に映像で表現されていたと思います。
圧倒されて、ただただひたすら見つめるのみ。



IMAXシアターの3Dで見た甲斐がありました。
1000の言葉よりも映像が物語る作品です。
(こんなブログ記事も虚しくなってしまいます!)
パイの思う“神”は、特定の宗教を指してはいませんね。
もともとヒンズー教もイスラム教もキリスト教も信じてしまう彼でしたから。
ここのところは、八百万の神を受け入れてしまう私達日本人にはとても受け入れやすいのです。
このストーリーは、これまでの西洋的キリスト教の発想では生まれなかったと思います。
ラストで、パイはもうひとつ似て非なる物語を語ります。
どちらが本当か?
それは問題ではなくて、パイにとってその物語はどちらも同じ物語なのではないでしょうか。
人であろうと、動物であろうと、同じ生命の物語なのです。
たった一匹の魚の命を奪うことにも涙したパイであればこそ。
どちらでも好きな方を信じればいい。
私にはどちらも同じ・・・・と、
20年後のパイは、ちょっぴりイタズラっぽい目で私達を見つめます。


これ以上くどくど言ってもムダと思えてしまいます。
私の表現力ではちっとも説明しきれません。
宗教や神がどうのこうのなんて、難しく考える必要はたぶんないのです。
どうぞ、ご覧になって“感じて”ください。
可能であれば、是非3Dで。

「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」
2012年/アメリカ/126分
監督:アン・リー
原作:ヤン・マーテル
出演:スラージ・ジャルマ、イルファン・カーン、タブー、レイフ・スポール、ジェラール・ドパルデュー

3D効果度★★★★★
神秘度★★★★☆
満足度★★★★★