映画と本の『たんぽぽ館』

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東京家族

2013年01月27日 | 映画(た行)
老いを描写することで、新しい世代が際立つ



            * * * * * * * * *

山田洋次監督の監督生活50周年記念として、
名匠小津安二郎「東京物語」にオマージュを捧げた家族ドラマです。



瀬戸内海の小さな島に暮らす周吉(橋爪功)・とみこ(吉行和子)の老夫婦が、
子どもたちに会うために東京へやってきます。
長男、幸一(西村雅彦)は、医師。開業医です。
長女、滋子(中嶋朋子)は、美容室を営んでいる。
そして一番末の次男、晶次(妻夫木聡)は、定職はなく、
今は舞台の大道具などをして何とか食べています。
周吉から見ると、満足に独立できている長男・長女に比べて、
晶次の境遇がいかにも情けなく思われる。
晶次も、子供の頃からいつも兄ばかり褒められ、自分は相手にもしてもらえなかった・・・と、
かなりこの父と息子の間には断絶があるのです。

今作でも父母の上京にあたり「品川駅」で待ち合わせといったのに、
「東京駅」で待っていたりして、
「あの子は何をやっても役に立たない」と、姉にボロクソに言われたりします。
さてしかし、東京の子どもたちに温かく迎えられた父母ではありましたが、
日がたつに連れて怪しい雲行きになってきます。
皆それぞれの生活があり、忙しく、
父母を東京見物に連れて行く時間も取れないのです。
「いつまでいるのかしら・・・」と、次第に煙たく思い始める息子、娘・・・。


田舎でゆったりと暮らす父母と、
東京のせわしない生活に染まっている子どもたち。
いやいや、こういう空気がとても良くわかりますね。
こうなりますよね。
口数少なく気難しげな父親と子どもたちをうまく結ぶのが母親のとみこ。
特に晶次はお母さんっ子なんです。
彼は恋人の紀子(蒼井優)をお母さんに紹介します。



夫婦とは・・・、
家族とは・・・、
そして老いと死。
生きていく限り私達もいつかはきっと出会う事柄を、
じっくり見据えて描き出しています。
老夫婦が子どもたちの間をたらいまわしになる前半よりも、
後半の晶次・紀子ととみこの出会いのシーン辺りからが、ぐっと胸に迫ってきます。
老夫婦を中心にしたシーンから、若いこの二人が登場した時に、
なんて「若さ」ってステキなのだろう、と思わずにいられません。
自分がすでに老境に入りかけているせいかもしれませんが、
若さはそれだけでもう、宝であり、希望だと思えます。



「東京物語」は戦争の爪痕を背景に描かれているそうなのですが、
今作では東日本大震災が話題とされています。
・・・が、若干無理やり挿入しているような気もします。
まあ、晶次と紀子の出会いのエピソードというところは、ちょっと納得しましたが。


瀬戸内海の彼らの故郷の島がステキです。
私ならやはりこういうところに住みたいなあ・・・と思うのですが、
何故か皆都会を目指す。
「こんなのはまちがっている。
なんで日本はこんな風になってしまったのだ、
やり直せないのか」
・・・と、酔いつぶれてくだをまく周吉。
このセリフを活かすには、もっと深い掘り下げが必要だったようには思いますが、
周吉にとって子供らが家を出たきり帰ってきもせず、
生活に追いまくられてかまってももらえないのは、
この忌々しい一極集中の世の中のせいだ・・・
という、強い思いの発露だったのでしょう。
そこへ行くと、やんわりと現実を受け止めていたお母さん、
さすがでした・・・。


「東京家族」
2012年/日本/146分
監督:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、中嶋朋子、妻夫木聡、蒼井優
老いを見つめる度★★★★★
満足度★★★★☆