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「百年の女 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成」酒井順子

2019年03月30日 | 本(解説)

現代婦人の卑属にして低級なる趣味を向上せしめる

百年の女 - 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成 (単行本)
酒井 順子
中央公論新社

* * * * * * * * * *

〈女人全開〉の歩みに驚愕、呆然のち爽快
――面白く、ためになる異色の近現代史。
大正の「非モテ」、女タイピストの犯罪者集団、
ウーマン・リブとセックス、専業主婦第二職業論……
トンデモ事件から時代を揺るがせた論争まで。
人気エッセイストが、『婦人公論』(1916年創刊)の主要記事やトピックを取り上げながら、
日本女性と社会の変遷を丹念に追った、トリビア満載の労作。
祖母たち、母たちの100年分の知恵がここに!

* * * * * * * * * *

大正5年に創刊された「婦人公論」は、
平成28年(2016年)で、創刊100週年を迎えていたそうです。
本作は評論家酒井順子さんが、「婦人公論」100年の歴史をひも解き、
日本女性がいかに生きてきたのかを振り返ります。

まず巻頭に、100年の冊子の中から多くの表紙をカラーで紹介してあるのが嬉しい。
昭和初期あたりから東郷青児があったり、昭和22年で藤田嗣治、
昭和27年に小磯良平があったりします。
豪華!! 
昭和30年代では女優さんなどの写真。
最近では市川海老蔵さんとか氷川きよしさんなど男性も表紙に載っているのですね。


・・・と気を良くしたところで、いよいよ本題。
大正5年の創刊時の綱領というのがもう、思いっきり衝撃的かつムカつきます。

「高尚にして興味豊かなる小説読み物を満載して
以て現代婦人の卑属にして低級なる趣味を向上せしめ・・・」

女性の好むものなど、全て卑属で低級と思われていたということですね・・・。
まあ無理もない、当時は女性の権利などないと同じ。
選挙権、被選挙権どころか、政治的集会に参加する権利もない。
財産を持つこともできず、離婚に際しての財産分与を請求する権利もない。
つまり女性は経済的に自立することができず、夫の管理下で生きる他なかった。
既婚女性が他の男性と通じれば姦通罪。
逆の場合は何ら問題なし。
要するに女性は「人間」じゃなかったのです。
男性からは下等生物と思われ扱われていた。
体力ではもちろんですが、知能も劣ると思われていたようです。
それだからこその前述の文章で、
平塚らいてうが「原始女性は太陽であった。でも今は病人のような蒼白い顔の月。」
と言ったのも頷けます。
まあ、そんなことで出発した「婦人公論」ですが、
この平塚らいてうさんも多く寄稿し、「新しい女」のあり方を説いていくわけです。
しかしそれについても、男性著名人からの揶揄のような文章も多々。
・・・まあ、世の中はそうすぐには変わるものではありません。


それでも、わずかずつではあるけれども女性も社会へ出ていくような流れが見られてきます。
ところがそれを押し留めたのが昭和期の戦争。
国力を増すために「産めよ増やせよ」と言われる時代、
女性はただただ「産む機械」にされてしまった。
とにかく生きるのに精一杯で、女性のあり方がどうのこうの
などと言っている場合でもなかったのでしょう。
ところが戦後になって突然今までになかった女性の「権利」が降ってきます。
そこから本当に女性が男性と肩を並べて生きていくまでには長い道のりがあり、
今に至ってもまだ道半ばという気はしますけれど・・・。
そのあたりのことは、この本を読むまでもなく、我が人生と重なり合うところでもあります。

素晴らしく具体的な生きた女性史を学ばせていただきました。
名著だと思います。


図書館蔵書にて
「百年の女 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成」酒井順子 中央公論新社
満足度★★★★☆



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは。 (mo)
2019-05-16 20:00:30
こんにちは。
今でも全く変わってないのが悲しいですよ。
複数医学部入試での女子減点は記憶に新しいですが、
合格した後も、酷い扱いを受けてしまう。
https://www.businessinsider.jp/post-187070

お勧め本、紹介させてください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4861827493/?coliid=I399ZEZ4HAKAH5&colid=2ASL4VNQ2A54L&psc=0&ref_=lv_ov_lig_dp_it

Goodreads Choice Awards Best Science & Technology
という賞にノミネートされた本です。
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Unknown (たんぽぽ)
2019-05-17 16:29:08
moさま
貴重な情報をありがとうございます。
私は先日上野千鶴子さんの「女ぎらい ニッポンのミソジニー」という本を読んで、女性差別の、根っこのところがよくわかりました・・・。
本当に、今も全く変わってないですね・・・。
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