目が見えるからといって、正しく見ているわけではない
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私たちは日々、五感―視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚―からたくさんの情報を得て生きている。
なかでも視覚は特権的な位置を占め、
人間が外界から得る情報の八~九割は視覚に由来すると言われている。
では、私たちが最も頼っている視覚という感覚を取り除いてみると、
身体は、そして世界の捉え方はどうなるのか―?
美学と現代アートを専門とする著者が、
視覚障害者の空間認識、感覚の使い方、体の使い方、コミュニケーションの仕方、
生きるための戦略としてのユーモアなどを分析。
目の見えない人の「見方」に迫りながら、「見る」ことそのものを問い直す。
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本巻は、STVラジオパーソナリティ、佐々木たくお氏が
紹介していたのを聞いて興味を持ちました。
私たちは視覚を最も頼りにして生活しているけれども、
目の見えない人は、どのように世界を認識しているか、という主題に迫ります。
私、先頃「デフ・ヴォイス」という小説で、
聴覚障害のことについてこれまで知らなかったことをずいぶん知るようになったので、
視覚障害についても知りたくなったのです。
例えば、私たちは富士山といえば、あの銭湯の壁に書かれているような
上が欠けた三角形、つまり平面的な物をイメージします。
でも見えない人は、富士山を上がちょっと欠けた円すい形、
すなわち立体としてイメージするといいます。
同様に、月は見える人にとっては円形、
けれど、見えない人にとってはボールのような球体。
私たちは絵に描かれた物のような文化的に構成されたイメージを持って、
目の前の物を見ている。
けれど、そうした文化的フィルターから自由な見えない人は、
立体の物を正しく立体としてイメージするわけなんですね。
目が見えているからといって、正しく見ているわけではない、
というのが興味深い。
そして見えない人は、視覚情報の代わりに他のあらゆる感覚を使って「見る」のです。
聴覚、触覚、肌で感じる空気感。
視覚が失われているのは不便ではあるけれど、決して不幸ではないですね。
見えない人が、美術館で絵画鑑賞をする、などという話も紹介されています。
見える人も見えない人も普通に共生できる社会だといいですね。
<図書館蔵書にて>
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗 光文社新書
満足度★★★★☆
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