花々の戦略
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野に生きる植物たちの美しさとしたたかさに満ちた生存戦略の数々。
植物への愛をこめて綴られる珠玉のネイチャー・エッセイ。
カラー写真満載。
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野山の花が好きな私。
だからこういう本も好きです。
本巻はカラー写真もたっぷり載っていて、眺めるだけでも楽しめます。
花の形は驚くほど様々で、奇妙というべきもの多いのですが、
本巻を読むとその奇妙さにも理由があるということがよくわかります。
多くは、虫を誘い込んでおしべの花粉を付け、
それをめしべに運んでくっつける、そうした工夫の果てということなのですね。
たとえば、「ムサシアブミ」として本巻に紹介されているのは、
私の地方では「マムシグサ」と呼んでいるものとよく似ていて、
多分その花の仕組みも同様のものと思われます。
ツボ状になったその花(雄花)に潜り込んだ虫は、
なかなか出口が見つからずうろうろするうちに花粉まみれになります。
ようやく一カ所だけ開いた穴から出た虫は
今度は雌花にもぐりこんで、めでたく受粉を成功させます。
しかしなんと雌花には出口が付いていないそうな。
閉じ込められた虫はそこで死んでしまうことに・・・。
一見食虫植物のように見えるこの花。
でも食虫植物ではないけれど、結局虫を殺してしまうという、
策略に満ちた植物なのでした。
白い花と赤い花が同じ木に咲くハコネウツギ。
実はこの花は、咲いたときには白くて、
日が経つにつれてピンクから赤へと次第に色を濃くしてゆくのです。
これは、花粉を運ぶ虫が、少しでも多く花粉を運ぶように工夫されたもの。
この好む好むマルハナバチは白い花が好みなのだそうです。
だから咲きたての花粉たっぷりの花に寄ってくる。
古くなってあまり花粉も残っていない花に寄ってこられても、たいして役に立たない。
花の色を変えていくことで効率よく受粉が進むというわけなんですね。
こんな風に、今までよく見かけていた花でも、
様々な戦略によって今の生態となっているということに、今さらながら驚かされました。
最終章としては、最近の高山植物のことに触れています。
どんどんその生態系がおびやかされて、絶滅が危惧されているものが多々あるとのこと。
それは温暖化による気候変動や、増えすぎた鹿などの食害のため。
なんとかして、絶滅をくいとめたいとは思いますが、
私たちにはそのために何ができるのか・・・。
考えていきたいことですね。
「野に咲く花の生態図鑑 春夏篇」多田多恵子 ちくま文庫
満足度★★★★☆
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