映画と本の『たんぽぽ館』

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「夜中にジャムを煮る」 平松洋子 

2012年02月29日 | 本(エッセイ)
密やかな女の幸せ・・・

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夜中にジャムを煮る (新潮文庫)
平松 洋子
新潮社


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食に関わるエッセイ集ですが、この本、グルメ本とは違います。
著者の食に関しての飽くことなき探究心に、頭の下がる思いがしました。


例えば、ご飯。
電気炊飯器では物足りなくなった著者は、いろいろなもので試します。
昔ながらのアルミの文化鍋。
韓国の石鍋。
「釜炊き三昧」という製品。
土鍋。
「飯炊き道」にはまった著者は、10年をかけその道に邁進。
結果がこの言葉にたどり着く。
「ご飯は基本的には愛情。
おいしいご飯を食べさせてあげたい、その気持ちさえあれば、美味しく炊けるもの・・・」

鍋に振り回されるのでなく、あくまでも自分の炊き方で・・・か。
私は、電気釜で満足してます! 
ちょっとまねはできません。
でも、ご飯にここまでこだわるというのは日本人ならではですねえ。



表題の「夜中にジャムを煮る」というのは、
果物の食べ時を見極めるのがどれだけ難しいか、という話から始まります。
果物が固くなく、熟れすぎず、その最も食べごろの時は一瞬で、
うっかりすると見過ごしてしまう。
だからたくさんの果物が手元にあるときなど、一度には食べきれず困ってしまうというのです。
そこでひらめいたのが、その最も良い時にジャムにしてしまうこと。
そして、夜更けの静かさの中でジャムを煮ることが、著者の密かな楽しみとなる。

「世界がすっかり闇に包まれて、しんと音を失った夜。
さっと洗ってへたをとったいちごをまるごと小鍋に入れ、砂糖といっしょに火にかける。
ただそれだけ。
すると、夜のしじまの中に甘美な香が混じりはじめる。
暗闇と静寂のなかでゆっくりとろけてゆく果実をひとり占めにして、胸いっぱい幸福感が満ちる。」


何やら芳醇で官能的な感じさえする、夜中のジャム作りなのでした。

だしの話、カレーの話、韓国料理の話・・・、
決して高価なグルメの話ではないけれど、
どれも食への愛情・探究心に満ちており、なんだか幸せな気持ちになります。
そして一人でごはんを食べることに、
変に意識をする必要はないという部分にも納得。
一人暮らしならあたりまえのことだし、わびしいとか何とか、考える必要はないのではないかと。
人間、一人で生まれて一人で死んでいくので、
いつ何時でも一人で生きていける準備をしておいたほうがいい。
一人ピクニックが好きだという著者は、そういうのです。
私も映画を見に行く休日は、一人でお店に入ってランチをするのですが、
まあちょっと一人では入りにくいお店もありますね。
けど、自分さえ気にしなければ、どうということないのかもしれない。


さて、そしてまた、この本の解説が、我が敬愛する梨木香歩さんです。
氏は、先に上げた「ジャム」の部分で、
「すべての雑音が消える真夜中にジャムを煮る音とにおいに五感が集中する、
そのきりきりとした心地よさ、夜中の不思議な時間の流れ方の描写に共感する」

と記しています。
なんだか無性にいちごジャムが作りたくなってしまいますねえ・・・。

「夜中にジャムを煮る」平松洋子 新潮文庫
満足度★★★★☆


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