映画と本の『たんぽぽ館』

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ソング・オブ・ザ・シー 海のうた

2018年09月29日 | 映画(さ行)

詩情にあふれ、美しい・・・

* * * * * * * * * *


第87回アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネート作品。
アイルランドに伝わる神話・民話をもとにしています。
海でアザラシの姿をしていて、陸でアザラシの皮を脱ぐと人間の姿になるという妖精、セルキー。
ベンとシアーシャの兄妹はそのセルキーと人間のコナーとの間に生まれました。
ところが、セルキーである母親は、シアーシャを産み落とし、海へ帰ってしまったのです。
シアーシャが生まれたせいで母がいなくなったと思うベンは、
妹を好きになることができません。

6歳になっても口を利くことができないシアーシャに、ベンは意地悪をしてしまうのです。
誕生日の夜、シアーシャは父が隠してあったセルキーのコートを見つけて着てみます。
そして海に入ると、なんとも自由に水の中を泳ぐことができて、
アザラシたちと遊ぶことができました。

翌朝、海辺で倒れているシアーシャを見つけた祖母は、
こんな危険な場所に子供を負いておくことはできない、と、
むりやり二人を町の自分の家へ連れ帰ります。
ところが、シアーシャがフクロウの魔女に連れ去られてしまい、
ベンは妹を探しに魔法の世界へ足を踏み入れます・・・。

なんて詩情にあふれて美しい物語なのでしょう・・・。
作中の歌が透明感のある懐かしいようなメロディで、
それだけでもう、泣きそうになってしまいます。


人間ではないものが人間と結婚をして(異類婚姻譚)、
子をなした後、また帰っていってしまう・・・というのは
日本にも羽衣伝説のように、類似した話がありますね。
ヨーロッパの隅っこのお話は、どこか日本と近いところにあるのかもしれません。


どうしても妹を好きになれなかったベンが、冒険を通じて成長してゆく。
これはそういう物語ではありますが、
また「母」の支配する強大な力の物語でもあります。
河合隼雄先生の言う「グレートマザー」の形がここにありました。
悲しみに暮れて弱りきっている息子のことを守ろうと思うあまりに、
母は強大な力を身につけます。
伝説の巨人マクリルの母・マカと、ベンとシアーシャの父であるコナーの母、
この二組がピッタリ重なりあっているのですね。
神話や伝説に、今を生きる私達の心の源泉を重ねていく秀逸なストーリーでもありました。


絵柄は素朴で単純。
そこに温かみがあります。
ベンの欠けた前歯が愛おしく、シアーシャの髪を耳にかける仕草がなんとも可愛らしい。
視聴後もしばしぼーっと、私はこの作品世界を漂っていました。



えーと、このときのアカデミー長編アニメ賞を受賞したのは「ベイマックス」。
本作を選ばないなんて、アカデミー賞の権威なんていい加減だわ・・・
と思わずにはいられない。
というか、結局自国びいきなんですね。

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた [DVD]
デヴィッド・ロウル,ブレンダン・グリーンソン,フィオヌラ・フラナガン,リサ・ハニガン,ルーシー・オコンネル
TCエンタテインメント



<WOWOW視聴にて>
「ソング・オブ・ザ・シー 海の歌」
2014年/アイルランド・ルクセンブルグ、ベルギー、フランス、デンマーク/93分
監督:トム・ムーア

作品世界観★★★★★
叙情性★★★★★
満足度★★★★★



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