映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「強運の持ち主」 瀬尾まいこ 

2009年06月19日 | 本(その他)
強運の持ち主 (文春文庫)
瀬尾 まいこ
文藝春秋

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私にははじめての作家です。
この本の主人公は、元OLの占い師、ルイーズ吉田。
・・・なんて聞くとちょっと引きませんか?
でも、怪しげなオカルト本では全然ありません。

彼女は、OL時代に営業で鍛えた話術を生かそうと思い、
この仕事についたのです。
実際はわずかな講習を受けただけ。
彼女自身には霊感も何もありません。
そんなのインチキじゃないか、と思いますか?

こんな文章があります。

「いくら正しいことでも、先のことを教えられるのは幸せじゃないよ。
占いにしたって、事実を伝えるのがすべてじゃない。
その人がさ、よりよくなれるように、
踏みとどまっている足を進められるように、
ちょっと背中を押すだけ。」

確かに、占いのお客というのはそういうことを求めているのだと思います。
だから彼女は占いというよりは
ほとんど人生相談のような立場なのです・・・。
ルイーズ吉田・・・?の始めの印象とは裏腹に、
これはとてもじんわりと優しく温かい、
"ほっこりとした"気持ちになる物語です。


もともとミステリ好きの私には、
この本はなんだか「日常の謎」を解くミステリに近いと感じてしまいました。
というのも、彼女が占いをする時には相手を観察して、
どんな人なのか推理するんですね。
少し話してみれば、大体その人の性格は見当がつくようです。


冒頭の「ニベア」では、なんと小学生の男の子が占いのお客。
彼は、何度かどうでもいいようなことを占ってもらいに来たあとで、
「お父さんとお母さん、どっちにすればいいと思う?」と聞くのです。
これは、離婚するお父さんとお母さんの
どっちについていくべきかという話なのかな?
・・・そのように、思うわけですが、
実は・・・。

意外な展開が待っていまして、
始め、ちょっと小生意気そうに見えたこの子が、
実に思いやりにあふれた聡明な子・・・という実像が見えてくる。
いいストーリーでした。


さて、この本の表題、「強運の持ち主」というのは、
実はこのルイーズさんの同居のカレ、通彦のこと。
通彦には、これまで彼女が占った相手の中で一番の強運の相があったので、
ほとんど強引にカレシにしてしまったのです。
しかし、通彦はごく普通の公務員で、
今のところ特に、ずば抜けた才能も見せないし、大金をつかみそうにもない。
でも、いつもなんだかゆったりしていて、やさしく包んでくれるような感じ。
晩御飯も作ってくれるんですよ。
(ただし、作るものはヘンテコ!)
せっかくの休日、どこかに行こうと思っても、
通彦はひたすら寝ているばかり。
やっと起きたと思ったら、ダイエーへ行こうと・・・。
がっかりするルイーズですが、
実際出かけてみれば、一緒に生活用品などを選ぶのは結構楽しい。
ダイエーなら、おしゃれも必要ないし、
フードコートでクレープなんか食べちゃうのも、ほんのちょっぴり幸せ気分。
家のすぐ近所のスーパーよりは気持ちが弾む。

うん、こういう生活観あふれる、小さな幸せ・・・。
なんだかいいですね。
こういうことが似合う男の人というのもいいもんだなあ・・・と、
しみじみしちゃいます。
また1人、好きな作家が増えちゃいました・・・。

満足度★★★★☆


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