半分は自分に、半分は蜂に
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第92回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞および国際映画賞にノミネートされた本作。
ドキュメンタリー?
あらかじめ練り上げたストーリーとしか思えないほどに、物語性のある作品でした。
北マケドニアの首都スコピエから20キロほど離れた電気も水道もない谷。
目が不自由で寝たきりの老婆(母)と暮らす一人の女性をカメラは追います。
女性は、ほとんど自然のままの蜂の巣から蜜を集めて生活しています。
「半分は自分に、半分は蜂に」ということを信条としていて、
蜜を取り尽くすことはなく、常に半分だけ「いただいて」いるのです。
ある日、となりに子だくさん(数え切れない!)の夫婦がやって来て、
多くの牛を飼い始めます。
そんな一家との交流もはじまり、
わびしい田舎の一軒家暮らしも、賑やかなものになって来ますが・・・。
となりのご主人が、女性をまねて多くの巣箱を置いて蜂を飼い始めるのです・・・。
自分と母親が生きていける最低限のものを
自然の営みの中からいただいて、生活していた女性。
それに対して、となりのご主人は欲張ってしまったのです。
けれど、彼を責めることはできないと私は思います。
だって、あんなにたくさんの家族を養うためにはどうしたって多くの収入が必要です。
食べるだけならまだしも、学費などを考えたら・・・。
昔々、和人がまだ入り込まない北海道の地でアイヌたちが暮らしていたとき、
彼らは自然の恵みを自分たちに必要なだけ、神さまからいただいていました。
豊かな山や川や海の幸を採り尽くすなどということはなかった。
けれど、和人が入り込むと、彼らは自分たちが食べるためではなくて、
売って儲けるために採り始めた。
そうして、たちまち自然は破壊され枯渇していく・・・。
まるでそういう歴史をなぞるようなドラマとなっているドキュメンタリーなのです。
恐れいります。
けれど、とても貧しい生活や寝たきりの老女を描きながら、
何故かからっと明るい感じがするのです・・・。
同じ題材を日本で作品を作ったら、
多分もっとじっとりと暗―い作品になると思います。
女性は、たまに蜂蜜を売るために列車に乗って首都スコピエまで出かけます。
それでやっと私たちはこれは現在の映像なのだな、とハッとするのですが。
「砂糖や水や添加物も入っていない純粋な蜂蜜だよ」という売り込みも、現代ならでは。
そしてすごく意外だったのは、彼女は髪の染色剤を買い求めるのです。
失礼ながらこの生活でそんなものが必要?と思ってしまったのですが、
いくつになってもやはり女は女。
オシャレ心を忘れてはいないのでした。
<WOWOW視聴にて>
「ハニーランド 永遠の谷」
2019年/北マケドニア/86分
監督:リューボ・ステファノ、タマラ・コテフスカ
寓話性★★★★☆
満足度★★★★☆
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