映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語

2019年12月13日 | 映画(ら行)

夢に年齢制限はない

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東京の一流企業に勤める49歳、肇(中井貴一)。
家庭を顧みる暇もなく仕事に追われる日々。
あるとき、故郷の島根で一人暮らしをしている母が倒れます。
またちょうどその頃、肇の親友が事故死。
これまでの仕事一筋の人生に疑問を抱き始めた肇は、
子どもの頃に憧れた一畑家電車、通称「バタデン」の運転士になることを決意しますが・・・。

 

エリートサラリーマンがまさかの転身。
これも一つのロマンではありましょう。
電車の運転士。
かつては男の子の将来なりたいもののトップだったのでしょうね。
本作中では肇の家の前を電車が通っていて、これで憧れないはずがありません。

 

バタデンは、島根県を走るなんともローカル色たっぷりの電車。
鉄子ではない私も、ちょっと乗ってみたい。

作中、肇の妻(高島礼子)はハーブを扱う店を開いたところ。
つまりそれなりに収入はあるので、意外と夫のとんでもない転職にも鷹揚です。
ただし、彼女は東京を離れられないし、肇は島根の実家暮らし。
互いの生き方を尊重し、別居のまま夫婦生活を続けるというところは、
できすぎのような気もしますが、でもいい感じです。

一畑電車に肇と同期採用の新人・宮田(三浦貴大)は、
実はかつて甲子園球児で、プロ入りも決まっていたのに
肘を痛め、野球の道を断念。
仕方なく好きでもないこの会社に入社。

夢を叶えるために入社した肇とは全く別のアプローチ。
こういう対比がよかったです。

 

ただ一つ残念だったのは、肇の母(奈良岡朋子)は、
がんの末期で入院しているのですが、あるとき一時帰宅。
「このままここで死にたい」と彼女は言うのですが、やはり病院に戻って息を引き取ります。

住み慣れた我が家で死んではいけないのか・・・?

本作のテーマとは外れたこんなところに私が注目してしまうのは、
実は今読んでいる本「おひとりさまの最期」のせい。

これについては次回、述べることにしましょう。

RAILWAYS [レイルウェイズ] [DVD]
中井貴一,高島礼子,本仮屋ユイカ,三浦貴大,奈良岡朋子
松竹

 

<WOWOW視聴にて>

「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」

2010年/日本/130分

監督:錦織良成

出演:中井貴一、高島礼子、本仮屋ユイカ、三浦貴大、奈良岡朋子

 

夢の実現度★★★★☆

満足度★★★.5


アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール

2019年12月12日 | 映画(あ行)

沸き上がる才能は、誰にも止められない

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世界最高峰テノール歌手アンドレア・ボチェッリの激動の半生を綴る自伝的小説を映画化したもの。

とは言ったものの、白状すれば私、オペラにはとんと関心がなく、
その最高峰というアンドレア・ボチェッリの名前すら知らなかったというお粗末さ・・・。
でも関心が薄いというだけで嫌いなわけではないので、この際見てみよう!!ということで。

 

イタリア、トスカーナ地方でアモス(後のアンドレア・ボチェッリ)は生まれます。
生まれながらの弱視だったのですが、12歳の時に事故で持病が悪化、ついに失明してしまいます。
不自由な暮らしに苛つくアモスを見かねた叔父がアモスを音楽学校へ連れて行き、
アモスはその美しい歌声でコンテストで優勝。

ところが変声期をきっかけに歌手の道は諦め、弁護士を目指すように。
しかし、多くの有名オペラ歌手を育てた歌唱指導者マエストロ(アントニオ・バンデラス)との出会いが
アモスの人生を変えます。

 

弱視だったアモスの楽しみはオペラのレコードを聴くこと。
子どもの頃のこの音楽との親しみが後の彼の人生の下敷きになったことは間違いありません。

ボーイソプラノのアモスの歌が素晴らしかった!! 
私は泣けました。
こういう無垢な歌声に弱いのです。
でも、この声が出せるのはほんの少年時の一時だけなんですねえ・・・。
ホント、惜しいわあ・・・。

 

どんなにもうやめようと思っても、「才能」がそれをやめさせない。
何より好きで好きでたまらない。
自然に湧き上がってくる。
どのような分野でもそういう人っているものですね。
先日見た「パリに見出されたピアニスト」もそうだったなあ・・・。

 

アモス(トビー・セバスチャン)の歌唱シーンは、すべてボチェッリ本人が吹き替えたそうです。
それで、まさにテノールの最高峰をたっぷり堪能させていただきました。
オペラもいいもんですねえ・・・。

<シネマフロンティアにて>
「アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール」

2017/イタリア/115

監督:マイケル・ラドフォード

出演:トビー・セバスチャン、アントニオ・バンデラス、ルイザ・ラニエリ、ジョルディ・モリャ

歌声の素晴らしさ★★★★★

満足度★★★★☆


「ぐるぐる♡博物館」三浦しをん

2019年12月11日 | 本(解説)

好奇心がくすぐられる

ぐるぐる♡博物館
三浦 しをん
実業之日本社

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人類史の最前線から、秘宝館まで、個性あふれる博物館を探検!
書き下ろし「ぐるぐる寄り道編」も収録!
好奇心とユーモア全開、胸躍るルポエッセイ。

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 三浦しをんさんが、様々な博物館を訪れたルポエッセイ。

訪れたのは次のように場所もジャンルも全く別々のところ。

茅野市尖石縄文考古館(長野)

国立科学博物館(東京)

龍谷ミュージアム(京都)

奇石博物館(静岡)

大牟田市石炭産業科学館(福岡)

雲仙岳災害記念館(長崎)

石ノ森萬画館(宮城)

風俗資料館(東京)

めがねミュージアム(福井)

ボタンの博物館(大阪)

書き下ろし「ぐるぐる寄り道編」熱海秘宝館/日本製紙石巻工場/岩野市兵衛さん


ざっと見て、私が特に興味があるのは石ノ森萬画館くらいなのですが、
読んでみると実にそれぞれが興味深くて、
どこも是非一度行ってみたい!!という気にさせられました。

それはやはり、三浦しをんさんの筆力、描写力ではありますが、
どんなことにも情熱を傾ける人がいて、
好奇心を持ってそういうことを学ぶというのは
いくつになっても楽しいものだなあ・・・と思った次第。


巻頭、縄文時代の土器や土偶がいっぱいという茅野市尖石縄文考古館には特に興味をひかれます。
5000年前の人々がどんな風に生活していたのか、
ユニークな姿の土偶などを眺めながら、そんなことに思いをはせるのも良さそうですね。

東京の国立科学博物館は、かなり前に一度行ったことがあると思うのですが、
一度たっぷり時間をとって、じっくりと回ってみたいものです。

博物館と言っても、いろいろあるのですね。
そういえば札幌にも多分いろいろあるはずなのですが、行ったことがない。
まずは地元から探訪してみましょうか・・・。

そんな風に好奇心をくすぐる本です。

 

図書館蔵書にて

「ぐるぐる♡博物館」三浦しをん 実業之日本社

満足度★★★★☆


十二人の死にたい子どもたち

2019年12月10日 | 映画(さ行)

13人いる!!

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本作は、原作を読んだので映画は見なくていいか・・・と、見ていなかった作品。
けれど、今、旬の若手俳優揃いなので、やっぱり見てみようと思いまして。

 

閉鎖され、まもなく取り壊しが予定されている病院。
そこへそれぞれの理由で自ら安楽死をしようという、少年少女12人が集まります。
しかし彼らはそこでいるはずのない13人目の遺体を発見。
車椅子を使用していたと思われる彼を連れてきた人物がこの中にいる。
それは一体誰? 
そして、彼らそれぞれの死にたい理由とは?


会議机とベッドが並べられた室内で語り合う彼ら。
本ではあまり気づかなかったのですが、このシーンが中心となるので、
舞台劇の雰囲気があります。
そのためか彼らの口調もやや演劇調にも感じられました。

内容は原作をほとんど壊していないので、
もう少し詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。

→「十二人の死にたい子どもたち」冲方丁

 

実際、若手俳優そろい踏み、これぞ各自の腕の見せ所。
中でもさすがに杉咲花さんの存在感は圧倒的でした。
12人の動きはやはり本で読むよりも映像で見るほうがわかりやすいのです。
本でも12人はきちんと読み分けられますが、映像の力にはかないません。

そして、エンドロールで時系列通り彼らの動きがすべて整理されて映し出される、
いわば解答編があるのが、オシャレです。

 

原作を読んでいても十分楽しめました。

 

十二人の死にたい子どもたち (通常版) [DVD]
杉咲花,新田真剣佑,北村匠海,高杉真宙,黒島結菜
バップ

WOWOW視聴にて>

「十二人の死にたい子どもたち」

2019/日本/118

監督:堤幸彦

原作:冲方丁

出演:杉咲花、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙、黒島結菜、橋本環奈

 

原作再現度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント

2019年12月08日 | 映画(た行)

あなたはなぜクリエイティブなのですか?

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ドイツのハーマン・バスケ監督が、世界中の“クリエイティブ”と思われる著名人に
「あなたはなぜクリエイティブなのですか」という問いを発し続け、
撮影した映像をつなぎ合わせたドキュメンタリー。

 

そもそも監督は以前広告代理店のクリエイティブ部門で働いていて、
“クリエイティブ”とは何なのかを考え始めたそうなのです。
そこで、カメラとスケッチブックを抱え、世界中を訪ね歩いて問いかける。
「あなたはなぜクリエイティブなのですか」。

 

インタビューは1000人以上。
そのうち厳選された107人分の映像が本作なのであります。

それにしてもそのインタビュー相手がなんとも豪華。

デビッド・ボウイ等のアーティスト、
クエンティン・タランティーノ、ジム・ジャームッシュ、ペドロ・アルモドバル等の映画監督、
スティーブン・ホーキング博士に、
ダライ・ラマ師、ネルソン・マンデラなど世界に影響を与えた方、
日本に関わってはオノ・ヨーコに北野武!!

 

いやはや、凄いです。
それも、アポなし突撃インタビューも多くて、
いきなり抽象的で深い質問をされて、どなたも一瞬固まったようにも見えます。
けれども真摯に答えようとするその態度こそがまた、凄いなあ・・・と思わせられます。

 

結局、クリエイティブとは何なのか。
その答えは人によって千差万別。
けれど、だんだん見えてくることがあって、
それは「自分」が他の誰でもなく「自分」らしくあること。
自分を表出することこそがクリエイティブということなのかな・・・と。

そしてまた、こんなインタビューを投げかけ続けて、
映像をつなぎ合わせてみたというこの監督こそも、クリエイティブですなー。

 

<シアターキノにて>

「天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント」

2018/ドイツ/88

監督・脚本:ハーマン・バスケ

出演:デビッド・ボウイ、クエイティン・タランティーノ、スティーブン・ホーキング、北野武

 

豪華出演者度★★★★★

問いの難しさ★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


「スウィングしなけりゃ意味がない」佐藤亜紀

2019年12月07日 | 本(その他)

過酷な時代をスウィングで乗り切れ!

スウィングしなけりゃ意味がない (角川文庫)
佐藤 亜紀
KADOKAWA

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ナチス政権下のドイツ、ハンブルク。
軍需会社経営者である父を持つ、15歳エディが熱狂しているのは、
敵性音楽の“スウィング”だ。
歌い踊り、天才的な即興に驚嘆する。
ゲシュタポの手入れを逃れるのもお手のものだ。
だが音楽に彩られた日々にも、戦況の悪化が不穏な影を落とし始める…。
権力と暴力に蹂躙されながらも、自分らしく生きようと闘う人々の姿を、
ジャズのナンバーとともに描きあげる、魂を震わせる物語。

* * * * * * * * * * * *

 

「ベルリンは晴れているか」や「革命前夜」など、
ナチス政権下のドイツの話がなぜか好きな私。
本作も、そんな時代のドイツ、ハンブルグが舞台です。

主人公エディは裕福な家の御曹司。
父親は以前仕事で渡米したこともあり、ジャズは彼らのお気に入り。
しかし、ナチ政権下では敵性音楽とされています。

どんな時代でも庶民の密かな楽しみはあります。
エディは庶民というには少し裕福すぎますが、
だからこそ、夜な夜な密かにクラブでジャズに浸りスウィングする楽しみはやめられない。
しかしどんどんナチの締め付けが厳しくなり、戦況は悪化していきます。
あるときついにゲシュタポの手入れがあって、逮捕されたエディは監獄送りに・・・。
ただ夜中にクラブでスウィングしていただけなのにですよ・・・。

 

少し長いのですが、エディの思いを綴った文章を引用。 

なあ、感じの悪い「退去」とかつまんないご禁制とかやめてくれよ、誰得だよそれ。
そういう理屈が全く通らないというのは―
そのせいで次から次へといろんなことしなきゃならないのはとても疲れる。
彼らはぼくに多くを求めすぎだ。
血統だの純血だの民族の一因としての自覚だのは、やりたいヤツがやればいい。
どこかの離れ小島でも買い取って。
で、ひたすらアーリア人にアーリア人を掛け合わせて
ジャズとか一切聞かせずに愛国作文でも書かせて
朝から晩まで運動させて歌わせて行進させていれば理想のアーリア人が作れる、
というならどの程度のものが仕上がるか喜んで見せてもらうけど、
僕にやれとか言わないでくれよ。
もううんざりだ。

 

本当にこれこそが彼の思いのすべて。
ドイツの人がすべてナチに心酔していた訳ではないですね。
それで、エディはこんな時勢を逆手にとって、
仲間とともにご禁制の音楽をレコードにして密かに売りまくって儲けたりします。

しかしいよいよ戦況が悪化、町は空襲により壊滅状態。
エディの両親も亡くなってしまいます。

自由を切望しながら、それでもできる限り自分らしく時代を乗り切っていく。
エディとその仲間たち、感動のストーリーです。
それにしてもあまりにも痛烈な時代。
日本とドイツの状況はよく似ています・・・。

 

図書館蔵書にて(単行本)

「スウィングしなけりゃ意味がない」佐藤亜紀 角川書店

 

満足度★★★★.5


エンジェル、見えない恋人

2019年12月06日 | 映画(あ行)

見えないものを見る

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ファンタジーというかメルヘンというか、そういう話なのですが、
その言葉のイメージほど甘くはありません。

パートナーの失踪により絶望したルイーズ(エリナ・レーベンソン)は、
心を病み、精神病院に収容され、
そこで人知れず一人の男子を出産しました。
その子はエンジェルと名付けられましたが、目に見えない存在だったのです。
ルイーズはそれでもエンジェルを愛し、施設内で育てます。

 

・・・というあたりで気がつくのは、この赤ん坊は実は存在しておらず、
狂ったルイーズが生み出した想像上の産物なのであろうと・・・。
ところが、エンジェルは目に見えないだけで、実際に意思を持っており、
やがて施設の隣家で暮らす一人の少女に興味を持ちます。

ある日ついにエンジェルは施設を抜け出して少女と対面します。
盲目の少女マドレーヌは、気配だけでエンジェルの存在に気がつきます。
やがて互いに惹かれあい、愛を育んでいくのです。

ところがあるとき、マドレーヌが視力を取り戻すために目の手術を受けることになり・・・。

 

マドレーヌにとって、エンジェルは息づかいも感じられ、
手を触れればぬくもりも感じられる、本物の人間なのです。
そして、エンジェルの顔を見ることができる日をとても楽しみにしている。
しかしエンジェルはその日を恐れている。
マドレーヌが見えないエンジェルを認めたとき、果たしてどうなってしまうのか・・・。

 

見えないものを「見る」というのも不思議な感じです。
つまりは元々見ることのできない「愛」というもの、
そのものがエンジェルなのかもしれません。

エンジェルの姿は、視聴者の私たちにも見えないので、
カメラがエンジェルの視線の代わりとなってマドレーヌを見つめます。
薄青い目。日に透ける赤毛。なめらかな肌。
う~ん。
愛だろ、愛って感じです。

 

エンジェル 見えない恋人 [DVD]
ハリー・クレフェン,トマ・グンジグ,ジャコ・ヴァン・ドルマル,オリヴィエ・ローサン
アルバトロス

WOWOW視聴にて>

「エンジェル、見えない恋人」

2016/ベルギー/79

監督:ハリー・クレフェン

出演:フルール・ジブリエ、エリナ・レーベンソン、マヤ・ドリー、ゴーティエ・バトゥー(声)

愛度★★★★★

満足度★★★★☆


「夜行」森見登美彦

2019年12月05日 | 本(その他)

宇宙の深淵=夜

夜行 (小学館文庫)
森見 登美彦
小学館

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十年前、同じ英会話スクールに通う僕たち六人の仲間は、
連れだって鞍馬の火祭を見物にでかけ、その夜、長谷川さんは姿を消した。
十年ぶりに皆で火祭に出かけることになったのは、
誰ひとり彼女を忘れられなかったからだ。
夜は、雨とともに更けてゆき、それぞれが旅先で出会った不思議な出来事を語り始める。
尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡。
僕たちは、全員が道中で岸田道生という銅版画家の描いた「夜行」という連作絵画を目にしていた。
その絵は、永遠に続く夜を思わせた―。
果たして、長谷川さんに再会できるだろうか。
怪談×青春×ファンタジー、かつてない物語。
直木賞&本屋大賞ダブルノミネート作品。

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森見登美彦さんの、現実と不思議世界が地続きとなっていく作品。
けれど、著者に多い諧謔味はなりを潜め、
作中に登場する銅版画のように、暗い色調のひんやりとした手触りの物語です。

10年前、鞍馬の火祭で行方不明となったままの長谷川さん。
その10年後、当時の仲間が集まり、
この10年の忘れられない体験をそれぞれが語り始めるのですが・・・。

誰もが岸田道生という銅版画家の描いた「夜行」という連作に絡んだ不思議な体験をしていたのでした。
そして皆が体験を語り終えてから、
また驚きの展開があるところがこのストーリーのすごいところ。
一読の価値ありです。


人類初の宇宙飛行士ガガーリンが「地球は青かった」と言ったといわれていますが、
彼は本当は地球のことよりその背後に広がる宇宙の深淵、真っ暗な闇にこそに心動かされたのだとか。
すなわちこの世界は基本「夜」なのだ・・・という下りが、なんだか恐ろしく胸に響きました。
夜の闇が、どこか別の世界につながっている・・・。
森見登美彦さんにやられました。

 

「夜行」森見登美彦 小学館文庫

満足度★★★★☆

 


パリに見出されたピアニスト

2019年12月04日 | 映画(は行)

チャンス、努力、信頼・・・

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パリ、北駅に置かれた1台のピアノ。
だれでも自由に弾くことができるように置いてあります。
マチュー(ジュール・ベンシェトリ)は、時々そこでピアノを弾いていました。

そこへ通りかかった音楽学校のディレクター・ピエール(ランベール・ウィルソン)が興味を示し、
連絡をほしいと声をかけます。
そのときはそのままだったのですが、その後マチューはある家に盗みに入ったところを捕まり、
実刑を免れる代わりに無償奉仕をすることになります。
そして、音楽院の清掃にやってきたマチューは、
ピエールや女伯爵と呼ばれる厳しい教師・エリザベスの手ほどきを受けることに・・・。

 

マチューは家が貧しく、正規のピアノのレッスンを受けることができなかったのです。
駅のピアノを見ればつい弾いてしまうくらいにピアノは大好きなのですが、
自分の将来と結びつけることはなかったし、
だからこそ、夢もなく、近所の悪ガキたちとつるんでは悪事を繰り返していたわけです。

冒頭のシーンがなかなかイケているんですよ。
駅でピエールに声をかけられたマチューに何人かの警官が近づいてくる。
それを認めたマチューはいきなり駆け出し、彼を警官たちが追い始めます。
取り残されたピエールはただ呆然。
マチューは逃げて逃げて逃げまくり、ついに地下鉄に乗ったフリで警官たちを地下鉄に乗せ、
駅を出た地下鉄車両内の警官をホームからニヤリと笑みで見送る。

なんだかワルそうだけれど、でも、このマチューを私はとても好きになってしまいました。

 

音楽院でのレッスンも、マチューが前向きに受け入れたかといえばそうでもないのです。
レッスンを受けないのなら、無償奉仕の受け入れを断るなどと脅されて仕方なく・・・という感じ。
エリザベスも「彼の才能は認めるけれど、努力しない天才はあり得ない・・・」と、さじを投げる寸前。

そんなマチューを本気でやる気にさせたのはなんと、ガールフレンドなのでした・・・! 
いかにも「男子」なのもいいなあ。

マチューに入れ込んだピエールは院内で孤立し、次第に進退極まって来たり、
いきなり仲間を抜けて音楽院などに通い始めたマチューに複雑な思いを抱く友人たちの存在もあったり・・・、
なかなか見所も多いのです。
自らの夢をつかむためには、チャンスと、努力と、そして周囲の人たちとの信頼か必要なのでしょう。
ピアノに限ったわけではなくて。

ステキな作品でした。
そしてもちろん、ピアノ曲も楽しめます!!
大好きです。

 

<シアターキノにて>

「パリに見出されたピアニスト」

2018/フランス・ベルギー/106

監督:ルドビク・バーナード

出演:ランベール・ウィルソン、クリスティン・スコット・トーマス、ジュール・ベンシェトリ、カリジャ・トゥーレ

 

ピアノの魅力度★★★★☆

満足度★★★★.5

 


菊とギロチン

2019年12月02日 | 映画(か行)

閉塞感に満ちた時代にもがく若者たち

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なんと3時間を超える大作です。

まずは、この題名、不思議な題名ですよね。
何のことなのかよくわからない。
これはつまり本作の主人公たちのことでした。

 

舞台は大正末期、関東大震災のあった直後です。
人々は閉塞感にあえいでいます。

東京近郊の小さな町に女相撲の一座「玉岩興業」の巡業がやってきます。
女相撲の巡業とは珍しいと思うのですが、
この時期は普通にあって、人気もあったのだとか。
そんな中に、夫の暴力に耐えかねて逃げてきた“花菊”(木竜麻生)がいたのです。

そして、この巡業を見に来ていたのが「ギロチン社」の中濱鐵(東出昌大)、古田大次郎(寛一郎)たち。
ギロチン社とは、過激なアナキストのグループ。

これは実在の結社で、人物たちも実在です。
「格差のない平等な社会」を目指す彼らは、要人の暗殺を計画・実行するなどのいわばテロ集団。
しかし幾分インテリの頭でっかちさも目立つ、貧乏なろくでなし集団でもあるのです。
中濱、古田は女力士たちの戦いぶりに魅了され、
花菊や“十勝川”(韓英恵)と親しくなっていきますが・・・。

 

十勝川は朝鮮人で、あの大震災の時の日本人自警団による大虐殺を辛くも生き抜いて、
この女相撲一座にたどり着いていたのです。
この一座の女たちは、みなそれぞれの事情を抱えてここに流れ着いてきていたのでした。
正義感の強い中濱や古田は、こんな風に虐げられた女たちの境遇に憤りを感じます。

けれども、革命を歌いながら、実際にはこんな女一人をも助けることができない
自分たちの無力さにも打ちのめされる・・・。

一方、「強くなって、自分の力で生きたい」と稽古に励む花菊の姿が、生命力に満ちて美しい。
底辺以下の境遇でも女は強いなあ・・・。

 

実にうまく時代を切り取り、そこでもがく若者たちの群像劇に仕上がっていました。

そこで思う。
菊とギロチンの「菊」は、天皇を指してもいるのかも・・・。

菊とギロチン[DVD]
木竜麻生
ポニーキャニオン

 

WOWOW視聴にて>

「菊とギロチン」

2018/日本/189

監督:瀬々敬久

出演:木竜麻生、韓英恵、東出昌大、寛一郎

 

閉塞感★★★★☆

時代再現度★★★★★

満足度★★★★.5

 

 


「室町無頼」垣根涼介

2019年12月01日 | 本(その他)

時代を生き抜く力

室町無頼(上) (新潮文庫)
垣根 涼介

新潮社

 
 
 

 

室町無頼(下) (新潮文庫)
垣根 涼介
新潮社
 
 
 

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応仁の乱前夜。
天涯孤独の少年、才蔵は骨皮道賢に見込まれる。
道賢はならず者の頭目でありながら、幕府から市中警護役を任される素性の知れぬ男。
やがて才蔵は、蓮田兵衛に預けられる。
兵衛もまた、百姓の信頼を集め、秩序に縛られず生きる浮浪の徒。
二人から世を教えられ、凄絶な棒術修業の果て、
才蔵は生きる力を身に着けていく。
史実を鮮やかに跳躍させ混沌の時代を描き切る、記念碑的歴史小説。

* * * * * * * * * * * *

 

垣根涼介さんによる歴史小説。
ぐいぐい引き込まれます。
本作の舞台は室町時代後期。
応仁の乱前夜という、歴史小説でもあまり出てこないあたりです。

ならず者の頭目でありながら幕府から市中警護を任される道賢、
そして、百姓などから信頼を集める浮浪の徒・蓮田兵衛。
この二人が実在の人物のようです。
二人はやがて巻き起こる大がかりな土一揆で頭目として対決することになるのですが、
本作中では互いに奥底の理想が通じる関係。
というのもこのころ幕府の力は弱体化し、抑えの効かない社会では
かつてないほどに富めるものと貧者の格差が拡大。
干ばつによる飢饉で食い詰めた者や、職にあぶれた牢人が都に流れ込んでくる。
なんとかこの世の中の仕組み自体を変えられないものかと、双方考えているのです。


そんな中で双方から見込まれるのが才蔵という青年。
いえ、登場時はまだ少年と言うべき年頃なのですが、
牢人となった武士の子ですが、父親も亡くなり、天涯孤独で己一人生きるのに精一杯でした。
そんな彼が道賢に見出され、兵衛に預けられた後、
一人の老人の元で壮絶な棒術修行に取り組むこととなるのです。

この修行のシーンがとても詳しく描かれているのですが、なんとも壮絶。
命をも落としかねないものなのですが、
そこで死ぬのならばそこまでのものだった・・・と言うこと。

元々の素質もあるのでしょうけれど、
才蔵は期待通りの力と技を体得し兵衛の元に返ってきます。
やがて、怒濤のような土一揆が始まる・・・

 

戦国時代の幕開けを予感するような、血湧き肉躍るストーリー。
あ、そうそう、素晴らしく魅力的な女性も登場します。
彼女に翻弄される男たちは、
「結局こんな荒くれの自分たちも、女には到底かなわないのだ・・・」
などとぼやき会うシーンもあったりするのがお楽しみ。
面白かった!!

 

図書館蔵書にて(単行本)

「室町無」垣根涼介 新潮社

満足度★★★★★