映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ムーンロック・フォー・マンデー

2024年08月10日 | 映画(ま行)

逃亡のロードムービー

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少女マンデーは父と二人でシドニーに住んでいます。
マンデーは免疫にかかわる持病を持っていて、そのため学校には行かず、
元大学教授の父からホームスクーリングを受けています。
外に出るのは週に一度、病院に行く時だけ。

そんなマンデーは、ムーンロック(ウルル)が自分の病気を治してくれると信じていて、
いつかそこまで行ってみたいと願っています。

ある時病院帰りの電車で、タイラーという少年と出会ったマンデー。
実は、タイラーは宝石店強盗を犯して逃走中。
ちっとも乱暴そうには見えないタイラーに、マンデーは同行することにして、
二人でムーンロックへ向かう旅をすることに。
マンデーの父は、マンデーが少年に拉致されたと思い、
警察に連絡した上、すぐに追跡を始めますが・・・。

 

ということで、本作はこの少年少女のロードムービー。
お金も、食料もほとんどなし。
ほとんどが無人の広大な大地。
目指すのはあの、エアーズロック。
さすがオーストラリアならではの題材です。

 

さて、マンデーはとっさに旅に出てしまったわけで、
毎日欠かさずに飲まなければならない薬を持っていません。
その事情を知ったタイラーはなんとか薬局でその薬を得ようとしたりします。
でもその薬は副作用が強くて、マンデーはいつも具合が悪くなってしまうのです。
だから本当は薬を飲みたくはない。
たとえ命が長らえることができなくても、
自分で好きなところへ行く自由の方が大切だと思うようになっていくマンデー。

そういう考え方も確かにありますよね。
一度だけの人生は自分のもの・・・。
ただそれが50歳とか60歳くらいならともかく、
まだほんの少女であるというところが切ないです。

<Amazon prime videoにて>

「ムーンロック・フォー・マンデー」

2020年/オーストラリア/100分

監督・脚本:カート・マーティン

出演:アーロン・ジェフリー、カイ・リューインズ、クラレンス・ライアン、デヴィッド・フィールド、ジェシカ・ネイピア

ロードムービー度★★★★☆

満足度★★★☆☆


シグナル

2024年08月09日 | 映画(さ行)

何のために・・・?

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MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生ニックは、
大学のパソコンにハッキングを仕掛けてきたハッカーの居場所を突きとめるため、
友人のジョナス、ガールフレンドのヘイリーとともに、ネバダを訪れます。
しかし、そこで何者かに襲われ、拉致されてしまいます。
そして、気がつくと政府のものらしき隔離施設に監禁されているのでした。

職員は、ニックたちが『何か』に接触したために感染したと説明。
彼らはガッチリした防護服に身を包んでいて、決してニックらに直接触れようとしません。
それ以前に、ニックは病で足が動かなくなってきていて
杖がなければ歩けない状態だったのですが、その足にも変化が・・・!

途中でネバダ州のこの場所がエリア51であることが明かされます。
つまり、エイリアンがらみのお話・・・?

エイリアンの恐るべき技術が、彼らの体を変化させているらしいのですが、
そもそもその目的は?

そしてここの職員たちは果たしてニックらの味方なのか、
それともエイリアン側の味方なのか?

ナゾは深まるのですが、結局最後までなにもかも余計疑問が膨らむばかりで、
サッパリ分らない。

どうもこういうオチは苦手です。

<Amazon prime videoにて>

「シグナル」

2014年/アメリカ/97分

監督:ウィリアム・バンク

出演:ブレントン・スウェイツ、ローレンス・フィッシュバーン、オリビア・クック、ボー・ナップ

不可解度★★★★★

満足度★★☆☆☆


プルートで朝食を

2024年08月07日 | 映画(は行)

自分らしさのままで生きていく

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舞台は60年代~70年代のアイルランドとイギリス。
双方の関係がうまくいっていない時期ですね。
近くて遠い国。

 

アイルランドに住む青年パトリック(キリアン・マーフィー)は、
教会の前に置き去りにされた捨て子で、
すぐに養子に出されて養母に育てられました。
なぜか化粧やキラキラしたものが好きで、時には女装したりもします。
今でこそ性同一性障害という言葉があって、
そうしたマイノリティへの配慮もされるようになってきましたが、
この時期のアイルランドでは、それはタブー。
養母はこんなパトリックが全く気に入らない。

そして、パトリックは自分の実の母が以前、
リーアム神父(リーアム・ニーソン)の所の家政婦をしていたことを知ります。
つまり、神父が実の父なのか・・・? 
それを問いただそうとしても、神父は何も答えません。
そして、ロンドンで母を見かけた人がいることを頼りに、
家を出てロンドンへ向かいます。

 

ロンドンでは「キトゥン」と名乗るようになったパトリック。

様々な人と出会いながら、自分らしさのままで生きる道を探していきます。
自分を忌み嫌う人もいるけれど、助けてくれる人もいる。
中でもアイルランドでの幼馴染みたちが、キトゥンを勇気づけます。
そんなところに、アイルランドの闘争のことも交えて語られるのが興味深い。

 

 

ちょっぴりコメディタッチ、
つらい立場にありながらもいつも笑顔であろうとするキトゥンが大好きになってしまいます。
中でも父との和解、そして母との邂逅シーンは感動的。

このポスターにもあるとおり、キリアン・マーフィーが演じるキトゥン、美しいですね~。

 

<Amazon prime videoにて>

「プルートで朝食を」

2005年/イギリス/127分

監督:ニール・ジョーダン

原作・脚本:パトリック・マッケイブ

出演:キリアン・マーフィー、リーアム・ニーソン、ルース・ネッガ、ローレンス・キンラン、
   スティーブン・レイ、ブレンダン・グリーソン

性同一障害度★★★★☆

満足度★★★★☆


赤羽骨子のボディガード

2024年08月06日 | 映画(あ行)

守り抜く絶対に!

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Snow Manのラウールくん主演ということで、楽しみにしていました!

同名コミックが原作なので、まあその面白さは保証付き。
通常の私なら見ない類いの作品ではありますが、
この際、四の五の言わずに楽しむのみ。

高校生赤羽骨子(出口夏希)は、なぜか100億円の懸賞金をかけられ、
殺し屋から狙われる身となっています。
幼馴染みの不良、威吹荒邦(ラウール)はボディガードを引き受けるのですが、
その条件としては、骨子本人に命を狙われていること、
およびそのためにボディガードがついていることを気づかれてはならない、ということ。

そしては荒邦はその後に知るのですが、
なんと骨子のクラスメート全員が彼女のボディガードなのでした。
司令塔、空手家、罠師、スナイパー、ハッカー、詐欺師など、
1人1人がその道のエキスパート。
この中で新入りの荒邦など、ただの威勢の良いヤンキーにしか過ぎません。
けれど、骨子を守りたいという気持ちは人一倍! 
彼らは一致団結して押し寄せる殺し屋軍団に立ち向かいます。
ところが、どうやらこの中に1人裏切り者がいるらしい・・・?

原作も全く知らなかった私は「赤羽骨子」と聞いて、
お金持ちのわがまま娘をイメージしてしまっていたのですが、
そうではなくて、純粋でダンスに励む一生懸命な可愛い子。
これなら頼まれなくても守ってあげたくなってしまいますね。

そんな彼女が何で殺し屋の大群に狙われることになってしまったかというと、
骨子自身は知らないのですが、
実の父が国家安全保障庁長官・月宮正人(遠藤憲一)で、
その父に恨みを持つものが娘を狙っているということなのです。
(原作では「ヤクザの組長」ということらしい)

そしてまた、本作のもうひとりのキーパーソンが、月宮正親(土屋太鳳)。
正親は正人の子供で、父の愛情が骨子だけに向かっていることに嫉妬し、
骨子を付け狙うのですが・・・。

正親と荒邦の出会いのシーンが傑作で、つい笑ってしまいます。

言うまでもなく、ラウールくんは黙って立っているだけでもアクションシーンでも
カッコ良くて、見惚れてしまいます。
ファンの方なら絶対に楽しめます。

エンディングで流れるBREAKOUTも、家で見るMVとは違って大音響、迫力あります!

私は映画でも最後は拍手喝采したくなるのですが、誰もしていないなあ・・・。

<シネマフロンティアにて>

「赤羽骨子のボディガード」

2024年/日本/117分

監督:石川淳一

原作:丹月正光

脚本:八津弘幸

出演:ラウール、出口夏希、奥平大兼、高橋ひかる、
   津田健次郎、皆川猿時、遠藤憲一、土屋太鳳

 

アクション度★★★★☆

コメディ度★★★★☆

満足度★★★★★

(多分に、個人の好みです)


「九十歳。何がめでたい」佐藤愛子

2024年08月05日 | 本(エッセイ)

映画をもっと深掘りしたい方に

 

 

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本書『九十歳。何がめでたい』というタイトルには、
佐藤愛子さん曰く「ヤケクソが籠っています」。
2016年5月まで1年に渡って『女性セブン』に連載された大人気エッセイに加筆修正を加えたものです。

大正12年生まれ。
現在93歳の佐藤さんは2014年、長い作家生活の集大成として『晩鐘』を書き上げました。
その時のインタビューでこう語っています。

「書くべきことは書きつくして、もう空っぽになりました。
作家としての私は、これで幕が下りたんです」
(「女性セブン」2015年2月5日号より)

その一度は下ろした幕を再び上げて始まった連載『九十歳。何がめでたい』は、
「暴れ猪」佐藤節が全開。
自分の身体に次々に起こる「故障」を嘆き、時代の「進歩」を怒り、
悩める年若い人たちを叱りながらも、あたたかく鼓舞しています。

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先日、映画「九十歳。何がめでたい」を見たところで、
ついでながら原作本の方も読んでみましょう、ということで。

 

本作を読んで感じたのは、映画化の際に、
実にうまくこの本の内容を活用して取り入れているのだなあ・・・ということ。
作中の多くのエピソードが映画の中に取り込んである、
その妙に、いたく感じ入ったのでした。

 

映画でも最初の方にあったのですが、
佐藤愛子さんは新聞の人生相談の欄がとてもお気に入り。
だから本巻の中にも、それに関する話がいくつか出てきます。
そして相談者の悩み自体について、まず憤りを感じ、
けれどその回答者の実にそつなく相談者に寄り添う回答を読むに付け、
自分にはとてもできないとおっしゃる。

昨今、なんでそんなことをいちいち他人に「相談」するのか
と思ってしまう「悩み」が多いことも事実。
私には、やはり佐藤愛子さんの言い分がしっくりきます。

こんな風に、辛口の全く役に立たない人生相談回答があっても面白いのに、と思ったりして。
・・・誰も相談の投書をよこさなくなるかな?

総じて、映画の増補版みたいな感じのこの本は、
映画を気に入った方ならやはり読んでみるのも良いかもしれません。

 

「九十歳。何がめでたい」佐藤愛子 小学館

満足度★★★★☆

 


身代わり忠臣蔵

2024年08月03日 | 映画(ま行)

吉良上野介は死んでいた?

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私、本作の原作を読んでおりまして、
とても面白かったので、映画もぜひ見たいと思っていました。
脚本も、原作者である土橋章宏さんが書いていますので、原作のイメージを損なわず、
そしてムロツヨシさんという名優によってより一層楽しい作品になっています。

いつも自分より立場の弱いものに対して強権的で意地悪な旗本・吉良上野介(ムロツヨシ)。
その陰湿ないじめに耐えかねて、赤穂藩主が江戸城内で吉良に斬りかかります。
赤穂藩主・浅野内匠頭は、即、切腹。

 

斬られた吉良も、逃げ傷を負い瀕死の状態。
しかし、逃げて死んだとなれば、武士の恥。
お家取り潰しも免れ得ません。
そこで、上野介にそっくりな弟・孝証(ムロツヨシ)を身代わりに立て、
幕府を欺こうという前代未聞の作戦が立てられます。

孝証は、家督を継ぐでもないごく潰しとして家を追い出され、
住むところもない破戒僧となっていたのでしたが・・・。
そして、身代わりは一時のことだけと思っていたのに、
ついに兄・上野介が亡くなってしまったため、
そのままずっと身代わりを務めなければならなくなってしまいます。

そしてまた一方、お家取り潰しとなった赤穂藩の家老・大石内蔵助(永山瑛太)は、
配下たちが仇討ちをしようとはやるのを、なんとかなだめていたのですが・・・。

 

個性豊かな登場人物たちが、このへんてこな忠臣蔵を一層もり立てます。

本作の良いところは、孝証と内蔵助がとあるところで出会い、
密かに相談を巡らすようになるところ。
まあそのことで、いっそう私たちは結末が予測できなくなるわけですが・・・。

とにもかくにも「お家」のため、しきたりとかメンツとかにがんじがらめの、
武士とはなんともつらいものであります・・・。

打ち首ならとんでもない恥で、切腹なら名誉。
うーむ。
本人が納得するならそれでもいいか・・・?

 

原作「身代わり忠臣蔵」はこちら。

(もう少し詳しくあらすじに触れています。)

 

<Amazon prime videoにて>

「身代わり忠臣蔵」

2024年/日本/119分

監督:河合勇人

原作・脚本:土橋章宏

出演:ムロツヨシ、永山瑛太、川口春奈、林遣都、寛一郎、森崎ウィン、柄本明

 

ユーモア度★★★★☆

満足度★★★★☆


「正体」染井為人

2024年08月02日 | 本(ミステリ)

無実を晴らそうとしながら逃亡生活

 

 

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埼玉で二歳の子を含む一家三人を惨殺し、
死刑判決を受けている少年死刑囚が脱獄した!
東京オリンピック施設の工事現場、スキー場の旅館の住み込みバイト、
新興宗教の説教会、人手不足に喘ぐグループホーム……。
様々な場所で潜伏生活を送りながら捜査の手を逃れ、
必死に逃亡を続ける彼の目的は?
その逃避行の日々とは?
映像化で話題沸騰の注目作!

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私、本作は映画かドラマで、割と最近見たヤツではないかな?
・・・と思いつつ手に取りまして、読んですぐ思い出しました。
WOWOWのドラマで見たものでした。
主演は亀梨和也さん。

 

その、亀梨くん演ずるところの鏑木慶一は、
一家3人の殺人事件の犯人として死刑判決を受けて
拘留中だったのですが、脱獄し、逃亡中。
その彼が、様々なところで潜伏生活を送る様子が描かれます。

 

東京オリンピック施設の工事現場、
スキー場の旅館の住み込みバイト、
新興宗教の説明会、
人手不足のグループホーム。
彼はなるべく人と関わりを持たないように過ごすのですが、
でも仕事というのは人との関わりの中でするものです。
そこで様々な人と過ごす内に、いろいろなできごとがあって、
そしてなぜかお人好しにも人助けをしてしまう彼。
・・・ドラマではわかりにくいのですが、
小説だとそれぞれの章が鏑木とかかわった人物の視点で描かれているのが興味深いところです。

ふらりと同じ職場にやって来た一見目立たない青年が、
次第に真面目で頭が良く、気持ちの温かい人物であることが感じられるようになっていく。

 

そうなんですよ、残虐な殺人を犯した死刑囚のはずなのですが、実は無実。
鏑木は潜伏生活を送りながら、なんとか自分の無実を晴らそうと奮闘しているのです。

無実であるのに死刑などと、こんなに理不尽なことがあるでしょうか。
自らの運命に抗い新たな運命を切り開こうという、
鏑木慶一の応援団にならないではいられません。

 

が、しかし・・・。
言葉をなくすような結末が待ってはいるのですが。

読み応えたっぷり。

 

ところで本作、映画化されこの11月に公開予定となっていますが、
主演、つまり鏑木慶一役が誰なのかが発表されていません。
亀梨くんではなさそうですが、では一体誰???

お楽しみ。

 

「正体」染井為人 光文社文庫

満足度★★★★☆