ユニークで壮大な世界観を堪能
* * * * * * * * * * * *
「月昂」と呼ばれる感染症が広がり、人々を不安に陥れている近未来の日本。
一党独裁政権が支配する社会で、感染者の青年・冬芽は
独裁者の歪んだ願望により、命を賭した闘いを強いられる。
生き延びるため、愛を教えてくれた女のため、冬芽は挑み続ける――表題作。
「月」をモチーフに、著者の底知れぬ想像力と卓越した筆力が構築した、
かつて見たことのない物語世界。
本屋大賞ノミネート、吉川英治文学新人賞&日本SF大賞W受賞という
史上初の快挙を成し遂げた真の傑作。
* * * * * * * * * * * *
SFのジャンルは久しぶりかも知れません。
本屋大賞ノミネート、吉川英治文学新人賞&日本SF大賞W受賞
というところに興味を引かれて手に取りました。
本巻には3篇が収められています。
すべて「月」をモチーフにしています。
一作目「そして月がふりかえる」は、私、実のところあまり好きな感じではなくて、
若干この本を買ったことを後悔しかけたのですが・・・。
二作目「月景石」。
お~、なるほど(何が?)。
これは悪くないかも・・・という感じ。
そして、本巻の大半のボリュームを持つ三作目「残月記」を読むに至って、
このあまりにも独創的で壮大な世界観に打ちのめされました。
舞台は近未来の日本。
そこでは下條拓という男が、圧倒的独裁制のトップに君臨しています。
そして又そこでは「月昴」と呼ばれる謎の感染症が広がっている。
その感染者である青年・冬芽は、感染者の隔離施設に収容されます。
そして、独裁者下條のための極秘格闘競技場の闘士にならないかと声をかけられる・・・。
「月昴」というのは、感染すれば、狼男とまでは行かないけれど、
満月には強大な力を発するようになり、
逆に新月の時期はすっかり体が弱って、
感染者の4%がこの時期に命を失ってしまうという不可思議な病。
感染症であるので、理不尽ながらも人々からは忌み嫌われ、蔑まれて、
隔離施設でぞんざいに扱われながら、
いつしか新月の時期に儚く命を落とすことになってしまうのです。
命がけで戦うための奴隷・・・。
ほとんどグラディエーターのような話になっていきますが、
もちろんストーリーはそれだけでは終わらない。
冬芽がこの世でふと意識を失ったようなときに、彼は別世界で目覚めるのです。
どうやらそこは月の世界らしい。
果たしてこの世界は、夢なのか、次元を越えたあちらにあるどこかなのか。
砂漠を泳ぐ月の鯨のイメージがなんとも幻想的で美しい。
そして最後に冬芽がたどり着く場所は・・・。
なんと「愛」ですよ、愛。
は~。
ただただ感嘆。
どうやったらこんな物語を思いつくのやら。
堪能しました。
「残月記」小田雅久仁 双葉文庫
満足度★★★★★
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます