萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

山岳点景:冬の雨山

2015-12-13 22:20:35 | 写真:山岳点景
光ふる



山岳点景:冬の雨山

師走12月、今日の奥多摩は雨でした。


奥多摩の山は降雪でもオカシクナイ時季です、
そんな冬雨に稜線は霧をのぼらせ雲まといます。


こういう日に無理して登ると視界不良×足元滑りやすくて危険です、
そんなワケで雨天は軽く歩くだけなんですけど、雨ならではのシーンに出逢えます。


山茶花、山の茶花って書きますけど山でよく見かけます。
冬枯れた山の道、濃紅色は燈を灯すよう鮮やかです。


十月桜もあちこちで咲いていました。


黒い枝×薄紅は白い冬空に映えます。


秋終わる冬の初め、足元は名残りの草紅葉あざやかです。


雫の光がきれいで雨の撮影も好きです、笑


雨の冬空あわい光、紅葉の一滴に惹かれます。


第154回 過去記事で参加ブログトーナメント
撮影地:奥多摩@東京都


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第83話 辞世 act.37-another,side story「陽はまた昇る」

2015-12-13 07:39:01 | 陽はまた昇るanother,side story
贖罪
周太24歳3月



第83話 辞世 act.37-another,side story「陽はまた昇る」

「私が保証します、その男は必ず司法の裁きを受けます、」

朗々、雪も風も声は透って届く。
低いけれど深く澄んだアルトの声、女声なのに力強く肚響く声。

「若いあなた方の手を汚すなんて馬鹿らしいことよ、早く銃を引きなさい、ここにいる加田さんも起訴を保証してくれます、」

低く澄んだ声は雪の駐車場を渡ってくる。
この声は懐かしい、よく知っている、けれど今ここでどうして?

「…っ、ごほっ」

この声こんな場所で聴くなんて意外だ、聴き間違えかもしれない?
凍りつく息また咳きこんだ背中、ふわり温もり包まれた。

「よく頑張ったわ周太くん、美幸さんも、」

低いアルト微笑んで甘い深い香そっと頬ふれる。
懐かしい気配にふりむいた真中、涼やかな切長い瞳に呼んだ。

「…おばあさま?っごほっ、」
「寒かったでしょう?こんな冷たい頬して、」

長い指の手グローブはずして頬ふれる。
あまやかな深い香やわらかに温かい、懐かしくて見つめるまま訊いた。

「なぜここに、おばあさまが?っごほんっ、」
「とにかく車に乗りましょう?発作がひどくなったら大変よ、さあ美幸さんも、」

カシミアやわらかな腕が抱き起してくれる。
コートの衿元ストール外して、ふわり包んでくれながら大叔母は言った。

「みなさん呆然としてるわね、こんなオバアサンが出てきてびっくりなんでしょう?」

あ、この話し方やっぱり大叔母だ?

―やっぱり顕子おばあさま…夢じゃないんだ、ね、

ダークブラウンの髪きれいな横顔は皺ひとつも美しい。
白皙あでやかな笑顔はルージュの唇ほころばせた。

「伊達さんに箭野さんね?周太がいつもお世話になっております、私はこの子の祖母です、」

低く深いアルトが雪風とおす、その言葉に長身の制服姿ふりむいた。

「失礼ですが、なぜ俺たちの名前を?」

その疑問あたりまえだ。
そして矛先は自分に向くだろう困惑にきれいな笑顔は言った。

「私にも伝手があるんですよ?周太は何も話せないことはご存知でしょう、家族でもね、」

街燈の陰翳に白い笑顔はなやぐ、その先で視線ひとつ凝視する。
やつれた顔の眼おおきく見開かれて、そして口を開いた。

「祖母などいないはずだ…湯原の両親どちらも死んでいる、親戚はいない、」
「あら、よくご存知ですわね、岩田さん?」

名前さらり呼んで大叔母が微笑む。
齢重ねても華やかな横顔は唇の端そっとあげた。

「周太くん、美幸さん、ちょっとお転婆させて頂戴な?」

チャコールグレーのコート翻って歩きだす。
端正な歩み真直ぐ雪を踏んで、制服姿ふたりの前に立った。

「伊達さん、箭野さん、ちょっとお目こぼしお願いね?老人の乱心だって見逃して、」

ダークブラウンの髪きらきら街燈に透ける。
白皙の横顔は切長い瞳まっすぐ微笑んだ。

「ねえ岩田さん、私は亡霊になって孫と嫁を護ってるの。だから私が何をしてもあなたの幻覚よ?」

アルト深い声あでやかに笑って、そして白皙の手ひらり舞った。

「卑怯者っ、」

ぱんっ、

高らかな音ひとつ雪空に舞う。
叩かれた横顔うなだれる、その頭上に顕子は叫んだ。

「十四年前こうするべきだったわ!あなたを引っ叩けてたら喪わないですんだのに、あなたも私も大事なものをっ!」

十四年、その歳月に痛んだのは誰も同じだ。
そう告げる声に見つめるままチャコールグレーのコート翻った。

「じゃあ加田さん、後はお願いしますね?」

もう白皙の顔あでやかに微笑む。
いま激高したのは幻?そんな変貌にブラックコートの男が会釈した。

「はい奥様、あのレンタカーも返却しておきましょうか?」
「そうして頂戴。美幸さん、鍵を加田さんにあげて?任せて大丈夫だから、」

低いアルト微笑んで肩そっと支えてくれる。
言葉どおり鍵を渡して母が訊いた。

「…おばさま、どうやってここに?」
「ニュースとあなたがくれたメールよ、私にも伝手があるしね?さあ帰りましょう、」

雪ふる切長い瞳が微笑む。
この笑顔は懐かしくて、けれど知らない一面を今は見ている。

『ここにいる加田さんも起訴を保証してくれます、』

そんなふう言っていた、さっき。
ヒント手繰りながらも気になって頼んだ。

「おばあさま、伊達さんたちと話させてください、3分でいいから…っ、ごほっ」

このまま去ってしまえない、だってあんな時間を過ごしてしまった。
もう戻れない世界ふりむいた背を優しい手そっと押してくれた。

「いってらっしゃい、周…それから帰りましょう?」

優しいアルトが背中おしてくれる、その手が小さい。
けれど確かな押す力に踏みだして、足もと雪が鳴る。

ざりっ、さく、

雪また硬くなった、気温さがってゆく。
夜ふかくなる駐車場の底、4人の男たちに向きあった。

「箭野さん、伊達さん…ありがとうございました、」

頭下げた街燈の下、紺色の制服姿が白い。
雪つめたい夜のなか長身の先輩は微笑んだ。

「俺こそありがとうだよ、湯原?」

なぜお礼を言ってくれるの?
解からなくて見あげた先、涼やかな瞳が笑った。

「話はまた今度な、体はやく治せよ?」

ぽん、大きな手そっと背中さすってくれる。
前と変わらない優しい温度に周太は口開いた。

「箭野さん、っこほっ…また会って話す時間をくれますか?」
「ああ、こんど飲もうな?伊達も一緒に、」

低い深い声が笑ってもう一人に視線むける。
白紗ゆれる光に小柄な横顔はため息吐いた。

「いいから湯原、早く車に乗れ。発作ひどくなったらどうする?」

ほら、心配してくれる。
その声かすかに照れくさげで、もう解かる今に笑いかけた。

「はい、ありがとうございます…飲み、伊達さんも一緒してくださいね?」
「わかったから早くしろ、」

すこし気が立っている口調、でも制帽の眼ざしは優しい。
きっと大丈夫、信頼そっと息吐いてブラックコート姿に向きあった。

「カダさん、初対面で申し訳ないお願いします…箭野さんと伊達さんを護ってください、班長のことも、」

隊員同士で銃を向けあった、こんな事態を「護る」なんて普通じゃない。
それでも大叔母が連れてきた男なら信じられる、ただ賭ける想いに端正な瞳が微笑んだ。

「奥様がおっしゃるとおりの方ですね、あなたは、」

どういう意味だろう?
見つめる真中でシャープな微笑は言った。

「車にお戻りください、あなたが今ここにいないことで三人を護れます。奥様とあなたのお母さまもです、」

ここにいないことで護れる、確かにそうかもしれない。
今はただ頷くしかできないまま頭下げた。

「すみません…よろしくお願いします、」

下げた視界、雪の影ふかく蒼い。

「…っ、」

ほら呑みこんだ喉が痛い、この痛み発作とは違う。
こんな今を飲みくだし踵返して、歩きだした頬ひとつ涙こぼれた。

―けっきょく僕は無力だ、ね、

想い、十四年あふれる一滴に凍えてゆく。
あの春から全てを懸けて追いかけてきた、いくど母も泣かせたろう?
それなのに結局は助けられしまった、こんな結末に鼓動から軋みだす。

「さあ周太くん、帰りましょう?」

低いアルト微笑んで肩を抱かれる、あまい深い香が優しい。
この声も香も自分は好きで、それなのに今は顔を見られたくない。

「…はい、」

ただ頷いて開かれた扉を乗る。
革張りのシートやわらかに受けとめられて、座りこんだ肩に優しい手ふれた。

「コートは脱いだほうがいいわ、髪も拭いて?」

ダッフルコート脱がされてブランケットに包まれる。
頭そっとタオル被されて、ぱたん、扉が閉まり母の声が聞えた。

「周、すこし眠らせてもらいなさいな?お母さん助手席に乗るから横になって大丈夫、」

大丈夫、

そう母が言ってくれるのは、気づいているからだ。
こんなときも何も言わず受けとめてくれる、ただ温かくて優しくて、優しい分だけ苦しい。

「…っ、ぅ、」

噛みしめても喉がふるえる、涙あふれて止まらない。
タオルの影そっと瞳とじて熱くて、ゆるやかに動きだした車窓に低いアルトが言った。

「ありがとう周太くん、ごめんなさいね、」

なぜ礼を言うの、謝るの?

訊きたいけれど今は唇ふるえて言えない、頷くこともできない。
それでもアルト低い声は答えてくれた。

「周太くんのお祖父さまを私が助けたら良かったの、でも私は…拒絶されることが怖くて何も言えなかったわ、斗貴子さんの死と向きあうことも怖くて、」

かすかに揺れるシートの底、雪かむタイヤチェーン軋む。
リズミカル静かな音くりかえす、どこか懐かしい音に低くやわらかな声がつむぐ。

「なぜ無理にでも助けなかったのかって、ずっとずっと後悔しているの。斗貴子さんと約束したのに私は…私は本当に愚かね、」

後悔が声つむぐ、その言葉たち幾年こえて今声になる?
ただ涙ふるタオルの影に大叔母の声が届いた。

「もう後悔したくなくて今も無理やり助けに来ました、でも周太くんの気に障ったならごめんなさい、でも、ありがとう、」

ごめんなさい、ありがとう。

そう言ってくれる声は低く澄んで温かい、そして懐かしい。
こんなふう幼いころ言われたことあるようで、たどらす俤にタオルの蔭は優しい。



(to be continued)

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