癒しの背をおって、

絶筆、それとも絶写。
「どっちにしてもね、おじいさんが最後に見たものだね?」
声かける先、青紫一輪ほころぶ。
茶、黄、緑青、秋枯れ深い色彩に浮かぶ花。
この花いつも何度も見つめてきた、あの写真のままだ。
『もう少し大きくなったら登るんだ。そうしたら、おじいさんが見た世界を見られると思うよ、』
ほら声が蘇る、あの日、焼香ほろ渋い風の声。
あのとき微笑んでくれた瞳は深く泣いていた。あの眼差しは今、この自分を見るのだろうか。
「…元気かなあ、鷹居のおにいさん、」
おにいさん、そう呼んで笑ってくれたひと。
青い制服姿もカーキ色の隊服姿も似合っていた、それから赤い登山ジャケットも。
あの青年は今もう壮年になるだろう、それでもたぶんきっと、あの日のまま綺麗な眼だ。
「鷹居のおにいさん、今日も山で誰かに寄り添ってる?」
呼びかけて懐かしい、まだ幼かった自分と、それからあの青年。
あの雨の夜あのとき泣いてくれたひと、あの背中に負われて祖父は帰ってきた。
そうして自分はひとつ未来を決めて、今、祖父が亡くなったこの場所に立っている。
「もう高校生になったよ、山岳部に入ったんだ…おじいさんの後輩だよ?」
想い声になる。
その唇かすめる風、ほろ渋い甘い乾いた香。
もう秋、そんな色彩やわらかに頬ふれて、森が光る。

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10月20日誕生花リンドウ竜胆

大月二十日、竜胆―assuage
絶筆、それとも絶写。
「どっちにしてもね、おじいさんが最後に見たものだね?」
声かける先、青紫一輪ほころぶ。
茶、黄、緑青、秋枯れ深い色彩に浮かぶ花。
この花いつも何度も見つめてきた、あの写真のままだ。
『もう少し大きくなったら登るんだ。そうしたら、おじいさんが見た世界を見られると思うよ、』
ほら声が蘇る、あの日、焼香ほろ渋い風の声。
あのとき微笑んでくれた瞳は深く泣いていた。あの眼差しは今、この自分を見るのだろうか。
「…元気かなあ、鷹居のおにいさん、」
おにいさん、そう呼んで笑ってくれたひと。
青い制服姿もカーキ色の隊服姿も似合っていた、それから赤い登山ジャケットも。
あの青年は今もう壮年になるだろう、それでもたぶんきっと、あの日のまま綺麗な眼だ。
「鷹居のおにいさん、今日も山で誰かに寄り添ってる?」
呼びかけて懐かしい、まだ幼かった自分と、それからあの青年。
あの雨の夜あのとき泣いてくれたひと、あの背中に負われて祖父は帰ってきた。
そうして自分はひとつ未来を決めて、今、祖父が亡くなったこの場所に立っている。
「もう高校生になったよ、山岳部に入ったんだ…おじいさんの後輩だよ?」
想い声になる。
その唇かすめる風、ほろ渋い甘い乾いた香。
もう秋、そんな色彩やわらかに頬ふれて、森が光る。
竜胆:リンドウ、花言葉「誠実、正義・正義感、的確、苦悩、固有の価値、あなたの悲しみに寄りそう、悲しんでいるあなたを愛する」


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