parole あなたの言葉に
soliloquy 詠月―another,side story
ほら、変えられない着信音が響いて、鼓動ごと自分を掴む。
テスト訓練の疲労から動けないベッドの上、けれど掌は携帯電話を握りしめる。
もうメールも電話も出来ないと告げたのは自分、それなのに今こうして着信音が呼ぶ。
そうして自分の本音は喜んで掴んだ携帯電話、もう画面を開いてメールの言葉が惹きこんだ。
From :周太
suject:おつかれさま
本 文:晩飯は焼魚だったけど何か解らなかった、周太に訊きたいって思ったよ。
周太は晩飯なに食べた?ちゃんと飯食ってよく眠ってくれな、
今、おやすみなさいを言えた一昨日の自分に嫉妬してる。
「…英二、」
ぽつん、かすかな声こぼれて名前になる。
本当は昨日も呼びたかった大好きな名前、けれど呼べなかった。
名前を呼んだら全てが崩おれそうで、それは出来なくて隔てるよう名字で呼んだ。
『宮田、見送りに来てくれたんだ?』
宮田、そう呼んだのはどれくらいぶりだろう?
最期に呼んだのは去年11月、奥多摩の山に登るときだった。
あの大きなブナの樹を仰いで見つめて初めて名前を呼んだ、あのときから名字は呼んでいない。
けれど昨日の朝には名字で呼んだ、そして一昨日の夜ごと記憶に籠めた想いは温かすぎて、忘れられない。
『周太…ずっと好きだ、逢えなくても一緒にいるって信じてる』
一昨日の夜に告げてくれた声、香、眼差し、その全てが深くから呼びかける。
あのとき見つめあえた心も体温も信じていたい、けれど今はもう知ってしまった真実に予兆が裂く。
“Je te donne la recherche” 探し物を君に贈る
そう書き遺した祖父は殺人を犯した、それは多分、事実だろう。
その事実をいつか自分は英二に告げる、そのとき英二は何を想うだろう?
もしかしたら英二は全てを知っているのかもしれない、それでも、本当に事実だと知ったら?
―それでも英二、お祖父さんを好きになれる?お父さんのことも赦せるの、あのひとのことも…赦せるの?
あのひと「彼」を英二が赦せるのか?
そのこと一つが気懸りで、だから巻きこむなんて出来ない。
それでもいつか事実は告げなくてはいけないだろう、そのとき裂かれるかもしれない。
ふたり結んだ沢山の約束は一年前からふり積もる、けれど夏七月に全て本当は壊れたかもしれない。
それなのに一昨日の夜、幾度も告げてくれた言葉に縋りたい願いは泣きたくて今、メールの言葉にゆらされる。
“今、おやすみなさいを言えた一昨日の自分に嫉妬してる”
こんなふう言ってくれるなんて、信じたくなるのに?
こんなふう言われたら言いたくなる、今すぐ電話して声で言いたい。
唯ひと言で良い、唯ごく普通の一言を告げることを叶えて、一瞬でも幸せになりたい。
「…おやすみなさい、えいじ?…」
唯ひと言を声にして名前を呼んで、けれどボタン一つ押せない。
このまま電話して声を聴いてしまったら毎晩ずっと電話は鳴るだろう、それが哀しい。
そのまま毎晩ずっと声を聴いてしまったら怖くなる、未練が絶てなくなる、だから「いつか」まで待ってほしい。
「…おやすみなさい、ごめんね?…ごめんね英二、」
小さな声で微笑んで画面を切り、そのまま携帯電話そっと握りしめた。
本当は返したい声、返したい言葉、けれど伝えられない電話に泣きたくなる。
それでも自分で決めた道に微笑んで起きあがり、吉村医師に贈られた一冊を取るとデスクに着いた。
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ほら、変えられない着信音が響いて、鼓動ごと自分を掴む。
テスト訓練の疲労から動けないベッドの上、けれど掌は携帯電話を握りしめる。
もうメールも電話も出来ないと告げたのは自分、それなのに今こうして着信音が呼ぶ。
そうして自分の本音は喜んで掴んだ携帯電話、もう画面を開いてメールの言葉が惹きこんだ。
From :周太
suject:おつかれさま
本 文:晩飯は焼魚だったけど何か解らなかった、周太に訊きたいって思ったよ。
周太は晩飯なに食べた?ちゃんと飯食ってよく眠ってくれな、
今、おやすみなさいを言えた一昨日の自分に嫉妬してる。
「…英二、」
ぽつん、かすかな声こぼれて名前になる。
本当は昨日も呼びたかった大好きな名前、けれど呼べなかった。
名前を呼んだら全てが崩おれそうで、それは出来なくて隔てるよう名字で呼んだ。
『宮田、見送りに来てくれたんだ?』
宮田、そう呼んだのはどれくらいぶりだろう?
最期に呼んだのは去年11月、奥多摩の山に登るときだった。
あの大きなブナの樹を仰いで見つめて初めて名前を呼んだ、あのときから名字は呼んでいない。
けれど昨日の朝には名字で呼んだ、そして一昨日の夜ごと記憶に籠めた想いは温かすぎて、忘れられない。
『周太…ずっと好きだ、逢えなくても一緒にいるって信じてる』
一昨日の夜に告げてくれた声、香、眼差し、その全てが深くから呼びかける。
あのとき見つめあえた心も体温も信じていたい、けれど今はもう知ってしまった真実に予兆が裂く。
“Je te donne la recherche” 探し物を君に贈る
そう書き遺した祖父は殺人を犯した、それは多分、事実だろう。
その事実をいつか自分は英二に告げる、そのとき英二は何を想うだろう?
もしかしたら英二は全てを知っているのかもしれない、それでも、本当に事実だと知ったら?
―それでも英二、お祖父さんを好きになれる?お父さんのことも赦せるの、あのひとのことも…赦せるの?
あのひと「彼」を英二が赦せるのか?
そのこと一つが気懸りで、だから巻きこむなんて出来ない。
それでもいつか事実は告げなくてはいけないだろう、そのとき裂かれるかもしれない。
ふたり結んだ沢山の約束は一年前からふり積もる、けれど夏七月に全て本当は壊れたかもしれない。
それなのに一昨日の夜、幾度も告げてくれた言葉に縋りたい願いは泣きたくて今、メールの言葉にゆらされる。
“今、おやすみなさいを言えた一昨日の自分に嫉妬してる”
こんなふう言ってくれるなんて、信じたくなるのに?
こんなふう言われたら言いたくなる、今すぐ電話して声で言いたい。
唯ひと言で良い、唯ごく普通の一言を告げることを叶えて、一瞬でも幸せになりたい。
「…おやすみなさい、えいじ?…」
唯ひと言を声にして名前を呼んで、けれどボタン一つ押せない。
このまま電話して声を聴いてしまったら毎晩ずっと電話は鳴るだろう、それが哀しい。
そのまま毎晩ずっと声を聴いてしまったら怖くなる、未練が絶てなくなる、だから「いつか」まで待ってほしい。
「…おやすみなさい、ごめんね?…ごめんね英二、」
小さな声で微笑んで画面を切り、そのまま携帯電話そっと握りしめた。
本当は返したい声、返したい言葉、けれど伝えられない電話に泣きたくなる。
それでも自分で決めた道に微笑んで起きあがり、吉村医師に贈られた一冊を取るとデスクに着いた。
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