萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

弥生二十一日、金縷梅―golden spell

2018-03-21 20:40:15 | 創作短篇:日花物語
言祝ぐ、
3月21日の誕生花


弥生二十一日、金縷梅―golden spell

薄曇り明るい、のどやかな淡い青。

「よっこいしょ…、」

つい口癖こぼれて山畠の道、踏みしめて土が薫る。
かすかに渋い甘い懐かしい、何ヵ月越しの香だろう?
もう爪先しみる冷感もない、明けゆく春に微笑んだ。

「いいなあ、」

声にした季節ほっと息つける。
呼吸やわらかな陽ざし枯野に射す、あわい緑に時はずむ。
芽吹く色彩きれいで、めぐりくる時間ふたたび黄金を見た。

「ほう…」

金糸ゆらす花、こまやかな枝ちりばめる。
紅色の萼しだれる黄金の房、そんな小花の数ながめ掌あわせた。

「豊年だ、」

金色あふれる山の枝、そのまま秋の田は恵まれる。
そんな伝承のまま黄金しだれる、銀色まだ青い嶺こちら稲穂を映した花が故郷に咲く。
眼下ふきあげる谷風まだ冴える、頬ふれて冷たくて、それでも瞳いっぱい黄金が満ちる。

「春だなあ、」

尾根は雪、それでも里に春。


金縷梅:マンサク、花言葉「霊感、ひらめき、魔力、呪文」

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弥生花、辛夷ゆれる

2018-03-20 20:41:06 | 写真:花木点景
純白、春の陽ふくんで黄金きざす。


冬眠明けの春、クマや鳥が辛夷の花を食べるとか。
撮影地:辛夷コブシ@神奈川県

季節の彩り 89ブログトーナメント
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第85話 春鎮 act.50 another,side story「陽はまた昇る」

2018-03-20 13:48:00 | 陽はまた昇るanother,side story
Have from the forests shook three summers’pride, 熱の時は過ぎて、
harushizume―周太24歳3月下旬


第85話 春鎮 act.50 another,side story「陽はまた昇る」

ただ微笑んで時が過ぎる、雪ふる待ち人おとずれる。

「ほら周太?美代のほっぺた真赤だね、」

テノールほがらかな雪の門、銀色に薄紅が駆けてくる。
だいぶ過ぎてしまった真昼の雪里、澄んだ声あざやいだ。

「おまたせ湯原くんごめんねっ…光ちゃんもごめんね?」

息せき切って彼女が笑う、まだ少女の貌だ。
けれど同じ齢で、齢よりずっと肚太い瞳に笑いかけた。

「僕こそ謝らなくちゃ美代さん、お手伝いなにも出来なくて僕…ごめんね、」

笑いかけながら不甲斐ない。
だって自分は男で、この女の子の勇気どれだけ持つのだろう?

“責任転嫁なんてしたくありません”

そんなふう彼女は言った、たった30分前に。
そんな唇は小さくて薄紅やさしくて、そして勁い。

「湯原くんが謝ることないでしょ?いっぱい手伝ってくれたのに?」

ほら優しい唇が自分を見あげる。
いつもの大きな目まっすぐ自分を映して明るんだ。

「ここで生きたいから美代さんは大学に行くんですって言ってくれたでしょ?おかげでね、ほら?」

ソプラノやわらかに澄んで小さな掌だしてくれる。
紅色の透ける指ほどけて、古い鍵ひとつ光った。

「ウチの鍵よ?ね、」

春の雪まばゆい鍵、古い光にぶく優しい。
幾世代も使いこんだ、そんな温もり笑った。

「大学に行くなら家に帰れないはずだったから鍵を返したの、だけどまた私にくれたの。父は黙りこくってたけど、」

くすんだ光あわい鍵、銀色ひとひら融ける。
ただ古い鍵ひとつ、けれど籠められる願い温かい。

「ふうん、あの小嶌のおっちゃんがねえ?美代もヤルんだね、」
「私もやるときはやるの、光ちゃんだってそうでしょ?」

赤い頬きらきら白い息、女の子が笑う。
三月も冬きらめく庭で山っ子の瞳にやり笑った。

「そりゃね?で、」

雪白の顎かたむけて目線、女の子の左肩ながめる。
明るいクセ聡い眼じろり、登山ジャケット青い腕組み訊いた。

「美代、荷物ってソレだけかね?」

ベージュのコートの左肩、ボストンバッグひとつ。
それから昨日からの鞄たずさえた笑顔は口ひらいた。

「ダンボール2つ送ったよ、元から片づけておいたの。結果どうでも自立するつもりだったから、」

ほら、こんなに潔いんだ?

『大学を諦めたら後悔だらけの言訳オバサンになっちゃいます、そんな恥ずかしい人生は嫌です。責任転嫁なんてしたくありません、』

隣家の座敷で聴いた言葉、そのままに彼女は決めていた。
この強靭は自分にあるだろうか?自問ふる雪に幼馴染が笑う。

「美代らしいね、で?東大センセイはドウしたね?」
「田嶋先生なら宅急便に一緒してくれたあと、お父さんと昼酒はじめちゃったよ。山で話してたみたい、」
「へえ?あのセンセイなかなかやるねえ、」

会話の横顔ふたつ、銀色の雪に明るい。
違う顔立ちのくせどこか似ている、そんな二人に言葉が響く。

“ザイルのが生きる自由ってカンジ”

幼馴染の声は優しかった、いつもどおり明るくて、でも穿たれる。
ほんとうは最初から解っていたこと、それなのに?

―僕と英二は違うんだ…自由も、生きる場所も、

あなたと僕は違う、何も繋がりなんてない。

そんなこと最初から解っていた。
今この目の前の二人みたいにもなれない、こんな明るい穏やかな信頼関係じゃない。
あなたと自分なにも繋がりなんてない、なにも生みだせない、それなのに高熱の夢で自分は誰を呼んだ?

“鎖縁”

あなたと自分にあるもの、それがこの言葉だろうか?
それを前は大切に想っていた、でも大切にすべきものだろうか?

『鎖のご縁ってのも堅く切れませんってカンジでイイケドさ、ザイルのが生きる自由ってカンジ』

幼馴染が言ったことは、あなたも同じだろう。
だって同じ山の世界に生きている、だから願い声にした。

「光一、美代さん…僕、いきたいとこあるんだ、」

※校正中

(to be continued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet 104」】
第85話 春鎮act.48← →第85話 春鎮act.50
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弥生花、辛夷の光る

2018-03-19 23:53:07 | 写真:花木点景
凛々、輝く白蓮梢。


撮影地:辛夷コブシ@神奈川県

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休日雑談、本箱

2018-03-18 12:58:00 | 雑談

構造も見た目も好きだなー、っていう満足感が昨日届いてくれた。

転居にあたり本箱モチロン一緒に引越したんだけど、
移動のため本ぜんぶダンボール箱に梱包してみたら、

あー壊れてるじゃん、

背板べろんべろん撓んでアウト、
棚板たわんで歪んでもうアウト、
本の重み消えたらグラグラする。

でも引越トリアエズ持ってくるしかなく、
トリアエズ新居でも再利用してみたけど、

あーやっぱもうダメだこれ、笑

賃貸だから引越いつか必ずアルわけで、
安物トリアエズそこそこデザイン気に入ればいいか・って買ったモノだった。
構造も素材もイマイチなものではあったけど、カナリ本つめすぎ→傷みカナリなコトになっていた。

ソンナワケで・いいかげん本箱ちゃんとしたモン買おうって決めて、
書棚専門店を見つけて、素材見本とりよせ選んでオーダーして、
ソンナワケではるばる遠方から本箱は来てくれた。

工房組み上げ完成品、各棚耐荷重20㎏。
これで本好きなだけ詰められる大丈夫。

ソンナワケデ壁一面本棚になった部屋が出来、
ここに調度良いデスク見つければ書斎完成。

ソンナコンナ子供時代の夢ひとつ叶った?

なんて感謝と幸せながめる部屋、かたわら悪戯坊主もふもふ寝顔。
白猫な悪戯坊主に白木目本棚は保護色=安心安穏の隠れ家かもしれない?
聞いてください23ブログトーナメント

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弥生花、阿亀の春

2018-03-17 21:40:03 | 写真:花木点景
小桜ほのぼの紅濃淡、こまやかな春の陽。


第52回 ☆花って綺麗ですよね♪☆ブログトーナメント
撮影地:阿亀桜オカメザクラ@神奈川県

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弥生街角、三月の桜

2018-03-16 16:54:24 | 写真:街角点景

河津桜そろそろ葉桜、染井吉野まだ咲かず、初めて見た阿亀桜×黄昏空。
なんでもいいよ25ブログトーナメント
撮影地:神奈川県

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弥生花、阿亀桜

2018-03-15 22:13:10 | 写真:花木点景
阿亀桜おかめざくら、薄紅つどう小桜天蓋。


染井吉野より小花、けれど薄紅こまやかな密な花枝はナカナカです、笑
撮影地:神奈川県

季節を感じるお花さん85ブログトーナメント
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第85話 春鎮 act.49 another,side story「陽はまた昇る」

2018-03-15 11:35:03 | 陽はまた昇るanother,side story
yet doth beauty, like a deal hand, 時を進み、
harushizume―周太24歳3月下旬


第85話 春鎮 act.49 another,side story「陽はまた昇る」

ことん、

茶碗そっと卓に戻して、止まってしまう。
食卓むこう窓ふる氷柱、銀色ゆらす名前ふたつ。

『美代を支えるのもダケどさ、あの宮田をってエライコトじゃない?』

あまからい湯気、あたたかいご飯。
あたりまえの幸せの食卓、けれど名前が鼓動を揺らす。

「…、」

名前ふたつ、鼓動せめぎあう。

「周太?どうしたね、」

深いテノール尋ねてくれる。
その眼ざし明るいまま優しくて、唇そっとひらいた。

「光一がいま…名前だしたから、」

名前、それだけで鼓動ひっぱたかれた。

美代を、宮田を、ただ名前ふたつ言われただけ。
それだけ。ただ話題の流れに出てきた名前、それだけだ。
それなのに鼓動から熱こみあげる、揺れて響いて、ただ名前ふたつに。

違う、本当は一つだ。

『あの宮田を』

ただ一つの名前、唯ひとつの想い。
どうしてこんなに自分は。
どうして?

「名前、ねえ…?」

食卓のむこう、幼馴染の声が湯気とける。
味噌炒め芳ばしい香、澄んだ瞳がすこし笑った。

「み・や・た、って俺が言ったからかね?」

とくん、

ほら鼓動ひっぱたく、揺れる。
どうしてこんな自分は、なぜ?

「美代の隣で周太、アイツのコト考えちゃうんだね?」

言い当てられて、ほら鼓動が敲く。
どうしたらいいのだろう?

「あの…」

ほら言葉なんて出てこない、あたりまえだ。
だって自分でも解らない、けれど幼馴染は笑った。

「そっか、ソレじゃあ周太、美代には振られちゃったろ?」

ため息まじり、でも笑ってくれる。
いつもながら優しい大らかにただ肯いた。

「…英二って呼んだけど私のことは呼ばなかったから、って、」

熱に沈んだベッド、美代は傍にいてくれた。
それなのに呼んだ名前は、唯ひとつ。

“英二”

呼びたかった、ずっと。

「光一、僕ね…自分のこと呆れてる、」

本音こぼれて視界にじむ。
また泣いてしまう、こんな弱さに澄んだ明眸が訊いた。

「あいつのコト、追いかけたいかね?」

追いかけたい、そうなのだろう?
その先どうしたいのかも解っている、そのまま声にした。

「追いかける…より…傍にいたいんだ、」

あなたの傍にいたい、そして聴きたい。
あなたの声で答えを聴きたい、こんなに抱えた「どうして」に答えが欲しい。
どうしてこんなに秘密だらけで、どうしてこんなに抱えこんで、それはたぶん、あなたの隣だけにある。

「そっかね、」

深いテノールやわらかに透る。
穏やかな食卓あまからい香、雪白の笑顔ふっと口ひらいた。

「宮田ならね、奥多摩にいるんじゃない?」

澄んだテノール深い、その言葉そっと鼓動ふれる。

「…いま?」
「だね、」

澄んだ声からり返されて、とくん、鼓動うごく。
こんなこと予感していたかもしれない、

「今日はアイツ休みだからね、どーせ自主トレじゃない?」

告げてくれる「今日」を、ほんとうは知っていた。
だから今ここにいる、想いただ唇ひらいた。

「ん…きっとそうだね、」

あなたは山にいる。
それしかないと解っていた、だから今ここにいる。
そんなこと「解って」言われたのだろう、あの女の子にも。

『今日、もしかしてって想うから登山ジャケット着てきたの?』

ちゃんと見て、ただ解ってくれる女の子。
だから今日も支えてあげたくて共に来た、そんな相手の言葉こぼれた。

「ね…クサレエンのほんとの意味、光一は知ってる?」

知っているかもしれない、このひとなら。
想い見つめた真中、雪白の頬すこし笑った。

「俺ならザイルエンって言うケドね、」

すこしだけ笑った手もと、箸きれいに青菜つまむ。
青々やわらかな惣菜したたる露、醤油あわい光に訊いた。

「…雅樹さんのこと?」
「だね、」

澄んだテノールの唇が青菜ふくむ。
口うごかして止まって、やさしい唇かすかに片端あげた。

「山ヤにとってザイルはさ?自分まるっと支えて、いきたいトコ導いてくれるだろ?雅樹さんは俺のザイルパートナーだってのはソウイウコト、」

ザイルに命も時間も繋いで登る。
そんな相手を知っている瞳が自分を見つめて、からり笑った。

「鎖のご縁ってのも堅く切れませんってカンジでイイケドさ、ザイルのが生きる自由ってカンジで俺は好きだね?」

生きる自由、それが違う?

“鎖縁”

そう書き表す文字、言葉。
それが大切に想っていた、けれど違う言葉に唇ひらいた。

「光一、僕は…僕では英二のザイルにはなれないね?」

わかっている、僕には叶わない。

※校正中

(to be continued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet 104」】
第85話 春鎮act.48← →第85話 春鎮act.50
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弥生の窓、蘭の春

2018-03-14 18:09:04 | 写真:花木点景
蘇芳色やわらかに陽に透ける、春陽の窓。


いただきモンの蘭の花、自家栽培なんだとか。驚
第50回 ☆花って綺麗ですよね♪☆ブログトーナメント
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