「夢のチャーハン」と言うと、夢のようにすばらしいチャーハンを思う人がいても不思議ではないから、最初にお断りしておかないといけない。その逆なんだ。こんなに貧しいチャーハンはないとくらいのもの。じゃあ、貧しくてチャーハンを夢に見るのかというと、そうでもないのだけど、だいたいあってるとも言える。夢に見たのだ、そのチャーハン。
夢のなかの出来事だと後でわかるんだけど、夢を見つつも、なんか変だなとは思っている。そんな夢にありがちな雰囲気。さて食事か、と僕は思っている。冷蔵庫を開く。冷や飯以外にさしたる食材はない。これはもう最終炒飯(参照)だなと思うけど、ネギもない。だめだ。かくなる上は冷や飯に水でもかけて食うかと嘆息すると、年老いて痩せて、ちょっと汚れた調理服を着た中国人の料理人がニコニコとやってくる。誰、この爺さん。
「チャーハン、できるよ」という。
「ネギないんですよ」と僕は答える。
「ネギ、いらないね」
「まあ、そうかもしれないですね」
「卵あるよ」と爺さん、冷蔵庫から二つ取り出す。あったんだ。不思議と僕は思っている。
「卵でチャーハン。わかりますよ」と言うと、爺さん、ニコニコしながら、首をゆっくり横に振る。わかってなということらしい。
「チャーハン、あなたに教えよう」
「それはいいけど、チャーハン、僕でも作れますよ」というと、軽く目をつぶって頷くものの、「見なさい」と言う。
爺さん、フライパンを出してコンロの前に立つ。
「油を入れる」と言う。フライパンが熱くなったころを見計らって、大さじ二杯くらい油を入れる。それはね。
「卵を入れる」と言って、その上に卵を割って入れる。それじゃ目玉焼きじゃんと思うと、爺さんは見透かしたようにちらっと横目で見とがめる。あちゃ。
そのうち白身の端が揚げ卵ふうになるけど、黄身には火がまだ通らない。
「塩を入れる。少し」とぱらっと塩を卵の上にまく。
「ご飯を入れる」と言って半熟の黄身の上に冷や飯を載せる。
ここで緊張が走る。あとで思うとそこでなぜ夢から覚めなかったのかと思うほど。
爺さん、軽く奇声をあげて、お玉で冷や飯を半熟の黄身の中へぐいと潰し、がっがっつとかき回し始める。揚げ卵風の白身が炸裂する。
まるで夢を見ているような気分で僕は見ている。実際、夢を見ていたんだけど。
「できたよ」と爺さんが言って、コンと皿に盛りつける。白身が具になって、飯は黄金チャーハンになっている。
爺さんニコニコしながら「わかったか」と言う。僕は猛烈に感動している。一口食う、旨い。
そこで目が覚める。中国人爺さんはいない。耳に「わかったか」の声が響く。パジャマのまま台所にダッシュ。
火は中火。白身の半分くらい揚げ卵になったら、塩を入れ、ご飯を投下。
半熟の黄身をご飯に絡めるように潰して混ぜる。
揚げ卵風の白身が具になるように散らす。気合いだ。
上がり。
旨い。なんでこれで旨いんだ。老師、ありがとう。老師にはまだまだ及ばないけど、がんばる。また、夢に来てくれ。