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僕の読書ノート「天才と発達障害(岩波明)」

2019-10-05 08:50:41 | 書評(発達障害)


同じ著者の「うつと発達障害」を読んだ流れで、本書も読んでみた。
真の天才とは優等生ではなく、不穏分子である。彼らの才能は、周囲になかなか理解されない。むしろ、一般の人からは、扱いにくい異物として目をそむけられやすい。じつはこのような天才たちの能力が、何らかの発達障害や精神疾患と結ぶついていることは珍しくない。「天才とは狂気そのもの」とする学説もある。本書は、そうした天才や傑出した異能を持つ人々を集めて、発達障害や精神疾患の視点から論じている。最後に、そうした異能の人たちを生きにくくさせている日本の社会について問題提起している。

それぞれの障害や疾患のカテゴリーに当てはまると考えられる下記の人たちを論じている。

[ADHD(注意欠如多動性障害)]
うつの原因とも考えられているマインド・ワンダリングが、とくにADHDにおける創造性に関係しているとしている。
例:
野口英世
南方熊楠
伊藤野枝
モーツァルト
黒柳徹子
さくらももこ
水木しげる

[ASD(自閉症スペクトラム障害)]
ASDの特性を持つ人は、思考や問題解決の方策において常人とは異なる側面があり、そうした独特な視点によって科学的、文化的に重要な課題の解決をもたらすこともあるとしている。
例:
山下清
フランコ・マニャーニ
大村益次郎
島倉伊之助
チャールズ・ダーウィン
(毎日決まったリズムで生活し、それが狂うと体調が悪化し頭痛や嘔吐などのさまざまな症状が起きた。1日4時間以上は仕事ができなかった。散歩に長い時間をとった。)
アルベルト・アインシュタイン
(生涯を通じて孤独や孤立を好み、「わたしは、どんな国にも、友人たちの集団にも、家族にさえも、心から帰属したことはありません。これらと結びつくことに、常に漠然とした違和感を感じていて、自分自身の中に引きこもりたいという思いが、年とともに募っていきました」と語った。)
ルートヴィッヒ・ヴィトゲンシュタイン
エリック・サティ
コナン・ドイル
江戸川乱歩

[うつ病]
創造的な才能は、うつ病や躁うつ病との関連が大きいことが以前から指摘されてきた。
例:
ケイト・スペード
ウィンストン・チャーチル(ADHDの特性も)
アーネスト・ヘミングウェイ
テネシー・ウィリアムズ
ヴィヴィアン・リー
夏目漱石
芥川龍之介
中島らも

[統合失調症]
統合失調症が芸術や科学における創造性と関連するのであれば、それは発症の直前の潜伏期か、発症間もない時期に限定されるだろうとしている。過去の文献では、ASDが統合失調症と見なされてきた可能性が大きく、統合失調症と創造性の関連は、実際は限局的かもしれない。
例:
ジョン・フォーブス・ナッシュ(ASDの可能性あり)
石田昇
島田清次郎
中原中也

[誰が才能を殺すのか?]
・同質性を求める傾向の大きい日本社会は、平均から外れた個人に対して不寛容となることが多い。これは傑出した才能には、必ずしも生きやすい環境とはいえない。安定した対人関係が持てない子供や、突飛な行動を繰り返す子供は、「変わった子」とレッテルを貼られ、教師からも周囲からも排除の対象になりやすい。このため発達障害の特性を持つ子供は、優秀な能力を持っていても、いじめの被害者となりやすく不登校の比率が高い。その結果として彼らは自己肯定感が低くなり、さらにその後の不適応につながりやすい。
・国連児童基金(ユニセフ)は、2007年に先進国に住む子供たちの「幸福度」に関する調査報告を発表した。それによると、「孤独を感じる」と答えた日本の15歳の割合は29.8%と、対象国の中で第1位で、ずば抜けて高かった。「自分がぎこちなく場にそぐわない」と答えた子供も、日本が18.1%で最も高率だった。さらに「単純労働を希望している」15歳の比率は、50.3%と最も高率であった。この結果は、日本の子供たちは自分の能力に自信がなく、職業に希望が持てない状態であることを示している。
・傑出した能力を持つ子供の才能を開花させ、成人後も孤立させないようにするために、国家プロジェクトとして能力開発を重点政策としているのが、イスラエルである。例えば、物理学やプログラミング言語を教える幼稚園がある。その後の義務教育においても、ソフトウェア開発やサイバーセキュリティの教育が行われている。子供のときのIQ試験で優秀さが認められると「高IQコース」に選抜され、一般の生徒とは違う、進度の速いレベルの高い教育が受けられる。才能のある生徒に対する「特別支援」が行われることと、「徹底的にほめること」がイスラエルの教育の特徴だという。同様の支援は、米国でも行われている。
・現在、日本には特別支援学級という制度があり、知的障害、発達障害の子供が対象となっている。著者は、今後さまざまな子供に対応できる個別指導態勢の確立の必要性を提言している。高い能力を持つ子供には能力のアンバランスがあることが多く、その能力を開花させるには、適切な大人による保護と訓練が必要だからだとしている。私もその通りだと思う。

本書では多くの天才、異能の人たちが紹介されており、それなりに興味深かったが、一つ注文を付けるとすれば、取り上げる人数を1/3程度に減らしたほうが、それぞれの人の病理・人生・インパクトのより深い理解につながってよかったんじゃないかと思った。


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