子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「コンテイジョン」:風邪気味の方は咳が収まってから劇場へ…

2011年11月19日 23時38分16秒 | 映画(新作レヴュー)
グウィネス・パルトロウの咳で始まり,時を遡って彼女が感染した直後,自分がどうなっていくのか知らずに笑顔を見せるラストまで,場内の空気はピンと張り詰め,咳ひとつ出来ない状態が106分間続く(私の2列くらい後ろのおじさんは,そんな空気にお構いなく咳をし続けていたけれど…)。今回はかなり地味目ではあるが,スティーブン・ソダーバーグお得意のオールスター方式のキャストをシチュエーション毎にうまく配分して,重層的に恐怖を盛り上げていく手法が見事に決まり,ソダーバーグとしては「トラフィック」以来とも言える傑作が完成した。世間の評判はTVの露出度に比べれば地味のようだが,SFXを多量に使った並の3D映画以上に,映画ならではの醍醐味が詰まっている。

未知のウィルスが世界各地で同時多発的に感染者を出し,世界中がパニックに陥る。最初の感染者から,あらゆる形態の接触を経て,雪崩を打ったようにパンデミックに繋がっていく様子は,パニック映画やディザスター(災害)映画というよりも,一種のホラーと呼んでも差し支えないと思われるくらいの切迫度と恐ろしさを備えている。
幾つものシチュエーションを並列に並べ,短いカットを積み重ねながら場面を素速く切り替え,そこにソダーバーグの盟友クリフ・マルティネスのアンビエント風味の音楽を被せていく手際は,これまでソダーバーグが「セックスと嘘とビデオテープ」以来20年以上に亘って培い,研ぎ澄ませてきた技術と映像感覚の集大成と言っても良いものだ。

物語の軸はローレンス・フィッシュバーンが務めるが,出番の多寡に拘わらず,タイトルロール全員が期待された役割を見事にこなしているのは,娯楽に徹していたはずの「オーシャンズ」シリーズが,楽しませようとすればするほど,どんどん楽屋落ちに堕していったことの反省が活かされた証左だろう。
特にジュード・ロウは,ネット社会において不特定多数の信者の不安を煽り,時には社会全体の動向を左右しかねないカリスマ的存在のブロガーを,実にヴィヴィッドに演じている。「インセプション」に続いてのハリウッド大作への出演となったマリオン・コティヤールの美しさ,ケイト・ウィンスレットの凛とした技術者魂も印象深い。
またビッグネームに挟まれて目立たないが,宮田早苗似のジェニファー・イーリーも,物語を締め括る大役を完璧にこなして見事だ。

こうして見ると,ソダーバーグ独自の職人気質が生きるのは,先に挙げた「オーシャンズ」シリーズのような娯楽オンリーの作品よりも,俗に「社会派」と呼ばれるような作品群だという気がしてならない。少なくともアメリカでは興行的な成功も収めたということなので,出来れば今後は「オーシャンズ」シリーズよりも,「パンデミック」シリーズを開拓する方向に行ってくれないものかと,帰ってきてすぐうがいをしながら思ったのだった。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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