子供はかまってくれない

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映画「IT/イット THE END "それ"が見えたら,終わり。」:キングの筆圧Vs.ムスキエティの豪腕

2019年11月17日 08時50分05秒 | 映画(新作レヴュー)
まさかの超大ヒットとなった前作の公開は2年前。アンディ・ムスキエティという,当時はほぼ無名といっても良いアルゼンチン人の監督が作り上げた第1章の出来映えについて,自作の映画化作品に手厳しい批評で知られるスティーヴン・キングも,興行的な成功以上にその内容に満足したようだ。その証拠に予算も増えて出演者にスターを揃えた本作では,台詞付きの役を実に楽しそうに演じている。その意味でムスキエティは「シャイニング」でキングの不興を買ったスタンリー・キューブリックよりも,職人的なアビリティーは高かったと言えるかもしれない。原作者を含む複数のステークホルダーを巻き込むビジネスである一方で,膨大な予算を賭けたギャンブルとなった続編でも,ムスキエティは見事にそんなプレッシャーをはねのけて見せた。

第1章で「それ」から生き延びた子供たちの27年後を描く第2章は,子供時代のトラウマを引き摺りながら再び「それ」との対決に向けて心を一つにしようと奮闘する6人の姿を描くため,当然ながら27年前の描写が何度もカットバックされることになる。ホラー映画としては異例に長い上映時間は,そのために必要な尺なのかと思いきや,予想に反して子供時代の恐怖や克己心に費やされる描写は多くない。6人それぞれのエピソードは刈り込まれ,関連する二つの時代を跨ぐエピソードは事件の発端となったマーテル(ジェームス・マカヴォイ)の弟の失踪と,リリス(ジェシカ・チャスティン)が貰った詩の送り主を巡る誤解騒動に絞られる。その代わりに制作陣が力を注ぐのは,6人に向けて放たれる「それ」の変幻自在なアタックだ。結果的にこの戦術は功を奏し,実にシンプルな一直線の対決型ストーリーは,最後までいささかの緩みを見せることなく疾走していく。

ただ次から次へと繰り出される肝心のホラー場面は,1作目での成功体験がかえって邪魔をしたのか,仕掛けの大きさに比べてヴァラエティに欠ける印象だ。すなわち「主人公が何かの気配を感じる」→「感じた方向に振り向くが何もいない」→「安堵して顔を上げると『それ』が現れる」という「びっくり箱」的驚かせ方のオンパレードなのだ。『それ』の存在を登場人物が了知している以上,ひたひたと迫る心理的恐怖という技が使えなかったことには同情するが,せめてリリスが旧家を訪れた際に,老婆が移動する姿が後景に映り込む場面のような不気味なショットがもう少し欲しかった。
豪快なホットドッグの美味しさを味わいつつ,よく出来た和製ホラーのわさび味を思い出してしまった169分だった。
★★★
(★★★★★が最高)


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