子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「アリス・イン・ワンダーランド」:3Dで迫ってくる空疎な異次元

2010年05月01日 09時57分45秒 | 映画(新作レヴュー)
アメリカでも日本でも記録的なヒットを続けているティム・バートンの新作。ディズニー・テイストとバートン特有の造形感覚が精緻に組み合わされた「穴の中の世界」のデザインと色彩の完成度は見事で,3D効果と相俟って,全編に亘りディズニーランドのアトラクションが持つ楽しさを味わえることは,請け合いだ。

盟友ジョニー・デップと奥方ヘレナ・ボナム=カーターという百戦錬磨のバッテリーに,上り調子のアン・ハサウェイと新人(ミア・ワシコウスカ)を組み合わせたキャスティングの安定感も抜群。観客は3D用メガネをかけたせいで,多少足元が覚束なくなるかもしれないが,安心して穴に落ち,大きくなったり小さくなったり,走ったり闘ったりしながら,総天然色の夢を堪能できるはずだ。アメリカにおける公開直後の興収では,ジェームズ・キャメロンの「アバター」を凌ぐ勢いを見せたらしいが,本物のディズニーランドの入場料や行列待ちを考えれば,よりリーズナブルな娯楽としてこちらを選択するファミリーが多かったことは不思議でも何でもない。

だがバートン作品は,安全で分かり易いことが絶対的な条件であるアミューズメント・パークのアトラクションと,いつから同列に並べるべきものになってしまったのだろうか?
人間を愛しながら,どうしても彼らを傷つけてしまう異型に悩む「シザーハンズ」にも,B級映画を撮り続ける映画監督を描いた「エド・ウッド」にも,自らが作り上げた文明にあぐらをかいた人間を徹底的にコケにした「マーズ・アタック」にも確かに存在した,シニカルな視点と白黒を付けられない曖昧な境界に潜む毒のようなものは,この作品には存在しない。

幼年期の思い出を引きずりながら19歳になった少女は,黒白(映画の中では「赤白」なのだが…)=善悪がくっきりと分かれた世界で,勇気を奮い起こすことによって見事に「成長」という果実を手にする。しかし上述した作品群では慎重に忌避されていたはずの「成長」という概念が,堂々とスクリーンの中央を闊歩する姿は,バートンとほぼ同年代のフォロワーにとっては少々眩し過ぎた,というのが正直な感想だ。
アブリル・ラヴィーンが歌うエンド・クレジットに被さるテーマ曲が,まったく「陰影」というものを感じさせない平板なメロディで,そんなアナクロなバートン・ファンに追い打ちをかける。「エド・ウッド」に出てきたヴァンパイラの妖しくも艶やかな姿は今いずこ,と江戸(=エド)を懐かしむ黄金週間。
★★★
(★★★★★が最高)


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