子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ゲット スマート」:メル・ブルックス衰えたり?

2008年11月15日 22時47分53秒 | 映画(新作レヴュー)
メル・ブルックスとバック・ヘンリーが「創作したキャラクターに基づく」というチラシの文句を信じて観に行った私が無知だった。
どうやら大御所のお二人は,1964年から制作されたTVシリーズ「それ行けスマート」に関与しただけで,その2度目の映画化となる本作には,殆ど関わっていないようなのだ。
その結果はと言うと,幾らでも面白くなりそうなキャラクターと仕立てが,残念ながら全く活かされず,劇中で防がれた核爆発に同調するかのように,鼻の辺りでわだかまっているクシャミを放出することが出来ないままに,劇場を出ることになってしまった,という感じだ。

笑えない,風刺もない,TVシリーズを知らない人間にとっては懐かしくもない,という作品を監督したのは,「裸の銃を持つ男」第3作でデビューしたピーター・シーガル。公式HPに拠れば,ロバート・アルドリッジの名作「ロンゲスト・ヤード」のリメイクで,スポーツコメディ(ジャンル分けとして,ちょっと細かすぎないか?)史上最高の興収を挙げたコメディの名手ということだが,こういうジャンルの作品こそ,クリエイターと観客のセンスの相性,言い換えれば「笑いのツボ」が合うかどうかが,作品の評価を分けるということに繋がってしまうというところがある。
しかし,どうやら私と彼の相性は,セリーグのCSシリーズで,サインを巡ってお互いに延々と首を振り続けた巨人のバッテリー,クルーンと鶴岡の仲並みに悪かったようだ。

私の方だって,全てのコメディに,昨年巡り会った笑劇の大傑作「ボラット」のような高い水準を求めている訳ではない。日常生活に潜む中流意識や先進国気取りの愚劣さをとことん抉りだし,ブラックな笑いを塗り込めて提示するという高度な技には,そうは簡単にお目にかかれないということくらい,私も承知している。
そこそこ笑わせて,ちょっとした風刺で脇を突いてくれれば,週末の慰めとしては充分に合格なのだ。

しかし本作でプッと吹き出したのは,主人公のスティーブ・カレルが猛毒を塗った吹き矢を勢い余って吸い込んでしまうベタなギャグと,スティーブ・クローブスのロマンス「恋のゆくえ」の原題(ファビュラス・ベイカー・ボーイズ)に引っかけた「ファビュラス・ベイカリー・ボーイズ!」というガードマンの台詞くらいだった。
オープニングとエンディングで繰り返される秘密基地のドアが延々と続く,オリジナルのTVシリーズからのギャグも,マシ・オカを含む新兵器開発チームのサブプロットも,追跡アクションの大き過ぎた撮影スケールも,作品のベクトルを洗練とは逆の方向に推し進めるばかりで,適役と思われたスティーブ・カレルの奮闘も劇中で相手を転がすビーズ並みに滑っている。

唯一の収穫は,全身整形美女の諜報員を演じたアン・ハサウェイの美しさだ。彼女のおかげで,少しも笑えなかった観客にも,もしメル・ブルックスが本作に本気で関わっていたとしたら,「プラダを着た悪魔」から更に輝きを増した彼女を使って,今のロシアを笑い倒すためにどんな手を使っただろうか,と考える楽しみが残されたという訳だ。それだけというのは全くもって寂しい話だが,何もないよりはマシ(・オカ)だ。あっ,これはやばいかも。


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