子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「最高の花婿」:自分の矮小さを「笑い飛ばす」術を知る,フランスの懐の深さ

2016年06月01日 00時15分13秒 | 映画(新作レヴュー)
アルベルト・ザッケローニ元日本代表監督がたったの4ヶ月で北京国安の監督を解任されたニュースに接した直後に観たせいか,主人公の父親クロード(クリスチャン・クラヴィエ)がザックに見えて仕方なかった。
フライヤーに「フランスで5人に1人が観た」という惹句が踊っている「最高の花婿」は,まさに異文化の衝突とも言える状況に翻弄され,ついつい「父はつらいよ,ですね」と声をかけたくなるような老年男性の悲哀を,笑いにくるんで描いた佳作だ。

公証人という仕事を通じて社会的な地位を築き上げ,4人の娘を育て上げたクロードは,白人系カトリック教徒であるフランス人を理想の婿と想像していたが,長女から三女までがそれぞれ国籍こそフランスなれどアラブ人,ユダヤ人,中国人と結婚するという事態を表面的には受け入れる。しかし,心の奥底で感じている違和感が表出してしまうことを,時として抑えられない。割礼に代表される,宗教的な出自に影響される儀式や食事の度に,義理の息子たちとぶつかるクロードの姿は,まさに「わかっちゃいるけどやめられない」。そんなクロードの前に,四女がフィアンセを連れてくる。彼はカトリックではあったのだが…。

クロードは娘たちの選択を尊重しようと努力しながら,結局頑固な昔気質のフランス人という面が顔を覗かせては混乱を引き起こす。主人公が観客に「もっと大人になれよ」と呟かせては,また振り出しに戻るような行動を取ってしまう,という展開は,まさにコメディの常套手法だ。しかしこの作品が大勢のフランス人の心を掴んだ最も大きな理由もそこにある。文化や宗教の違いを,理性や建前では理解しながらも,どうしても滲み出てしまう感情を一旦表出した上で,最終的には相互理解の道を探ろうとよろよろ歩み続ける。そんな父の後ろ姿は「グローバル化」という人々に思考停止を促す言葉で世界を括ろうとする現代にあって,ある意味最新型の「ヒーロー」に見えてくる。

飲み比べの果ての酩酊による和解という手垢が付いたオチはどうかと思うが,いがみ合っているアラブ人とユダヤ人が,なぜか中国人に対しては急に一致団結してしまったり,三女の芸術の方向性は宗教的な違いよりも深刻なのでは,と思わせるような小さなエピソードの積み重ねが効いて,97分はあっと言う間に過ぎていく。本家に比べて「こちらのザック」の手腕は,なかなかのようで。
★★★
(★★★★★が最高)


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