子供はかまってくれない

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映画「バンクーバーの朝日」:弾けなかったのは何故か

2015年01月04日 21時40分02秒 | 映画(新作レヴュー)
学生映画出身で「川の底からこんにちは」によって,映画界の話題を浚った俊英とは言え,それから僅か4年でフジテレビ開局55周年記念作品と銘打った大作のメガホンを取ることになるとは,誰が想像しただろう。ひょっとしたら石井裕也監督本人が事の展開に最も驚いているのかもしれないが,作品のフレームは実に堂々としており「ビッグバジェットを仕切ることの出来る初のPFFグランプリ受賞者」としての名前は,間違いなく歴史に刻まれたと言える。

前々作の「舟を編む」でも見せた細部の美術に対するこだわりは,驚くほど規模の大きなオープンセットを組んだ本作でも遺憾なく発揮されている。球場を取り囲む建物の重厚感は勿論のこと,主人公レジー(妻夫木聡)が住む家の作りや,レジーの父親(佐藤浩市)が酔い潰れる居酒屋の佇まいなど,CGでは作り出せない手仕事の味わいが画面に定着されている様は実に見事だった。

だが,そんな舞台装置の見事さに反して,肝心の物語の方は一向に弾けない。戦火迫る時代の空気の中で移民の生活の苦労やカナダ人との軋轢,懸命に生きる家族愛や同士の絆,更にはスポーツにおけるフェアプレー精神までを描いてみせるという志の高さと,中国での戦争とは別の形で野球を武器にアメリカ大陸で「戦っていた」若者の姿を描く,というシンプルなモチーフが,残念ながら噛み合っているとは言えないのだ。
その証拠に,何より大事な野球のシーンが情けないほどお粗末だ。いくらレジーのアイデアによるバント攻撃が功を奏したとは言え,「守備のチーム」と謳われた朝日のプレーの特徴をレンズが捉えることはなく,野球経験者・愛好者を配したキャスティングを活かしたショットも皆無に等しい。あまり話題にならなかったが,黒人初のメジャーリーガー,ジャッキー・ロビンソンを描いた「42」が,野球のプレーシーンがメインではなかったにも拘わらず,野球の躍動感を巧みに描いたシークエンスが数多くあったこととは実に対照的だ。

前述の「川の底~」にあったオフビートな笑いが影を潜めているのも残念だった。レジーの相方を演じた勝地涼は,充分にコメディリリーフとして機能する力量を持っているだけに,それを活かせなかった脚本に作品全体のペースを見渡す余裕がなかったのだろう,としか言いようがないのだが。
キャストも豪華だったが,輝いていたのは高畑充希くらいで,宮崎あおいに到っては,何のために顔を出したのか分からないような扱いだった。
「舟を編む」から「ぼくたちの家族」へと,トーンの違う作品を起用にさばいてみせた期待の若手が投じた自信満々の直球は,ロイ(亀梨和也)が浴びた本塁打のように,行き先が見えないくらいの特大本塁打になってしまったようだ。次こそ初心に返って,ツーシームでボールを動かして貰いたい。
★★
(★★★★★が最高)


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