子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」:PVのフォーマットに則って綴ったルーズソックス・クロニクル

2018年09月24日 21時00分12秒 | 映画(新作レヴュー)
世を挙げての「安室奈美恵引退」ブームではあるが,彼女の歌に特に強い思い入れはなく,それよりも「離婚経験者が唄った歌『CAN YOU CEBRATE?』を結婚式に使ったカップルの離婚率はどうなのだろう?」と案じる人間にとって,小室哲哉氏が音楽を担当し,安室ソングが大々的にフィーチャーされた本作のハードルは高かった。しかしそんな「全然ノレなかったらどうしよう」という危惧は,冒頭の女子高生「ラ・ラ・ランド」的群舞によって,一瞬のうちに吹き飛んだ。一糸乱れぬ,という感じでもなく,踊り自体に高度な仕掛けがある訳でもないのに,茶髪にルーズソックスの大量のJKが「ノリ」一発勝負で飛び跳ねる姿が持つ若さとノスタルジーが入り混じったダンスは,当時のふわふわした空気だけはを知っているおじさんを,見事にノックアウトしたのだった。

「SCOOP!」の恐ろしく緩い仕上がりは,やはり主役にビッグネームを起用したが故に,彼のPV的な内容にならざるを得ないという制約が足枷となっていたせいで,大根監督自身の業界人的快感追求の鋒は衰えていないことを証明する作品。
韓国映画のリメイクだろうが,懐メロ,否,「小室メロ総動員のPV仕立て」だろうが,そんなことには頓着なく,冒頭からラストの時空を跨いだダンスまで,登場人物の言葉を借りるまでもなく,大根の「何があんなに可笑しくて笑っていたんだろう」的なテイストがどのカットからも横溢している。
宙を舞うお好み焼きのコミック的な躍動感に,すっかりお約束となった感のある広瀬すずの白眼剥き出し演技,それに6人のガールズトーク等は,新鮮味こそ少ないものの,どこを切ってもコメディとしての一定水準のクオリティがあることは保証できる。どんなにベタな笑いだとしても,これは「男はつらいよ」なき後の日本の映画界において特筆すべき慶事だと言っても過言ではない。

しかも小室ソングの連打をくぐりぬけて,ラストで披露される曲は安室ちゃんでもtrfでもなく,サブタイトルになっている小沢健二の「強い気持ち・強い愛」なのだ。どう考えても当時の女子高生が選んだとは思えない曲を敢えてクライマックスに持ってくるところに,メジャーとサブカルの境界線をつま先立ちで渡っていこうとする大根仁の姿勢がじわっと滲む。狙うべきは21世紀の日本版ジョン・ヒューズか。リリー・フランキーに匹敵する相性の若手ヒロインの出現が待たれる。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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