子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「冬の小鳥」:孤独に立ち向かう決意を一点に凝集した視線にたじろぐ

2011年01月12日 22時16分13秒 | 映画(新作レヴュー)
心の奥では父に捨てられたことを知りながら,決してそのことを認めようとせず,頑なな態度を取り続けた主人公のジニ(キム・セロン)が,台所に残された釜から米をこそげ取って食べるシーンを観て,思わず息を継いだ瞬間,それまで我知らず少女と一緒に肩を張り,息を潜めていたことに気付いた。過剰なまでの自己抑制とも取れるカメラの視線によって,観客を哀しくもハードな物語に誘導するウニー・ルコントの語り口には,目を瞠るばかりの力強さと滑らかさが同居している。

9歳で渡仏したウニー・ルコントが書いた脚本を,自ら監督した韓仏合作プロジェクトの見事な成果だ。
1970年代の韓国に実際にあった,孤児もしくは家庭の事情で施設に預けられた子供を,外国人夫婦に斡旋する施設に,父親から何も知らされずに連れてこられた9歳の少女の物語。
1970年代半ばといえば,朝鮮戦争の直接の影響は表層においてはもう消え去っていたはずだが,国全体が経済成長に血道を上げ始める前の社会全体を覆っていた貧しさが子供に課した過酷さが,終始スクリーンの真ん中で燻っているようだ。

揺れ動くジニの内面を,表情によって完璧に表出するキムの演技が,この映画の肝であることは間違いない。少ない台詞に反比例するような表情の豊かなグラデーションは,まだ軌道を逸脱する前の広末涼子を彷彿とさせるような純粋さを感じさせる。
更にジニを取り巻く登場人物が,ジニを中心として奏でる演技のアンサンブルが,この物語が獲得した力強さの源泉になっている。
ぶっきらぼうに見えながら,子供たちに対して惜しみない優しさを与え続ける寮母を演じたパク・ミョンシン,ジニに生きる勇気と友情を教えるパク・ドヨン,そして「グエムル 漢江の怪物」で怪物に飲み込まれた少女を演じたコ・アソンの3人の演技が,ジニの孤独をシルエットとして浮き立たせるような灯りの役目を果たしている。
特に,失恋して自殺を図ったコが,回復して施設に戻ってきた後に,子供たちに挨拶をしながら何故か共に笑い出してしまうという,何気ないやり取りをさらりと表出させて見せた演出には舌を巻いた。

新しい里親になるであろうフランス人の夫婦を遠くから見つめるジニの,何かを悟ったような視線が観客を射貫くラストには,諦念と希望の両方が色濃く込められている。
「子供(を主人公とした)映画」の傑作でありながら,「子供(として生きることの過酷さを提示して見せた)映画」だ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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