今年のオスカー授賞式の中で最も沸いたのは,ゴールデン・グローブ賞も受賞して大本命で臨んだグレン・クローズを,ゴール寸前で差し切ったオリヴィア・コールマンの「清掃の仕事も楽しかったのだけれど」というスピーチだったと思うが,最も感動的だったのは脚色賞のプレゼンターを務めたサミュエル・L・ジャクソンが封筒を開いた瞬間に上げた歓喜の叫び声だろう。大学の後輩だというスパイク・リーの名前をそこに見つけた先輩は,見事な脚本を書き上げたチームの名前を,スパイクが長年国内で受けてきた冷たい仕打ちを拭い去るべく,誇りを持って読み上げた。けれども受賞作「ブラック・クランズマン」は,そんなエピソードを知らなくとも,大きな感動を観客に,そしてトランプ大統領には大いなる打撃を与え得る快作だ。
スパイク・リーの名前を世界に轟かせた「ドゥー・ザ・ライト・シング」以降,ストリートから離れない視点と力のこもったストーリーによって,アメリカ社会が内包する矛盾や市井に生きる黒人の姿を描いてきたリーにとって,まさに金字塔と言える作品だろう。ともすれば怒りが生の形で前面に出すぎることで,共感する素地を充分に持った人以外には届きにくかった彼のメッセージは,「コメディ」という衣を被せることで,逆にストレートに,且つ広く伝わることになったという印象だ。
KKKに黒人と白人の捜査官が,実態と電話の二人羽織という形を取って潜入するという,実話とは思えない仰天の物語を息もつかせぬエンターテインメントとして昇華させた脚本家チームの仕事は,オスカーに相応しいものだ。更にその物語を,ストーリー自体が持つ緊迫感に比べて少しテンポを遅らせるような演技で立体化させたジョン・デヴィッド=ワシントンとアダム・ドライヴァーの二人の演技も見事。名優デンゼル・ワシントンの息子であるジョンは,コメディアン的な資質を持ちながらも,これまでそれを活かす作品に恵まれなかった父親よりも一足早く,役者としてのリーチを広げる幸運に恵まれた,という印象だ。「モ’・ベター・ブルース」や「マルコムX」でリーと組んだ父親は,果たしてどんな感想を持つだろうか。
冒頭のアレック・ボールドウィンからハリー・ベラフォンテまで,脇役にも重要な役廻りを割り振ることで,余白にも豊かな余韻が生まれた。挟み込まれる実際の記録映像までもが,まるで物語の一部として撮影されたかのように見えるフレームの堅固さと,それを冷静に組み立てたスパイク・リーの手腕には冒頭のジャクソンならずとも快哉を叫びたくなるはず。ユーヴ・ダン・ザ・ライト・シング!
★★★★★
(★★★★★が最高)
スパイク・リーの名前を世界に轟かせた「ドゥー・ザ・ライト・シング」以降,ストリートから離れない視点と力のこもったストーリーによって,アメリカ社会が内包する矛盾や市井に生きる黒人の姿を描いてきたリーにとって,まさに金字塔と言える作品だろう。ともすれば怒りが生の形で前面に出すぎることで,共感する素地を充分に持った人以外には届きにくかった彼のメッセージは,「コメディ」という衣を被せることで,逆にストレートに,且つ広く伝わることになったという印象だ。
KKKに黒人と白人の捜査官が,実態と電話の二人羽織という形を取って潜入するという,実話とは思えない仰天の物語を息もつかせぬエンターテインメントとして昇華させた脚本家チームの仕事は,オスカーに相応しいものだ。更にその物語を,ストーリー自体が持つ緊迫感に比べて少しテンポを遅らせるような演技で立体化させたジョン・デヴィッド=ワシントンとアダム・ドライヴァーの二人の演技も見事。名優デンゼル・ワシントンの息子であるジョンは,コメディアン的な資質を持ちながらも,これまでそれを活かす作品に恵まれなかった父親よりも一足早く,役者としてのリーチを広げる幸運に恵まれた,という印象だ。「モ’・ベター・ブルース」や「マルコムX」でリーと組んだ父親は,果たしてどんな感想を持つだろうか。
冒頭のアレック・ボールドウィンからハリー・ベラフォンテまで,脇役にも重要な役廻りを割り振ることで,余白にも豊かな余韻が生まれた。挟み込まれる実際の記録映像までもが,まるで物語の一部として撮影されたかのように見えるフレームの堅固さと,それを冷静に組み立てたスパイク・リーの手腕には冒頭のジャクソンならずとも快哉を叫びたくなるはず。ユーヴ・ダン・ザ・ライト・シング!
★★★★★
(★★★★★が最高)