昨年発表されたくるりの「ワルツを踊れ」に端を発し,年が明けて「4分間のピアニスト」,更には「のだめ」のスペシャル番組と楽しんできたクラシック音楽影響甚大作品群の掉尾を飾るのは,スイスのフレディ・M・ムーラーの新作「僕のピアノコンチェルト」。
「山の焚火」の静謐な画面から想像した,若き天才の苦悩,というイメージとはかけ離れた,軽妙かつポジティブなお伽噺は,正にお正月に相応しい明るさと楽しさに満ちた秀作だった。
音楽にも勉強にも並はずれた才能を見せる主人公を,軽々と演じた本物の天才少年,テオ・ゲオルギューの存在がなくては,この映画は成立しなかっただろう。映画の構想と彼の出現のどちらが先だったのかは分からないが,ピアノを弾く時に醸し出される彼の飄々かつ颯爽とした風情が,人生の苦楽を凝縮したような2時間のジェットコースターの推進力となっている。
そしてこの作品が成功したもう一つの理由が,少年のそばにただ「存在する」ことによって,人生の機微を伝授する祖父役に,ブルーノ・ガンツを配したことだ。「ベルリン・天使の詩」において人間の世界に降りてきた守護天使に通じるような雰囲気を醸し出す,この名優の独特の佇まいによって,観客は人生が有限であることの無情を実感させられつつも,その限りある人生を充実させることの素晴らしさに触れることになるのだ。
少し浮世離れしたようなお父さんの茶目っ気のある演技も心に残るが,「ベルリン…」におけるソルベイグ・ドマルタン役のような役割を果たすベビーシッターの女優が,作品そのものが空に飛び立つかのような軽妙さを獲得するに至った大きな要因となっているように見える。実際,心持ちドマルタンに似ているような気がしないでもないが,気のせいか。
「山の焚火」の監督の作品とは思えないくらい彩度の高い画面と,同様に彩り豊かな音楽と演技のアンサンブルによって,スクリーンと観客席が心地よく共鳴し合う作品となったが,ここに描かれている,普通に生きることの難しさと素晴らしさを等しく謳い上げる姿勢と手腕は,もっと評価されて良いはずだ。
「山の焚火」の静謐な画面から想像した,若き天才の苦悩,というイメージとはかけ離れた,軽妙かつポジティブなお伽噺は,正にお正月に相応しい明るさと楽しさに満ちた秀作だった。
音楽にも勉強にも並はずれた才能を見せる主人公を,軽々と演じた本物の天才少年,テオ・ゲオルギューの存在がなくては,この映画は成立しなかっただろう。映画の構想と彼の出現のどちらが先だったのかは分からないが,ピアノを弾く時に醸し出される彼の飄々かつ颯爽とした風情が,人生の苦楽を凝縮したような2時間のジェットコースターの推進力となっている。
そしてこの作品が成功したもう一つの理由が,少年のそばにただ「存在する」ことによって,人生の機微を伝授する祖父役に,ブルーノ・ガンツを配したことだ。「ベルリン・天使の詩」において人間の世界に降りてきた守護天使に通じるような雰囲気を醸し出す,この名優の独特の佇まいによって,観客は人生が有限であることの無情を実感させられつつも,その限りある人生を充実させることの素晴らしさに触れることになるのだ。
少し浮世離れしたようなお父さんの茶目っ気のある演技も心に残るが,「ベルリン…」におけるソルベイグ・ドマルタン役のような役割を果たすベビーシッターの女優が,作品そのものが空に飛び立つかのような軽妙さを獲得するに至った大きな要因となっているように見える。実際,心持ちドマルタンに似ているような気がしないでもないが,気のせいか。
「山の焚火」の監督の作品とは思えないくらい彩度の高い画面と,同様に彩り豊かな音楽と演技のアンサンブルによって,スクリーンと観客席が心地よく共鳴し合う作品となったが,ここに描かれている,普通に生きることの難しさと素晴らしさを等しく謳い上げる姿勢と手腕は,もっと評価されて良いはずだ。